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医者の不養生

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1部分:第一章


第一章

                     医者の不養生
 森田秀吉は医者である。その担当は性病科だ。八条大学付属病院に勤務している。
 その性病についてだ。彼は看護婦の湯上茶美にだ。いつもこう言っていた。
「やっぱり。人間ってな」
「そうですよね。どうしても」
「色々あるさ」
 こう言うのだった。
「だから俺達みたいな医者がいるんだよ」
「性病科ですね」
「ああ。恥ずかしいっていう話もあるけれどな」
 だがそれでもだというのだ。
「それでもいないと駄目なんだよ」
「そうですよね」
 少し年配のあだっぽい顔を笑顔にさせてだ。茶美は森田に言った。
 そしてそのうえでだ。茶美は森田にこうも言った。見れば彼は小柄な青年だ。顔は猿に似ていてあまりさえない感じだ。黒い髪はぼさぼさで白衣の下に古いスーツを着ている。
 その彼にだ。茶美はこう言うのだった。
「性病も実際にありますから」
「あるよ。しかもね」
「怖いですよね」
「性病は怖いんだよ」
 真面目な顔でだ。森田は茶美に返す。今彼等は診察室にいる。その白く独特のだ。カルテやら何やらが揃っている部屋の中で話しているのだ。
 医者が座る回転椅子の上でだ。彼は言った。
「それこそ。梅毒だったら」
「昔は死んでましたね」
「エイズだけじゃないんだ」
 こう言うのだった。
「梅毒になっても。怖いんだよ」
「確かシューベルトが梅毒でしたね」
「チフスと言われているけれどね」
 だが実際はどうだったかというとだ。彼はこの病気だったらしいのだ。
「梅毒で。そのせいでね」
「死んだらしいですね」
「頭に斑点が出てね」
 梅毒の特徴だ。紫のそれが多く出るのだ。
「それで腫瘍が出て来て」
「脊髄をやられて身体が腐って」
「髪の毛も抜けてね。鼻が落ちてね」
 そうなっていってだというのだ。
「そうして死んでいくからね」
「本当に怖い病気ですよね」
「ペニシリンが見つかるまでは皆死んでたんだよ」
 梅毒になればだ。即座にだったのだ。
「そうした怖い病気だからね」
「用心しないといけませんね」
「そう。皆気をつけて欲しいよ」
 いささかぼやく感じで言う森田だった。
「梅毒以外でも怖い病気だからね」
「そうですよね」
 そうした話をする二人だった。そうしてだ。
 そんな話をしながら次の患者の診察をするのだった。結構以上にだ。その患者は多かった。
 森田はわりかし多忙だった。そしてだ。
 彼はその合間に結構遊んでいた。彼の趣味は女遊びだ。
 それで風俗にもよく通っていた。所謂ホテトルも好きだ。それでこの休日もだ。彼はそうしたホテル街に向かいホテル、よくある感じの妙にチープでかつ淫靡な外装のホテルの一つに入りだ。
 空いている部屋に適当に入ってからだ。柔らかいベッドの上に座って携帯で電話をした。
「じゃあ二時間でね」
「二時間三万円ですね」
「うん、そのコースでお願いするよ」
「それで女の子は」
「二十位の。モデルみたいな娘がいいな」
 こう店の受付に対して言うのだった。
「それでね」
「それで、ですか」
「生いけたよね、そっちのお店って」
「はい、いけます」
 それもいけるとだ。受付は答えてきた。
 
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