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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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劇場-シアター-

「此度の働き…よくやった」
暗闇の中、一人の男が立派に飾られた椅子に座り、自分の目の前で跪く女性を見下ろしていた。
「もったいないお言葉です」
跪いている女性は謙遜の返事を返す。
「しかし、此度の成功も一時の安息しか約束されぬだろうな」
男はため息交じりに声を漏らす。
「このトリステインはいずれ、崩壊する。たとえレコンキスタの力がなくとも、その運命は変えられん。なにせ、貴様の父が死に追いやられたような汚職事件・不祥事を王室は見逃し続け、貴族が平民や格下の貴族を虐げる…そうなっては、この国の民たちは他国の者どもからも蹂躙されるだろうな」
どうやらこの会話の内容からすると、この二人はトリステインの人間らしい。しかしこんな暗い場所でいったい何を話し合っているのだろうか。
「レコンキスタを利用し、腐ったトリステイン王室を倒して、私が新たな王として君臨しこの国を新たなものとする。そのためにも力を貸せ」
「…もちろんです。私はあなた様に命を救われ、光を頂いた身です。なんなりとお申し付けください。ではそのためにも、私は次に何をするべきですか?」
「そうだな…次は奴を狙わねばならん」
「奴?」
「この国を影から操るものがいる。この国…いや、この世界すべての脅威となる存在を始末するのだ」
「脅威、ですか?」
「お前もよく知っているだろう?奴らはレコンキスタを…彼らの操る怪獣どもを宇宙の脅威と称し、抹殺しようとしている。だが、考えてみよ。突然現れ、自ら救世主面した奴らが、真に救世主であるという証拠はあると思うか?
奴らは、あたかも自分たちこそが世界のすべてを支配するに相応しいと考え、怪獣をハルケギニア中にばらまき、そして暴れさせる。そこを自分たちの手で倒すことで、我らからの信頼を勝ち取ることでこの世界を支配していく魂胆なのだ」
「なんですって…それは確かですか!?」
「うむ、本当だ。民衆や王室の馬鹿どもは簡単に信じ込んでいるようだがな。あのような得体のしれない強大な力を持つ亜人…脅威でなくてなんというのだ。それに…タルブの戦いでも見たであろう?奴らと似た姿をした黒い巨人を。そいつと、奴らはグルなのは目星がついている」
女性の方は、少しためらいがちな口調で問い返した。
「しかし、黒い巨人はともかく、ゼロとネクサスの、女王や一部の貴族、そして民衆からの信頼は高くなる一方です。迂闊に攻撃したところで、王室側から我々が怪しまれるだけです。しかも奴らの力は怪獣よりも強大です。そんな相手を倒せるのですか?」
どういうことか、彼らはウルトラマンの存在にかなり懐疑的に見ているようだ。それも、実際にはウルトラマンこそがこの世界を荒らす存在たちの黒幕なのだと断じている。信用するかしないかについては流石に個人の判断に委ねられるものだが、それにしても酷い話だ。
「安心しろ。私の得た情報によると…奴らは普段は人間の姿で潜んでいるとのことだ。いくら絶対的な力を持つ連中でも、その姿でいる間は人間と大して変わらんようだ。そこを叩けばよい。幸い奴らも、自分たちが守っている人間には攻撃されるとは思うまい。
よいか、奴に近づき、必ずしとめるのだ。この国の安泰のために」
「わかりました…では、奴らの人間としての姿の特徴についてお教えください」
「うむ、これだ…」
男は、自分の傍らに置いてあった小さなテーブルの上にある一枚の紙をとり、女性に差し出す。女性はそれを受け取り、それを見た時だった。
「…ッ!?」
闇の中に隠れた彼女は、一瞬喉が詰まったような感覚を覚えた。
「どうした?もしや、知っている顔だったか?」
「…いえ、知らない顔です」
男が不思議に思って尋ねてきたが、女性は平静さを装った。
「そうか…まぁよい。私の期待を裏切らないでくれよ?」
「了解、任務に当たります…」
女性は男から手渡された紙を自分の胸元にしまい、立ち上がってその部屋を去って行った。



事件から日が開けた。
新たに結成された、ハルケギニア初の防衛チーム、その名も『UFZ(ウルティメイトフォースゼロ)』。城での停泊を許され、自分たちの疲れを癒した彼らは、さっそくある任務を任されることとなった。
玉座の間にて、言い渡された、UFZ初の任務。それは…

「なんでこうなったのかしらね…」

ルイズはため息交じりに呟いた。実は今、彼らはとても国や世界の未来を担うこととなるチームが行うものとは言い難い場所にいたのだ。
そこは…


劇場。


そう、演劇を行い、大衆に見せる娯楽の場所である。
「ほらそこ、声が小さいわよ。そしてそこ!無駄な動きを出さないで」
「は、はあい…」
「…大声、出すの苦手」
金髪のショートカットの女性からの怒声に情けない声を上げるギーシュと、苦手分野を口にするタバサ。
「小さい声でお客様の耳に届くと思ってるの?喉からじゃなくてお腹から声を出すようにすれば、おのずと大声が出せるし、喉を潰さずに済むわ。さあ、始めなさい」
その女性はどうやら、劇場の支配人のようだ。稽古中の彼らに厳しく指摘を入れる。サイトは彼女の鬼コーチのような指導の熱の入りように驚かされる。
「うはぁ…○塚もあんな感じだったりするのかな…」
○塚のことなんて何一つ知らないくせにそんな評価を下したくなったりする。
「もぅ…妖精亭のときといい、今といい…なんで私がこんなことを…」
「同感ね。大げさに体を動かされるし、声を大きくしないといけないし」
ルイズも、どうしてこの場に居るのかよく分からず口をこぼす。モンモランシーも慣れない運動にかなりくたくたの様子だし、キュルケもキュルケでつまらなそうなリアクションだ。
「あなたたちもなに突っ立ってるの!?まだ休憩には早いわよ!」
「「は、はいい!」」
思わず傍観者になっていたために、サイトたちも怒られてしまった。
「ごめんなさい…私が無理を言ったからみんなを巻き込むことになっちゃって…」
ハルナもサイトたちと一緒にこの場に居た。申し訳なさそうに謝った。
「いいんだって。あれ大切なものなんだもんな。仕方ないよ。ルイズたちも手を貸さないと、あの人、ハルナの大事なものを返してくれないだろ?」
どうも、ハルナ関連でどうしても抜けられない事情があったようだ。

貴族とは、民たちにとっての模範であるべき。社会的地位の低い者たちが行う劇団に対しては、あくまで見る専の立場であるのが当然のことなのだが、なぜかルイズたちは劇場にて、役者の練習を行っている。

なぜルイズたちが演劇の練習を行う羽目になったか。それは今から数時間前に遡る…。


玉座の間にて、
サイト・ルイズ・ギーシュ・レイナール・マリコルヌ、モンモランシーは、
女王近衛部隊兼対怪獣対策防衛チーム『ウルティメイトフォーズゼロ(UFZ)』としての任務を言い渡される。この場には協力者という立場でキュルケとタバサも同伴していた。ミシェルとアニエス、ジュリオもこの場に控えている。
「黒いウルトラマンが等身大の大きさでトリスタニアの町に現れ、破壊活動を行ったとの通報がありました」
「黒いウルトラマン!?」
その単語を聞いてサイトたちの表情は一変する。黒いウルトラマン…それはすでにトリステインでも他国でも知れ渡りつつあるほどの恐ろしい力を持つ強敵。
ファウスト、そしてメフィスト。ウルトラマンが単独で相手にすることも困難なほどだ。
「ちなみに、現れた奴はどっちですか!?」
サイトがアンリエッタに尋ねる。
「ダークファウスト…二本角を持つ女性型の方です」
「被害はどれほどになっているんですか?」
今度はルイズが尋ねる。奴らほどの強敵なら被害はかなりのものだろう。正直喜ばしいことなんて何もないが。
「被害状況ですが、思った以上にごく緩やかな傾向にありました」
「え…緩やか!?」
「ルイズ、あなたもおかしいと思いませんでしたか?今日のトリスタニアは確かに被害こそありますが、機能が停止するほどの被害には及んでいません」
言われて見て、ルイズはハッとする。再びこのトリスタニアを訪れたとき、確かに建物がいくつか壊された箇所があったが、何度も怪獣災害にあったトリスタニアはその直後の有様がかなり酷かった。だが、これまでと比べて被害がごく小さいもの。奇妙だ。
「今までの動きが今までなだけに、こんなことは信じられないのです。重傷の者が多数出てしまいましたが、死者もいません」
「不幸中の幸いですね…」
「…そうでしょうか」
レイナールがそう言うが、それに対してアンリエッタは懐疑的な返答をする。
「被害にあった街の警備兵からの情報によると、黒いウルトラマンは我々人間と同じ体の大きさで戦いを挑んできたそうです。もしこの国に大きなダメージを与えることが目的なら、これまでのように巨大な姿で挑んでくるはず。にもかかわらず…」
「考えてみればおかしいですね。なんで奴はそんなことを…」
考え込むレイナール。しかし考えても決定的な理由が思い当たらない。核心に近づけるだけの情報が少なかった。
「試している…と私は考えます」
すると、アンリエッタ傍で控えていたアニエスが口を開いた。
「試す?どういうことよアニエス」
キュルケが尋ねる。
「最後にファウストが現れたのはタルブの戦い。レコンキスタとの戦闘中を最後に、ウルトラマンネクサスに深手を負わされて退いたときだ」
(…)
世間では、レコンキスタの侵攻に伴って姿を現したときが、ファウストを最後に姿を見せたときとされているようだ。だが実際のことをサイトは知っている。メフィストが新たに出現する直前、奴は一度だけシュウに戦いを挑んできた。同じウルトラマン同士、情報を共有するべきとしたため、彼の口からそれを聞いていた。
「それまでしばらく、奴は表舞台に姿を見せていない。傷が癒えるまでの間どこかで回復のときを待っていたと考えている」
「でも、また姿を現した」
タバサが繋げる。
「ああ、そして回復したばかりの自分の力がどれほどのものかを確かめるために、街を襲撃し、街の警備たちを相手に戦いを挑み、負傷者を出した」
もしアニエスの予想が正しいとしたら、再びウルトラマンたちと戦うだけの力を取り戻したと推測される。
「とはいえ、これはあくまで私が目撃者からの観点を元に割り出した仮説だ。目的が何であれ、奴の暴挙をこれ以上許すわけに行かぬ」
「アニエスの言うとおりです。これ以上奴の動きを野放しにするわけにいきません。せめて奴の出現位置を特定さえできれば被害を最小限に留められるのですが…」
確かに、奴の出現場所を突き止めることができたら、あらかじめその付近の街の人たちに避難を呼びかけることも、即座に奴に対処することも可能だ。
「女王陛下、確かレコンキスタから回収したあのゴーレム…ジャンバードでしたか?あれには怪獣の位置を特定できるそうですが、あれを使えばよろしいと思います」
ジュリオが横から入ってきてアンリエッタに言う。
そう、自分たちには、ジャンバードという、怪獣をはじめとした敵勢力の位置の特定を可能とする存在が居る。あれのエネルギー探知機能を使えば問題は無いはずだ。
「そうよ、あったじゃない!奴の場所を突き止める方法!」
ルイズもそれを聞いて喜ぶ。これ以上自分の大切に思う女王の住む町を壊されてたまるものか。
(こいつ、ジャンバードのことも…)
一方でサイトはジュリオに対して少し警戒心を抱く。ジャンバードの性能についても既に知っていたとは。アンリエッタが教えたとは考えにくい。ロマリアもこのトリステインからすれば外国に違いない。ハルケギニアが一つとなって怪獣や星人という脅威に立ち向かうべきなのに、どの国も自国のことで頭を回す姿勢をとっていたのに、今になって現れた協力者。何か意図があると思わされる。
とはいえ、ジュリオの言っていることは妥当だ。早速ジャンバードの機能に頼っては見たのだが…。
「どう?」
「………だめだ。見つからない。ファウストどころか、怪獣の反応は何も出ていないよ」
結果は残念なものだった。探知を開始してから、ジャンバードのレーダーにはファウストどころか、怪獣の生体反応が一つも引っかからなかった。
「んもう!サイト、これはどういうことよ!期待外れじゃない!」
ルイズが文句を言う。
「お、俺に言われたって…やっぱファウストの奴、俺たちが探し回っているのをかぎつけたんじゃ…」
「おいおい、しっかりしてくれよサイト」
「こんなすごいものを使えるって聞いたから期待の成果を見せると思ってたのに。そうすれば、僕らUFZの実力を他の貴族たちに示すことができたのにさ…」
ここへ来るまでの間ギーシュたちUFZの男たちは、レコンキスタが保有していたこのジャンバードという兵器を見たときは興奮を示していた。そしてサイトがこれを動かすことができると聞いて、さらに期待を寄せたのだが、成果は0という残念な結果になり、期待を寄せたぶんかなりがっくりしてしまう。
ぐぅ、好き放題言いやがって。サイトは、仕方ないとは言え何もしてないルイズやギーシュたちに怒りたくなる。
「こうなったら仕方あるまい。現地調査で街を散策するしかあるまいな」
「それが妥当ね…はぁ、街をずっとうろうろすると足が疲れちゃうわね」
アニエスの提案に、しぶしぶながらもキュルケが同意する。
「だったら無理に関わることないじゃない」
結局キュルケもタバサも、UFZ加入の件を断っている。だが今回は協力者として力を貸してくれているのだが、やる気を疑う言葉を聞き、ルイズが追い払うような言い回しをする。
「そうは言うけど、ダーリンのことが心配なんですもの。あなたが酷使するせいで過労死するなんてことにならないか」
「なんでそうなるのよ!寧ろ敵に襲われた時のことを心配しなさいよ!」
サイトが味方に殺される…それも自分の手で死を遂げることを。もちろんからかい半分で心配されたことだが、ルイズは憤慨する。
「まぁまぁ。それよりも手分けして街に調査に向かおうよ。ここには大人数がしめているし」
「それが妥当ね。振り分けはどうする?」
二人をなだめるマリコルヌに、モンモランシーが同意し、そして誰と誰を組ませるかを問う。全員で相談した結果、
サイトはルイズとハルナの二人。
キュルケはタバサ、
ギーシュはモンモランシー、
レイナールはマリコルヌと組むことになった。
「女の子と一緒がよかったのに~」
「僕じゃ不満か?マリコルヌ」
レイナールは眼鏡をかけなおしながら、愚痴をこぼしてきたマリコルヌに棘のある物言いをする。
「平賀君、私から申し出たから言うのもなんだけど、私も一緒で大丈夫?」
今回ハルナも同伴している。戦闘能力のないはずの彼女がサイトに着いていくことに関して、ルイズは正直乗り気になれなかった。…最も、他の女がサイトにくっついているのが気に食わないことが本音だが。
「ぜんぜん大丈夫だって。俺がちゃんと守るから」
惚れた男からこんなことを言われてしまってはどうしようもない。ハルナは嬉しそうに頬を赤らめた。
「…」
こんなことを聞いて面白いと思うルイズなわけがない。不満のあまり顔が少しゆがみ始めたが、サイトはルイズの方も振り返って声をかけてきた。
「もちろん、ルイズも心配だから一緒に連れて行ってるよ」
「…ま、そういうことにしといてあげる」
ちゃんと自分のことも見てくれているから、この辺りで妥協してやる。だが羽目を外したときはみっちりお仕置きしなければ。そう心に誓うルイズなのであった。
「ねぇ、ダーリン。ルイズたちとじゃなくて、あたしたちと行かない?たっぷりサービスしちゃうけど?」
タバサとの二人旅も悪くないが、そこにサイトも居れば文句のつけようがない。早速誘いにかかるキュルケだが、それをよしとしない乙女二人の反撃も当然ながら出る。
「だめに決まってるでしょ!あんた、これは姫様から仰せつかった大事な任務なのよ?デートしたいなら適当にあんたが掘り出したボーイフレンドを誘ったらいいんじゃない!」
「そ、そうです!平賀君とキュルケさんが一緒だなんて、絶対絶対だめです!!」
キュルケの傍だなんて、何をしでかされるか分かったものじゃない。
「おや、サイト君がだめなら僕でどうかな?」
「あら、いいの!?」
「乗換え早!?」
ジュリオというこの場で最大の爽やかイケメンが調子のいいことに誘ってきたために、キュルケはあっさりと傾いてしまう。証拠に目が微熱の蓋綱にふさわしく熱を帯びている。サイトの突っ込みさえも聞き逃した。
「おいお前!ロマリアの神官だろ!女の子とイチャイチャなんてしていいのかよ!?」
しかし、当然男たちは面白くもなんともない。マリコルヌがジュリオに、彼が神官という立場に居ることを出しに(最も、モテナイ男の嫉妬の度合いが高いに違いないが)突っかかると、ジュリオは軽く流すように言い返す。
「今の僕は神官の位から一時退いていることになっているんだ。だから好きにしていいんだよ。もちろん…恋愛もね?」
「はぁぁ…」
しかも、これ見よがしにモンモランシーに白い歯を見せながらにこやかな笑みを見せると、モンモランシーも瞬時にうっとりしてしまう。
「き、貴様!僕の目の前で、僕のモンモランシーに手を出すとはいい度胸だな!」
ギーシュがモンモランシーをかばうように前に出て、自分の背中でジュリオの姿がモンモランシーに見えないように覆い隠す。
「おいおい、手を出す打なんて心外だな。僕はただ笑顔を向けただけじゃないか」
ジュリオの笑みを見て、嘘だ!とギーシュは突っ込みを入れたくなる。
「あら、私いつからあんたのモンモランシーになったのかしら?」
「そ、そんな…!」
だが対するモンモランシーからは冷たい視線と言葉が飛び、ギーシュは合えなく撃沈する。日ごろの行いが災いしたとしか言いようがない。
『な、なんなんだぁ~このキザ野郎は。さっぱりわけわからん!』
ゴモラを操ってゴドラ星人を倒した時点で怪しさを振りまき、何気にこちらの正体を掴んできたり、女を瞬時にはべらしたり…怪しさ満載で全く読めないジュリオのキャラに、サイトの目を通して見ていたゼロも頭を抱えたくなった。色んな意味で油断ならない奴である。
「お前たち、いい加減にせんか。我らは女王陛下からの命令で動くことになるのだぞ。学生気分でいるのならさっさと学院に戻って大人しくしていろ」
いつもの調子のままの彼らに、アニエスはギロッと睨みを聞かせ、サイトたちを黙らせた。元々平民出身とはいえ、自分たちと比べて戦闘経験が豊富な彼女に逆らえるはずがない。
「私たちは一度城に戻る。くれぐれも調査の目的を忘れないようにして置けよ。特にサイト」
「え、俺…ですか?」
今度はミシェルがサイトたちに釘を刺してくる。しかもサイトにはなぜか念入りに押してきている。
「お前がこの面子の中で一番心配だからな」
それを言われて、サイトはどこか納得がいかないと思った。何せこの面子で最も怪獣や成人に精通しているのは自分だ。そんな自分が寧ろ心配されているのだから、なぜ釘を刺されなければならないのか。
『俺、やっぱりこの人に迷惑かけてた?』
『だから俺に聞くなよ、サイト…これはお前の問題なんだからよ』
もしかしたら、自分が怒らせるようなことをしたのでは?ゼロに脳裏で声をかけてみても、望みの答えは返ってこない。
「…まぁ、その…なんだ…背中を刺されんよう気をつけておくことだな」
「は、はぁ…」
「ミシェル。そろそろ陛下の下に戻るぞ」
「そ、そうですね。じゃあ…また、な」
アニエスからもう時間が来たことを告げられ、ミシェルは彼女と共に、一度城に戻っていった。
(?)
去り際に見せた表情に、サイトはなんとなく妙に思えた。まるで、何か悩んでいるような…だが一瞬見ただけの光景だったので、気のせいだと思った。
「なんでミシェルがあんたに声をかけたのよ?」
すると、ルイズが後ろからサイトに声をかけてきた。
「え?な…なんでって…そりゃ、俺たちがまだ未熟な奴だって見られているから釘を刺したんだろ?」
「そうは見えなかったと思うけど…」
ハルナも思い当たるところがあってか、そう呟いてくる。ルイズと揃ってジト目でサイトの背中を突き刺すような視線で睨みつけてきている。
「は…ハルナまで何言ってるんだよ。ミシェルさんが俺たちに言えることなんて他に何があるっていうんだ?」
「「…別に」」
二人はサイトから視線を背けて、たった一言で会話を切った。明らかに不機嫌なご様子。俺、やっぱり何かしたのかな…とサイトは困惑するばかりだった。
「ダーリンったら罪な男…」
キュルケがやれやれといった様子で呟いた。ミシェルがなぜサイトに声をかけたのかも、なぜルイズとハルナが不機嫌になっているのかも、全て彼自身に原因があることに他ならないのに、その自覚が全くないからさらに余計にそう思えてならない。
(なんか釈然としないな…まぁいいや)
サイトはミシェルが自分に釘を刺してきた理由についてはもう考えないことにした。それよりも、今回アンリエッタから任された任務…黒いウルトラマンについての調査だ。
『できれば、今回の任務にはシュウの手も借りたかったんだけどな…』
シュウの顔を浮かべながら、サイトは思う。
これまで現れた闇のウルトラマンたち…ファウストもメフィストもシュウの世界、サイトの地球から見てパラレルワールドに当たる世界に姿を見せたとされている脅威。そしてシュウは新人ではあったが、その世界の防衛チーム出身者。貴重な情報の持ち主だったことに変わりない。そのぶん何か、ファウスト攻略のためのヒントも導き出せると思っていたが、先日の会談の際にシュウとの連絡が途絶えている以上やむをえない。
『ないものねだりしても仕方ねぇ。けど幸い俺たちはファウストと直接拳を交えたことがある。それだけでもルイズたちとは違う視点から奴を警戒し、分析することもできる』
『そうだけど…それだけじゃない』
『…心配か?』
『ゼロだってそうだろ』
『まぁな…』
サイトから言い返され、ゼロは否定できなかった。
『なんかさ、俺あいつのこと、すごい奴だって思ってた。俺たちよりもウルトラマンらしく、力に溺れることなく、文句も言わず、大きな間違いだって起こさないで、テファや村の子達、たくさんの人たちを守って…俺たちのことも助けてくれてた』
最初に会ったのは、モット伯爵の屋敷で始めてスペースビーストと戦ったとき、それに伴ってあいつと出会った。あのときを川切りに、自分たちと彼の関わる機会が増えていった。気が付いたら背中を預けあいながら戦っていたのだが…
『考えてみれば…どこか変だったな。あいつも何か、重いものを抱え込んで、それを引きずりながら戦っていた気がする。ざっくりして言うと、無理をしているように思える』
『お前も感じ取っていたんだな』
今の口ぶりだと、ゼロもまたサイトと同じように、シュウが何かを背負っていることを悟っていたようだ。
『テファたちなら、何か知ってるのかな…?』
『さぁな。でも、あの子もシュウのことをあまりよく知っているわけじゃなかったと思うぞ。ウエストウッド村でそういっていたはずだ』
テファも、召喚した本人とはいえ、当時はシュウのことをよく知っているわけではなかったことを打ち明けていた。となると、彼女から聞いてみても期待はできない。
『そうだったな…って、なんだよ。お前あのとき俺の中で引きこもってたのにしっかり聞いてたのか』
『あのな、俺たちウルトラマンだって意外と退屈なもんだぜ。こうして違う人間と同じ肉体を共有して、普段は宿主に表沙汰は任せっきりなんだからな』
ウエストウッド村を来訪した時、仲たがいの果てにゼロはサイトの中に閉じこもっていたはず。何気に会話を聞いていたことに、盗み聞きをされたと思ったサイトは少しいやそうな表情を浮かべたが、対するゼロは人間と一体化しているが故の悩みから愚痴をこぼしてくる。
「サイト!」
「うわ!ルイズ!?」
すると、考え込んでいるサイトの顔をルイズがいきなり覗き込んできたので、サイトは驚いて声を上げてしまう。
「わ、とは何よ。何時まで突っ立っているの?早く姫様からの任務にかかるわよ」
「平賀君、どこか体の調子でも悪いの?」
「あ、ああごめん。なんでもないよ」
ハルナからも心配の言葉をかけられたが、本当にただ考え込んでいただけだ。なんでもないと告げた。

こうして街に現れたという黒いウルトラマンを追って、調査が開始された。


とりあえずファウストが現れたエリアを重点に置きながら、現場付近に住まう人、通りがかった人たちから話を聞いていった。
主な話は城で聞いていた通りだ。
夜中、街を警邏中だった見回り兵によると、突如目の前に全身を黒いローブを身に纏う小柄な女が現れた。そいつは目の前で素顔をさらすことなく、黒いオーラを身にまとった瞬間、ファウストに姿を変えたという。それも一件だけじゃない。街の各地でそのような事件が起きたらしく、奇跡的に死人こそ出てはいないものの、被害者の容態はいずれもよろしくない。目撃者の話だと、奴はこういっていたらしい。
『回復した私の力、お前で試させてもらう』と。アニエスの予測は、当たっていたようだ。それだけに、人間をウォーミングアップ用のサンドバックのように扱ってきたファウストの愚行を許せないと思ったサイトたち。
ただ、サイトにとって心に傷を突けるような言動も証言と共に住人の口から発せられた。
「ウルトラマンまで敵になるなんて…」
「ウルトラマン同士の争いなんて、他所でやってほしいわね」
……。
もちろんこれはある一部の人間だけの認識だ。ウルトラマンの活躍で救われた者たち大勢居るだけあって、慕う者たちの方が多くなっている。だが、心なしか傷つく言葉だった。
恐らくウルトラマンヒカリもこんな気持ちだったかもしれない。人のために戦っているのに、その守るべき人たちから恐れられ、敬遠さえもされた。
自分がヒカリに向けていた白い視線を、自分も受けることになろうとは。
「平賀君、大丈夫?」
沈んだ表情を浮かべるサイトに、ハルナは顔を覗き込んでくる。
「気にしてるの?ウルトラマンのことを悪く言われたこと」
ルイズはサイトの様子を見て、彼が何を考えているかを察し当てて見せた。
「あんたがあいつらを尊敬し大切に思ってるのは分かるわ。でも気にしたってしょうがないじゃない。あんたのこと言われたわけじゃじゃないんだから」
ところがどっこいだよ、ルイズ。そのウルトラマンが、俺なんだから…
しかし、口に出したところで意味はない。ルイズは現実的な視点から全てを見るし、それをサイトも悪いとは思っていないし、客観的に見れば当たり前だ。
それよりも許せないのは、己の超人的な力を他者を傷つけるために利用したこと。なにより、奴は自分と同じウルトラマンの姿をしているということ。自分たちはともかく、奴の動きは常に、ここにはいない他のウルトラマンたちの顔にさえも泥を塗っているも同じだ。
『ファウスト…絶対に見つけ出してやる。今度こそ!』
『あぁ、俺は過ちを犯したことがあるからこそ同感だ。ファウスト…奴を見つけたら、今度こそぶちのめしやろうぜ、サイト!』
心の中で気合を入れるサイトに、ゼロもまた同調した。
「黒いウルトラマン…」
ふと、ハルナが小さい声で呟きだす。
「ハルナ?」
彼女の声に気が付いてルイズが、今度はハルナを振り返る。
ハルナは、実は心の中で『黒いウルトラマン』というキーワードをやたらと気にしていた。
(なんだろう…何か知っているような…)
…うぅん。そんなわけないか。何か妙な感覚を覚えたが、きっと気のせいに違いない。この目でサイトたちの知っている黒いウルトラマンを見たことがないのだから。そもそも彼女とサイトの生きていた地球では、悪のウルトラ戦士なんて現れたことがなかったから知らなくて当然だ。
忘れようと思ったそんな時、一人の女性がちょうどハルナの傍を横切った。その女性を思わず振り返るハルナ。普通ならすぐに視線を仲間たちに戻すはずだったのだが、今回はそうは行かなかった。
「あ、あれは!」
「ハルナ、何か見つけたのか?」
振り返ってきたサイトがハルナに問う。
「あれ、もしかして…」
なにやら真剣みのある表情を浮かべている。もしや、黒いウルトラマンを見つけたのか?いや、もしくはそいつに変身するとされる黒ローブの少女を見たのか!?
しかし…二人の予想は的外れだった。
「私の鞄!?」
「か、鞄!?」
それは今の自分たちの任務において全く関係のないものだった。まさかハルナの鞄だなんて思いもしなかったルイズは、足腰を挫かれたような感覚を覚える。
「鞄なんてどうでもいいじゃない!」
「そうはいきません!あれは私が地球の思い出が詰まっている大事なものなんです!私がこの世界に来たときに持っていた、唯一のバッグなの!大事に持っていたんだけど、どこかで落としちゃってて…」
「地球の思い出、か…」
異世界だからこそ、故郷にあったものならどんなちちっぽけなものでも貴重でかけがえのないものであることを痛感させられる。サイトもそれを理解していた。
「そんな言い方されたら、俺も無視できないな。俺も着いていくよ」
「ありがとう、平賀君!」
「あ、こら!二人で勝手に話を進めないでよ!私も行くわ」
ルイズは、話が終わると同時に先行する二人を慌てて追っていった。
しばらく三人は、ハルナの追う人物を追跡する。追跡対象としているのは、ハルケギニアの材質で作られているようには見えない鞄だった。なるほど、あの鞄ならサイトも見たことがあった。自分とハルナが通っていた高校の指定バックだ。この異世界だと違和感がありすぎるし、目立つ。一目瞭然だ。
「あれだな。んで、持ってる人は…ん?」
ハルナの物と思われる鞄を持って進行先を歩いている人物は女性だった。
その女性は、見た目は20代半ば、髪は金髪のショートカットで、スタイルもなかなかの美女。しかし、その女性には、目立つ特徴があった。
「あの人、頭から耳が…」
「もしかしてあの女、獣人?」
そう、彼女の頭からは獣のような耳が生えていたのだ。
何人か彼女に気が付いた人たちが、彼女を見て少し敬遠しがちな視線を向けたり、一歩距離を置こうとしているのが伺える。
「ルイズ、獣人ってもしかして…獣みたいな人ってことか?」
「簡単に言えば、まぁそういうことよ。あんたくらいでも理解できるのね。安心したわ」
「馬鹿にしてるだろ…」
尋ねてきたサイトが、ルイズの説明に理解を示すも、どこか棘のある言い分にむっとする。
「けど、耳以外は私たち人間とほとんど変わらないわね。そこがかえって奇妙だわ」
「案外、ただの猫耳装着を趣味にしている人かもな?」
実は猫か犬の耳を模倣したカチューシャじゃないだろうか、なんてことをサイトは考える。
「どんな変人よ、それ…」
「平賀君、アニメにはまり過ぎじゃないかな…?」
「え~…」
サイトの多少妄想が混じった捻りのないジョークに、ルイズとハルナからの感想は酷評だった。
『もしかしたら新しいタイプの宇宙人だったりするかもしれないな。後を追っていこうぜ』
一方で、ゼロはウルトラマンらしさのある予想を立てる。彼は元々、宇宙を飛び回り続けている宇宙警備隊員の一人だ。この宇宙はこのエスメラルダ、ハルケギニア大陸がそうであるように、地球人にごく近い形態を持つ星人の世界も存在していることもあれば、あまりにかけ離れた形態の生命体が存在している事だってある。獣の耳を生やした人間が存在してもおかしくないのだろう。
三人は引き続き、獣耳の女性の後を追っていく。
「ここって…劇場?」
「ええ。市街歌劇場『タニアリージュ・ロワイヤル座』よ。旅回りの劇団が演劇をしてるわ」
タニアリージュ・ロワイヤル座。トリスタニアのとある場所に建設された立派な劇場である。
ハルナの鞄を持っていた女性は、劇場の入り口からちょうど中に入ろうとしている頃だった。
「ま、待ってください!」
ハルナは彼女に声をかけて呼び止めた。ん?と声を漏らしながら、獣耳の女性は振り返る。
「どうかされましたか?本日の劇場は休演日なのですが」
「あなた、この劇場の支配人かしら?」
ルイズの問いに、女性は自己紹介を始めた。
「見たところ、貴族様のようですね。私は『ウェザリー』…この劇場で芝居をやらせてもらっている旅の一座の座長です。それで、このバッグがなにか?」
「実は…」
そこからハルナは必死に女性に事情を説明した。とはいえ、異世界出身であることを迂闊に部外者に明かすのは不味いと思い、それに纏わることをなるべく避けるよう、ルイズから耳打ちによる釘打ちを刺してもらった上での説得だ。
「なるほど、これは元々あなたのものだから、返してほしいというのね?」
「はい、大変勝手だとは思いますが、そのバッグは本当に私のものなんです。証拠品もその中に入っています。だから…」
鞄の中を確かめてほしいと懇願するハルナ。だが、相手の女性からの返答は残念…というか、信じられないといえるものだった。
「残念だけど、これは私が道中で偶然拾ったものよ。たとえ本当にあなたのものだとしても、おいそれと渡すわけに行かないわ」
「どうしてです!?」
「本当にその証拠品とやらが、あなたの持ち物だと証明できるものなのかしら?適当に言い繕って、嘘をついてこのバッグを持ち去ろうとしている詐欺師の可能性も否定できないんじゃなくて?」
ウェザリーは、実は持ち主のふりをした盗人なのではないかと勘繰っているようだ。
「そ、そんなことありません!本当に私のものだという証明の品があるんです!」
ハルナのいうことは間違っていないし、それにこれがハルナ以外の誰の物でもないという証拠は確かにそのバッグの中に入っているのだ。その中には写真付きの学生身分証明証もある。例え異世界人が確かめても、ハルナの写真が付いているに違いないそんなものがあれば、ハルナのものと思わざるを得ないはずだ。
だが、信じられないことに彼女はそれをさせもしないのだ。
「他の劇団員にとってもこのバッグの中身はトリステインでは見かけられないものだらけなのだから、このバッグを気に入ってるの。残念だけど、仮にあなたたちの物であっても簡単には返せないのよ」
「そんな…」
自分の大切な鞄を取り戻せないという、理不尽にも思える事態にハルナは気落ちする。しかしサイトも、ここは助け舟を出さねばとウェザリーに話を持ちかけた。
「な、なんとか返してやることはできないんですか!?それがハルナのものだっていう証拠は確かにあるはずです!」
「それは困ったわね…でも、今言ったように、他の劇団員も気に入ってるの。いくら座長であっても私の一存では決めかねるわ」
ウェザリーも申し訳なさそうに言う。座長の立場を利用して、他の劇団員が気に入っているというハルナの鞄とその中身。そんな貴重品を無断で返すことは、劇団員の意思を無視した越権行為ともとられてしまうのだろう。
『サイト、何か怪しくないか?』
『え?』
ゼロがサイトに声をかけてきた。
『返すことができないにせよ、少なくともハルナのものであることを証明できるはずだ。けど、あの女はそれをさせもしない。いくら他の団員が返されるのを望まないにしても、どこか引っかからないか?』
『…あぁ、言われて見れば』
互いに物品のトラブルを避けるためにも、ハルナのものであるという証拠を探る必要は確かにある。でもウェザリーは証拠の確認さえもさせない。そこにゼロも引っかかり、サイトも言われてみて、同調する。もしや、遺失物の横領を企んでいるのでは?
けどここで鞄を諦めてもらうのは、ハルナがかわいそうだ。何とかしてあげたい。
そんな、互いに困ってしまった彼らの元に、意外な人物が姿を見せることとなる。
「あらん、誰かと思ったらサイトちゃんたちじゃない!」
その野太い声に似合わない女言葉を聞いてサイトたち三人+一人&一本は万階一致で、まるで以心伝心のごとく、心の中でこう言った。
(((((この声は…まさか!!?)))))
振り返るサイトたち。その声の主は…案の定あの人だった。
「す、スカロンさん!?なんでここに!?」
なんと、そこに現れたのは魅惑の妖精亭の主人であるオカマの中年男、そしてシエスタの叔父でもあるスカロンだったのだ!
「なんでって、私もここに用があって来たのよん。それにしてもそういうサイトちゃんたちも、どうしてウェザリーちゃんといるのかしらん?」
これが本人のキャラで、一人の価値観で差別するべきじゃないことが道理だと分かっている。わかっているのだが…相変わらず、気持ち悪いくねくねとした動きでこちらをぞっとさせる。サイトたちは寒気を感じざるを得ない。
「こ…これはスカロン店長、わざわざご足労いただきありがとうございます…」
(あの反応、やっぱウェザリーさんも対応に困ってんのか…)
一方でウェザリーも、挨拶こそしているものの、どこか一歩スカロンから引いているような態度だった。
「いいのよん。ウェザリーちゃんの頼みですものん。お友達として助けてあげなくっちゃねん。ところでどうしたのかしらん?」
スカロンからなにかあったのか、それを問われ、ウェザリーがその問いに対して説明をした。
「なるほどねん。つまりウェザリーちゃんの劇団が拾った鞄が偶然にもハルナちゃんのものだったけど、ウェザリーちゃんの立場ではそれを返すのは無理があるということねん」
「スカロンさんからも、何とかウェザリーさんを説得できませんか?」
「そうねん…」
サイトからの申し出に、スカロンは腕を組んで考え込む。短い間だが一度は自分の手で手塩をかけて立派な妖精ちゃんに育てたのだ。一度だけでなく、何度でも助けてやりたいのが、オカマキャラを保つ中で彼が持ち続けている男らしさだ。
「あ、でもちょうどよかったかもしれないわん」
すると、彼は何か思いついたのか相槌を打った。
「ちょうどよかった?どういうこと?」
ルイズがその意味を尋ねる。
「実はねん、今回ウェザリーちゃんの劇団と、我々魅惑の妖精亭の妖精ちゃんたちのスペシャルコラボレーションによる、豪華な劇を近日お披露目する予定なのん!」
「す、スペシャルコラボ!?」
「ええ、実はここしばらく…このトリスタニアには怪奇的な事件が多発しているでしょう?その際にうちの劇団員が負傷、もしくは街の危険性を感じてうちの劇団から去っていった子たちが出ているの。その人数を合わせるために、知り合いであるスカロンさんに助っ人を頼んだの」
「つまり…」
スカロンはサイトたちをビシッと指差し、彼らが思いも付かなかった提案を告げた。
「今回のスペシャルコラボレーションにルイズちゃんたちも参加しちゃえばいいのよん。その見返りにハルナちゃんの鞄を返してもらう。どう?」

「「「えええええええええええええ!!?」」」

要するに、自分たちが劇団員の代理としてお芝居を行うということだ。以前の妖精亭でのバイトとは比べ物にならないスカロンの突飛な発想にサイトたちは声を上げずに入られなかった。
「それは私としても助かるわ。ちょうどあなたたちを見て、インスピレーションも閃いたのよ。」
「わ、私は貴族よ!そんなこと…!」
ルイズはできるわけがないと喚いた。しかしそんな彼女と相反して、ハルナははっきりと断言した。
「私、やります!」
「ハルナ!?」
「お芝居のお手伝いさえすれば、バッグを見せてもらえるんですよね?」
「ちょっと待ちなさいよ!私たちは姫様からの大事な任務を…」
「ルイズ!」
今の自分たちはアンリエッタからの大事な任務を請け負っている最中なのだ。それを口に出してでもハルナをとめようとしたが、サイトが咄嗟にルイズの口を覆った。
「んん!!?」
何をするんだ!とルイズが反論するが、サイトが彼女の耳元で囁く。
「馬鹿…!それは無関係の人たちに明かしたりしたらだめだっって言われてただろ!」
「う…」
言われて、ルイズはようやく今回の任務が本来他言無用であることを思い出して息を詰まらせる。しかし、すぐにサイトの手を解いてサイトに、小声で言い返す。
「で、でも私は貴族よ。例えやりたいと思ってもやっていいことと悪いことがあるのよ?」
「なんだよ…何がだめだって言うんだ?」
「だって、お芝居だなんて見るだけならまだしも、私たちの側がやるなんてことが知られたら、下々に染まった没落貴族のレッテルを張られかねないのよ!たったそれだけで私の実家のヴァリエール家にどんな影響が出るか…」
「そうは言っても、スカロンさんの店で一緒に働いたじゃんか」
「そ、それは…そうだけど…!」
確かにスカロンの店で働くこと、これが実家にバレたりしたら勘当ものだ。でも一度やらかしたからって二度もやらかす必要もどおりもない。体外そのようなパターンは悪い結果を出すことにもなりかねないのだ。少なくとも名門貴族の出であるルイズにとっては。
「あら、ルイズ。それにサイトとハルナに…」
すると、さらにそこへ別行動をとっていたキュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモランシー、レイナール、マリコルヌ、そしてジュリオが合流した。
「あらん、みんなルイズちゃんのお友達かしらん?」
「う………な、なんだこの中年親父…!?」
女性陣もそうだが、特に男性陣の、スカロンを見る目がまるで化け物か妖怪でも見るような目に一変した。だがより悪寒を催す体感を味わうことになる。
「だ~れが中年親父ですってぇ…?」
「「「ひぃ!!?」」」
息もかかるほどの超至近距離で、スカロンがギーシュ、マリコルヌ、レイナールの三人を、まるで親の仇でも見るような恐ろしい目で睨みつけていた。やはりこのキャラで生きているスカロンにとって、さきほど思わずレイナールの口から放たれてしまった悪口はNGワードだった。その凄みのある顔とプレッシャーに男子3人は腰を抜かしてしまう。
「まぁまぁ。落ち着いてください、ミ・マドモアゼル。彼らはあなたを見てちょっと驚いてしまっただけですよ」
すると、その三人に助け舟を出すため、ジュリオがスカロンをなだめる。
「あらん、いい男じゃない。ごめんなさいねぇ、あたしとしたら、ちょっと大人気なかったわん」
ジュリオのおかげもあって、スカロンは落ち着きを取り戻してくれたらしく、ギーシュたちはほっとする。
「それよりどうしたの?何かもめてるのかしら?」
オカマの男に、獣耳を生やした美女。その奇妙な組み合わせの二人組みと会話をしているルイズたちに、モンモランシーが尋ねてくる。
サイトたちの口から、事情を説明され、一同はとりあえず彼らの事態を理解する。
「あの、お芝居の手伝いをどうしてもしないといけないんですか?」
仲間たちに事情を説明した後、サイトは改めてウェザリーに尋ねる。
「ハルナの鞄をなんとか彼女に返してあげたいのでしょう?でも私としてもこの貴重な鞄をおいそれと返せない。だったらお互いに納得できる交渉で納得しあうのが合理的だと思うのだけど」
「全然納得できないわよ!鞄を見せるだけでしょ?そのためにどうして私たちがお芝居なんてやらないといけないわけ?」
「その通りだぞ、ルイズ。やめた方がいい。君のご実家にことが知られたら勘当ものだぞ?」
やはり納得できない。ルイズがウェザリーに反論し、ギーシュも忠告を混じらせながら反対した。
「それは困るわね。できればここに来た全員で、抜けた穴を埋めたかったのだけど、そうだったら諦めてもらうしかないわね」
「ぜ、全員………!?」
貴族組は絶句する。ハルナには悪いが、やはりたかがバッグ一つのために芝居なんてやってられないのだ。
(ずっとなくしちゃってどうしようって思ってたものがやっと見つかったのに…)
貴族組が明らかに反対している。確かに彼らには彼らの事情があるし、自分は彼らの世話になっている立場だ。巻き込むようなことをするのはよくない。でも、ウェザリーは全員が芝居に出てきてくれないと、鞄を返すそぶりを見せない。スカロンももうちょっとマシなことを思いついてくれたりしないのだろうか。
「…これしかないなら、俺もやるよ」
すると、サイトは覚悟を決めて自分も芝居に出ることを決めた。ハルナのためだ。このくらいで根を上げるわけにいかない。
「サイト!」
ルイズは勝手に決めるな!と叱り飛ばすが、サイトは折れなかった。
「ルイズ、この方法しかないんだ。頼むよ!みんなも…!」
彼は遂に、仲間たちに向けて土下座をしてでも頼み込んできた。サイトまでも、ハルナのためにここまで尽くそうとしている。これはこれでルイズたちも罪悪感を抱いてしまう。
「私は…そうね、ダーリンがここまで頼む以上断れないわね」
「…私も、してもいい」
「キュルケ、タバサ!?」
すると、キュルケとタバサの二人から参加してもいいという返答が出た。一瞬驚いたルイズだが、ハルナの困り顔とサイトの必死の土下座を見て、少しの間の間、考え込みながら唸る。
「…わかったわよ。乗りかかった船よ、今更降りるのも気が引けるわ」
だが彼女も、サイトの頼みを断ることができず、承諾することにした。
「ルイズ…!!」
「ルイズさん、本当にいいんですか!?」
顔を上げて、ぱぁっと表情が明るくなったサイトだが、一方でハルナは不安を顔に出す。これは明らかに自分の身勝手な行為が招いた結果なのに、それでもルイズが自分のバッグのために、貴族の立場であるが故の危険性を顧みない選択を取ったことに驚いていた。
「か、勘違いしないでよね!劇場ってことは、平民がたくさん集まる場所でしょ?
もしかしたら、ファ……『例のあいつ』の目撃情報も集まるってことよ」
サイトからの感謝の視線があまりにまぶしくて思わず顔を赤らめながらも、ルイズは芝居に参加する理由を言った。一瞬ファウストの名前を口に仕掛けたが、何とか訂正する。もっとも彼女のことだから、これが本音ではないと思うが。
「そういう理由なら納得ね。それなら私もやってやるわ」
ルイズに続き、ため息交じりではあるがモンモランシーも同意してくれた。
「もとより僕は貴族じゃないからね。参加を拒む理由なんてないさ。それにお芝居だなんて、面白い体験になりそうじゃないか?」
ジュリオはさっきからずっと浮かべている笑みを崩すことなく許諾してくれた。
「で、残りの男共。あんたたちは?」
キュルケが、残った男3人に視線を傾ける。
「えぇ!?反対なのは僕らだけかい?」
反対派の三人である彼らは、まさか女性陣が結局引き受けることにしたことに信じられないといった様子だ。
「ううむ…」
ギーシュはまだ迷っている様子だ。モンモランシーが参加するのだ。自分も参加して彼女を支えないといけない。だが、芝居に出たことが実家にばれたら、きっと父上や兄たちから最悪、グラモン家から勘当されてしまう。それがどうしても怖い。
「ギーシュ君ほどの美男子が舞台に出るなら、きっと街の女性たちも注目せずには居られないと思うんだけどな」
ジュリオがギーシュに、明らかに彼の下心を促進する説得を試みる。
「べ、別に平民の女の子には興味はないが…そこまでいうのなら…考えてもいいかな?」
やはりというべきか、言ってる言葉とは裏腹にギーシュは簡単に揺らいでしまう。
「おいおいギーシュ…」
「全く、相変わらずね…」
たった今、平民の女の子たちからモテモテハーレムを築いている光景を妄想するあまり、表情がだらしなくなっているギーシュを見て、レイナールとモンモランシーは呆れる。モンモランシーは後でまた焼きを入れることになることを予測した。
「そんな、無理だよ…僕なんて丸々太ってて…」
自分のとてもハンサムとは言えない姿にはやはりコンプレックスを抱いているのか、マリコルヌは乗り気じゃない。寧ろ笑いものにされる光景を想像している。
「何を言うんだい、マリコルヌ君」
しかしそんな彼にもジュリオは誘導…基い説得を試みる。
「僕は自分の見た目には自信はあるが、何より大事なのは見た目なんかじゃないのさ。君の『気高く美しい心』なのさ。それを君の演技力で観客たちに見せる。そうすれば、君の本当の魅力に大衆の女の子たちは気づき、目を向けてくる。
女の子たちからの人気なんて爆発的に伸びるさ…ふふ」
「女の子たちからの人気、か…」
「マリコルヌ、もうちょっと考えないか?そんなあからさまな不純な動機で…」
太っちょであることへのコンプレックスを抱き続けてきたマリコルヌをうまく引き込もうとしているジュリオの説得にはどうも無理がある。自分に背を向けた状態で、ギーシュと同じような物思いに耽り始めるマリコルヌに、冷静に考えるべしと訴えようとするレイナールだが、対するマリコルヌは俯いた状態でレイナールに言い返してくる。
「レイナールよ、君は…なりたくないのか?」
俯いているその顔にはかげりがあったが。何かものすごい凄みを孕んでいるような気迫に、レイナールは一体なんだ…と気迫に押されかけるが、直後により一層呆れ返ることになる。
「身分なんか関係ない!輝く舞台に立ち、たくさんの女の子たちからの注目を浴び、モテモテになっていく最高の自分というものに!」
「…はぁ……」
何気に深刻ぶったような間を置いていってきたのだから、もしかしたら自分が関心を寄せるほどのまともな理由かと思ったら、…期待した自分が馬鹿だった…とレイナールは自分の愚かさを呪った。マリコルヌも単純な奴だったのだと。
「マリコルヌとレイナールもギーシュと同意見って事ね…」
「ち、ちょっと待ってくれルイズ!僕を二人とひとくくりに考えないでくれないか!?」
ルイズがレイナールたちのやり取りを見て、本人の意向も無視して決めてしまう。
まぁ結果として、全員が芝居に参加する流れが組みあがったのだった。
「皆さん、すみません。それと…ありがとうございます!」
ハルナは感謝の思いで一杯になって、サイトたち全員に頭を下げた。自分の鞄一つのためにここまでしてくれるなんて思いもしなかったのだから、どれほど感謝しても足りない。
「どうやら全員参加するということね。こちらとしても交渉を受け入れてくれて助かるわ」
ウェザリーも全員が芝居に参加することに関しては望ましいことだった。
「でも、私はかつてあなた方と同じように貴族を名乗っていた者よ。今更できないだのなんだの…弱音は聞かないわ。いいわね?」

こうして、サイトたちが臨時の劇団員としての活動が始まったのである。
一応、劇場に集まるお客から黒いウルトラマンの情報を集めるため、という名目で。
 
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