天空の花嫁 〜ヘンリー姫の冒険〜
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ヘンリー姫
前書き
つい書きたかったので書いちゃいました。悔いはない。
ラインハット国の王宮。そこでは一人の兵士が少女を追っていた。
「姫様、お待ち下さい!」
兵士が大声を上げるも少女はペロっと舌を出すと、
「待てと言われて待つ奴なんていないよ〜!」
と言うと、笑いながら勢いよく走って行った。
「待ってください、姫様!」
兵士は叫びながら廊下の角を曲がったが不思議な事についさっき曲がったはずの少女の姿はどこにも見えない。
「相変らず逃げ足の早い人だ。全く、どこに行ったんだろうか……」
やれやれと頭を振りながら兵士は業務に戻って行く。
兵士が完全にいなくなるのを見届けると、少女は廊下に積んであった樽から出てきた。
「私を見つけられないなんて、トムもまだまだよね」
そう言って少女は悪童の笑みを浮かべた。
*
「カエルを顔に投げつけた時のトムの顔、とっても面白かったわ」
私はヘンリエッタ。ラインハット国の姫。趣味はいたずらよ。皆からは名前を縮めてヘンリーって呼ばれているわ。
「姉上はすごいですね。いたずらをしても逃げ切れるなんて」
私を褒めてくれているのは、私と半分血の繋がっている弟(そして子分)のデール。あんまり私と似ていない。私の髪と目は綺麗な緑色だけれどもデールは栗色の髪と目だし、顔つきも目元が少し似ている程度。
でも似ていなくてもデールの事は好き。泣き虫で弱虫でおっちょこちょいで頼りないけど、可愛い弟だ。
「まぁね。逃げ足の速さではラインハット一なんだから」
そう言ってデールと笑っていると、目の前に影が差した。
「デールや。またこの子と会っていたのですか」
デールを叱っているのはデールのお母さんで私の継母だ。
私のお母さんは病気で死んじゃって、その後にお父さんと結婚したのがこの人。
正直言って私はこの人の事が好きじゃない。だっていつも私に嫌な事を言ってくるんだもん。
「この子と遊んじゃいけないと言い聞かせたはずでしょう。こんな悪戯ばっかりして女の子としても王族としてもはしたない子と一緒にいたら貴方までダメな子になってしまいます」
ほら、これだ。この人が好きなのはデールで私じゃない。
何でこの人が私の事を嫌いなのかはよく分からない。でも聞こうとすると周りの人たちが慌てるから私には言えないような事なのは確かだ。
「さっ。行きますよデール」
「はい、お母様」
腕を引かれた時に、寂しそうな目で私を見ながらデールはお義母様に連れ去られていった。
一人になっちゃったので自分の部屋に戻って、次はどんな悪戯をしようかと考える。トムのビールにカエルを入れようかなとか、壁に落書きでもしようかなとか。
私がいたずらを考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「姫様、いらっしゃいますでしょうか?」
私は扉を開けて、兵士に聞いた。
「どうしたの?」
「陛下がお呼びです」
お父さんが?どうしたんだろう、お説教かな?でも最近仕事が忙しいからあんまり私に構ってはくれない筈なんだけれどな。
「わかったわ」
まぁいいや。
私が兵士の後を付いていって、王の間に入るとお父さんは私に笑いかけてくれた。
なんだ、お説教じゃないみたい。
「ヘンリエッタ。今日はお前に話があってな」
お話?何のお話だろう?
「今日の昼過ぎからこの城に客人が来る。名をパパスといってな、私の知人なのだが」
何だ。どうせお客さんが来るからおとなしくしていなさい、ていう事でしょ?
そう思っていたけれど、その次の言葉は私を驚かせた。
「その人にしばらくの間お前の教育係を頼む事にした」
「えーっ!」
ただお客さんが来るだけかと思ったら、その人が私の教育係になるなんて!
「驚くのも無理はないがお前のためだ。我慢しなさい」
「で、でも父上……」
「何、安心しろ。確かパパスにはお前と同じ年頃の男の子がいる。その子もラインハットに来るみたいだからいい遊び相手になるんじゃないかな?」
私と同じくらいの男の子か。デールはお義母様が怒るから、その子を子分にでもして遊ぼうかな。
「話はこれで終わりだ。自分の部屋に戻りなさい」
私はお父さんにお辞儀をすると、自分の部屋に戻った。
「パパスとその息子。どんな人達なのかしら?」
その時の私はまだ知らなかった。
この事が私の人生を大きく変える事になるなんて。
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