ほね・骨 ・Bone!!~【30万人の骸骨が、異世界に移住した結果がこの有様だよ!】
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白い骨Lv∞(測定不能)
砂漠は真っ青な晴天なり。
つまり人間から見れば……死ぬほど暑くて苦しい。そんなイヤーになる日という事だ。
こんな暑い日は、日陰でゆっくりするべきだなぁと、初老のセイルン王は呑気に思った。
そんな時だ。隣にいる巨大な骸骨が、全身に極限の魔力を張り巡らせたのは。
白骨化している右手を前に差し出し、そっと呟く。
「ブラックホール」
巨大な砂漠に真っ黒な穴が空く。
その穴に空気と砂が吸い込まれ、強引に圧縮されて消えていく。
光すら吸い込むから、人間の目には真っ黒な空間が尋常じゃない勢いで広がっているように見えた。
数秒後、空間に空いた穴は自然に消え、場に残ったのは――日本が誇る琵琶湖(63km)の倍ほどの大きさのクレーターだった。
巨大隕石でも落下したのか?と思えるほどに綺麗な穴が出来上がっている。
人間なら万単位の人数を動員しても、何十年もかかる大工事になるのは間違いなしの穴だと、セイルン王は心の中で計算して頭が痛くなった。
(やはり邪神だっ……!ちょっとした小手先の力でこれっ……!
あわわわわわわっ……!)
小さい国なら、これ一発で消滅する信じられない破壊力。この力の矛先が自分達に向けられない事を祈るばかりだ。
未だに邪神の価値観がイマイチ理解できないだけに、どういう発言が死を招くか分からない。
今、こうやって超巨大な穴を作った理由も全く理解できな――
(ま、まさかワシが逆らったら……このような目にあうぞ!と脅しをかけているのか?
何時でも、都市ごと消滅させる事は容易いという意味なのだろうか……?)
三千年の歴史ある古都カイロンが、綺麗に吹き飛ぶ姿が想像できた。
宮殿も家族も貴族も奴隷も日本人も平等に消し炭にされるに違いない。
邪神の前では、人間の命は平等に塵に過ぎぬのだ。
(……いや、悪い方向に物事を考えるのは止めよう。
ワルキュラがどんな存在なのか思い返せば、正解を導き出せるはずだ)
目の前の骸骨、いや、死の超越者ワルキュラ。
不死者が苦手とする太陽光すら完全に克服した大魔王。
自分から税収を丸ごと取り上げ、セイルン人の特権をほとんど廃止。
使い捨ての安価な奴隷に過ぎない日本人の待遇を向上させた血も涙もない非道な化物。
そんな存在が、砂漠に大穴を作ったのだ。絶対に世間一般の皆さんが恐怖するような、そんな良からぬ何かを考えているに違いない。
しかし、この身は古代ザナン人や神の血が流れるとはいえ、ただの人間に過ぎない。
ワルキュラが何を企んでいるのか理解できたとしても、それを防げる力などないのだ。
ああ、哀れ。人間の力。
ああ、小さき己の手。
この化物達と出会ってから、自分の寿命が数十年単位で縮んだ気がした。
「さ、さすがワルキュラ様!圧倒的な火力です!」
喜ぶ声をあげたのは太陽光に苦しんでいる少女ルビー。白いドレスを着ていて、幼い外見をしているが、動物の血を啜って生きる吸血鬼さん。
ロリ巨乳で大人しそうで良い雰囲気の娘だが化物。
宮廷にいるメイドさんにイタズラする感覚で襲ったら、その日の内に、フミィダイ王子みたいにお星様にされるのは間違いなかった。
セイルン王の背筋がブルブルと震え、胃が痛くなってくる。
(なんでワシは、こんな暑い中……化物どもと一緒に砂漠にいるのだ?
大きな穴をを見て、どういう感想を述べれば良いのだ?
ルビーみたいに褒めればいいのか?
それとも命乞いをすれば良いのだろうか……?)
どの選択肢が正解なのか分からない。この世の理不尽さを呪いたくなってくる。
ワルキュラがこの世界に来てからというもの。財産は減るわ。貴族は物理的に首が飛んで減るわ、日本人奴隷どもが調子に乗って発明品を作りまくるわと、セイルン人が没落する代わりに、平民が豊かになるわと良い事が一つもない。
税収が上がっても、王家の懐には全くお金が入ってこないから、先祖の財産を切り崩して生活。
かつては一万人の使用人が居たのに、今ではたった百人だ。
毛髪も使用人と同じ数くらい、抜け落ちたと思う。
「でも、ワルキュラ様?
こんなところに大きな穴を開けてどうするんですか?
ゴミ捨て場にしては大きいですよね?」
ルビーの無邪気な問い。ワルキュラは何もない眼窩を真っ赤に光らせて答えた。
「ここにダム湖を作るのだ」
「ダム湖?」 ルビーは首を傾げる。
「ナイルン川を塞き止める建造物を作り、ここに大きな水たまりを作る。
そうすれば――農業用水がなんたらかんたら」
ワルキュラの言葉にセイルン王は恐怖した。
農業用水とか、農民が豊かになるとか言っているが、彼には聞こえなかった。
(ナイルン川を塞き止める……?)
ナイルン川は、定期的に水が超溢れて増量しまくる巨大な川。
そんなものを塞き止めたら……間違いなく、下流にいる国々に迷惑がかかる。
セイルン王国の南にある国といえば、総人口一億匹のゴブリン諸国連合とか色々ある。
ゴブリンは特に繁殖力が旺盛で、どれだけ戦争で戦力を喪失しようとも、短期間で頭数を揃えて侵略を繰り返す獰猛な奴ら。
ダムを作る事は、彼らに喧嘩を売る事になる。
(やはりワルキュラは邪悪な邪神っ……!お、恐ろしいっ……!)
だが、戦争になればワルキュラが勝利するだろう。
砂漠に大穴を開ける魔法。
どんな物量ですら無意味にする圧倒的な力。
ゴブリン達が無残に死んだ後、アンデッドとして働かされる姿が簡単に想像できた。
一億の物量を手にしたワルキュラは、世界を征服するに違いない。
きっと、自分も死んだ後に扱き使われる。
ワルキュラの何十万にも及ぶ骨の軍勢みたいに……生きた人骨にさせられ、死後の安息もなく、ワルキュラに奉仕する生活を永遠に繰り広げ――
こう考えた途端に、セイルン王の頭の血管が切れ、身体が倒れた。
明らかに日頃から溜め込んだストレスが原因だった。
(死んだ後は天国に行きたい……誰かワシを助けて……)
「この人間、良く倒れますよね。病気でしょうか?」
砂漠に仰向けに倒れたセイルンの顔をつついて、ルビーは言った。
ワルキュラは悲しそうな顔……骨だから表情はなかったが、申し訳ない気持ちになっている。
(しまったな……きっと、砂漠の気候が酷すぎて倒れてしまったのだろう。
アンデッドになってから、こういう苦しみを忘れてしまうのが俺の欠点だ)
初老のお爺さんの体調をもっと配慮すべきだった。
砂漠は死の世界。そんな所に生者が入ったら倒れて当たり前。
なんと悲しきは、ひ弱な人間の身体。同情するしかない。
きっと熱中症が倒れた原因だろう。
(そうだ、ダム湖を作れば、もっと気候が涼しくなってセイルン王も快適に生活できるはず)
ダムを作れば膨大な水資源を自由に使える事を意味する。
大量の水は、気候を安定させ雨を降らせる。
この砂漠に覆われた大地は、緑豊かな森林地帯になるだろう。
そうワルキュラは思い描いた。塩害とか、無数の問題が発生するだろうが、それは全部、日本人に放り投げれば良い。
餅は餅屋に頼むように、ダム工事も建設業者に任せれば良いのだ。
(そんで、農民達は俺に良いイメージを持って、称えるに違いない……ダム建設計画は完璧すぎる……。
邪神というイメージは綺麗さっぱり消えて、俺を苛めようとする奴は減るはず……)
良い気分になったワルキュラ。砂漠の優雅な時間を使い、過去をゆっくり振り返った――
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