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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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【ダンまち】案外忘れられがちな超人作品出身のモブがオラリオに来たら

 
前書き
OVAジャイアントロボを知っていないといまいちかも。 

 
 
 来たるべき近未来!人類は第三のエネルギー革命、シズマドライブの恩恵によって未曾有の繁栄を迎えていた!しかし、その輝かしい繁栄の陰で激しくぶつかり合う二つの勢力……!!

 世界征服を目論む秘密結社、『BF団』!!
 対するは世界各国から終結したエキスパート集団、『国際警察機構』!!

 そしてこれは、そんな戦いの折――セントアーバーエー攻防戦直前のテレポートアウトに巻き込まれてトンでもない場所に行ってしまった国際警察機構エージェントの物語……。



 = = 



 ぶっちゃけ、異世界に来ると言う体験をするとは思わなかった。

 いや、敵組織に「平行世界を移動できる奴がいる」という噂は聞いたことがあったので異世界に来ても何となく理屈で納得できてしまうのもどうだろうと思うが、まぁいい。ともかく、俺はある任務中に大きな光に巻き込まれて、気が付いたら仲間とはぐれてこの世界にいた訳だ。

 何というか、そこには一昔もふた昔も前に流行ったようなファンタジーの世界だったのだが、俺はそこで驚愕の事実を知ることになる。

「え!?このケモ耳マッチョが世界最強なの!?弱っ!!」
「その人が弱いんじゃなくて貴方がおかしいのっ!貴方本当に恩恵受けてないんでしょうね!?」

 色々困りながら生活していた俺の前に現れたオッタルとか言う奴との喧嘩に勝利した後、同僚エイナの説明を聞いて愕然とした。神の恩恵を受けて成長度が増加していると聞いたのに、てんで大したことがない。俺が圧勝したわけではなく結構ギリギリだったが、そもそも俺が結構ギリギリで勝てるんなら中条長官のでこピンで一撃必殺。つまり広い目で見ればザコの範疇である。

「神の恩恵が与える力しょうもないな!?俺が前にいた組織じゃA級下位エージェントぐらいの実力だぞ!?」
「この人レベルでも上の下止まりなの!?何その化物集団は!?」
「いや、A級と幹部格には越えられない壁があるから実質的に中の上?」
「そんな詳しい情報知りたくなかった……!嗚呼、オラリオの常識が崩されていく……」

 俺は前にいた組織では弱くはないが強くもなく、同期の鉄牛に戦闘能力で今一歩届かなかった程度の力しかない。あれから大分成長したが、あいつもあいつで成長しているのでこの差は埋まっていない。そして……その鉄牛もA級エージェントでは下の方だ。

 つまりこの世界最強オッタルさんは、組織最強九大天王の皆さまや梁山泊指南役の花栄さん・黄信さんから見れば味噌っかすもいい所。大目に見てもせいぜいがBF団の血風連二人分ぐらいの戦闘力しかないだろう。俺が粘り倒せるぐらいだからそれは間違いない。

「何が最強だよ!その大剣ぶん回して空飛べるようになってから最強候補に名乗りを挙げろ!」
「その選考基準おかしい!!そもそも人は自力で空は飛べないから!!」
「馬鹿言うなよ、超能力者じゃなくたって空ぐらいは飛べるだろ。向き不向きはあるけど、俺の組織も上位の人になれば槍振り回しただけで空飛べるぞ」
「嘘つけって言いたいけど貴方の実力を見ると微妙に否定できない!?」

 現に空飛び代表血風連を上回る武人はたくさんいた。血風連の凄い所はその人間タケコプターで高機動戦闘が出来る点にあり、飛ぶだけなら別に連中でなくても出来るのだ。九大天王や十傑集レベルになると超能力者も多いので、足の裏から何か出して普通に空を飛んでいるのが通常運行である。

(こっちの世界の住民弱すぎだろ……!得体の知れない連中に力まで貰っておいてこの有様か。根性足りないんじゃないのか?)

 世界一だって言うからてっきりビッグバン級のパンチが打てたり指パッチンで人間真っ二つにしたりビックリ必殺技があると思ったのに、かなりがっかりである。
 大体、俺はこの街の管理をギルドがやっていると聞いててっきり警察的な組織だと思って入ったのに、いざなってみると実働部隊を一切抱えてない欠陥組織だった。俺の所属していた「国際警察機構」と同格とまではいかないが、世界最高の戦士が集う街だからしっかりしていると思っていたのに。

「取り敢えずこの筋肉ダルマを暴行罪と……戦闘の余波で石畳が壊れたから器物破損でしょっ引くか。あと、コイツを嗾けたフレイヤってのは教唆犯だな。えーと午後2時15分、現行犯で冒険者確保!」

 がちゃり、と大塚長官(九大天王が一角で俺の先生に当たる人)から貰った絶対壊れない手錠でオッタルを拘束する。逃げられんぞぉ~!悪漢に御仏の情けは無用だ!!





「本当に捕まえちゃったよ……」

 自分と同期でギルドに入ったシラヌイ・庸太(ようた)の常識はずれの行動に、エイナは眩暈を覚えた。

 彼と初めて会ったのは丁度ギルド就職試験が数か月後に迫った頃だった。街で困っていた彼を見つけた若き日のエイナ(今も若いし、ほんの数年前の話だけど)は、彼の事をド田舎からやってきた普通の人間だと思い、親切心を働かせて面倒を見てあげたのが始まりだった。
 庸太はまるで常識がなく、なんと共通言語を書くのにも手こずるほどの酷さだった。しかし、お人よしが過ぎるエイナの楽しい社会勉強でメキメキと知識をつけた彼は、何故かちゃんと勉強していたエイナより良い成績でギルド試験に合格。ひどく釈然としない面持のエイナと共に見事会社の狗になった。

 ――そんな彼が本格的におかしい人だと気付いたのは最近。

 ある日、冒険者の一人が三人の冒険者に集団暴行を受けている所を発見した庸太は、ギルド職員としてはとんでもない行動に出た。

「そこの三名!!オラリオの往来で悪行を働く輩は捨て置けん!!暴行罪で現行犯逮捕だ!!神妙にお縄にかかれーッ!!」

 エイナは思わず目を覆った。確かに暴力は罪になるが、ギルドには余程の事がない限り冒険者を捕縛する権利を得ないし、そもそも冒険者を非力な非冒険者集団のギルド職員が捕まえる事は無理だ。こっちは平凡な人間で、あっちは神の加護を受けた超人。庸太が逮捕に失敗するのは目に見えていた。

 が。

「イデデデデデ!?わ、わかった!もう弱い者いじめはしねぇ!しねぇからもう勘弁してくれぇ!!」
「馬鹿野郎!!悪いで済んだらギルドはいらねぇ!いいか、今回は一回目だから牢屋にぶち込むのは勘弁してやるが、次があったときはてめぇのファミリアごとペナルティだ!!こっちは顔も所属も覚えてんだから隠れて悪さ出来ると思うなよッ!!」
「ヒィィィッ!!い、いつからギルドはこんなにおっかねぇ組織になったんだ!?」

 庸太は危なげなく三人を捕縛し、冒険者がビビるほどの剣幕で叱りつけてしまった。しかも、非常に手慣れた様子で抵抗する武装冒険者3人同時に危なげなくなくだ。この時、エイナは「まさか」と思った。ギルドは中立を保つために、既に神の眷属である人間は入れないことになっている。つまり、彼は神の加護を欠片も受けていない純然たる一般人である筈だ。
 それが、人間では太刀打ちできないダンジョンの魔物を毎日相手にする冒険者を上回るなどあり得ないのだ。これこそ神の加護無しに戦った「古代の英雄」でもない限りはありえない。そんなあり得ない存在が――庸太だったのだ。

 これは大問題になった。先にも言った通り、ギルドは一切のファミリア的実働戦力を持たないことを条件に、この街を統括する事を許されている。そこに冒険者並みの戦闘能力を持った存在がいることは、それ自体が問題なのだ。
 当然こんな大ニュースを好奇心旺盛な神々が見逃すはずもなく、釈明会見で背中を見せたり経歴を聞かれたり色々と大変な事になった。なお、転職しないかと神々が言い始める前に「悪人をしょっ引くのは本能です。神であろうとしょっ引きます」と堂々宣言したため、スカウトの声はきわめて少なくなった。

 その後も彼は指名手配犯を捕縛したり、街中に逃走したモンスターを捕縛したり、「強くなりたい」などと供述しながら襲撃してきたヴァレンシュタイン氏を捕縛したり(ヴァレン何某は厳重注意の後釈放されました)と明らかにギルドの仕事でないことをやりまくり、ついたあだ名は「不良職員」。当人は仕事も含めて非常に誠実な人物なのだが、荒事に関わりすぎたせいでそんな扱いだ。

 そして本日も彼は平常運航だったのだが――流石にこの結果はエイナも驚いた。

『フレイヤ様の命により、貴様の実力を試させてもらう』
『……悪さを働くんならこの場で召し取るぞ?』
『貴様に出来るのならば――やってみるがよい!』

 突如現れたオラリオ最強のレベル7、フレイヤ・ファミリア最強の戦士――『猛者(おうじゃ)』オッタルと彼の戦いは熾烈を極めた。大剣片手に突如襲いかかってきたオッタルには腰を抜かすほど驚いたが、それよりも驚いたのが庸太である。何と彼は手錠をナックルのように使って素手で迎撃し、粘り勝ってしまったのだ。

 つまり、彼は現在オラリオ最強の戦士ということになる。

(最強の戦士……庸太くんが……)

 エイナの脳裏に「え?日本語じゃ通じないの!?」と文字に悪戦苦闘する彼の姿が浮かぶ。更に「ぱ、ぱるぅむ……きゃっとぴーぷる……うぇあぅる……あーもう!!種族の名前が覚えきれん!!」と頭をガシガシ掻く姿、「体力テストないんだな……」と微妙にしょげる姿、更には「俺、梁山泊に戻れるのかなぁ……」と不安そうに酒を飲む姿が浮かんでいく。

 体を張っている時は確かに頼もしいが、日常生活の彼からそれ以上のものは感じない。
 正直、最強の二つ名を持つほど凄い器には見えなかった。

「全然似合わないなぁ……」
「おいしょっと!流石に筋肉ダルマなだけで体重は重いな……ん?どうしたの、エイナ?」

 肩に失神したオッタルを抱えたボロボロの庸太がこちらを向いて首を傾げる。なんというか、頬や目元が腫れたそのその姿は普通に若者が喧嘩した後にしか見えず、世界最強と喧嘩をした後にはとても見えなかった。

「顔が腫れてデコボコになってるよ?勝ったのに恰好つかないねー……」
「……いいんだよ顔は殴られても後で治るから。俺にとってはしょーもない犯罪者が一人でも多く減る事の方が重要なの!」
「そんなこと言って、実は結構ダメージ受けてるんでしょ?本部に戻ったら手当てしてあげるから意地張らないの!」
「め、面目ないです……」

 恩人であるエイナに頭が上がらない庸太は、まるで悪事を働いて叱られる子供のように素直に謝った。………この何所とない頼りなさがあるから、エイナはどうにもこの男を放っておけないのである。



 元国際機構準A級エージェントは、元の世界に戻る日を夢見ながら今日も職務を遂行する。

 たとえ世界が違えども、彼の掲げた国際警察機構のメンバーとしての誇りが失われることはない。




 翌日。フレイヤに『損害賠償請求』の書類を突きつける男と、その男に引き連れられた見覚えのある顔が一つずつ。

「壊した石畳の弁償、危険行為の罰則金、ついでに俺の治療代と破けたギルド制服の弁償代金!!この筋肉ダルマ嗾けたのはアンタなんだから、耳揃えてきっちり払ってもらおうか!!」
「………次は絶対に勝つ」
「やかましいドアホっ!!街中でいきなり襲ってきやがって、反省せんか反省を!しまいにゃ牢屋にぶち込むぞ!?」

 捕縛されて死ぬほど悔しそうな上にハリセンでしばかれるオッタルの姿に、フレイヤは盛大に爆笑してしまったという。
  
 

 
後書き
個人的には九大天王や十傑集をオラリオレベルに換算すると13,4らへんだと思います。いや、これでも低いか……?正直、オラリオ総出でも止められなさそうな大怪球フォーグラーのバリアを単独で無力化したアルベルトさんを基準にすると、それ位は差があるでしょう。

ちなみに私の想像では警察機構のメカニックたちはレベル2~3(防御だけなら5くらい行くかも?)。梁山泊の戦士が推定4~5。鉄牛(最終話時点)や血風連辺りはレベル6~7。公孫勝ぐらいになると8は完全に超えているでしょう。とすると準九大天王の花栄さんたちは10に届いてもおかしくはない。そしてその二人でもなすすべのなかった大怪球は撃破推定レベル15ぐらいに届くと思います。
つまり、この集団から見ればオッタルなんぞ「ちょいと腕の立つエージェント」止まりな訳です。……この世界おかしいよ。ロボットアニメって何だったんだ。 
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