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中の人

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4部分:第四章


第四章

 それでだ。実里がトーク中にお菓子の袋をがさがさとさせると。
「がさがさ五月蝿い!」
 すぐに怒ったのである。
「トーク中にそんな音立てないの!」
「けれど美味しいから」
「美味しいとかそういう問題じゃないの!」
 こう怒ったのである。
「だから。トーク中はお菓子を食べないでちゃんとお話するの」
「ううん。お話よね」
「そうよ。大体実里ちゃん言われない?」
「言われるって何を?」
「空気読まないとかそういうの」
「別に。何も」
 こんな調子が続く。尚且つだ。
 クイズ番組に出てもまともな答えはなくだ。日本地図を描いてもだ。
「・・・・・・現役高校生の回答じゃないな」
「とりあえず本州四国九州北海道は描いてるけれどな」
「何だよ。殆ど丸じゃないか」
 日本の四つの島が全てそうなっていたのだ。
「それに都道府県殆ど書いてないしな」
「沖縄以上にでかくないか?」
「あれテストで書いたら確実に落第だろ」
「留年するぞ」
 こうまで言われる程だった。
「そういえば福岡でスカウトされて出て来たけれどそれまであっちの中学にいたんだよ」
「ああ、その時どんな娘だったんだ?」
「知ってる奴いるか?」
「漢字全然知らなかったってさ」
 そういう人も中にはいる。
「もう小学校低学年レベルの漢字も読めなかったらしいぜ」
「じゃあ勉強とか全然駄目だったんだな」
「あんな調子だったんだな」
「ああ。凄かったらしいぜ」
 そのだ。私人としての顔も残念なことがわかったのだ。公人、つまりタレントとしても残念なだけではなかったのだ。何もかもがだった。
「あんなのじゃ大変だろうな、周りも」
「ああ。けれどあれだよな」
「あれって?」
「あれって何だ?」
「確かに色々書かれてて困ったって言われてるけれどな」
 それでもだというのだ。
「嫌いって言葉はないよな」
「ああ、嫌われてはいないな」
「そうした言葉ないよな」
「ネットの掲示板でもあのあれっぷりは言われてもな」
 それでもだった。性格はなのだ。
「性格悪いとか意地悪とかきついとかはな」
「あれとか空気読まないとか世間知らずとかは言われてもな」
「優しいし共演者思いで親切だって?」
「しかも誰に対しても気付いた時には礼儀正しくて」
「いい娘みたいだな」
「ファンにも丁寧に応じてくれるしな」
 少なくとも性格は悪くなかったのだ。
「だからか?皆悪く言わないのか」
「そうなのか。それでか」
「演技も悪くないしな」
「歌も上手だしな」
 俳優としての肝心のそれも問題はなかった。
「そういうのはいいんだな」
「まあ一時の総理大臣なんてな」
 ある左翼政党が政権に就いた時代の悪夢も語られる。
「能力なし、教養なし、人格最低の下種のな」
「しかも自分のことしか考えてないってのばかりだったからな」
「特に最初のと次のな」
「無責任っていうか責任把握能力すら怪しい連中だったからな」
 禁治産者と認定されないのが不思議な程の輩共がマスコミの偏向報道とそれに騙された者達によって政権に就いた。衆愚政治とはどういうものかを見事に教科書通りにやってしまったのが我が国なのだ。
 そうした輩共とは流石にだ。実里は違っていた。
「連中とは全然違うからな」
「確かにあれでも性格はよくてな」
「才能はあるからな」
「しかも美人だ」
 とにかくそうしたところは問題がなかった。
「じゃあいいか?」
「そうだな。ファンサービスもしっかりしてくれるしな」
「穏やかだし」
 天然であるがそれもその通りだった。
「怒ったところ見た人いないっていうぜ」
「スタッフからの評判もいいしな」
「じゃあいいよな」
 あらためてだ。彼女はファン達に受け入れられたのだった。かくしてだ。
 実里は女優として、タレントしての階段を順調に昇っていった。それと共にその中身も知られていった。役と演じる者が一緒とは限らない。


中の人   完


                    2011・10・30
 
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