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真田十勇士

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巻ノ三十一 上田城の戦いその七

「鳥居殿もその一人じゃ」
「敵ながら見事な方ですな」
「そうなる、敵として不足はない」
「では返事は」
「人は送る」
 それは間違いなくというのだ。
「御主と源四郎をな」
「それがしもですか」
 幸村が父の言葉に顔を向けた。
「兄上と共に徳川家の本陣に入り」
「わしの言葉を伝えよ」
「降らぬと」
「そうじゃ、御主達に任せる」
 言葉を伝えることはというのだ。
「安心せよ、降らぬと言ってもな」
「その場ではですか」
「御主達は指一本向けられぬ」
 触れられるどころかというのだ。
「徳川家は律儀な家、そこは絶対に守る」
「だからそれがし達もですか」
「安心して行け、しかしな」
 それと共にだ、昌幸は言葉を続けた。
「御主達は毅然とせよ」
「臆することなく」
「敵陣の中でも胸を張り堂々としておれ」
 こう息子達に言うのだった。
「よいな」
「肝を据えよというのですな」
「御主達は真田の者、どれだけ多くの敵に囲まれようともな」
「臆することなく」
「堂々としておれ」
 敵の大軍の中でもというのだ。
「よいな、恐れを感じてもだ」
「それでもですな」
「その恐れを退けよ、よいな」
「わかりました」
「恐れは感じよ」
 昌幸は息子達にこのことも言った。
「さもなければ危ういことにも気付かぬ」
「そしてそこに隙が出来る」
「だからですな」
「そうじゃ、恐れを感じ場所や敵を細かいところまで見てじゃ」
 そしてというのだ。
「策を使え、しかしな」
「それでもですな」
「臆するなというのですな」
「そうじゃ、恐れを感じそこから様々なものを見てじゃ」
 そのうえでというのだ。
「策を用意する、しかしな」
「臆するとですな」
「その策も鈍る」
「そしてその姿を敵に見られると」
「侮られますな」
「だからじゃ」
 それでというのだ。
「徳川家の本陣に入ってもじゃ」
「わかりました」
「それでは」
 二人も父の言葉に応えた、そしてだった。
 二人は共に徳川家の本陣に入ることになった、だが。
 本陣に向かおうとする二人にだ、猿飛達が心配して言って来た。
「あの、殿」
「敵の本陣に入るなぞです」
「あまりにも危険です」
「若し何かあれば」
「その時は」
「大丈夫じゃ、徳川家は律儀な家じゃ」
 幸村は彼等に落ち着いた微笑みで返した。 
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