魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~
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第22話 「従妹は思春期」
小学生達のチーム《T&Hエレメンツ》の歓迎会は色々と騒がしくなる場面もあったものの無事に終了し、アミタとキリエがコーチとして彼女達を鍛えることになった。
あの子達の成長の速さを考えると、おそらく今度デュエルを行うときは記憶にあるものよりも数段上の実力になっているに違いない。
「……まあ」
成長の速さだけでいえば、すぐそばにあの子達以上に速い人間がいるのだが。その人物の名前は、東雲悠樹。俺の従妹である。
ユウキはブレイブデュエルを始めてからまだ日も浅いのだが、歓迎会の日に行われたホビーショップT&Hのイベントデュエルでも大活躍したらしく、凄まじい勢いでデュエリストの間で知名度が上がっているらしい。
今日俺はユウキを新たなデュエルの舞台《八神堂》に連れて行こうとしている。故に彼女の知名度の広がりには更なる加速が掛かることだろう。
そうなると……必然的に血の繋がりのある俺にも注目が浴びせられるんだろうな。まあ全国ランカーに知り合いが多いし、イベントの手伝いやらもしてるから今更目立たないようにしても無意味なんだろうけど。というか、多分目立たないようにデュエルしてたら一向に成長しないよな。
ユウキに勝つために……更なる高みを目指すために小学生達のコーチの話を断ったのだ。真剣にデュエルの腕前を磨かなければ彼女達にも悪いだろう。もしも不真面目なデュエルをしているのをシュテルあたりにでも見られたら……。
「確か八神堂ってベルカスタイルのオーナー店なんだよね。T&Hとは違ったデュエリストが多そうだし、ほんと楽しみ……ショウ、どうかした?」
「え? あぁ、いや別にどうもしてないけど」
「ほんとに? 何か元気ないように見えるよ」
「それは……」
本当の理由は別にあるがそれを正直に口にするのは良くないだろう。
また勉強のことやら家事のことを理由にするのもダメだ。その手の話をすれば、きっとユウキが我が侭を言ってごめんね、のような発言をするに違いない。
今のユウキは大丈夫そうに見えるが、前は病弱でよく寝込んだりしていた。そのときは俺も小さかったので本格的な看病をしていたわけではないが、見舞いに行ったときは毎度のように「ごめん」や「ありがとう」という言葉を申し訳なさそうな顔で言われたものだ。
血の繋がりがあるからなのか、知り合いのそういう顔は見たくないと思うのか……ユウキの元気のない顔は見たいとは思わない。多少機嫌が悪くなる可能性もあるが、ここはそれらしいことで誤魔化そう。
「これだけ気温が高いと元気もなくなるだろ。ユウキみたいに八神堂に初めて行くわけでもないからテンションも上がらないし」
「む……何かその言い方は僕を子供扱いしてる気がする」
「別にしてるつもりはないさ……まあ俺とお前じゃ俺のほうが落ち着いてるとは言われるだろうけど」
言い終わってから視線を向けてみると、ユウキの顔がやや不機嫌そうな目でこちらを睨んでいた。遠回しに彼女の方が子供だと言ったようなものなので無理もない。
やってしまった……後半は言わなければよかった。
そのように後悔が芽生えもしたが、今更取り消すこともできない。変に誤魔化そうとすればさらにユウキの機嫌を損ねる可能性もある。ここは彼女の反応を見てどうにか対応するしかないだろう。
「……確かにショウの方が落ち着いてるけどさ、僕だって落ち着いてきてるし。というか、大体ショウが口数が少なくて会話が続かないから僕がその分話すようになったんじゃん」
「あんまり拗ねるなよ。てか、そっちだって人の過去をどうこう言ってるじゃないか。言っとくけど、前は目的も理由もないのに会話する必要性をあまり感じてなかっただけだ」
「うわぁ……子供らしくない。まあ確かに小さい頃のショウはそんな感じだったけど……正直近づきにくいというか、一緒に居ると緊張したし」
ユウキがそのように言うのも仕方がないだろう。俺の父さんや叔母は一般人からすればかなり優れた頭脳の持ち主である。つまり俺にも具体的な割合は分からないがその遺伝子があるわけで、物心つくのも早ければ同年代よりも勉強というか物覚えも良かった。
それだけに同年代と遊ぶよりも大人から知識を教えてもらう方が楽しいと思っていた時期がある。いや、もっと簡潔にあの頃の自分を表現するならば冷めてしまったというか、心が錆び付いていたというべきかもしれない。
けれどシュテルやレヴィ、ディアーチェ達に出会うことで変わることが出来た。彼女達は俺よりも優れた頭脳も持っているが、とても輝いた目をしていたのだ。それが俺には眩しく見えた。それだけに……近づきたい気持ちと近づきたくない気持ちを抱いたものだ。
――まあディアーチェに貴様も我らと共に遊ぶがいいみたいに言われ、レヴィに抱きつかれながら遊ぼうとせがまれ、シュテルから静かに諦めて遊ぶべきだと諭され選択肢はひとつしかなかったんだけど。
「けど……シュテル達と会った頃からかな。少しずつだけどショウは変わって行ったよね。優しくなったというか……いや優しいところはあったけど、分かりにくかったのか。感情があまりにも表に出てなかったし」
「……何か話がずれてないか?」
「おっと……。うーん、そうだなぁ……じゃあ、子供らしくなったってことで」
「それはさっきの仕返しか?」
「さあ、それはどうだろうね」
ユウキは笑顔を浮かべてくるりと回ると、少し先を歩き始める。
そのような逃げ方をするようになったあたり、ユウキも確実に年齢を重ねているということか。シュテル達があまり使わない手段ということを考えてると、彼女の方が大人っぽいとも思えなくもない。
……というか、今でさえ厄介なあのメンツがユウキのような笑って誤魔化すなんて芸当――もとい逃げ方を覚えられると非常に面倒になるな。今でさえかなり面倒なときがあるし。
「あっ……そういえば、こっちに来てからまだシュテル達に会ってないや」
「そういやそうだな。ま、近いうちに連れて行ってやるよ……俺は送り届けたら別のところに行くかもしれないけど」
「もう、何でそういう余計なことをつけるかな。……まあショウらしいけどさ。みんな元気にしてる?」
「ああ」
「そっか……あ、あのさ」
ユウキの顔がこれまでと打って変わってこちらの顔色を窺うようなものに変わる。指先をもじもじさせているあたり、俺はこれからなかなかなことを聞かれるのだろうか。
「何だよ?」
「えっと、その……ショウはちゃんとみんなと仲良く出来てる?」
「……は?」
ユウキはどういう意味で聞いているのだろうか。
まず最初に考えられるのは、単純に学校生活や私生活を含めて親しくできているかということだが……こちらに来る前に大きなケンカをしたなんてこともないのに聞くだろうか。……俺の性格を考えると否定できない部分はあるか。
他の可能性としては、ユウキの年代的にシュテル達の誰かしらとこれまでと違った関係になった。のようなものが考えられる。しかし、唐突にそのような話題を振ってくるだろうか。好きな異性のタイプ、といった話題でしゃべっていたわけでもないし。
「うーん……まあそれなりに」
「それなりって……どれくらいなのさ。例えを出してよ」
「例えって言われてもな……最近はブレイブデュエルに関することばかりだし、あいつらよりブレイブデュエルを始めたばかりの小学生達と一緒に居ることが多かったからな」
「なるほど……ねぇショウ、ショウってやっぱり」
「ロリコンじゃねぇよ」
何で小学生って単語を使っただけでそうなるんだ。俺が大人――いや高校生くらいの年齢ならそのように思われても仕方がないかもしれない。だが俺はまだ中学生であり、あの子達との歳の差は数年だ。世の中に数歳差の恋人は数多く居るだろうし、ロリコンだと言われるのは許容できるものではない。
「じゃ、じゃあさ……そのシュテル達とはどうなの?」
「どうなのって……どういう意味でだよ?」
「それはその……ほら、例えば僕らも少しは大人になったわけだしさ。昔みたいに何をするのもみんな一緒みたいな感じじゃなくなってきてもおかしくないわけで……」
「要するにシュテル達とふたりだけで出かけたりしてるのかって言いたいのか?」
「う、うん……そうなるかな」
ずいぶんと顔を赤くしているが、まあユウキも思春期の女の子だ。俺は従兄とはいえ彼女にとっては身近な異性のひとりであり、また俺の近くには昔から異性の友人が居たのだ。恋愛に関することが気になってしまうのは分からなくもない。修学旅行の夜や女子だけで集まって話してくれとも思う話題ではあるが。
「まあ下手に隠して誤解されるのも困るしな。……とはいえ、今もあまり昔と変わらないといえば変わらないと思うぞ。大体あいつらは一緒に行動してるし……ただ」
「ただ?」
「ディアーチェとは買い出しの手伝いとかでふたりになったりすることはある。レヴィとは……ディアーチェ達に予定があるときは一緒に遊んでくれって言われたりするな」
「シュテルは?」
「シュテルは……」
今はこれといって問題ないがつい最近まで疎遠になっていたというか、すれ違いみたいなのが起きてたから他のふたりと比べると何もないんだよな。
まあそのへんはすでに解消してるし、静かに本を読める場所がないかって聞かれたから今度翠屋でも紹介しようかなとは思ってるけど。こっちに戻ってきてからあまり桃子さん達とも顔を合わせてないし。ちなみに翠屋というのは高町の両親が経営している喫茶店のことだ。
「今度暇があれば出かけるかもしれないな」
「そそそれってデート!?」
「そんなんじゃない」
とは言ったものの、男女がふたりで出かける程度の意味合いで言えばデートと呼ぶこともあるかもしれない。
しかし、組み合わせは俺とシュテルだ。互いに口数は多い方ではないし、はやてやレヴィのようにすぐ誰かに引っ付くタイプでもない。一緒に歩いていたからといってデートと思う人間はそういないのではないだろうか。
そもそも……俺はあいつのことを異性として認識しているが、昔から付き合いがあるだけに普通に会話する分には何の緊張もしない。お茶目な部分もありはするが、基本的に言葉だけなのでよほどの身体的接触がなければ顔を赤らめたりすることもないだろう。
というか、シュテルは俺のことを異性として見ているのだろうか。最低限はしてそうではあるが、ディアーチェなどと比べると本当に最低限のような気がする。感情が表に出にくい奴なので実際はどうなのか分かりはしないのだが……だからといって直接聞くのも悪手に思える。
そんなことをすれば、俺がシュテルに気があるように思われるかもしれないし、そうならなくても高い確率でからかわれるだろう。彼女の性格的に事あるごとにやってきそうなので面倒なことこの上ない。
「あぁもう……普段の振る舞いから見ればディアーチェとかの方が積極的に思えるけど、ディアーチェは奥手というか乙女だし。レヴィは好きの違いとか分かってなさそうだからしばらくは問題ないとして……やっぱりシュテルは油断できないや」
「ユウキ、何をブツブツ言ってるんだ?」
「な、何でもないよ!? シュテルとのデートで失敗でもしたら色々と心に刺さるようなことを言われるんだろうなって思ってただけで。うん、本当に他意はないから!」
慌ててるのもあれだが……他意なんて言葉が出ると他意があるように思えてならないのだが。
とはいえ、俺自身考え事をしていた意識を割いていたし、周囲から聞こえてくる音でユウキの独り言を聞けたわけではない。
証拠もないのに問い詰めるのもあれだし、ユウキは割と拗ねやすかったりする。それにユウキが何を言っていたのか気になるかといえば、そこまで気になるわけでもない。ここは流しておいたほうが何事もないだろう。
「そんなことより早く八神堂に行こうよ。T&Hとは違ったデュエリスト達がたくさん居るだろうし、せっかく自由な時間が多い生活を送ってるからね。思いっきりデュエルを楽しみたいよ」
「そうか、なら八神堂に着いたら別行動だな」
「何でそうなるの!? 僕は今日が初めてなんだから一緒に居てよ!」
「いや俺もデュエルしたいし、お前を置いて別のところに行くつもりはないから安心しろよ」
本当はこっそりといなくなるつもりなんじゃないのか、とでも思っているのか、ユウキの目は俺に対する疑いを持ったままだ。また唇が若干尖っているところを見るに何かしら文句があるのかもしれない。例えば……「ショウって何でそういう言い回しばかりするかな。そんなんだから友達が増えないんだよ」とか。
「何か言いたいことでもあるのか?」
「別に……ただ置いて行ったりしたら怒るからね」
「しないって言ってるだろ。急な用事が出来た場合は別だが」
「そういうときも一言声を掛けてからにしてよ」
「はいはい」
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