For God
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◇1-6◇ 始まり
「何卒、ご無礼をお許しください。」
吉野まで、跪きながらそのようなことを言い出す。ほのかが跪かなかったことが相当悪いことのようだ。
そう思えば、隣の二人にも申し訳なさを感じたので、ほのかは跪いた。
「おい、貴様、名は何という?」
玄武はほのかに尋ねた。ほのかは隣を見る。吉野は答えた方がいいという風に顔を縦に振る。
「あ、えと、荒木ほのかと言います。」
「荒木...ほのか...。」
玄武はほのかの名前を繰り返す。彼の反応を見た久方が口を開く。
「玄武様。何かおありでしょうか?」
「いや、何やら少し見覚えがあったような…荒木ほのか。貴様はわしに会ったことがあるだろうか?」
「いえ。私はそのようなことはないかと存じます。」
ほのかも思わず丁寧な返答をしてしまった。昨日の補習で国語をやっていて良かったと少しばかり思う。
「そうか。久方。お前に頼みがある。」
「はっ!何でしょうか。」
「荒木ほのかをここに置いてはくれまいか。」
「え?」
ほのかは思わず聞き返してしまう。彼は一体何を言い出すのだろうか。
「と言いましても、彼女は特殊能力も持ち合わせておらず...」
「わしの頼みでも聞けないということか?」
玄武は久方を見下げる。その目には少し怒りがこもっているようだった。
「いや、ですが...」
「わかりました!玄武様!」
「よ、吉野!」
「副長。能力がなかったって何か働き口があるでしょう。玄武様直々の依頼なんです。何か思う所がおありなんですよ、きっと!」
「うむ。少年。よくわかっておる。久方、お前はいささか頭が固い。やわらかく物事を考えぬか。」
吉野は玄武に褒められたのが嬉しかったのか、少し照れていた。
「はっ!了解しました。では、彼女をここに置くことにいたします。」
久方は前言撤回という表情で玄武を見上げれば、そう言った。
「できれば、わしと顔を見合わせることのできる役職につけて欲しい。」
「玄武様にですか,,,難しいかもしれませんが、考えておきます。」
ほのかは、玄武の考えている意図が理解できなかった。
「うむ。それこそ四神守護隊である。感謝するぞ。では、荒木ほのか、またお会いしよう。」
玄武はそう言い残すと、歩き出す。ほのかは、呆然としていた。考えが纏まらないのだ。
玄武様が立ち去った後、ほのかはある人の部屋へと導かれた。
「遠藤さん、いるか?」
久方は部屋の前で声をかける。部屋の中で何やら慌ただしい音がしばらく聞こえた後、
「おおっ!いるぞ!」と大きな声が聞こえた。
「ったく、入るぞ。」
呆れた表情を見せたあと、久方は襖を開ける。
そこに座っていたのは、大柄な男性だった。ここは男性だらけだ。女性であるほのかはそのせいか、息がつまりそうになる。
「局長。また饅頭ですか?」
吉野が少し笑いながら久方の後ろから入ってくる。それに続いてほのかも中へ入った。
「遠藤さん、あれだけやめてくれって頼んだだろうが。」
「いや、食べてないぞ。よ、吉野もいらんことを言うな!」
そう叫んでいる彼の口元には饅頭の欠片らしきものが付着していた。それに三人とも気づいている。
「まぁ、今日はそんなことじゃないんだ。こいつなんだが。」
久方はほのかに前へ出ろと命令した。ほのかは歩いて遠藤という男性の前へ座る。
「ん?新入りか?珍しいな、駿河がスカウトするなんて。」
スカウト?あ、さっき言ってた特殊能力に関してのことだろうか。そして久方の下の名前は駿河というらしい。
想像するに、この組織は、特殊能力、すなわち昨 夜ほのかが目の当たりにした久方のような能力を持った人たちを次々とスカウトして、暗殺をもくろむ団体ということだ。
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