幻想の黒い霧
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第一話『目覚めと戦慄』
オヤ、ドウヤラ目ガ覚メタラシイ
サテ…取リ敢エズ歩クトシヨウ
何カ面白イモノガ見ツカルカモシレヌナ
時は夕刻、場所は幻想郷にあるとある森
昼間には大人しく妖精が住まう森だが、
夕刻になると危険な人喰らいの妖怪が蔓延る
滅多な事では人間は近寄らない森
そんな森に、年端もいかない少年と、
その少年の手を握る少年よりも背が小さい
少女が、なんの武器も持たずに歩いている
「にぃに…ここ、どこ?」
「あ、安心しろ椿 にぃにが着いてるからな」
なぜこんな時刻にこんな森に妖怪から見たら
時間的に晩御飯とも言える人間2人がいるかと
言うと、この子供達の唯一の肉親である
母親が病気で倒れ、竹林の医者によると
特殊な治療薬でなければ治せないとのこと、
如何に有能な医者でも、道具がなければ
真価は発揮できない
そして子供達は、竹林の医者とその助手の
会話を盗み聞きして、その特殊な治療薬の材料が
あるというこの森へやってきたのだ
だが、先程の会話の通り、迷ってしまったようだ
このままでは数分もしないうちに妖怪の腹の中に
収まることになってしまう
目的の薬草も見つかっていない、このままでは
まずいと、兄の浩介が森の出口を探しているが、
見つからず路頭に迷っているところだ
「にぃに、怖いよぉ…」
「だ、大丈夫だって!すぐに出れるさ!」
だがサバイバル知識はおろか、人里から
出ない子供が、森から出れる術もなく、
時間だけが残酷に過ぎていく
…そして、子供達の近くにある草影から、
獣の妖怪が出てきた
「カロロロ……」
「ヒィッ…!?」
「妖怪…!」
妖怪は子供達の前に立ち塞がり、
鋭利な牙を持つ口から涎を地面に垂らしながら、
ゆっくりと近づいてくる
「にぃに、逃げよう…はやく!」
「あ、あぁ…」
だが、2人とも妖怪が出たことにより足がすくみ、
身動きが出来ない状態だ
そんな状態の2人に、妖怪は慈悲を掛けることなく
襲いかかった
「イヤァッ!?」
「うわぁァっ!?」
2人は目を瞑り、己の死を悟った
…しかし、何時までたっても痛みは感じない
2人は意を決して瞼を開けると、そこには
妖怪に片腕を噛まれた状態の、白いボロボロの
ロングコートを着た何者かがいた
「ガル、ゥ?」
妖怪は渾身の力を込めて噛み砕こうとするが、
一向に砕けない
謎の人物は噛み付いた状態の妖怪の頭を掴むと、
思い切り力を込めて妖怪の頭を握り潰した
握り潰した手からはその妖怪のものと思わしき
血や肉片、脳ミソの様なものが飛び散り、
謎の人物に降りかかる
子供達はそんな謎の人物に恐怖心を抱いた
当然だ、妖怪は頑丈で刀などでも余程の達人で
なければ斬る事は疎か刺す事も出来ない
それをこの謎の人物は“握り潰した”のだ
十中八九、この謎の人物も妖怪だと、
子供達は察してしまった
謎の人物は子供達の方を向いた
そして子供達にその謎の人物の容姿が見え…
なかった、謎の人物はフードを被っており、
それでも身長的に顔は見えると思ったが、
“見えない”のだ
謎の人物の顔には黒い“もや”の様な
ものが掛かっており、黒いもやには赤い瞳の
様な点が左目の方にだけ存在している
「ーーーーーーーー」
「…え?」
なにやら謎の人物が子供達の方を見ながら
何か言っている様だが、子供達にはその
言葉が分からなかった
「…!」
謎の人物はなにやら気付いた様な仕草を
とる、そして野太い咳払いの様なものをした
あと、謎の人物はこう子供達に話し掛けた
「すまぬ、うっかりしていた
無事か?童共」
謎の人物は子供達にも分かる様に
言語を変えたのだろうか、今の子供達には
謎の人物の声が低い男性の声のそれに聞こえる
「え、と…大丈夫、です」
「…ふむ」
謎の人物は子供達の方に近づき、
目線を合わす様に身を屈めた
「怪我は…無い様だな、何よりだ
さて童共、私の質問に答えてはくれぬか?」
「は、はい」
「分かり、ました…」
「うむ、素直な童共だ
私は素直な者には優しいのだよ」
謎の人物は子供達の頭を撫でようと、
手を子供達の頭に近づけるが、
「…ふむ、これでは撫でられんな」
子供達は気付いた、謎の人物は
手にも顔にある黒いもやの様なものがある
「さて、では話しは戻るが
…此処は何処かね?」
「…へ?」
謎の人物の質問に、子供達は唖然と
してしまった
「くく、いやなに、此処には最近来たのでね
何処に何があるのか全く把握しとらんのだよ」
「えと…実は」
「む?」
子供達はこれまでのあらましを謎の人物に
説明した、そして
「ふむ…童共、お主らの母親の病の症状、
教えてはくれぬか?できればその病名も」
子供達は謎の人物に、竹林の医者が
父親と話している時に聞いた話しの内容を
全て伝えた
「…瞳が紅くなり、まるで妖怪の様に
呻き声をあげる…そして病名は『鬼眼病』
…ふむ、そしてその薬草だが、ほれ
あそこを見てみ」
子供達は謎の人物が指を指した上空を
見ると、そこには高い木の枝から生えている
赤い花があった
「あれは『紅皇花』さっき言った鬼眼病を
治す薬の材料だ、おそらくお主らの探し物は
それであろうな」
「あんな、所に…」
少年は絶望した、少年の身長は約150cm、
この歳の子供にしては高い方だが、
明らかに高さが違った
「…童よ」
「は、はい」
「“さぁびす”だ、私が採ってやろう」
謎の人物は掌を花に向けて、
己の掌を閉じた、すると何故か花は消えた
「えっ?は、花が…!?」
「くく、いい“りあくしょん”だ
ほれ、こっちを見てごらん」
子供達は謎の人物の方を向くと、
謎の人物は子供達に腕を向け、掌を開けた
すると不思議な事に、先程の花がそこに
存在していたのだ
「えぇっ!?」
「すごぉーい!」
「くく…」
謎の人物はどこか満足そうな様子で、
少年の手に花を乗せた
「さて、これで材料は揃ったのだろう?
早く家に帰って…っと、そう言えば道が
分からんのだったな」
その言葉を聞くと、先程まで喜んでいた
子供達は途端に元気を無くしてしまった
「くく、なぁに悄気げるな
私も気分がいい、ほれ。
私の背中に捕まってみ?決して手を離すなよ」
子供達は謎の人物の背中に捕まると、
ふわっ…と子供達ごと宙に浮いた
「うわわわっ!?」
「わぁ!巫女様みたい!」
「巫女…?ふむ、なるほど…
よぉし、では人の気配がする方角へ飛ぶ
振り落とされるなよ?」
そうは言いつつ、謎の人物は子供達に合わせる
様に速度を落としつつ飛行する
しばらくして灯りが沢山集まっている
“人間の里”を見つけた
謎の人物は人里の木で出来た外壁の門の前に
ゆっくりと着地した
「ここかね?」
「うん、ありがとう妖怪さん!」
すると、里の方角から人々が走って来た
中には刀や槍で武装している者もいる
「浩介!椿!無事だったか!」
「お父さん!」
浩介と椿は自分の父親を見つけ、
安心と嬉しさを抑えず、父親に抱きついた
「浩介に椿ちゃん、怪我はないな!?」
一人の女性が2人に声を掛ける
「慧音先生!
うん、途中で妖怪に襲われたけど…」
「なに!?ど、どこも怪我してないよな!?」
「うん!妖怪さんが助けてくれたんだー!」
「…?妖怪に襲われて妖怪に助けてもらったのか?」
「うん!ほらそこに……あれ?」
椿が指さした先には、本来あの妖怪がいたが、
そこには何もいなかった
「…?誰もいないじゃないか」
「ほんとだよぉ!白いローブを着た妖怪さん!」
その言葉を聞いた瞬間、慧音は戦慄した
冷や汗を流し、明らかに動揺している
「つ、椿…その妖怪、顔は見たか?」
「かお?ううん、見えなかった
まっくろでおめめだけ光ってたよ!」
「…―――っ!?」
「慧音先生?その妖怪に何か心当たりでも
あるんですかい?」
一人の青年が慧音に声を掛けた
そして慧音は荒い口調で
「私兵!今すぐ里の警戒度を上げてくれ!」
「へっ?い、一体どうして…」
「早く!!」
「りょ、了解しやした!お前ら行くぞ!」
「「「おぉーー!!」」」
「慧音先生?一体どうしたんです?」
椿と浩介の父親が慧音に話し掛ける
慧音はこう答えた
「…“黒霧”が、目を覚ました」
「…く、黒霧…?一体そりゃあ…」
「…君達も早く自分の家に帰りたまえ、
決して外も見ず、外に出るんじゃない、
…分かってくれ」
慧音の並々ならぬ雰囲気に、父親は子供達を
連れて人里に入っていった
「…また、死ぬのか…人が…妖怪が…悪魔も
…神すらも…」
慧音は右腕にあるブレスレットを見た
「…“先代”、信じたくなかったが…
やはり貴女の封印は…不完全だったようだ」
慧音は涙を流し、涙がブレスレットに当たる
「…それじゃあ…貴女が…」
慧音は涙を服の袖で強引に拭い、覚悟を決めた
鋭い瞳を森に向ける
「私が…いや、幻想郷のみんなが…
アイツを…黒霧を…!討ち滅ぼす!!」
幻想郷での“2度目”の“霧殺異変”
―――始動
後書き
そのころ竹林にて
フードの男「なんか血気盛んで怖いわー
人間怖いわー」
狼女「誰よアンタ」
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