遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~
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ターン44 鉄砲水と暗黒の中世
前書き
ちょっと最近モチベーションが落ち気味な事もあったりしましたが、私は元気です。
……と言えば聞こえがいいですが、要するに新しいゲームを始めたらそっちに集中が行っちゃっただけのことです。大丈夫です、更新ペースは意地でも落としませんので。
前回のあらすじ:正直なところ、万丈目に勝たせたことを今になって大後悔真っ最中。
「万丈目が倒れたぁ!?」
その知らせがレッド寮でゴロゴロふて寝していた僕のところに飛び込んできたのは、僕とのデュエル後にさらに新しく組み直したデッキを片手に意気揚々と出て行った万丈目を見送った、その夜のことだった。
「……オーケーオーケー、PDFじゃあ話しづらい、今すぐそっち行くから!」
『それが、ですね、先輩……くっ!』
「葵ちゃん?」
その知らせをわざわざ僕に伝えてくれた葵ちゃんだが、なんだか彼女の様子もおかしい。PDF越しですらわかるぐらい呼吸が乱れてるし、声にもいつもの張りがない。今にも倒れそうなところを気力で踏ん張ってるような彼女の様子に考えるまでもなくピンときて、通話口に向かって半ば怒鳴りつけるように声を荒げる。
「もしもし、葵ちゃん!?もしかして、そっちでデスデュエルやったの?」
『ええ……不覚、ですが……』
「なんでパーティー会場行ってまでデュエルすんのこのデュエル馬鹿!今すぐ鮎川先生連れてそっち行くから、そのまま大人しくしてなさい!それで?倒れたのは何人?」
『この場のほぼ全員、です……』
「はぁ!?」
確かパーティーに招待されたのはラーイエローとオベリスクブルー男女全員+アルファだったはずだ。1人や2人ならまだしも、そんな人数が一度にデスデュエルをした、それはつまりどういうことだろう。自身の説明不足に気づいたらしく、通話口の向こうで苦しそうに葵ちゃんが唸る声が聞こえてきた。
『元々、アモン先輩の、発案で……会場でですね、デスデュエルの、大会が、始まったんです……』
「……とにかく僕もそっち行くから、いったん切るよ」
少なくともアモンは、デスデュエルの危険性をよく理解していたはずだ。そのアモンがわざわざ、被害を拡大するようなデスデュエルの大会を開く?ただでさえ今この学校で起きていることはわけがわからないのに、これ以上引っ掻き回さないでほしいものだ。
もっとも、今はそんなこと言ってる場合じゃない。あの葵ちゃんがぶっ倒れる半歩手前ということは、並の生徒なら昏睡状態一直線のパターンだろう。起きるまで寝かしておくぐらいしかできる事はないだろうけど、人手があるに越したことはない。
風呂上りで寝間着だったので学生服を羽織り寮を出る寸前に、机の上に放り出してあった僕のデュエルディスクがなぜか目についた。デュエルするつもりもないのになぜそれが気になったのかはわからない。あるいは虫の知らせ、といってもいいかもしれない。その時は特に何をするつもりもなかったが、とにかくそれを引っ掴んでから改めて寮を飛び出した。
『軽い地獄絵図だな。だが私好みの地獄ではない』
「何言ってんのチャクチャルさん。馬鹿なことしてないでちょっとは手伝ってもらえませんか、ね!」
そこらへんにばったばったと倒れてるイエローやらブルーやらの生徒を手当たり次第におぶさり、本校の保健室へと運んでいく。ただこのぶんだと保健室のベッドが足りないから、途中からはそれこそ体育館にでも寝かしておくしかないだろう。
ちなみに女子ばっか最優先で運んだことは偶然です。まあレディーファーストっていうしね、ボランティアでやってんだから別に順番ぐらい僕が決めてもいいよね?保健室まで運んだところで一瞬だけ目を覚ました葵ちゃんが、他に寝かされてるのが女子ばっかりだった事に気づいた時点でまるで僕を見る目がまるでゴミを見るようものになっていたのもまあ気にしないでおこう。セクハラ云々言われそうだけど、否定しない範囲でうまいこととぼけておけば十分誤魔化せる……はずだ、きっと。
そんなことを考えながら最後の1人を体育館に敷かれた簡易布団に放りこみ、鮎川先生に別れを告げてから外に出た。医療知識なんて持ち合わせていない僕がいつまでもうろちょろしていたところで、単に邪魔にしかならないからだ。それに万丈目も呼吸器までつけて寝込んでいる状態だし、こちらとしても友人のそんな姿を見るのは辛いものがある。
「……ねえチャクチャルさん、やっぱり昼間、万丈目は一発殴ってでも止めるべきだったのかな」
こうなることが予想できていなかったといえば、嘘になる。デスベルトがエナジーを吸い取る率の高い時に万丈目がデュエルをしてしまう危険は、十分考えられるものだった。なまじ昼にデュエルした時は大した量じゃなかったから出発には何も言わないでおいたけど、今となってはそんな自分の判断が恨めしい。
『私がマスターに危ないからデュエルはするな、と言ったとして、それをマスターが聞き入れるのか?』
「う。その返しはずるいよ、チャクチャルさん」
『殴って止めようだなんてエネルギーを浪費するだけだ、ということさ』
いつになく諭すようなこの言葉も、チャクチャルさんなりに慰めてくれているのだろう。それにもう1つ、今の僕に対し釘を刺そうともしている。早い話僕がデュエルをするのは私としては勧めないぞ、という意思表示だ。
なんでわざわざそんなことを言いだしたのかというと、実はこれにもわけがある。先ほどまで出入りしていた保健室で、たまたま手伝いをしていたジムに出会ったのだ。そしてその時、あるものを手渡された。
「電波探知装置……ちゃんと効くかな、これ」
『私は機械はよくわからんぞ?』
デスデュエルが行われるたびにこの島を飛び交う怪電波を察知できる装置。今回のパーティーのおかげ、というかパーティーのせいでだいぶ電波の向かう先も特定できてきたらしいのだが、ジムが言うことにはなんでもあと1回でいいからその方向を絞り込める情報が欲しいとのことらしい。要するに、この学校でまだデュエルをやるような根性のある奴がいたらそいつの戦いを見届けろ、ということだ。ジムもジムで学校中を探し回っているが、なにせこの島は広い。だからここ数日の間に本土から取り寄せたこのスペアの電波探知装置を使って、土地勘のある僕にヘルプをプリーズする、だそうだ。
「あんなことの後じゃあ、そりゃあデュエルしようなんてのもいないよねえ」
『まあ、そうなるだろうな……おや、誰か来たぞ』
学校の中はがらんと静まっていて、ファラオ一匹歩いていない。すでにパーティーに出て倒れた人達のことは学校中に知れ渡っていて、偶然助かった生徒もそのほとんどが今日は寮で大人しくしているだろう。無論、デュエルだなんてもってのほかだ。だから一応見回りはするものの正直ほぼ期待していなかったが、チャクチャルさんの言葉に後ろを振り返る。
「シニョール清明、話は聞かせてもらったノーネ!」
「クロノス先生!?」
自信に満ちた足取りでこちらにやってくるその姿に、思わず驚きの声を上げる。今年になっていきなりやって来た臨時講師、コブラのせいで面目丸潰れになってしばらく落ち込みムードだったはずなのに、今日は随分と元気になったものだ。
「要するに、誰かデスベルトをつけた人がデュエルをすれば問題ないのでショウ。ここで私がデスデュエルと一連の事態の関連性を証明できれば、あの忌々しいプロフェッサー・コブラは失脚間違いなし、逆に私はその功績により次期校長の座にぐっと近づくことができるノーネ」
「ああ……」
最近すっかり忘れてたけど、そういやこの人はこういう人だった。いつぞやのジェネックスでタイタンが来た時も庇ってくれたし、根はいい人なんだけどねえ。今回だって下心はあるだろうけど、だとしてもこれまで表だってコブラに逆らわなかったこの人が立ち上がったのは、生徒がこれだけ倒れたのが大きな理由だろう。
教育者としてすごくいい人なんだよ、その分自分の欲にもわりかし忠実なだけで。
「で、クロノス先生。誰がデュエルするんですか?」
「フフン、少なくとも1人はナポレオン教頭にやってもらうノーネ。あと1人は……まあ、それを今から探せばいいでショウ」
なんかもうオチが見えた気がする。そう思ったわずか5分後。
「嫌でアール、吾輩だってそんな危険なことやりたくないでアール!」
「甘いことを言ってはいけませんーノ、それでも教頭は教育者ナノーネ!?」
「そこまで言うなら、クロノス校長『代理』がやればいいのでアール!」
案の定、わーわー言い合いながら追いかけまわす2人の先生。でもこんな非常時には、むしろこの平常運転なこの人たちの方が頼もしく感じる気がしないでもない。
「では、私はちょっと急用を思い出したのでこれで失礼するでアール!」
「あ、ちょ、ちょっと待つノーネ!」
あ、逃げた。
その後クロノス先生が追いかけにかかったものの、結局教頭には逃げ切られたらしい。その後もしばらく渋い顔でぶつぶつ言っていたクロノス先生だったが、ややあって何かを決心したような顔で立ち上がった。
「こうなったらこれも生徒のためそして私のため、デスデュエルだろうとペペロンチーノ一気食いだろうと私自らやってやるノーネ!さあシニョール清明、これで探す相手はあと1人なノーネ!」
「先生……んじゃ僕が相手を」
「ノー。私も教師の端くれ、これ以上生徒に危険を押し付けるようなことはできませんーノ。誰か先生方から手の空いた人を探すノーネ」
ついさっきまでナポレオン教頭を追いかけまわしてた人と同一人物だとは思えないほどまともな先生っぽいことを言いだすクロノス先生。だけど、僕だってここで引くわけにはいかない。例え先生が断ろうと、いくらチャクチャルさんが渋ろうと、いい加減我慢の限界だ。
そもそも、だなんて結果論でしかないけれど、そもそも留学生たちがやってきたあの日、僕がオブライエンとコブラが話していたことをすっぱ抜いて学校中にリークしていれば。あるいはその次の日、翔が人質となった時にそれを校長か、いっそ本土の新聞あたりにあることないこと話を膨らませて匿名投稿していたら。あの時はオブライエンを信じるのが最善手だと思ったし、今でもその気持ちに変わりはない。だけど、ここまで被害が出ることがあの時もしもわかっていたのなら……どうだろう、それでも僕に同じ選択ができただろうか。
ただ確実なことは、あの時点でコブラの危険さを知らしめることができていたならばその時点でコブラの追放は確定、このたくさんの被害者も出てくることがなかった、ということだ。
だから僕にはせめて、一刻も早くこの事態を終わらせる責任がある。クロノス先生が僕とはデュエルしないというのなら、多少荒っぽい手を使ってでも。
そうだそうだ、と声がした。僕が止められたはずのこの事態のせいで、たくさんの犠牲者が生まれた。僕のせいだ。僕が悪い。遊野清明が一番悪い。
「……えい」
「ムムム?た、大変なノーネシニョール清明、火事なノーネ!早く消火器を……」
「無駄ですよ、先生。この地縛の炎は物を燃やす力こそありませんが、一度張られたらデュエルが終わるまで中からも外からも干渉することはできません。さあ、デュエルと洒落込みましょう」
『待てマスター、なぜ「それ」を知っている!?私はその結界の張り方も、そもそも結界自体見せた覚えは一度もないぞ!?』
どこか遠くから、チャクチャルさんの声が聞こえる。ぼんやりとそれを聞きながら、自分のことなのにどこか他人事のように感じていた。そういえば、なんで当たり前のように僕はこんなことができているのだろう。チャクチャルさんと同じ紫色の炎なんて、一体どこで出し方を覚えたんだろう。ダークシグナーにこんなことができるだなんて、僕は今の今までまったく知らなかったのに。
頭の中、どこか片隅で警鐘が鳴った……気がした。次の瞬間にはもうそれも塗り潰され、雑念は全てどこかへ追いやられた。とにかくデュエルだ、もうそれでいいじゃない。そんな僕の目を覗き込み、クロノス先生も何かに気づいたように渋々ながらデュエルディスクを構える。
「……シニョール清明、どうやら何かよくないものの影響を受けているようなノーネ。セニョール・カミューラとのデュエルであれほど光のデュエルを心がけるよう教えたというのに……まったく、できの悪い生徒を持つと大変ナノーネ。しかし私の生徒が道を踏み外したというのなら、それを更生させるのは教師の使命。いいでショウ、この栄光あるデュエルアカデミア実技担当最高責任者クロノス・デ・メディチ、今一度私の生徒に光のデュエルの力を見せてあげますーノ!」
「ええ、手合せ願います」
言い切った瞬間、自分の中で何かが手遅れになった気がした。どうでもいい、どうでもいい。
「「デュエル!」」
「先攻は頂くノーネ、私のターン!古代の機械砲台を守備表示で召喚。さらに魔法カード、機械複製術を発動。これにより、私のデッキからさらに2体の同名モンスターを特殊召喚できるノーネ」
その言葉通り、武骨な歯車で作られた謎の砲台がガタガタと音を立てながら合計3台フィールドに現れる。
古代の機械砲台 守500
古代の機械砲台 守500
古代の機械砲台 守500
「そして古代の機械砲台の効果を発動。このカードをリリースすることで相手プレイヤーに500ポイントのダメージを与えるノーネ。さらにこのターンのバトルフェイズに相手はトラップが発動できなくなる効果も持っていますが、先攻1ターン目なら関係ないでショウ。私は2体の古代の機械砲台をリリースして、1000ダメージを与えるノーネ!」
清明 LP4000→3000
「くっ……」
「まずは小手調べ。カードをセットして、ターンを終了するノーネ」
先攻1ターン目からいきなりのバーン戦術は想定外だった。ここからは僕のターンだけど、クロノス先生が操る古代の機械はバトルする際に相手の魔法と罠を封殺する効果を持つ……僕の手札には攻撃反応のポセイドン・ウェーブのカードがあるが、これが役に立つことはなさそうだ。
「僕のターン!グリズリーマザーを召喚して、バトル!古代の機械砲台に攻撃!」
グリズリーマザー 攻1400→古代の機械砲台 守500(破壊)
「メイン2、カードを1枚セット。僕はこれで、ターンエンド」
攻撃が通ったのはいいが、正直意外だった。あの伏せカードで攻撃を防ぎ、次に繋げてくることを覚悟の上でその防御札だけでも見極めてやろうと攻撃したのだが。クロノス先生はかなりの実力者、本当に何も手をうたずにただ壁モンスターを出すだけで終わるとは考えにくい。とはいえとくに出すようなカードもなく、あの場面で攻撃しないというのも論外だろう。それに最悪、グリズリーマザーならばやられても後続のモンスターを呼びだせるし。
クロノス LP4000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:1(伏せ)
清明 LP3000 手札:5
モンスター:グリズリーマザー(攻)
魔法・罠:なし
「私のターン!速攻魔法、ダブル・サイクロンを発動。私の伏せカードと、シニョール清明の伏せカード1枚を破壊するノーネ」
「グレイドル・スプリットが……」
僕が伏せていたのは装備カードとなるトラップ、グレイドル・スプリット。どうせ破壊されるのならポセイドン・ウェーブも伏せておけばよかったかな。
「そして私は今破壊されたカード、黄金の邪神像の効果を発動。このカードが破壊されたことで、自分フィールドに邪神トークンを1体特殊召喚!」
邪神トークン 攻1000
「さらに邪神トークンをリリースし、アドバンス召喚!出でよ、古代の機械獣!」
無駄のない動きで次にアドバンス召喚されたのは、これまた全身機械製の犬の姿を模した兵器。攻撃力は上級モンスターであることを考えると驚くほど低いけれど、それを補うだけの高い攻撃性能を持ったモンスターだ。
古代の機械獣 攻2000
「バトル!古代の機械獣でグリズリーマザーに攻撃、プレシャス・ファング!」
歯車を高速回転させてその体をまるで本物の獣のように動かしながら、機械犬の鋼鉄の牙と青色熊の文字通り熊の爪が激突する。一瞬の均衡の後、牙が爪をへし折った。
古代の機械獣 攻2000→グリズリーマザー 攻1400(破壊)
清明 LP3000→2400
「古代の機械獣がモンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの効果は無効となるノーネ。ゆえにグリズリーマザーのリクルート効果は不発、カードをセットしてターンエンドしますーノ」
当然、リクルート効果は潰してくるか。さらにあのモンスターはその効果の都合上グレイドルをただのステータスが低い下級モンスター群にしてしまうため、グレイドルが中核となっているこのデッキにはまさに天敵ともいえる。
「となると、なんとかここで潰すしかないか。僕のターン、ドロー!グレイドル・アリゲーターを召喚!」
グレイドル・アリゲーター 攻500
僕の手札には自分フィールドの水属性モンスターを破壊しつつ手札の水属性を破壊した数だけ展開できる魔法カード、大波小波が存在する。これでアリゲーターを破壊すれば『魔法カードにより破壊された』という条件を満たしたアリゲーターの寄生効果が適用され、機械獣のコントロールを得て直接攻撃が可能……なおかつ手札に存在する攻撃力2800のモンスター、超古深海王シーラカンスを展開しつつこれまた攻撃で合計攻撃力4800を叩きつけられるという寸法だ。最低限の汎用性があるため単体でも邪魔にならず、なおかつ下級グレイドルの中でもその攻撃力の低さから特に場に出しやすいアリゲーターならば狙い撃ちも容易というこのコンボは、僕がこの間徹夜で考えたグレイドルを生かすためのカードだ。
本当は僕も、ヨハンほどではないけれどこういう戦法は好きじゃなかったはずなんだけど。最近デッキを見るたびに頭の中で声がするのだ、こんな温いデッキで勝てるわけがない、どんな手を使ってでも勝ちに行け、と。最初の内は無視できていたその声も、時が経つにつれ次第に自分の中で大きくなっていった。そして今年度に突入してからの怒涛の4連敗で、ついにその声を受け入れてポリシーを曲げることにしたのだ。
「さらに魔法カード……」
「ちょっと待つノーネ。トラップ発動、激流葬!アリゲーターの特殊召喚に反応し、フィールドのモンスターをすべて破壊しますーノ!」
「嘘っ!?」
アリゲーターが、機械獣が、共に流され破壊される。がらがらになったフィールドは次のターン、クロノス先生の攻撃を僕にストレートに叩き込むことが容易になってしまった。僕のライフは残り2400、上級モンスタークラスの攻撃力さえ来なければまだ耐えられる。
「ターン、エンド……」
クロノス LP4000 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:なし
清明 LP2400 手札:5
モンスター:なし
魔法・罠:なし
「私のターン、ドロー!魔法カード、トレード・インを発動。手札かーらレベル8モンスター、古代の機械巨竜を捨てることで、カードを2枚ドロー。シニョール清明、このデュエルはこのターンで終わらせますカーラ、いい加減に目を覚ますノーネ!魔法カード、古代の機械工場を発動!」
工場、の名が示す通り、巨大な溶鉱炉のようなものがフィールドに設置される。その下部についたベルトコンベアが動き出すと、どこからともなく大量の歯車や装甲板といった部品がそこを流れて溶鉱炉に吸い込まれていく。よく見るとその部品は古代の機械砲台の砲塔や古代の機械獣の牙といった、これまでのデュエルで見覚えのあるものばかりだった。
「古代の機械工場は発動時に手札のアンティーク・ギアモンスターを1枚見せて墓地からそのレベルの倍になるよう墓地のアンティーク・ギアを除外することーで、そのモンスター召喚のためのリリースが必要なくなるノーネ。私はこの効果で墓地からレベル8の古代の機械巨竜、レベル6の古代の機械獣、レベル2の古代の機械砲台を除外し、レベル8のこのカードを通常召喚!出でよ、古代の機械巨人!」
「嘘……でしょ……」
手札交換カードを使い新たに引かれた、たった2枚のカード。その2枚と墓地リソースをフルに使いこなしたクロノス先生が、満を持して切り札であるモノアイの巨人を繰り出した。
古代の機械巨人 攻3000
「バトルフェイズ、攻撃ナノーネ!古代の機械巨人のダイレクトアタック、アルティメット・パウンド!」
古代の機械巨人 攻3000→清明(直接攻撃)
清明 LP2400→0
「うぅ……」
強い。まるでつけ入るすきがない、実技担当最高責任者の実力をまざまざと見せつけられた。ともあれデュエルが終わったので、この地縛の炎もこれ以上維持する必要がない。さっと片手を上げると、みるみるうちにあたりを取り囲んでいた紫の火がしぼんで消えていく。
そしてそれと入れ替わるようにして、デスベルトの方が光を放ちだす。これまで以上の強烈さに思わず体勢が崩れ、壁に手をついてどうにか耐える。これは、あの葵ちゃんが倒れただけのことはある。
「ムムッ!シニョール清明、頑張るノーネ……ギャウッ!」
そんな僕の様子を見て慌てて走りよって来ようとしたクロノス先生だけど、当然デスベルトを着けてしまった以上、その脅威は先生にも襲い掛かる。というよりこれまで何度か実感してきたように、ダークシグナーとしてある程度体力に補正がかかっている僕よりも、そういった要素のない先生のほうがきついはずだ。
「先生!」
「私のことはいいですかーら、早くその装置を……!」
苦しがりながらの言葉に、慌てて電波探知装置を引っ張り出す。その針はすでに電波の流れをキャッチしており、アカデミアの外……森の中のある一点を向いていた。あとは気を失ったクロノス先生を運んで、それからジムにこの方角を伝えて……やることはまだまだある。
『マスター。マスター!』
「なんなのさ、チャクチャルさん」
長身のクロノス先生は、わりと持ち上げるのにバランスが悪くて手間がかかる。少し集中したかったので急に話しかけてくるのはやめて欲しかったのだが、そうも言っていられない気迫に渋々返事する。
『なんなのさ、ではない!まさか、まーた何か変な物でも拾ったのか!?』
「はい?」
ちょっと話が読めない。大体またって何さ、またって。まるでいつも変な物ばっかり拾ってるみたいじゃん。僕がこれまでに拾ったり手に入れたりした物なんて、チャクチャルさんとメタイオン先生とゴーストリック・フロストとうさぎちゃんとグレイドル全般と……うん、まあ、そこは否定できないかも。
「でもでも、今回はなんもないんだってば」
『……本当か?なら1つ聞かせてもらうが、あの炎はどうやって出した?やり方を教えたつもりはないが』
「あれ、前にも同じことしなかったっけ?もうずいぶん前にさ」
『は?』
「え?」
一瞬の沈黙。なんだろう、どうもチャクチャルさんと僕の間に記憶の食い違いがあるようだ。さすがの地縛神といえども、5000年も長生きしてる間にだいぶ記憶力が落ちてきてるのかな?でも僕は今でもはっきりと覚えている。初めてこの炎を出してデュエルを行ったのは、そう、あれは……。
あれ?なぜだろう、その時のことが全く思い出せない。ダークシグナーのこの力の使い方はばっちり覚えてるのに、肝心のその時の思い出がまるでない。かなり前の話なのは分かるけど、具体的な日付が出てこない。
「えっと……」
『……まあ具体的な被害もないし、しばらく様子見せざるを得ないか。だが覚えておいてくれマスター、これでも私はマスターのことを心配しているつもりなんだ』
深く追求される前に自分から話を打ち切り、それきり黙るチャクチャルさん。本当に何も拾った覚えはないのに、もはやチャクチャルさんの中では何か僕の近くに新たなカードやら精霊やらが増えたとの見方で確定してしまったらしい。いつかそのうちきっちり話し合ってその誤解を解いておきたいとは思うけど、まずはクロノス先生を運んでしまおう。それからゆっくり、話し合う時間を取ればいいか。
そんなことを考えて、改めて一歩を踏み出した……でも実を言うと、無意識のうちに僕も感じ取っていたのかもしれない。まだほんの小さな小さな、普段なら無視できるような。でも間違いなくそこにある、僕とチャクチャルさんの間にできた溝の存在を。チャクチャルさんは僕が何かを隠していると思い、僕は僕でなぜチャクチャルさんが信じてくれないのかがわからない。お互いの間に生まれたちっぽけな不信感の存在を心の奥底で感じ取ったからこそ、一度チャクチャルさんと距離を置こうとしたのかもしれなかった。
後書き
もうすぐ研究所突入記念!SALでもわかるQ&Aコーナー
Q:なんでこの主人公しょっちゅう闇落ちするし、その癖そのたんびにぼっこぼこにされるの?
A:清明本人の実力は作中でも精々中の下クラスでしかなく、精霊たちとの結びつきの強さによりその実力をカバーすることで作中上位陣ともなんとか渡り合えるようになっている状態です。闇堕ちする=精霊との結びつきを自ら弱める行為なため、闇堕ちすることで得られる暴走パワー的な何かよりも闇堕ちにより失う精霊との友情パワーの方が基本的に大きくなってしまい、その結果ガクッと弱くなります。なぜしょっちゅう闇堕ちするかについては、清明自身ではどうすることもできない部分に問題があります。元々彼は良くも悪くも根が純粋なためちょっとのきっかけで善にも悪にも傾きやすかったのですが、1話でダークシグナーとなって甦ったことでどうしても悪に傾きがちなのです。
……本文だとこんなメタい話書けそうにないからとりあえずこの場に放置。でもこんなの読む人いるのかな。
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