シークレットゲーム ~Not Realistic~
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夢殉
――ここは、何処だろう。今、自分が何処にいるのかが判らない。
ただ……、この場所はとても温かくて、気持ちがいい。心が安らぐ、と言ってもいい。
何処とも知れぬ場所、そこに吹き抜ける風の中に彼は立っていた。取り巻く風に髪を靡かせ、降り注ぐ陽光が笑顔を際立たせている。……いつも、心の中にいた存在だった。
『お久しぶりですね。悠奈さん』
ニコリと笑ったその笑顔。
何度、その笑顔にやられたことか。……いつも、自分の傍にいて当たり前だと思えるくらい。彼は、自分の傍にいたのだから。
『はぁ……、やっぱしアンタはアンタよね?……彰』
ため息をしつつも、その身体を抱きしめた。
ここが、何処なのかなど、判らない。でも、判らなくてもいい。……目の前の彼がいてくれるだけでいいんだ。
『それは、僕のセリフですよ悠奈さん。……悠奈さんは、本当に変わってないですね。安心しましたよ』
そのまま続ける彰。その時少しだけ、表情が変わっていた。
『でも、僕としては心配をしていたんですよ? ……だって、悠奈さん無茶ばかりするんだから。……僕の事の為に、あんな危ない事しなくてよかったのに』
悠奈を心配そうに見つめるその瞳。
吸い寄せられそうになるけど……、この時理解する事が出来た。今、何処にいるのかも、全て……。
『ま、そんな事だろうと思ってたわよ』
『あはは……。悠奈さんって、本当に不器用ですね』
『彰にだけは言われたくないよ』
そう言って笑っていた。
そう、これは≪夢≫なのだと言う事。夢と言うのは優しいものだから。まるで、自分の中の楽園の様にしてくれている。だからこそ、甘えたりはしたらいけないと言う事も判るんだ。
……本当に優しいんだから。
『でも、夢でも何でも、……会えて嬉しかったわよ。……彰』
悠奈は抱きしめる力を上げた。……彼は、一年前に、このゲームで……。
『ええ、僕もですよ悠奈さん。……あの時、行動の全てに僕は悔いは無かったんですけど。心残りはありましてね』
彰は笑顔の顔に戻した。
だが、悠奈は逆に困惑の表情を見せていた。
『心……残り……』
そして、悠奈の表情は、どんどん曇る。
それはそうだろう。……目の前の男性の命を奪ったのは……。それに、記憶が正しければ、姉弟。姉がいると言っていた筈だ。
――……自分のせいで。
悠奈は、表情を落としていた。徐々にその目には涙が浮かび上がりそうになる。
『それは、勿論悠奈さんの事です』
『ふぇっ!?』
次の彰の声で……、悠奈は思わず声を上げてしまっていた。その上彰の顔がもう自分の直ぐ傍にまで来ていたんだから。
『だって、僕はもう悠奈さんの傍にいられないですから。残してしまった悠奈さんが凄く心配なんですよ。……こうやって、たまになら会えるかもしれませんが。……人間ってそう都合よく出来てないみたいなんです』
苦笑いをしている彰。この表情は知っている。嘘偽りの無い表情だと言う事を。それに、彰には裏も表もない。いつも自分に正直で真っ直ぐな人なんだから。
『でも、心配は杞憂でしたね。僕としては少し複雑なんですが』
『って、さっきから何勝手に進めてんのよ彰!』
『え? だって、あの人は、悠奈さんのナイト様なんでしょう? ……悠奈さんを守ってくれる人が傍にいてくれるなら、僕は安心出来るんです。……でも、僕だって男ですから。ヤキモチくらい妬かせて下さい』
悠奈は、少し拗ねたような表情だった。その顔も凄く可愛いって思える。でも、悠奈はそれ所ではなかったようだ。
『なな、何言ってんのよ!! わ、私はそんなつもりじゃ……』
『え? でも、悠奈さん。何度も言ってたじゃないですか。ナイト様だって。……嫌がられちゃったみたいですけど』
苦笑しつつ、悠奈の肩に手をかけた。
『複雑……と言いましたが、僕は悠奈さんが幸せならそれで良いんです。……悠奈さんが幸せになってくれたら、もう心残りは無いんですから。ああ、悠奈さんが天寿を全うして、……幸せになってくれた後、僕の所に来たら! その時は、僕を選んで下さいね?』
『………』
きょとんとしてしまう悠奈。でも、なぜ何もいえないのだろうか。さっきから彰が言ってる人は、あの人の事だってわかる。自分がなんで、こんなに魅かれてしまったのかも判らない。……目の前の男性がの事をずっと想い続ける。くれた時間の分も戦うと決めていた。……でも。
『……あはは。でもアイツは凄い男だからね。ま、今はきっと向こうはなんとも思ってないって思うけど。もしアイツが私に惚れたら……? 彰アイツに勝てる?』
『いや~……僕としては穏便に済ませたいんですけどね?でも、悠奈さんを賭けてと言うのなら、頑張りますよ。……それでも勝てそうに無いのが悲しい所ですが』
『ええ、なんと言っても私のナイト様ですから』
そう言って2人は笑っていた。この目の前の男、彰は確かに彰だ。だが、厳密に言えば、自分の心の中にいる彰だって理解した。……理解してなかったらもうちょっと長く夢をみられたかもしれないけど。自分は不器用だから。
『私はね、彰、アンタを自分の自殺の道具に仕掛けてた。……彰の所へ行きたいからって。……彰の時間を誰かに上げる為にって、ずっと言い訳を続けてきたんだ。組織相手に暴れたのだってそう。……彰の仇をとるって思ってた筈だった。でも……心の中ではずっと、そう思ってたってアイツに気づかされたの』
『ええ。そうですね。止めて下さいよ?僕はそんなおっかない道具なんかじゃないんですから』
『あは、そうね。……彰は何かを守る力なんだから。気づかせてくれたアイツに……凄く魅かれたんだって思った。……凍りついた自分の時間を進めてくれたって』
『ふふふ……』
彰は目を細めて笑っていた。
『いやあ、今は僕の完敗です。でも……』
彰は手を上げつつ後ろを向いた。
『こっちでは負けませんから。……悠奈さん。また、また会いましょう』
『あ……、ま、待って!まだ話したい事だって沢山あるのにっ!』
悠奈は思わず叫びとめた。折角会えた。夢でもなんでも会えたのにと。そんな自分を救ってくれた人の前で、他人の男の話しばかりするなんて、最低だとまで思っていた。
『そうんな事無いですよ。僕は悠奈さんの事、良く知ってるつもりです。……悠奈さん。……あの人の事、最後の最後まで、信じてあげて下さい。……僕たちは信じる事が出来ずに、後悔しましたから……今度はきっと』
『ッ……』
彰の言葉。
それは、1年前のゲームの事を思い出させるのに十分な言葉だった。
次第に、世界が白くぼやけていった。
目の前の彰の姿。輪郭は薄れていく。まるで、水彩画を水に浸けたかのように、ゆっくりと、その姿が風の中に溶けてゆく。
『……本当の時間、みたいです』
『ええ…、そうみたい。名残惜しいけどね』
世界は全て真っ白な光りに溶け出して……、悠奈の目に見えるのはただ、輝く光だけだった。
『ありがとう……彰。会えて、良かった』
『僕も悠奈さんに出会えて……良かったです』
そして、悠奈の夢は終わった。
――この先に待つのは現実。理不尽な事がが平然と起こる世界。――
それでも、力の続く限り……抗ってみせる。皮肉な事に、ここで生まれた新たな絆。新たな思いと共に。
だが、夢から覚めた現実は悪夢へと変わっていた。
:2日目 AM5:50
悠奈の意識は、ゆっくりだが確実に覚醒していく。
それは自分自身でもよくわかった。目元が、やや滲んでいるのは、きっと気のせいじゃないだろう。
……会いたかった人に合わせてくれたのは、何故だか温もりのおかげだって思えていた。
眠りにつく前に、貰った温もり。
当たっている部分は肩。面積的には とても少ないんだけれど、沢山、沢山感じることが出来た。……自分は温もりに飢えているんだろう。とも思えていた。
そして、悠奈はゆっくりと目を開く。……過酷な現実、理不尽に抗う為に、戦う為に。
今日は2日目、まだまだ、序盤戦だから。
「あ……あれ?」
悠奈は不意に身体を揺らせた。
確か、彼の傍で眠っていた筈だ。だが、感触がまるで無く。そして姿も見る事が出来なかった。
合ったのは、自分の肩にかけられた上着。それは刀真のものだ。
彼がそれを肩で担いで皆の下へと帰ってきてくれたときの事はまだ新しい記憶なのだから直ぐにわかる。
「ちょっと、……と、刀真?」
悠奈は、身体を完全に起こし辺りを見渡した。
姿を確認できたのは、修平・琴美の2人だけだった。姿を確認できないのは、まり子・大祐・初音・そして刀真の4人。
一気に半数以上もの人間がこの場から姿を消していたのだから。
悠奈は一瞬パニックになりそうだったが、直ぐに気を取り戻した。……多分、彰のおかげなんだと無意識に悟っていた。すぐさま、外へと駆け出し、周囲20m範囲。小屋が視界に入る距離のみを確認する。
だが、誰も見つける事は出来なかった。なら、もっと遠くに行ってる可能性が濃厚だ。
「そうだっ! PDA!」
悠奈はすぐさま自分のPDAを確認する。
万が一……万が一、他のプレイヤーの誰かが死亡していたら。
全てが【変わる】
悪夢の様なあの光景が再び引き起こされてしまうのだから。
「ほ……、どうやらまだ大丈夫みたいね」
悠奈は、恐る恐る確認するが、クリア条件が変わってないのを確認するとほっと肩を落とした。……が、まだ安心するのには早いのだ。4人の人間がいなくなった事実は変わりないのだから。悠奈は直ぐに、小屋へと戻って声を荒げた。
「――修平、琴美、おきて!!」
「っ――!!」
帰って直ぐにすること、それは一先ず眠っている二人を起こす事。
最早、今のこの場所が安全かどうか、直ぐに解る事じゃない。仮に、後者だとすれば……、眠っているのは危険すぎるからだ。
修平は、深い眠りに落ちていたが、いきなり緊迫した声をぶつけられた為、何事かと直ぐに意識を取り戻し、跳ね起きたようだ。すると、となりで眠っていた琴美も目を擦りながら身体を起こした。
「あの……。どうしたんですか? 悠奈さん……」
「いなくなったのよ! 大祐も初音もまり子も……刀真も!」
「何っ!?」
その悠奈の言葉で、皆が驚いて周囲を見渡したが、確かに4人の姿が無い。
「でも、皆でトイレに行ってるとかじゃ……?」
「そう思って私もその辺を走ってみたんだけど、いないのよ。どこにも! それに、まり子と大祐が一緒に行動するなんて、なんだか変だと思わない? あんなに仲が悪かったのに」
「確かにな……」
だが、何が考えられる? 考えられる可能性はなんだろうか? 寝ている間に第三者に連れ去られた?
――否、そんな事は不可能だろう。誰かに銃で脅されたとしても物音がすれば気づくだろう。
幾ら眠っていたとは言え、この異常事態なのだから。それに、あの刀真がその程度で連れ去られるとはどうしても思えないのだ。ならば、4人は其々が全く別々の理由で出て行ったのか?
――悠奈を疎ましく思っていた節のある大祐は兎も角、刀真やまり子、初音がチームを離れる意味がわからない。
それに、あんなに……信頼している、し合っているように見えたのに。
ならば、4人は示し合わせて出て行った?
――何故?いったいどういう理由で?
「ど、どうしよう。修ちゃん。……直ぐにあの3人を探しに行かないと、また昨日みたいに襲われたら……!」
「っ!!」
はっと気がついて見てみると、昨日修平が抱えて寝た日本刀は、まだ傍に転がっている。
刀真は、銃を持っているようだから、大丈夫とは思うが、本当に彼らが全員で行動しているかどうかが保障できないのだ。
「ったく……別行動は危険だって昨日アレだけ言ったってのに……! それに、アイツもどっか行くなら一言言いなさいっての!」
「悠奈、直ぐに4人を探しに行こう」
「判ってる。でも、それは私1人で行くわ」
「だが……」
「大丈夫だって、私の実力はアンタだって知ってるでしょ? それに、昨日のうちに手に入れた銃もあるしね。1時間ぐらいで戻ってくるつもりだから、それまではここにいて。……良い?それまではアンタが琴美の事を守るのよ」
「……ああ、わかった」
「悠奈さんも、気をつけてくださいね?」
「だから、大丈夫だってば。それじゃ、行って来るわね」
悠奈はそう言うと、銃を手に、小屋から駆け出していった。
悠奈は、咆哮を見定めるとすぐさまその方向へと向かった。
昨日向かってきた方角じゃないほうにだ。……なぜなら、その方角の範囲は粗方捜索した為、メモリーチップ等もない。探す過程で見つけられれば、手に入れるのにこした事は無いし、もし、それが理由であれば、合流できる可能性もあるからだ。
「……どこに行ったっての!?」
悠奈は気持ちが焦る。
なぜなら、この展開……似ているからだ。あの時の自分達に。
人数は違うが、こんな感じでトリガーが引かれるのだ。悪夢のステージへの。
「違う……違うよね。何てこと考えるの!」
悠奈は自分自身を叱り上げた。
≪僕たちは信じることが出来ずに……後悔しましたから≫
この言葉が、頭の中で過ぎる。何か、訳があって離れたのだ。確認もせずに結論を急ぐのなど、愚の骨頂だ。
「っ!!」
悠奈は走る速度を更に上げた。
まり子を初音を守る為に。……大祐を捕まえる為に。
……刀真を見つける為に。
~プレイヤー・ナンバー~
No. 氏名 解除条件
□ ??? 上野まり子 ??????????
□ ??? 粕谷瞳 ??????????
□ ??? 細谷春菜 ??????????
□ 4 藤田修平 ??????????
□ ??? 黒河正規 ??????????
□ ??? 吹石琴美 ??????????
□ 7 真島章則 ??????????
□ ??? ???? ??????????
□ ??? 蒔岡玲 ??????????
□ ??? 伊藤大祐 ??????????
□ J 藤堂悠奈 ??????????
更新:No.4と24時間行動を共にする。
□ ??? 阿刀田初音 ??????????
□ ??? 三ツ林司 ??????????
□ ??? ???? ??????????
□ XIV 日陰刀真 PDAを5台以上所持する。
更新:No.J、4と24時間行動を共にする。(離れる場合の制限は2時間以内とする)
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