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戦国異伝

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第二百四十六話 妖術破りその十一

「それならばじゃ」
「ここは退き」
「再び戦うぞ」
「それでは」
「皆の者逃げよ」
 これが老人の断だった。
「西にな」
「西の何処に」
「厳島の西じゃ」
 そこにというのだ。
「そこの島まで逃げてじゃ」
「そこで、ですな」
「再び力を備えてじゃ」
 そして、とだ。老人は棟梁達に強い声で告げた。
「再戦を挑むぞ」
「畏まりました」
「それではです」
「我等はそこにまで落ち延び」
「また戦を挑みましょう」
「明や倭寇の者達は」
 彼等についてはだ、崇伝が尋ねた。
「どうされますか」
「あの者達か」
「まだ貴重な戦力と思いますが」
「生き残っている者を操ってじゃ」
 そしてとだ、老人は崇伝に答えた。
「そこまで落ち延びさせよ」
「わかりました」
「戦える者だけじゃ」
 落ち延びさせる者はとだ、老人は駒を扱う口調で言った。
「それ以外の者は捨て置け」
「そうされますな」
「うむ、所詮は捨て駒じゃしな」
「だからですな」
「そうした者達はよい」
 全く、という言葉だった。
「捨て置け」
「わかり申した」
「ではじゃ」
 あらためて言う老人だった。
「今より逃げようぞ」
「そして次は」
「次はこうはいかぬ」
 老人は無明にも答えた。
「必ずな」
「勝ちそして」
「織田信長を滅ぼす」
「そうしましょうぞ」
「では皆の者今はじゃ」
 まさにとだ、老人は言ってだった。
「逃げるとしよう」
「さすれば」
「後は傀儡を置いてゆけ」
 最後にこう言ってだった、老人が渦を出してその中に入り。
 まずは彼が消えた、そして他の者達もだった。
 次々と渦の中に消えていく、そしてだった。
 最後には傀儡達を残してだった、魔界衆の者達は一ノ谷から逃げ去った。生き残った者達だけにしても。
 信長は敵を全て倒した夕刻、夜が近付いてきている中でだった。
 彼は倒れ伏している敵達を馬上から見下ろしてだ、同じく馬上にいて己の後ろに控える弟達こう言った。
「やはりな」
「はい、傀儡が多いです」
 苦い顔でだ、信行が応えた。
「そして魔界衆の棟梁達は」
「一人としてな」
「おりません」
「逃げたな」 
 信長はそのことも踏まえて言った。
「またしても」
「ここであの者達を全て討ちたかったですが」
「逃げられては仕方ない」
 信長も諦めるしかなかった。
「次じゃ」
「では次の戦で」
「あの者達を討とう」
「そうするしかありませぬな」
「それでなのですが」
 信広がだ、長兄である信長に問うた。 
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