魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第2章:埋もれし過去の産物
第34話「イレギュラー」
前書き
イレギュラーって言っても転生者じゃありません。
作戦でのイレギュラーです。
数百年前、古代ベルカ戦乱時代。
とある国に、一人の少女と少年がいました。
二人は仲が良く、幼馴染としてすくすくと成長していきました。
しかし、時は戦乱。当時王子だった少年は、父親が死んだ事により、王になりました。
少女は少年と違い、貴族ですらなかったため、なかなか会えなくなりました。
しかし、少年はそれでも王の義務の合間に少女と会うようにしていました。
少女は少年に申し訳なく思いましたが、同時に嬉しくもありました。
もちろん、少年は王としての責務も果たし、国民からの信頼も厚かったです。
国民を導き、兵を導き、戦乱の世の中を見事に生き抜いていきました。
そんな少年の事を国民は“導王”と呼び称えました。
彼が導王として有名となりしばらくした時の事です。
非人道的な実験をしている組織に、彼女が攫われる事件が起きてしまいました。
実験の内容は“吸血鬼化”。
血を吸い、驚異的な身体能力を持つ化け物を戦場に放つための実験でした。
彼は彼女が攫われた事にいち早く気が付き、すぐに騎士を編成し救出に向かいました。
しかし、辿り着いた時、彼女は実験による暴走で暴れ回っていました。
彼はその事に動揺しつつも、何とか彼女を正気に戻す事に成功します。
...けど、手遅れでした。
実験自体は既に行われており、彼女は吸血鬼となってしまいました。
血を欲し、異常なまでの身体能力に、国民たちは彼女を恐れました。
彼女もまた自身の体に怯え、いつもいつも泣いていました。
そんな彼女を救ったのは、やはり彼でした。
彼は自身の城に彼女を匿い、何度も何度も大丈夫だと励ましました。
しかし、またもや彼女は暴走してしまいました。
血を欲する“吸血衝動”に耐えられなくなったのでしょう。
そのことにより、さらに彼女は国民から恐れられ、敵視されました。
彼女を庇う人は徐々に減っていきました。
しばらくして、彼女を庇う人はほとんどいなくなってしまいました。
彼女を庇い続ける彼も、徐々に国民からの信頼がなくなっていきました。
それでも、彼は数少ない友人...聖王と覇王と共に彼女を助けようとしました。
....だからこそ、必然的に起こった事件なのかもしれません。
彼への信頼をなくし、反逆を始めた国民が、攻めてきた国に寝返ったのです。
さらには、偶然が重なり、彼女も暴走してしまいました。
彼は、別の国の王である聖王と覇王に助けを求める事もできませんでした。
それでも彼は、数少ない兵で襲撃を足止めし、彼女を止めに行きました。
....結果は、悲惨でした。
幾度にも重なる暴走と、自身への恐怖に、心が壊れてしまったのでしょう。
狂気に完全に呑まれてしまった彼女に、彼は殺されてしまいました。
もう、正気に戻る事のない彼女は、まず故郷と攻めてきた国を滅ぼしました。
狂気に嗤い、破壊を楽しむかのように。悪逆の限りを尽くしました。
....もう、誰も彼女を止められませんでした。
それは、導王の友人であった聖王と覇王にもその事は知れ渡りました。
すぐさま聖王と覇王は共闘し、彼女の討伐へと足を運びました。
...既に、彼女によって殺された者は数え切れず、世界中の人々に恐れられていました。
人々を虐殺し、狂ったように嗤う彼女。
恐怖と畏怖を込め、人々は彼女を“狂王”と呼びました。
聖王と覇王が駆け付けた所には、殺された無惨な死体が積み重なっていました。
そして、聖王と覇王は彼女へと挑みます。
...深い悲しみと狂気を、終わらせるために....。
長い死闘の末、聖王と覇王は彼女を討つ事に成功しました。
....狂気による悲劇は、ここで幕を降ろしたのです。
歴史には、彼女の事が悲劇を生み出した悪魔として語られています。
曰く、彼女は最初から導王を殺すつもりだった。
曰く、ほぼ全て彼女が自ら望んだ事だった。
....など、導王を殺した事により、彼女は恩人を殺した悪魔として語られました。
それは史実であると思われ、どの文献を見ても、同じように記されていました。
何もかもを殺し、破壊し、狂気の赴くままにベルカを混乱に陥れた狂王。
―――....しかし、本当に彼女は狂っていたのでしょうか...?
=椿side=
「はぁぁああああっ!」
「くっ...はっ!」
葵が連続で刺突を繰り出し、とこよがそれを躱してから反撃の一撃を繰り出す。
「させないわよ!」
「くぅっ...!」
それを私が矢を放つ事で妨害する。
「っ....これならどう!?」
飛び退き、間合いを取ったとこよは御札を三枚取り出し、私達に投げつけた。
それに込められていた術式は“火炎”“氷柱”“風車”の三つ。
「......っ!」
―――“刀技・黒曜の構え”
三つの属性故、不用意の防御じゃ意味がない。
だから、どの攻撃にも対処がしやすい構えを葵は取って...。
「...はっ!!」
全てを切り裂いた。
「...喰らいなさい。」
―――“弓技・矢の雨”
「っと、“扇技・護法障壁”!」
私が放った矢の雨をとこよは扇を使って張った霊力の障壁で....って、あれ?
「(....霊力が、感じられない...?)」
「くぅうう....!」
しかも、簡単に防げるはずの攻撃を、とこよはギリギリで防ぎきる。
「....そういう..事。」
偽物だから、どこか本物とは違うって分かってた。
ただ未練があったからこうやって出現したのも分かってた。
...けど....。
「魔力で霊力を代用するだなんて、ちょっと私達陰陽師を舐めすぎよ。闇の欠片。私達に対して喧嘩売ってるのかしら?」
「...かやちゃんも気づいてたんだね。...本当、全然質が違うのに、再現できる訳ないのに。」
「....そうだよね。」
私と葵のその言葉に、とこよの闇の欠片が同意した。
「...うん。今が夢のような感覚で、私は偽物だって言う事、分かってるよ。」
「....あんた....。」
「私は二人の大事な記憶で、未練。再現度も高くなるよ。...能力以外はね。」
まさか、自身が偽物だと自覚しているとは思わなかった。
「...じゃあね、二人共。最後に、奥義を見せてくれると嬉しいな。」
「....葵。」
「うん。分かったよ。」
私は矢を番えて狙いを定め、葵はレイピアを居合のように構える。
「“弓奥義・朱雀落”!」
「“刀奥義・一閃”!」
私が焔に包まれた矢を放ち、それが命中する瞬間に、葵が霊力を込めた強力な一閃を放つ。
それらは、とこよの胸と首へと吸い込まれ、とこよは何も言わずにそのまま消えた。
「.....未練、ありすぎね。」
「そう...だね。」
いつも明るい...明るすぎる葵も、少し暗くなっている。
「....あの時と同じ名前を与えられたからかしら?未練が大きくなったのは。」
「そうだねー。優ちゃんのせいかな。」
...まぁ、懐かしい気分になれたわね。
「椿お姉ちゃん!葵お姉ちゃん!」
「あら、ヴィヴィオ。どうしたのかしら?」
上からヴィヴィオが降りてくる。
...そういえば、放置してたわね。
「気が付いたら下に降りてたんだもん!しかも戦ってたし!」
「ごめんねー。あたし達が終わらせるべきだったからつい...。」
葵がヴィヴィオに謝る。
すると、アインハルトとトーマも降りてきた。
「葵さんから念話で割込まないように言われてたので待機していました。」
「葵..いつの間に...。まぁ、助かったけど。」
確かにあの戦いは割りこまれたくなかった。
葵もそれが分かってたから念話で伝えておいたのだろう。
「...まぁ、もう終わったわ。捜索に戻りましょ。」
そう言って再び葵とユニゾンし、飛び立とうとした。
その時...。
『すまない、連絡が遅れた。せっかくの連絡の所悪いが、そっちで対処してくれ。アースラに送るのが最善だが、できれば協力してくれると助かる。』
「『了解よ。まぁ、本人に聞いてみるわ。』」
どうやらクロノ自身が対処する事が出来ないので各自判断になっているらしい。
...まぁ、クロノも捜索に参加してるのだし、仕方ないわね。
「...と言う訳よ。トーマ、リリィ、あなた達はどうするのかしら?」
「どうするって言われても....。」
『どうしようか、トーマ?』
二人は少し悩む。
「....同行します。これでも、俺たちは皆さんに鍛えられたんですから。」
『頑張ろうね、トーマ!』
少し考えてから、二人は同行する事を決める。
「...そう言う事なら、しっかりついてきなさいよ。」
そう言って、今度こそ私達は飛び立つ。
「今、私達はU-Dと呼ばれる存在を止めようとしてるわ。そして、今は数名の組に分かれて捜索中なの。」
「は、はぁ....。」
同行するからには今している事を説明しなくちゃね。
そういう訳なので、簡潔ながらも伝えておく。
「そして、見つけたら見つからないように他の全員に通達。大体の主力が集まったら攻撃開始よ。」
『役割は大きく分けて四つ。拘束魔法を使ってとにかく動きを阻害する足止め役。援護攻撃による同じく動きを阻害する援護役。U-Dの圧倒的防御を貫ける火力で怯ませる攻撃役。特殊なプログラムでU-Dを弱体化させるために確実に攻撃を入れるべき人達の四つだよ。』
「...あなた達はとりあえず援護に入ってもらうわね。」
「わ、分かりました!」
二人がどれほどの火力を持ってるか分からないため、一応援護組に振り分けておく。
「じゃあ、行くわよ。」
一通り説明はしたので、私達は捜索に戻った。
=優輝side=
「....っと。」
「ぁ..ぐ....。」
赤毛の三つ編みの少女...確かヴィータだったな。その闇の欠片を倒す。
「...案外見つからないね。」
「闇の欠片が湧いているからか、魔力が充満して探知もできないからかもな。」
...それにしても見つからなさすぎる気が...。
「...ふと思ったけどさ、U-Dって次元転移できるんじゃないの?」
「.....あっ。」
司さんも完全に失念していたらしい。
....まずいなこれは。
「一応、できるだけ探索しよう。それで見つからなかったら周囲の世界も捜索だな。」
「あちゃー...そうだよ、闇の欠片が地球にしか出なかったから忘れてた...。U-Dは実質、闇の欠片に関係ないし、次元転移が出来てもおかしくないよ...。」
失念していた事に、司さんは頭を抱える。
「...一応、クロノ君に伝えておく?」
「そうしておいてくれ緋雪。」
緋雪に連絡を任せ、僕と司さんで周囲を警戒しつつ捜索する。
「...ねぇ、志導君。今回の作戦、どう思う?」
「作戦?....そうだな、上手く行かないとダメなんだが...。」
そこでU-Dと戦った時の事を思いだす。
「...敢えて少人数で行くべきだと僕は思うよ。」
「やっぱりそう思う?」
よくオンラインゲームとかはレイドを組んで大ボスとかに挑んだりするけど、それはボスが大きいからできる事だ。今回のように人と同じぐらいだったら少数精鋭の方がいい。
「人数が多すぎるとかえって連携が取りづらくなるし、U-Dの前でそれは致命的だ。」
「そうだよね。...別に拘束魔法は連携の邪魔にならないからいいけど、それ以外は...。」
「斬りこむのは一人の方がいいし、援護射撃も斬りこむ前には止めるべきだしな。」
しかし、一人で斬りこむには相当な強さが必要だ。
...正直、それって僕ぐらいしかできないんじゃないか?
「...今は考えないでおこう。とりあえず、捜索に戻るよ。」
「...そうだね。」
緋雪もちょうど連絡をし終わったようだ。
「お兄ちゃん、司さんと何話してたの?」
「いや、大した話じゃないよ。」
首を傾げる緋雪。まぁ、作戦なって実際やらないと分からないものだけどね。
「さて、U-Dがこの世界にいればいいけd....っ!!?」
―――ギィィィイイイン!!!
横から感じた魔力に、咄嗟にリヒトを剣に変えて、横に逸らすようにぶつける。
しかし、あまりに強い攻撃だったため、僕は仰け反ってしまう。
「(今のは....矢!?)」
赤い、魔力の矢。それが僕らを襲った魔法だった。
...それも、ほんの小手調べ程度に放たれた。
「なに!?」
「攻撃だ!....あそこにいる!」
「....あれは....わた、し.....?」
緋雪には見えるのか、攻撃が飛んできた方を見てそう言う。
...緋雪の闇の欠片....厄介かもな....!
「っ....!まずい....!」
強大な魔力と共に、七色の魔力弾が大量に飛んでくる。
これは...スターボウブレイクか!
「“セイントレイン”!!」
「“スターボウブレイク”!」
弾幕の如き魔力弾に、司さんと緋雪が対抗して魔力弾を撃つ。
二つの魔法により、飛んできた弾幕は相殺された。
...そう、相殺だ。同じ魔法にさらに違う魔法も放たれているのに、相殺止まりだった。
「っ...ここで防御してても意味がない!接近するぞ!」
「「うん!」」
魔力の足場を蹴り、一気に闇の欠片の方へ駆けて行く。
二人もついてきて、すぐに闇の欠片の場所へ辿り着いた。
「....あれが...。」
「私の...闇の欠片?」
「嘘...こんな....。」
緋雪の闇の欠片を見て、その魔力に僕らは息を飲む。
なにせ、本物の緋雪より魔力が大きかったのだから。
〈〈.......!〉〉
「...リヒト?」
「...シャル?」
何かリヒトとシャルの様子がおかしい。
緋雪の闇の欠片を確認した途端、なぜか驚いたように点滅した。
〈...いえ、お嬢様。なんでもありません。〉
〈...私達の気のせいですよ。マスター。〉
「...そうか?」
怪しいとは思ったが、今は目の前の事だ。
「さて...どんな性格になってるやら...。」
「ちょっ、そこを気にしてるの!?」
ここまで禍々しいと思えるような雰囲気を放ってるんだ。
それぐらい、少しは気になるだろう?
そう思って、もう一度闇の欠片を見た時...。
「―――アハ♪」
「「「――――っ.....!!?」」」
嗤った。そう、嗤った。
ただ...ただそれだけなのに、途轍もない悪寒が走った。
「さっきの防いできたんだぁ...ちょっとは強いのかな?」
「っ.....ぁあっ!!」
あまりの悪寒に、咄嗟に僕は間合いを詰めてリヒトを振るう。
〈いけません!マスター!!〉
「っ....!」
突きだしたリヒトをあっさり素手で受け止められ、そのまま無理矢理横に受け流される。
そして、もう片方の手の爪で一閃してきたのを、ギリギリ体を仰け反らす事で回避する。
「危...ねぇ....!」
目の前を爪が通り過ぎた事でその威力を察する。
これは...まともに受けたら死ぬ....!
「....あれ...?」
僕を見て一瞬固まったのを好機に、一気に身体強化をして掴まれていたリヒトを闇の欠片の手から引きはがす。
「....ムート...?」
「え.....?」
緋雪の闇の欠片が、僕を見てそう呟いた。
「(ムート...?なんの事だ...?)」
とにかく、その場に留まるのは危険なので、緋雪たちの所まで下がる。
「....違う、違う...。ムートがこんな所にいる訳がない。いるはずがない。だって、だってだってだって!ムートは私が...私が....。」
―――殺したんだもの....!
「っ......!」
狂気の笑みに歪んだ顔を見て、またもや悪寒が走る。
〈...ムート...Mut...“勇気”のドイツ語です。文字は違いますが...発音はマスター、貴方と同じです。〉
「...まさか...偶然...なのか.....?」
リヒトがこういうのなら、ムートと言うのは人物名なのだろう。
そして、僕の名前と共通点がある。
〈....ムートは、私の...前の主です。〉
「なっ....!?」
何かが、繋がった。
リヒトと初めて会った時、“ようやく巡り合えた”と言う言葉。
僕の知らないはずの“導王流”がなぜか扱えること。
ムートと、僕の名前に共通点がある事。
...そして、リヒトの前の主が、ムートだという事。
「(つまり....つまり.....!)」
―――僕はかつて、ムートだった....?
「(っ....!ありえないありえない!例えそうだったとたら、前世の記憶はなんだ!?僕は前世から転生して今まで生きてきた記憶もある!“ムート”だった時の記憶なんてない!)」
混乱する。ありえない話だ。だけど、辻褄が合う。
転生とか、記憶とか、何がおかしくて、なにが正しいのか、分からなくなる。
「お兄ちゃん!!」
「っ!」
瞬間、体を逸らして爪の一閃を避ける。
...緋雪の声がなかったらヤバかった....!
「志導君!しっかりして!」
「っ....!」
司さんの呼びかけと共に飛び退き、置き土産に剣を創造して放っておく。
...が、あっさり剣は砕かれた。
「あは、あは、あははははははははは!!」
「ぐっ...!っぁ、く、ぅう....!」
何度も振るわれる闇の欠片の爪を、リヒトで何とか受け流す。
しかし、一撃一撃が重い....!
かつてのクルーアル以上だ....!
「お兄ちゃん!くっ、この....!」
〈“レーヴァテイン”〉
僕が少し間合いを離した瞬間に、闇の欠片を阻むように炎の剣が振られる。
「...捕らえよ、戒めの鎖...!」
〈“Warning chain”〉
さらに、光の鎖が闇の欠片を捕らえ、拘束する。
「っ..邪魔っ!」
「嘘っ!?」
しかし、その鎖は無理矢理引きちぎられる。
「フォイア!」
「っ!」
―――ギギギギィン!!
その間に僕は四つの剣を創造し、それらを射出する。
しかし、それらは爪の一閃により全て砕かれた。
「もう...一度!!」
〈“Warning chain”〉
そこで司さんがもう一度拘束魔法を使い、捕らえる。
今度はさっきよりも量が多く、破られないようにした。
「っ...!っ....!!」
「...つ、捕まえた...!」
さすがに今度は外せないらしく、身動きが取れないようだ。
念のために、僕と緋雪も拘束魔法を重ね掛けする。
「....あは..こんなので止めたと思ってるの...?」
「え....?」
「っ...!?二人共!間合いを取って防御!!」
闇の欠片の手に集まる魔力。
それを感じ取った瞬間、僕は二人にそう指示を出し、防御魔法を張った。
「“ツェアシュテールング”!!」
―――ドォオオオオオン!!!
大爆発が起き、僕らは吹き飛ばされる。
また、僕の拘束魔法が破られたのを感知した。
今の魔法は拘束魔法を壊すためのものだったのだろう。
「ぐっ....!」
爆発の煙幕で周りが見えなくなる。
すると、闇の欠片に動きがあった。
「(....っ!緋雪を狙ってる!?)させるかっ!!」
煙幕の範囲から外れた所にいる緋雪に向けて、僕は跳ぶ。
「....あはっ♪」
「え...っ!?」
「緋雪っ!!」
緋雪目掛けて手を突きだす闇の欠片に向けて、思いっきりリヒトを振う。
「っ、邪魔!」
「ぐっ...!」
〈“Beschleunigung”〉
防御魔法で防がれ、それと拮抗した所を爪で一閃される。
なんとか躱し、加速魔法で緋雪を連れて間合いを離す。
「見つけた....やぁっと見つけた....!」
「(今のは緋雪を意図的に狙ったのか...!?)」
明らかにあれは偶然ではなく、緋雪を狙っていた。
なぜだ?素体となった人物だからか?
...いや、理由にならないはずだ。
闇の欠片は負の感情を増幅させるが、だからと言って緋雪が自分を怨む出来事はなかった。
「(なにか、別の理由が....。)」
...いや、待てよ?
アレが緋雪の闇の欠片とは限らないんじゃ...?
ムートと言う知らない人物名が出た以上、緋雪に似ているだけの誰かの可能性が...?
「この曖昧な記憶。夢のようなあやふやな思考...そうだよ。私はただの鍵。本物じゃないんだよ。...ふふ...あはは....!」
「ひっ.....!?」
よくわからない事を呟き、またもや嗤う。
それに緋雪は怯える。
「思い出させてあげる!さぁ、泡沫の夢から覚めなよ!」
「っ....!」
僕になんぞ見向きもせずに、緋雪へと闇の欠片は迫ってくる。
「させ...ない.....!」
「っ...またお前...!」
そこを司さんが再び拘束魔法で止める。
「くぅぅ....!」
「緋雪、逃げろ。...ここは僕と司さんが。」
「え...でも....。」
緋雪にそう呼びかけるが、突然言われても心配なのだろう。
緋雪は逃げるのを渋る。
「なぜかは分からんが、狙いは緋雪、お前だ!だから、早く逃げろ!!」
攻撃力だけならU-D並の脅威だ。油断は一切できない....!
「でも...お兄ちゃんと司さんは...!」
「....二人掛かりなら、何とかなるさ...!」
その時、司さんの拘束魔法がまた引きちぎられたので、僕は斬りかかる。
「行け!僕らが足止めしている内に!」
「っ....!」
押し切られそうになる程の力による攻撃を、何とか受け流しながら緋雪にそう言う。
緋雪は僕らを心配そうにしながらも、言うとおりに逃げてくれた。
「『司さん、アースラに映像は?』」
『さっきサーチャーを飛ばしたから送ってるよ。』
...よし、これで他の人達にも情報は行きわたるはず。
後は....。
「っ、がっ、ぐぅ....!」
「あは!あははは!それそれそれそれぇ!!」
爪による乱撃をぎりぎりで受け流し続ける。
くそ...!デタラメすぎる力だ...!
「聖なる光よ!槍となりて、敵を貫け!」
〈“Holy lancer”〉
光の槍のような魔力弾が闇の欠片に襲い掛かり、僕の負担が少し軽くなる。
「だからぁ....!」
「っ....!(まずい...!?)」
「邪魔だって言ってるでしょ!!」
―――“Lævateinn”
闇の欠片の手に、炎が揺らめくような大剣が現れ、振るわれる。
咄嗟に僕らは回避と防御魔法を同時に行う。
「ガッ....!?」
「きゃあっ!?」
しかし、僅かに間に合わず、防御魔法を砕かれ、僕らは吹き飛ばされる。
「....あは♪逃がさない...!」
「くっ...待て....!」
緋雪は既に逃げてるから、追いつかれるのには時間がかかる。
...そんな考えは甘かった。
「転移...魔法....!?」
「あはっ、じゃあね。」
僕らを見下すように、嘲笑うように転移していく。
「くそっ....!」
「ま、待って!」
僕も急いで転移魔法を使い、緋雪の下へと急ぐ。
司さんを置いて行く結果になったけど、この際構わない!
「―――緋雪っ!!」
転移魔法で跳び、辿り着いた先には...。
「っ、ああっ!?」
「あはっ、いっただっきまーす。」
爪で緋雪の攻撃を弾き、緋雪に迫ろうとしている闇の欠片の姿があった。
「緋雪ぃいいいっ!!!」
「.......。」
「っ、しまっ....!?」
―――ドォオオオオン!!
咄嗟の事だったからか、判断を見誤り、闇の欠片の“破壊の瞳”による爆発を避けきれずに喰らってしまう。
「あ、あああああああああああ!!??」
「っぁ...緋雪....!!」
爆発の煙幕で見えないが、緋雪が闇の欠片に何かされてしまう。
『お兄...ちゃん.....。』
「くそっ...ぁあっ!!」
魔力を一時的に放出し、煙幕を吹き飛ばす。
すぐさま緋雪のいる方に跳ぶ。
「緋ゆk....っ!?」
「.....。」
闇の欠片はいない。だけど闇の欠片が放っていた魔力は感じられる。
....なぜか、緋雪から。
「....アハ♪」
「っ....!!」
―――ギィイン!!
「ガッ....!?」
緋雪の持つシャルが振るわれ、僕はリヒトで受け止めるも吹き飛ばされる。
「...嘘....だろ....!?」
「あは、あはは、あはははははははははははははは!!」
―――緋雪が....乗っ取られた....!?
後書き
Warning chain…司の扱う拘束魔法。チェーンバインドの上位互換みたいなもので、強度もなかなかの強度。“戒め”と“鎖”の英語訳。
Beschleunigung…優輝の扱う高速移動魔法。“加速”のドイツ語で、瞬間的にはフェイトの高速移動魔法に匹敵する。
Holy lancer…司の射撃魔法。誘導性、速射性共になのはのディバインシューター以上。
...ようやくこの章もクライマックスに入っていきます。
...え?U-D?...あっちもあっちでクライマックスになりますよ。(震え声)
まぁ、もう少し先ですけど。
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