ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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新部隊-ウルティメイトフォースゼロ-
「以上が、今回の事件の報告となります」
任務は無事終了、アニエスとミシェルからの報告を、城の執務室にてアンリエッタは聞いた。そこには二人だけでなく、サイト・ルイズ・キュルケ・タバサ・モンモランシー・ギーシュ・レイナール・マリコルヌも呼び出されていた。
同伴者の中でも特にギーシュは二度も憧れの女王と対面することになったことに喜びを感じたが、すぐにモンモランシーから尻を抓られてしまったのは余談である。
「なんて恐ろしいことを…異星の侵略者とはここまで恐ろしい存在なのですね…」
アニエスは、事件の直後にサイトから聞いた話を女王にまとめて報告した。サイトがアニエスに伝えたこと、それはボーグ星人の商売取引相手に、この国の貴族が含まれているということ、星人の正体を知りながら星人画商品として取り扱っている人間を買い取っているということ、商品として扱われていたのはボーグ星人によって洗脳された魔法学院の生徒だということだ。
星人はメイジの精神力の強さを計測し、高い値を持つ者は星人の生体実験対象およびサイボーグ戦士として、低ければ買い取った相手のいかなる命令を逆らうことなく聞き入れる人形に変えてしまうことも当然伝えた。
「人間を奴隷か洗脳兵士へ変える…!?」
レイナールはそこまで報告を聞いた際、真っ先に話の内容を理解し青ざめる。自分たちがもし同じような目にあっていたと思うと、理解した分だけぞっとした。
「ですが、これは敵の恐ろしさのほんの一端に過ぎないのですね。これからの戦いは熾烈なものと化していくことは間違いありません。これから新たな、国を守る戦士たちの部隊を編成する上で必要となる候補者を救出できたのは、皆のおかげです。改めて御礼を言わせてください。本当にありがとう」
「いえ、俺は…これといって特に大きなことはできませんでした。結局ウルトラマンに助けられちゃったし」
サイトは遠慮しがちに首を横に振った。星人の罠に引っかかって地下に閉じ込められたとき、みんなに諦めてほしくないと願うあまり、とにかく最後までウルトラの力に頼らずに体を張る姿を見せてみんなを奮い立たせたのだが、結果的にゼロの助けがなければ無事ですまなかった。
「何を言うんだサイト!君がいなければ、僕は諦めてあの屋敷の地面の下で自ら生き埋めになるところだったんだぞ。そうだろ、マリコルヌ、レイナールよ!」
「あ、ああ…」
「うん…」
「どうしたんだ二人とも、まさか助けられたというのにサイトに礼の一つもないのかい?」
「い、いや…感謝していないわけではないんだ。ただ…」
ギーシュは遠慮なく感謝の念を受け止めてほしいという一方、レイナールとマリコルヌは少し気まずい様子だ。ギーシュと違って、二人はサイトとはそんなに親しいわけでもないしまともに話したことがあるわけではない。ギーシュとの決闘の話も聞いているしそれなりの実力があることは既に聞き及んでいるが、素直に格下の身分の者に感謝の言葉を述べることに抵抗があった。
「いいって、ギーシュ。俺がただ、助けてやりたかっただけなんだ。例え結果がどんなものであっても、みんなに諦めてもらいたくなかったから。それだけなんだ」
「…」
一方でルイズは無言だった。
「何か不満そうだな、娘っ子」
「別に…」
デルフが声をかけてきたが軽く流した。
今回自分は結局何もできなかった。確かに大事にされることはそれだけ心配されており、そして大切にされているということなのかもしれないが、ルイズとしてはただ守られてばかりなのは不服だった。
「しかし、まさか我が国にはすでに侵略者と奴隷売買の取引を行っていた不届き者がいるとは…嘆かわしいことですね」
報告にあった、星人から奴隷として、星人が確保してきたメイジを買っていたという話について、特にアンリエッタは心を痛めていた。本来なら未来あるメイジたちを救うのが自分たち権力者の役目だというのに、それどころか異星人と知りながら、彼らと闇の取引を行っていた愚かな貴族がいるという事実。利用されていることが知っていようと知らずにいようと、そんなことが許されるはずがない。
「さらわれた者や負傷者は?」
「現在城の医務室にて治療中です」
主からの問いにアニエスはそう答える。
(おおとりさん、大丈夫かな…?)
心の中で、サイトはあることを憂いながら呟く。実は、ボーグ星人によってサイボーグ化されたことで洗脳された人間は、実際には頭の中にボーグ星の特殊な器具を埋め込まれているのが原因だった。ハルケギニアの医療技術では脳外科医などおらず、それを取り除くことはできない。だから、密かにウルトラマンレオの人間体、おおとりゲンが密かに医療班に紛れてサイボーグ化された人たちの治療に当たっていたのだ。こうでもしないとサイボーグ化された人達を元に戻せなかったからである。レオは死亡直後でなら死んだ命に再び命を吹き込むことが可能で、地球を守っていた頃はこの力で一度対立した異星人を生き返らせたこともあるので、光の国の『銀十字軍』ほどじゃないが医学的なことにもある程度精通していると本人談。心配するな、とは本人は言っていたが、サイトはゲンが怪しまれないかちょっと不安だった。
「ですが、今回の任務では…結局さらわれた人たちの中にミスタ・クロサキのお姿は見なかったのですね」
「はい…」
今回の任務において、事件後にてサイトはさらわれた人たちの中に行方が分からないシュウがいないかの確認も行った。しかし彼はさらわれた人たちの中にはいなかった。
(シュウ、一体あんたに何があったんだ…?村にいるテファたちも無事なのか?)
いったいどこに行ってしまったんだろう?この日もビデオシーバーで連絡を試みたが一向に連絡がない。
「できれば彼には早期に協力してもらいたいところだったのですが…仕方ありませんね」
残念そうにアンリエッタは呟いた。黒いウルトラマンやスペースビーストの情報を、この世で最も知っている人物の存在は、ただでさえ怪獣と対等に戦える戦力を整えていないハルケギニアにおいて貴重。それがいないのは痛手だ。
「あの、ところで姫、いえ陛下…彼は何者なんですか?」
いつものように思わず姫と呼びかけたが、ここには同級生もいることもあり、陛下と呼び名を変えたルイズはアンリエッタに、自分たちと共に並び立っているもう一人の、オッドアイの男を見ながら尋ねた。
「彼が、ロマリアから来た方です」
「え?じゃあこの人が、ロマリアからの助っ人…なのですか?」
「はい」
アンリエッタがうなずくと、その男はサイトたちの前に立つと自己紹介してきた。
「僕はジュリオ・チェザーレ。このたび教皇聖下からのご命令で派遣された、ロマリアの神官さ。よろしく」
白い歯をキラリと光らせるそのイケメンの甘く爽やかなフェイスに、キュルケとモンモランシーは顔を赤らめて注目した。
「まぁ…素敵な笑顔…!!」
「あ、あの…モンモランシー?」
シュウのときと同様、いやそれ以上だろうか?キュルケはともかくモンモランシーが彼にうっとりしている様に危機感を抱いたギーシュは声をかける。
「あら、あなたってどちらさまでしたっけ?」
「そ、そんなぁ…」
前よりも酷い。恋人からの冷たい返事に嘆きを覚えるのだった。
(な、なんだぁ…このいけすかねぇスカシ野郎は…)
一方でサイトは、このジュリオという男が妙に気に食わなかった。それはレイナールやマリコルヌ、無論恋人を魅了してしまったギーシュとて同じだった。明らかに女子受けしそうな甘い顔が妙に嫌だ。なんか、ちゃらちゃらしていて意図的に女の心を掴んできている感じがすごく気に食わない。よく見ると、ルイズまで思わず顔を赤らめている。それがさらに不快感を呼び起こす。
「ロマリアの神官が、なぜ…?」
一方で、タバサはロマリアからの神官が来たことに奇妙な疑問を抱いた。他の魔法学院の女性陣と違い、ジュリオのイケメンフェイスには特に動揺している様子はなかった。
「いいじゃない、顔さえよけりゃ」
さすがはキュルケ。自分のハートが燃えてくる相手ならば疑問さえも抱かないとはぶれない女である。
ジュリオはさっきからずっとあの笑みだ。にこやかで爽やかな笑み。だが…何か違和感がある。それはサイトの目と耳を通してジュリオを観察していたゼロも察していた。
『…サイト、こいつやっぱり怪しくないか?』
『あぁ…』
それはもう、ムカつき加減もあるし、怪しさが満載だ。
『あのジュリオってやつが持っていたアイテム…ありゃ相当高度な文明レベルでなければ作れない代物、この世界からすりゃまさしくオーパーツだ』
ゼロは、ジュリオが持っていたあの機械に特に注目していた。怪獣を操る道具だなんてこの星で作れるわけがないだろうし、それにあれを構成する物質も、どう見てもこの星で作れそうな物質とは思えなかった。でなければ…怪獣を操ることなんてできるはずがない。
なにせ、こいつはあのゴモラを操り、ゴドラ星人を倒した張本人なのだから。
『それは、あいつも異世界から召喚されたから、その地元で作られたってことか?』
『それもあるが、その召喚された側の世界が問題だ。もし、侵略者の星から召喚された奴だとしたら…』
『怪獣を使って、侵略をもくろむ可能性もあるってことか?』
『まぁな。だが、まだこいつとはあったばかりだ。すぐに決めつけるってのも早計だろう。でもこいつといるときはなるべく油断しないようにしておこうぜ』
『あぁ、わかった』
「いやぁ、遅刻なんてするもんじゃないね。危うく美しいミス・ヴァリエールたちを危ない目に合わせるところだったよ。こんな美しい人たちが傷物になっちゃったら…」
ジュリオと名乗ったその男は、ルイズの顔を凝視する。
「大変だからね」
「ひぇ…!?」
「な、なんで私じゃなくてルイズなわけぇ!?」
キュルケはまたしても自分をそっちのけでルイズが美男子に熱い視線を寄せられたことが信じられない様子で声を上げた。モンモランシーも信じられない様子で驚きながら口元を隠している。
「え、あ、あの…」
対してルイズは顔が真っ赤だ。イケメンからの視線には、流石のルイズも弱かった。なんか無性に…ワルドのアプローチ以上に腹が立ったサイトは、そっとルイズの前に立って彼女を覆った。
(…マジで油断ならねぇスカシ野郎だなこいつ…!)
「お、君だね?ミス・ヴァリエールの使い魔君は」
「だったらなんだよ」
ジト目でサイトはジュリオを睨み返す。
「おいおい、そんな熱い視線を寄せないでくれないか?」
「気持ちの悪いこと言ってんじゃねぇ!!」
しかも人様の神経を露骨に逆なでする台詞を爽やかスマイルフェイスのまま言いやがった!サイトはさらにジュリオが気に食わなくなった。
「あの、恐れながら陛下…確かロマリアの神官は戒律上、軍に入れないはずだと聞いておりますが」
ミシェルがふと、アンリエッタにジュリオに関する一つの疑問を問う。神官とは神に仕える僕、よって人間同士の争いごとである戦争などには参加しないものらしい。現在のアルビオンはレコンキスタが支配しており、トリステインはハルケギニアの未来のためという名目で、いずれこの国と戦うこととなる。たとえ相手が不届き物の集まりであろうと、神官という聖職者に身を置いているジュリオが、助っ人としてここに来るのはいかがなものかと思ったのだ。
「それなんだけど、彼らは怪獣を使役し、それを戦争に利用しているんだろう?ロマリアの教皇様も、今のレコンキスタの動きを懸念しているんだ。同じハルケギニアの未来を憂う者同士、仲良くやっていこうじゃないか?ねぇ、ヒラガ・サイト君?」
ジュリオが握手しようと手を差し出してきた。
「…ま、とりあえずよろしくな」
「あぁ、こちらこそ。サイト君」
さっきのゼロからの忠告を胸にとどめ、サイトはとりあえずジュリオが差し出してきた手を握って握手した。どこか不穏な空気さえ漂うが、ルイズはきにしないことにしてアンリエッタ気になったこと一つ問いただした。
「ですが陛下、本来は無関係だったはずのギーシュたちの前でこのようなお話をする必要はなかったのではないですか?なぜ人払いを行わずに…」
今回の任務における、ギーシュたちから得た星人の情報などはすでにアニエスの報告を通してすべて伝えた。ならばここに彼らがいる必要はないし、彼らはアンリエッタから重要な任務を仰せつかった身というわけでもない。だがアンリエッタはここにギーシュたち5人を呼び出している。
「ルイズ、私が先日のあなたたちと魔法学院で行った会談の内容は覚えていますか?」
「え、ええ。この国に潜んでいる不届き者たちをあぶりだすことと、怪獣などのあらゆる脅威に対抗するための、魔法衛士隊に代わる組織の編成…まさか!」
「ええ。そのまさかです」
そこまで言いかけたアンリエッタの意図を、ルイズが読み取ったのを察した彼女は頷いた。
「ギーシュ・ド・グラモンさん。マリコルヌ・ド・グランドプレさん。レイナールさん、モンモランシー・ド・モンモランシさん。キュルケ・フォン・ツェルプストーさん、そしてタバサさん。
あなたたちに、私からお願いがあります。
怪獣・異星人をはじめとしたあらゆる脅威に対抗するための新組織のメンバーとして、私たちと共に戦ってください」
「え……ええええええええええ!!!?」
それを聞いて、ギーシュ・レイナール・マリコルヌ・モンモランシーの4人が驚きの声を上げた。
「ギーシュたちを、例の部隊の隊員にするんですか!?」
サイトも驚きをあらわにしてアンリエッタに言うと、彼女は再び頷いて見せる。
「彼らは捕えられた身でありながら星人の企みを突き止め、そして今回のアニエスたちの任務に貢献してくださいました。その勇気と強い意志を称えての判断です」
「え、えっと…ええ…?」
マリコルヌは女王からの突然のよい急に混乱して正常な判断ができずにいた。
「女王陛下のご命令とあらばこのギーシュ・ド・グラモン!火の中に飛び込めと命じられるならば迷わず従いましょう!!」
しかしこの男は悩むことなく、迷うこともなく速攻で頷いてしまった。
「早ッ!!?」
速攻過ぎる返答にサイトとルイズは同時に突っ込んだ。いや、ギーシュらしいといえばギーシュらしいが、……いいのだろうか、そんな疑問ばかりが浮かぶ。
「ちょっとギーシュ!何安請け合いしてるのよ!」
黙ってられないのか、モンモランシーが講義を入れてきた。
「モンモランシー、せっかく陛下が僕の力を求めてきてくれたんだ!この機会を逃すわけにいかない!」
対するアンリエッタも、危険な任務を申し込むというのに、ギーシュのあまりの即答ぶりに困惑した。
「え…ええと…ギーシュさんは受託する…ということですね?」
「もちろんでございます!そうだろう、マリコルヌ!?我らの女王アンリエッタ様のために!」
だめだ、もうこうなったらギーシュは少なくともこの場でくじけることはない。一度危険な目に合わせないと懲りるようなチャンスもない。
「あ、ああ…!そうだよ!麗しき女王陛下のために命を懸けなくて何が貴族だ!」
ギーシュからのあおりに乗せられ、ついにマリコルヌも殺気の弱腰とは裏腹にノリノリでギーシュに乗っかってしまった。しかも…下心がにじみ出ている。
「お、おい!そんな軽々しく…」
「君は力になりたくないのかレイナール!?何者よりも麗しく気高い!我らが女王陛下に!」
マリコリヌはどこか弱腰にも見えるレイナールに問い詰める。
「そうは言わない。陛下のご命令ならば、臣下の身である僕たちに拒絶する理由はない。けど…!」
レイナールは正直女王自ら自分たちに頼みを申し出られたということについて、貴族として大変名誉なことだとは思うのだが、いかんせん難易度の高すぎる要求だと思わざるを得なかった。
「お言葉ですが陛下。ギーシュたちの言うとおり、そのご命令は僕たちにとっては確かに大変栄誉あることだとは重々承知しています!ですが、僕たちはまだ学生です!軍人としての訓練といえる教練は受けたことがございません!なぜ軍人でもない我々にそのようなご命令を!?」
「それについてですが…」
アンリエッタは、なぜまだ学生の身であるはずのレイナールたちに、このような危険な任務が伴うであろう組織の隊員として任命したのかその理由を端的に説明した。主に、ワルドの裏切りや怪獣との戦いなどで信頼が失墜した魔法衛士隊が再編できないこと、敵である怪獣や星人の情報を知る数少ない人間であるサイトや彼の主であるルイズと共に歩むことができる者こそが適任であること…などだ。
「無論、この命令がかなり無理のあるものであることは承知しています。ですが、怪獣の脅威にただ臆しているだけでは、いずれ私たち人類は滅ぼされることは間違いありません。それ以前にも、この国は長年溜め込まれ続けた不祥事により腐敗しつつあります。それらの問題を解決しなければ、トリステインに未来はありません。
失われつつある我が国…いえ、この世界の未来を再び人の手に取り戻すためにも、最初はほんの小さな力だとしても…あなたたちの力が必要なのです。
お願いできますか?」
しかし、アンリエッタからの説明から、現在のトリステインの軍務関係の事情故に、自分たち以外に頼みの綱がいない以上やむを得ない選択でもあることを知った。
「…わかりました。僕は…いえ、私は断るつもりではありませんでした。ただ、納得するだけの理由と事情をお聞きしたかったまでです。下賤な私のためにお話しさせてしまい申し訳ありません」
「いえ、よいのです。レイナールさん。権力を盾に、相手を納得させもせずに従わせることは愚かなこと、そしてこれまで私たち貴族が無視し続けてきたことです。それがこの国を腐敗させる要因の一端でもありました。それを拭うためにも、あなたの意見はとても貴重なものです。お話ししてくれてありがとう、レイナールさん」
「陛下からお礼を承るなんて、恐れ多いです…!」
無礼で生意気な口を叩いた。そう思っていたのに、逆に貴重な意見をもらったということで礼を言われたレイナールは、てんぱりながら女王の前で跪いた。
「ですが、レイナールさんがおっしゃっていたこともあります。あなたたちは本来まだ学生んとして勉学にいそしまなければならない身。あなたたちだけにすべてを任せることはさすがに心もとありません。
私たち王室の方でも、タルブの戦いで降伏した元アルビオン軍の兵・兵器も用いて、可能な限りトリステイン軍の本隊を立て直して今後の怪獣・星人との対策に努めましょう。
表向き、この新設部隊は私の近衛部隊として動き、国内で起きた不祥事・怪奇的な事態への調査・対処をお任せすることになります。必要ならば銃士隊にも助力させましょう」
「了解しました、陛下のご期待に沿えるよう尽力を尽くします」
王室の方でも、軍の立て直しは行うつもりのようだ。いや、考えれば当然のことだ。いくら怪獣や星人と交戦経験があるといっても、まだサイトたちは若い少年少女の集まり。まだすべてを任せられるような人材とは言い難いのは、サイトたち自身もわかっていた。対怪獣・星人対策部隊の新設の他にもアンリエッタがしっかりとした立て直しを図っていることにレイナールも安心したようだ。
「…女王陛下。私とタバサからお願いがあるのですが」
すると、キュルケがアンリエッタに向けて口を開く。
「はい、なんでしょう?」
「大変申し訳ありませんが、私とタバサはその申し出を断らせていただきます」
それを聞いた途端、ルイズが真っ先に食いかかってきた。
「な、何言ってるのよあんた!ゲルマニア人であるあんたに姫様が直々に申し込んできたのに断るなんて!身の程を知ったうえで言ってるの!?」
「知ったうえで言ってるのよ。私とタバサは」
「…ん」
信じられない。トリステインのトップであるアンリエッタからの申し出を断るなんて。この女はそんなにトリステインが嫌いなのか。それどころか、タバサでさえ断りをきれてくるなんて。寧ろ怒りさえも沸く二人からの申し出に彼女は怒りを疑惑が募る。
「ルイズ。まずは私から話をさせて頂戴」
ルイズの不服を察し、アンリエッタが二人に事情の説明を求めた。
「何か理由があるのでしょうか?」
「それについては、私たちの口からは申し上げることはできません。少なくともトリステインに迷惑をかけることではありませんが、もし陛下の新設した組織に私たちも加わるとなると、私たち自身の事情に関わることに弊害を及ぼす可能性があります。そうなれば、正規のメンバーであるギーシュたちにかえって迷惑が掛かってしまいます」
ルイズはもちろん、アンリエッタにも話せない事情…それは紛れもなくタバサの家庭の事情のことだった。心を病んでしまった愛する母のために孤独に戦おうとしている元王族のかわいそうな友人。怪獣という驚異を相手に、いくらトライアングルクラスの自分たちでもさすがに敵わない相手だし、タバサのことが無視できない。ならば、力になれることが確実であるタバサに力を貸す方が現実的とキュルケは考えた。
何よりタバサもそれについては同様だ。確かに怪獣という驚異は自分とて、見過ごすのは心苦しくはある。でも、自分には何よりも守らなければならない肉親がいるのだから、たとえアンリエッタからの申し出といえどそれを素直に受け取ることは許されなかった。
「わかりました。では、ミス・ツェルプストーとミス・タバサのこのお話は保留ということにいたしましょう。お二人への申し出の件は、お二人のご都合が合ってから、ということでよろしいでしょうか?」
「ええ、それで構いません。女王陛下の寛大なお心遣いに深く感謝いたしますわ」
「…ありがとうございます」
自分たちの頼みを快く聞き入れてくれたことに、キュルケとタバサはともに感謝の言葉を述べた。ルイズは正直タバサはともかく、キュルケが本当にそう思っているのか疑惑していたが、女王の御前で個人的な主観でものを言いすぎるのはよろしくないので、何も言わないでおいた。
ん?とサイトはあることに気付く。
「そういやお姫様…じゃなかった陛下、グレンはその新設部隊に加わらないんですか?」
グレン…またの名を炎の用心棒グレンファイヤー。彼は、変身前はもちろん、それを成したしたときの力はウルトラマン一人分にも匹敵する力を持ち合わせている。部隊入りさせるにはちょうど良い人材だ。
「一応部隊へのお誘いを入れてみましたが、実は彼からも断られました。部隊に入ることで、自分が思うままに空を飛べなくなるのが嫌だし、『あいつのことも気になるから…』だそうです」
しかし、アンリエッタは首を横に振った。もとは空賊だったのだから、他にも女王直属の部隊に入ることで自由が束縛されるのを嫌ったのだろう。それに、彼は今でもラグドリアン湖の湖畔に留まり続け、ウェールズ皇太子の眠りを守り続けている。空賊だが何かと義理堅い彼の人柄に、断られたはずのアンリエッタは落ち込むことはなかった。寧ろ愛する人を大切に思う友人の存在を嬉しく思っていた。
「では、最後に…サイトさん」
「あ、はい」
「せっかくですから、あなたから新しい部隊の名付け親になってもらいたいのですが、構いませんか?」
「お、俺ですか!?」
サイトは驚いて声を上げた。これからアンリエッタが設立する部隊は、地球で言う防衛チームの卵のようなものだ。卵とはいえ、憧れでもあった防衛チームの名付け親になるだなんて思わなかった。
「サイトよ、ここは親友である僕の意見を聞いてほしいのだが!」
すると、我こそはとギーシュがサイトの前に出て手を上げてきた。
「何かいい名前でもあるのか?」
サイトから新しい部隊の名前の案について問われると、ギーシュは大げさにかっこつけながら薔薇の造花を掲げ、宣言した。
「ふふ…みなも、心してよく聞くといい!女王陛下より賜りし、トリステインの平和と秩序を守る誇り高き部隊…その名も…
『水精霊騎士隊(オンディーヌ)』!!」
「お、水精霊騎士隊!?」
それを聞いた途端、サイト以外の周囲の目が丸くなった。と同時に、レイナールががバッ!とギーシュに詰め寄り、講義を入れてきた。
「馬鹿!陛下の前でなんて名前を名づけるんだ!」
「ば、馬鹿とはなんだね!これほどいい名前はないというのに」
「え?なんだ?何か問題でもあんのか?」
「大有りよ。なに考えてんのよギーシュの奴」
どうも何か、皆の様子がおかしい。サイトはどうしたのだろうと皆の反応に対して首を傾げる一方で、ルイズはまだこの世界に無知な部分があるサイトに、ギーシュへの呆れを含めたような口調で言った。
「確かに名前そのものは決して悪くはないさ。でも水精霊騎士隊なんて、そんなすごい名前を僕たちのような新参者の、それもまだ学生の僕らが名乗るにはあまりにもまずくないか!?」
「うぐ…」
そこまで言われ、ようやくギーシュもことの大きさを理解した。
「なぁ、水精霊騎士隊ってなんだ?なんかすごい奴なのか?」
気になったサイトがルイズたちに尋ねてみる。
「数百年前に廃止したトリステインの名高い伝説の騎士団の名前よ。トリステインはおろか、外国でもその知名度は高くすごい練度の兵たちが所属していた騎士団なの」
「ゲルマニアでもその話は聞いたことがあるわ。タバサも知ってた?」
「…うん」
キュルケとタバサでさえも知っていたほど。よほどすごい騎士団だったのだろう。
「にしてもギーシュったら、そんな大層な名前を部隊名にしようだなんて。肝っ玉が大きいんだか小さいんだか…」
モンモランシーはため息交じりにギーシュを見る。しかもよりによって女王の前で、である。
「あ、あのですね陛下…僕は決して…」
憧れだった女王から白い目で見られる。そんな悪い予感がよぎり、しどろもどろになっていく。
「私は別にその部隊名で構わないと思いますわ。かつての誇りある高名な騎士団の名を受け継ぎ、それに恥じない貴族として精進していく。よき心がけです」
決して悪意があるわけではなく、寧ろ相手を称えている言葉なのだが、かなりプレッシャーが降りかかる言葉がかえってギーシュの不安を煽らせ、小さな後悔さえも呼び起こしかけた。
「でも、水精霊騎士隊の名を継ぐに相応しい部隊になれるかどうかなんてわからないし、何より他国や内部の貴族たちからの視線が気になります。やはりここは、違う部隊名を考えるべきだと思います」
レイナールが冷静に考えて意見を出す。違う部隊名を出した方が、安心感を持てるという判断だ。
「……じゃあ、こんなのはどうだ?一つ浮かんだ奴があるんだけど」
「何?」
ふと、サイトが手を上げて一つ案を上げる。それを聞き入れる姿勢をとったルイズが尋ねる。
「部隊名は…『Ultimate Force Zero(ウルティメイトフォースゼロ)』、略して『UFZ』」
「ウルティ…えっと、なにそれ?」
あまり聞きなれない単語を並べたサイトのアイデアに、尋ねたルイズもそうだが、全員が困惑した様子を見せた。
「その『ゆうえふじぃ』とやらの意味はなんだ?」
ミシェルも会話に加わってサイトが考えた名前の理由を尋ねてきた。
「そうですね…俺たちって、何かとウルトラマンたちに助けられてきたでしょ?でもいつまでも助けに甘んじ続けるわけにいかない。俺たちもいつか必ず彼らに追いついて、ともに肩を並べる戦士となってみんなを守る。そういう思いを込めてみたんですよ」
『…へっ。サイトの奴、デカいこと言ってのけやがる』
それをサイトの中で聞いていたゼロから、笑みを浮かべたことがうかがえる声が漏れだした。
「ま、まぁ、名前としては悪いものではないな。よし!では部隊名はそれで行こうじゃないか。君たちも異論はないかい?」
「僕は構わないけど…」
「うーん、他に案もないし、いいんじゃないかな?」
(なんか地味に微妙な反応だな…)
サイトはレイナールとマリコルヌの戸惑い気味の反応に少し傷ついた気分だった。彼らからすれば未知の異国の言葉から名づけられた名前だ。あまり強く反応することは無理だ。
「…陛下、そろそろ時間が」
「あら、もうそんな時間でしたか」
アニエスからこの会談の時間が限界に近づいていることを知らされたアンリエッタは、一同に向けて口を開いた。
「そろそろ時間ですね。私は政務のためにそろそろ行かなければなりません。みなさん、お疲れ様でした。
学院の皆様も星人にかどわかされ、そのうえで私たちのお話にもおつきあいさせていただいたいことでお疲れでしょう。今日は皆さんにお城にお泊りくださいませ」
「なんて寛大な!陛下のご慈悲に感謝いたします!」
いちいち大げさに返してくるギーシュだが、全員彼ほどではなかったが臣下の礼で最後のあいさつを済ませる。
その後はアニエスとミシェルの案内で、城の客室へ案内された。
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