魔界転生(幕末編)
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第45話 会談
土方が江戸に到着して数日があった。
何度も会談を望み勝邸に足を運んだが、その勝は留守で会うことが出来なかった。が、ようやく勝と会う事ができた。
土方は単刀直入に将軍・徳川慶喜に面会を望んだ。が、勝の答えはNOだった。
「土方君、今じゃもう、徳川の時代じゃないのさ」
今では幕府の中で重要人物になっている勝海舟の言葉に土方は目を見開いた。
「いいかい?仮に慶喜公が味方を見捨てて、この江戸に逃げ帰ったその真相を問いただそうとしたとしても、なんの意味もねぇのさ」
勝の言葉に怒りを覚え、土方は刀に手を置いた。
「斬るかい?まぁ、おいらを斬ってもなんの解決にもならねぇけどな」
勝はにこりと微笑んだ。
(この男、なんなのだ?)
土方はゆっくり刀から手を放した。
「なぁ、土方君。君達、新撰組は幕府の為によく尽くしてくれたよ。それはこの勝、慶喜公の代わりに礼をいわせてもらうぜ。だがな、慶喜公はもう将軍であって将軍ではない。今じゃ、寛永寺で謹慎の身だ。もう、幕府は終わったのさ」
勝は深くため息をついた。
「では、勝先生はこれからどうするおつもりか?」
土方は勝の目を見据えて問いかけた。
「おいらかい?おいらは徳川を無くさないように尽力尽くすまでさ」
勝はにこりと微笑んで土方の問いに答えた。
「だから、土方君、君ももう自由になった方がいい。いや、新撰組全員がもう幕府に義理を立てず自由になればいいとおいらは思うぜ」
勝は土方の目を見つめ言った。
「ありがとうございます、勝先生。勝先生の心遣いありがたく受け取っておきます」
土方は深々と頭を下げた。が、
「ですが、我々は誠という旗の元に集いし武士。はい、そうですかと引き下がるわけにはいかんのです」
土方も自らの信念を込めて勝を見つめた。
「君も不器用な男だね」
勝は大声で笑った。何故なら、勝もまた自分自身、不器用な生き方をいているなと思っているからだ。
幕府中心人物を言われながらも、早々に幕府を見限っている。なのに、徳川存亡の為に尽力を尽くしている、この矛盾。
不器用と言わずになんというべきか。
「では、君はこれからどうするつもりだい?」
勝は土方に問いかけた。
「私は死んで行った仲間の為にこれからの時代を見続けたいと思います。それと、これから現れるかもしれない化け物達と決着を」
「な、今、なんて言った?化け物達、だと?」
勝は土方の言葉に目を見開いた。
「勝先生には信じがたい話ですが、私は今まで3人の化け物達に会っております。一人目は京で。そして、二人目は鳥羽伏見で。そして、3人目はこの江戸で」
土方の顔が歪む。
「で、それは誰と、誰と誰なんでぇ?」
勝もその中の一人には心当たりがあった。それは、、、、、、
「京では、あの人斬り以蔵と呼ばれた土佐の岡田以蔵」
「なんだって!!」
勝は驚きのあまり立ち上がった。
「そして、もう一人は、鳥羽伏見であった長州の喧嘩屋と呼ばれた高杉晋作」
「ば、ばかな。そんなことが」
最早、勝は言葉を失い始めた。
「どちらも辛うじて勝ちを収める事が出来ましたが、とんでもない化け物でした」
今でも思い出すと背筋が凍る。
「そして、最後は」
「わかっているよ。土佐の坂本龍馬だろ?」
勝は土方の言葉を遮った。その瞬間、土方は勝が坂本龍馬に会った事があるのだなと悟った。
(龍さん、お前さん、今、江戸でなにするつまりだい?)
勝は天井を見つめた。
「勝先生、貴重な時間を取っていただき、忝い。もはや、貴方様に会うことはないでしょう。これにて、御免」
土方は深々と頭を下げ立ち上がった。
「ま、まちな、土方君。その化け物達の参考になるかわからないが、ある男を紹介するよ」
立ち去ろうとする土方の背に勝は言葉を投げた。
「ある男?」
土方は振り返ることなく言った。
「あぁ。おいらも好きじゃないし、その男もおいらを毛嫌いしている。もし、おいらがその化け物達の事を聞きに行っても門前払いだろうぜ」
勝は片方の口角を上にあげ笑った。
「して、その御仁とは?」
土方は肩越しに勝を見た。
「芝新銭座で英学塾っていうのを開いている福沢諭吉って野郎なんだが、参考になるかならねぇかはわからねぇが尋ねてみるといい」
土方は何も言わず礼をすると勝邸を後にした。
(福沢諭吉か)
土方は空を仰いだ。
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