戦国異伝
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第二百四十七話 待つ者達その六
「そうなったわ」
「それで今の喋り方ですな」
「普段はわしとも言わずな」
「拙僧ですな」
「そう呼んでおる、今はな」
「父上もそうなっておられますか」
「そう言う御主もじゃな」
今度は義元から言った。
「喋り方が変わっておるぞ」
「公家のものではないですな」
「抜けておるな」
「実は父上とお話しているので」
「それでか」
「はい、やはり普段はです」
「公家言葉か」
「それで喋っております」
こう話すのだった。
「普段は」
「そうなのか」
「ですが最早です」
「大名になるつもりはないか」
「そのことをお伝えに来ました」
「ならそうせよ。もう室町様の世ではない」
足利家のというのだ。
「安土様の世じゃ」
「織田家の」
「だからな」
それで、というのだ。
「もう大名でなくともよいな」
「左様ですな、ではそれがしもです」
「この都におるか」
「そうして花鳥風月を友として生きていきまする」
「そして蹴鞠と和歌じゃな」
「無論です」
氏真はこの二つが無類に好きだ、公家衆から見ても相当なものだ。
「そちらも」
「ならばな」
「それに生きよと」
「そうせよ、御主の好きな様にな」
「そうして今川家を続けていきまする」
「それも道じゃな。しかし世の中はわからぬ」
ここでだ、こうも言った義元だった。
「あの竹千代が今や三国の主か」
「我等の領国であった」
「百六十万石のな」
「まことにわかりませぬな。しかしです」
「竹千代、いや徳川殿はか」
「今や百六十万石に相応しい方です」
今の家康はというのだ。
「それがしから見ましても」
「その様じゃな、政も戦もよい名君だとな」
「そう言われています」
「だからじゃ」72
「わからぬことと」
「確かに資質はあった」
義元もそれは見抜いていた、彼も伊達に三国を治める大身だった訳ではない。人を見る目は備わっているのだ。
「将としても臣としてもな」
「はい、戦も政もです」
「出来て人となりもよかった」
「しかしですな」
「あそこまでなるとはな」
とてもというのだ。
「思わなかった」
「百六十万石、しかも内府になるまでとは」
内大臣だ、朝廷の官位でも相当なものだ。
「とても」
「しかしそれでもな」
「そこまでなるのもですな」
「徳川殿の力じゃ、その徳川殿ならば」
「三国はですな」
駿河、遠江、三河のだ。
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