【銀桜】9.たまクエ篇
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第4話「やりこみ要素があればあるほどゲームは楽しめる」
警報音が鳴り響く街を全身黒タイツの男達が侵入者を探して走り回る。獏ウィルス達のその様子を建物の影から伺う白血球王――を見る銀時。
【……行ったようだな】
黒タイツ達が去ったことを確認すると、白いマントをひらりと翻らせドット絵の主(あるじ)に向き直る白血球王――を凝視する銀時。
【たま様、いずれここも気づかれましょう。スグに移動しましょう。大腸B-39地区方面がよろしいかと。あそこは迷路です。身を隠すにはうってつけだ】
【白血球王。私達は逃げに来たのではありません。戦いに来たのです】
主の安全を促すが、逆に闘志を意気込まれる白血球王――をジロジロ見る銀時。
【例え分身といえど、たま様を雑菌どもの中にはさらせません。戦うなら俺一人で十分です】
【白血球王、今回の敵は最強のウィルスです。今までのようにはいきません。あなたといえど一人では無理です。みんなで協力して戦いましょう】
主から共闘を求められる白血球王――を後ろからマジマジと眺める銀時。
【……やはり俺のプログラムを書き換え、あんな犬の姿に変えたのはあなたの仕業でしたか。俺一人で奴らに戦いを挑みムダ死にせぬよう動きを封じた……そうでしょう?】
【あなたに死なれては困ります。……来るべき時のために……そう、今この時共に戦うまでは生きていて欲しかった】
守るべき主にその身を気遣われる白血球王――を横からジッと見る銀時は、勝手に話を進めるドット絵の『たま』に近づいて
“ゴンッ”
頭ごと壁に叩きつけられた。
顔面を押さえつけて鋭く覗きこんでくるのは、自分とそっくりな顔。
【さっきから何なんだ、貴様は。雑菌だらけの顔をたま様に近づけるな。殺菌されたいのか】
「いやゴメーン。スッゴイいい男がいるな~と思って見とれちゃって~」
“ゴンッ”
「っなワケねーだろォォォ!俺ァモシャスかけられた覚えはねーぞォォォ!!」
仕返しとばかりに白血球王の頭を壁にブチ当てて、銀時は怒声を上げた。
「人様の顔ブラ下げて恥ずかしいコスプレしやがってよ!だったらなんでビアンカ連れて来なかった!?つってもビアンカは俺の嫁だけどね!絶対にお前なんかに嫁にやらな――」
“ボカッ”
絶えない文句を浴びせる銀時は、白血球王の頭突きを食らい悶絶してしまう。
だが、すかさず自分の顔をした勇者の胸倉を掴んで相対する。
そして、互いに睨み合う銀時と銀時。
実に不思議な光景だ。
「銀ちゃんが二人アル」
「うん……」
同じ容姿の銀時と白血球王を交互に見ながら呟く神楽と、その隣で呆気にとられる新八。
また双葉も目の前の状況が理解しきれず、この不思議な光景について『たま』に尋ねた。
「カラクリ、一体これは……」
【私の中にあるシステムは全て私の記憶回路、思考パターン、あらゆるデータの影響を受けます。幾多のウィルスと戦うセキュリティプログラム『白血球王』は、何より強い存在でなくてはいけません】
「つまり……」
【ええ。あれがそのイメージを反映した結果。私の導き出した答えなのでしょう】
デジタルな瞳で『白血球王』を見据える『たま』。
一方の白血球王は不機嫌な目を突き刺してくる銀時に、今にも斬りかかりそうな勢いで背中の長剣に手をのばしていた。
【最強の二人が揃いました。もう恐れる物はありません】
この戦いに勝利を確信した、という感じで『たま』は言う。
しかし肝心の彼らは一歩も譲らない喧嘩腰だ。どう見たって雲行きは怪しい。
髪色に顔立ちや体格はと、どれも同じなのに。
そんな容姿が瓜二つの男たちを、双葉はなぜか重たげに見つめていた。
【そうか……貴様が俺の……】
やがて何かを悟ったように呟いて、白血球王は長剣から手を離した。
銀時もまた剣幕が薄れた勇者の胸倉を離すが、二人が火花を散らし合うのは変わらない。
【ともあれ、人格データがこうも違うところを見るに、内面は評価されていないようだな】
「なんだとォ!」
【当然だ、こんな腑抜けた男。そんな雑菌まみれの手では、たま様を護ることなどできはしない】
鋭い目つきで、白血球王は吐き捨てるように言った。
見下すように、格の差をつけるように。
【『獏』を倒すのは、この俺だ】
そして低く凛々しい声で静かに、しかし力強く宣言した。
完全に外界の戦士を足払う雰囲気をまといながら。
【貴様の出る幕などありはしない。たま様を護れるのは、この俺だけだ】
そう白き勇者は銀時を――下界の戦士に冷たく言い放つのだった。
どこまでも孤高な闘志を携えて。
* * *
データとプログラムで埋め尽くされた世界は、今や闇に飲まれていた。
天も地も黒一色に染まり、荒れる風は心を不安にさせる邪悪な雰囲気をばら撒いている。
そして大地の真ん中には、無数の配線を生やした巨大なドームがそびえ立っていた。
だが、そのドームを捕縛するかの如く周囲には塀が築かれており、それは見る者を圧倒し絶望を植えつける様なおぞましい城へと変貌させていた。
そんな闇の世界を崖の上から見渡し、そして遥か先の城を見つめる勇者が一人。
【アレがたま様の中枢システムだ。既にウィルスに深く浸食され、奴らの牙城と化している】
暗黒の城に取り囲まれたドームを眺望しながら言う白血球王。
【あれに巣食い、奴らの頭脳となり、『獏』を生みだし続けるのが『獏大魔王』。つまり、奴さえ駆除すれば全ての『獏』も無力化する。体内に平和を取り戻すには……たま様を救うには奴を倒すしかない】
緊迫した空気の中、白血球王は冷静な口調で語っているものの、敵の城を見据える瞳には闘志の炎が燃えたぎっていた。また、そこには憎しみにも似たモノも混じっている。
それもそのはずだ。敵は彼にとって最優先に護るべき主を汚染し、挙句にはその存在すら抹消しようとしているのだ。
「でも流石は敵の本拠地だけあって黒タイツ一色ですよ。一体どうやって『獏大魔王』の所まで行くんですか?」
崖下でウヨウヨうごめく獏ウィルス軍団を眺めながら新八が尋ねる。
『獏』の支配下になった現在、どこもかしこも全身黒タイツのウィルスだらけ。
しかも強そうな武器やそれを備える獏ウィルスも厳つい風貌だ。白血球王国で出くわした奴らとは見た目もその兵力も桁違いである。
だが獏ウィルスの大軍勢に臆する様子もなく、白血球王は真面目な目つきで新八達に告げる。
【城の周辺を巡回しているのは最新型のウィルスばかりだ。以前のようにたやすくは倒せん。万全に作戦を練って行くぞ】
こんな所で倒れてなどいられない。もうこれ以上主の体内にウィルスを増やすわけにはいかないのだ。
『獏』の根源である『獏大魔王』さえ倒せば、全ての侵略を止められる。
なんとしてでも親玉を駆除しなければならない。
この命に代えても。主を救う為にも。
「オイオイ、勘弁してくれよ」
盛り上がりを撃沈させる――緊張感の欠片もない、面倒くさそうな声が割って入って来た。
振り向くと、銀時がこれまたやる気のない目でだるそうにボリボリ首を掻いていた。
「ここまで来てまどろっこしーんだよ。最新型つったって、どうせたまのドラクエ脳食って進化したドラクエごっこしかできねぇバカどもだろ。コイツと同じで」
銀時が指差すのは、白いマントと白い服、背中に長剣、革靴と手袋、額には王冠――と、典型的な勇者の衣装に身を包んだ白血球王。
それはまさにRPGお約束の塊であった。
加えて戦士到来を告げる『予言』や『世界を救うための大魔王を倒す旅』。
ここまで定番要素をぶつけられると、冒険できることに興奮するより萎える気持ちの方が大きい。立て続けに起きるベタ展開にいちいち頭を使うなんてアホらしい、と銀時は思ったのだ。
「作戦なんてめんどくせーんだよ。ガンガン行こうぜ」
深く考えもしないまま、銀時は新八達を置いて先に歩き始める。
だが彼の何気ない先陣は、一本の腕に阻まれた。
【待てい!】
銀時の首にラリーアットが炸裂。
それを食らわした白血球王は、首に触れた部分の腕をハンカチで拭いながら、呻き苦しむ銀時に呆れ切った口調で言う。
【魔王の根城を前に『ガンガン行こうぜ』など、愚策中の愚策!貴様のような奴が率いるパーティが魔王に辿り着く前にMPを使い切り、魔王に何もできず長ったらしい復活の呪文をメモるハメになるんだ。よって、魔王へ到達するまでの作戦は『じゅもんつかうな』】
人差し指を立てて堂々と言い張る白血球王に――新八と神楽の白けた視線にも気づかず――銀時は不機嫌に眉を寄せてダラダラ言い返す。
「そんな消極的な策で魔王に勝てるわけねーだろ。オメーみてーなケチなパーティが、薬草持ち過ぎて宝箱もロクに開けられず、魔王に辿り着く前にMP満タンのまま全滅すんだよ。魔王やっつけるまでの作戦は俺に『めいれいさせろ』」
【笑止!貴様の指示で動いていたらパーティは全滅だ。たま様を救う勇者は、この俺。遊び人はルイーダの酒場で飲んだくれているがいい】
「誰が遊び人だ、コラ!!確かに俺は遊び人かもしれない。だが俺とビアンカの息子は天空の勇者になるんだ!ただの遊び人じゃないからね!俺は天空の遊び人だからね!」
【なら天空の遊び人は、宿屋の裏で田舎娘とぱふぱふにいそしんでい――】
“ボカボカッ”
突然、二人の頭に一撃が走る。
頭をさすりながら見上げると、冷徹な瞳で見下ろす銀髪の女がいた。
口喧嘩し合う銀時と白血球王に仲裁の鉄拳を双葉が下したのだ。
「おい、双葉なにしやが――」
「戯れ合いをしている場合か!下らん事をしてないでさっさと行くぞ!!」
いつも以上に重圧かかった声色で吐き捨てる双葉。
あまりに凄味のある剣幕に押され、喋り通しだった銀時も白血球王も黙りこんでしまう。
さっき同じように銀時とゲームで言い争っていたくせにそこは気にしないのか、双葉は他の仲間を置いてズンズン先へと進んで行ってしまった。
そんな彼女を見ながら、ふくれっ面になって神楽は文句をこぼす。
「アイツだって人の事言えないネ。なにヨ、さっきから威張り散らしやがってェ。リーダーは私の十八番アルヨ」
お気に入りの役割を横取りされ、不機嫌そうに神楽は双葉の背中を睨む。ずっと命令口調で、先導を切ってばかりの偉そうな態度が気に入らないのだ。
しかし新八は足早く歩く双葉を見て、ふと思う。
「いや、双葉さん威張ってるっていうか……」
――焦ってる?
新八と同じ事を銀時も悟っていた。
薄々感じていたが、体内に入ってからの双葉は何かと積極的だ。
基本的に双葉は他人と関わろうとしない。その原因が過去に参加した戦争にある事は銀時も分かっている。
『攘夷戦争』――二十年前突如地球に襲来し、幕府を牛耳った天人に侍たちが起こしたクーデター。己の信念、大切な人を護るために、それぞれの理由を持った者たちが戦場を走っていた。しかし、そこで生まれたのは多くの悲劇と仲間の犠牲。
双葉も大切なモノを失う恐怖を味わった。それでも戦い続け血にまみれた挙句、狂気の獣に駆られ、どうしようもない感情に蝕まれた。そして狂気の衝動は現在も彼女を襲っている。
それ故にいつ暴走してもおかしくない『獣』を抱えた双葉は、他人を遠ざけていた。
そんな妹が誰かのために積極的に打ちこんでいるのを、本来なら喜ぶべきだろう。
しかし、どうもそれとは違うと銀時は思う。
無愛想な表情、堅苦しい口調 ――態度はいつもと変わらないが、兄である銀時はその微妙な揺れを見抜いていた。
仕切ったり自分から周りをリードしていくのは、待ち切れず生き急いでいる行動の裏返しだ。それと同じように、落ち着かない仕草が目立つ彼女は焦っている感じである。また銀時には双葉が何かに苛立っている様にも見えた。
それに双葉が他人の厄介事に自ら進んで深入りする時は、必ず裏がある。
「おいおい。オメーな~にスタスタ歩いてんだ。ピオリムでもかけられたか」
「ヘイスト状態にはなっていない」
妹を追いかける銀時にくるのは、やはり素っ気ない返事。
ちなみに二人が言っているのは、それぞれドラクエとファイナルファンタジー(FF)における行動を素早くさせる魔法のことである。
それはさておき。
僅かにざらつく淡々とした口調から、双葉の焦燥を確かに感じ取って、銀時は敢えて気の抜けた事を言う。
「だったらなんで、そうせっせとクリアしたがるかねェ。のんびりやんねェと息詰まってゲーム放置プレイになっちまうぞ」
「借りをとっとと返したいだけだ」
「借り?」
妹の口から出るには珍しい単語だった。
銀時の財布で勝手にピザを注文する事から分かるように、双葉は他人の物でも我が物顔で使うことを平然とやる人間だ。
貰える物はとことん貰う性格で、相手に対して遠慮なんて全くしない。むしろ奢られて当然と考える双葉は、結野アナのように命を救われるくらい大それた事や本人が恩義を感じない限り、めったに借りを返したりしない。
それほど彼女の道理の基準は高いのだ。
しかし、機械たちの反乱を共に解決した銀時たちと違って、それ以降に万事屋に来た双葉にはたまと深い関わりはないはずだ。
ただ一つ、あるとすれば……。
「嫌なんだよ、借りたままっていうのは」
より冷めた目つきになって双葉は続けて言う。
「借りは返さなきゃ気が済まない主義なんだ、私は。……本人は覚えてないけどな」
最後にそう呟きながら、双葉は少し遠くにいる『たま』に一瞬振り返った。
不可解な発言に眉をひそめる銀時だが、双葉は向き直って更に言葉を紡ぐ。
「だいたい、長ったらしくゲームをプレイしてどうする。どれだけ極めて最強のデータを築こうと一瞬で消えてしまう。データなんて所詮そんなものさ。ボタン一つで全て消去される。呪文を唱えなければ今までしてきた冒険も無駄と化す『まがい物』だ。そんな事に時間を費やすのは、メインシナリオだけで十分だ」
うんざりした声で吐き捨てるように双葉は言った。
確かにその通りである。
ゲームのデータはゲームでしか価値を持たない。
現実に反映しもしない、しかも跡形もなく消えるデータをやりこんで作る事は無意味だ。
データほど、もろい『証』は他にないのだから。
そんなモノに膨大な時間をかけるのは馬鹿げた事であるが――
それだけが、全てじゃない。
「セーブデータとか、んなモン関係ねーよ。ようは冒険をどんだけ楽しんだか、だろ」
頭を掻きながら、口を開く銀時。
そんな気だるそうな動きとは裏腹に深い想いが紡がれる。
「消えちまったら、また最初から冒険すりゃいい。そりゃ、めんどくせェかもしれねーが1回目で見つけられなかった宝箱とか拾えるかもしれねーじゃん。何回もプレイすりゃ新しい発見も増えて、その度に嬉しくなるもんだ。サブイベントにゃシナリオ一筋でやってたら手に入らねーアイテムがたくさん隠れてんだ。レアなお宝見つけたり、トラップに引っかかったり、プレイしてみなきゃ気づかねェ要素がゲームにゃ五万と転がってる」
そうして、銀時は双葉を見据える。
「わかるか?それはこの世の中にも自分の知らねー面白ェことが、まだまだたくさん転がってんのと同じ事なんだぜ。ゲームってのは、そうゆーのを身近に楽しませてくれるモンなんだよ」
それは美麗なムービーにはない感動。
イベントの数だけ笑いがある。
ミニゲームの数だけ楽しみがある。
だからこそ、RPGは面白い。
「それにな、本当に大事なデータってなァ何回電源切ろうがバグっちまおうが飛ばねーよ。ましてや魂に刻まれた記憶は、ずっと胸にあるもんだ」
「……だったら、刻まれなかった記憶は忘れるだけだな」
「いんや、意外と残るモンだぜ。そうやって忘れられねェ思い出が一つや二つと増えてくんだ」
銀時の言葉は確かに心に響くモノだった。
それでも双葉の表情は変わらない。
「……どうかな。残らないことだってあるさ」
皮肉げに口元を浮かべて双葉は言う。しかし、それは自らを嘲ってるように見えた。
どこか哀しそうな笑みが浮かんでいる妹を背にして、銀時は絶壁から真っ黒な天井を見上げ、自身の胸を軽く叩きながら言葉を返す。
「俺のプレイ日記はずっとここに残ってるよ。何でも書きとめてあらァ。メダル制覇した事とか、ワクワクしてダンジョン探索しまくった事とか、ビアンカを嫁にした事とか」
「……そうか」
静かに呟くと、双葉は氷のように冷めた表情をほんの少し緩ませる。
そして、少年みたいな微笑を浮かべる銀時に歩み寄って――
「だったら田舎娘と地獄へ新婚旅行してこい」
“ボカッ”
突然、双葉に背中を蹴られ、銀時は崖下へ落とされた。
「えええええええええええええ!?」
それもこれも、彼の最後のひと言が原因であるが……それに気づかないまま絶叫を上げて落ちる銀時。
当然、下には獏ウィルス軍団が待ち受けている。落とされた銀時は真っ先に敵陣に飛びこむハメになった。
そのまんま地面に激突したものの、銀時はすぐに立ち上がろうとしたが――
【待てェぃぃ!】
直後、後頭部に壮絶な打撃を食らって、顔面はまたも地面に激突した。
銀時の意図せぬ出陣に出遅れをとった白血球王が、彼に続いて崖から飛び降りて来たのだ。
【先陣は勇者の指定席!!たま様を救う勇者はこの俺だァァ!!】
銀時の頭を着地台にして、白血球王はそのまま獏ウィルス軍団めがけて走り出す。
「なにしやがんだ!このコスプレ勇者がァ!!」
踏みつけられた銀時はすぐさま白血球王の足を掴んで転倒させ、勇者の出陣を思いっ切り妨害した。
「てめーみてーなイカレポンチに率いられてたらパーティは全滅だ!この俺がやってやる!」
【チャランポランな奴が世界を救うなどできるものか!このパーティのリーダーはこの俺だ!】
「ふざけんな!ロトの勇者は引っ込んでろ!!これからは天空の勇者の時代なんだよ!!」
【ええい、黙れ!たま様を護る勇者はこの俺だァァ!】
お互いに邪魔しながら、いつしか押し倒して揉め合いを始める銀時と白血球王。
後を追って降りて来た双葉達はその光景に呆れ、戦場で仲間割れする二人に新八が目を吊り上げて叫ぶ。
「ちょっとォォォ!何やってんですか、あんたらァ!!んなことやってる場合ですか!!」
「たまぁ、ほんとに白血球王って銀ちゃんがモデルアルカ?どう見たってあいつら相性最悪ネ。最強どころか最低のコンビヨ」
容姿は同じなのに小競り合ってばかりの二人。そんな彼らを指差して問う神楽に、『たま』は淡々と素直な意見を述べた。
【ピザと生チョコを混ぜ合わせたお菓子を基に計算したのですが、どちらもおいしいからと言って合体させても、チーズと生チョコのとろみが絡み合い、ネチョネチョに口どけて大変まずい食感になってしまう。……私は大変な計算ミスをしてしまったのかもしれません】
「アンタそんな頭悪い計算で二人を合わせたんですか!つーかどんなお菓子ベースに計算したの!?」
そんな新八のツッコミが入る間にも、事態はどんどん悪化する。
落下した銀時が上げた絶叫のせいで、敵に知られてしまったのだ。気づけば新八達は獏ウィルス軍団に囲まれていた。
まさに袋のネズミ。だがそんな状況になっても、銀時と白血球王は喧嘩に夢中でまだ揉め合っている。
それを好機とばかりに、獏ウィルス軍団が二人にどっと押し寄せーー
【雑菌だらけの手で俺に気安くさわるなァァ!毒滅闘】
白血球王の剣から光属性奥義が放たれる。
青白い閃光は白血球王にまたがる銀時を押し上げて、それは二人を襲撃しようとしていた獏ウィルス軍団さえも吹き飛ばした。
そして粉々に消滅する獏ウィルスたち。一方でまともに食らったはずの銀時はふらりと立ち上がって、フフと汚い笑みを浮かべて言い返す。
「勇者様の実力ってのはその程度か。こんなモンじゃ、カンダタはおろかスライムにも勝てやしねぇ」
腰からツマヨウジを抜き取って、白血球王に先端を向ける。
そして柄の部分を捻って、銀時は叫んだ。
「今度は俺の番だ。くらいやがれェ!魔淋」
銀時のツマヨウジから闇属性奥義が発射される。
赤黒い光の波は白血球王に直撃し、後ろから襲いかかって来ていた獏ウィルスたちも飲みこんだ。闇属性の対ウィルス用の情報に侵されたウィルスたちは、跡形もなく空中に散った。
しかし互いに技をぶつけ合っても、二人の攻撃はまだ止まらない。
【貴様こそこの程度か。勇者の力を見よ!阿厘詠流】
「きかねーな!茶実愚淋」
【まだまだ!不破舞利髄】
「何をォ!不味梨腐零酒」
【どこを狙っている!駄無】
「コイツでシメーだ!魔林怜悶」
光属性の眩い電光が天井を貫く。
闇属性の破壊光が鉄材の壁を打ち砕く。
周りなんておかまいなしに、破壊の限りを尽くす二つの閃光。
あちこちに光弾が飛び散る中を、他の仲間達は暴走する勇者たちから全力で遠ざかる。
「逃げるアルぅぅぅ!このままじゃ私ら全員道連れネ!」
「双葉さん!あの二人どうにかして止めてくださいよォ!」
「いや、よく見ろ」
走りながらも冷静な口調に、新八は銀時と白血球王を見た。
二人が出す猛烈な攻撃に巻き込まれ、周囲の獏ウィルスたちは次々と消滅していく。
しかも相反する属性がぶつかり合うことで、勇者たちの技はどんどん威力を増していき、獏ウィルス軍団を抹消していく。
そして。
二人の勇者が最終奥義を放った瞬間――体内を揺るがす大爆発が炸裂した。
=つづく=
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