SAO オンラインゲームの中で拳闘士は生き残れるのか?
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
日本の英雄
前書き
新屋樹(あらや いつき)
24歳、WBAスーパーミドル級チャンピオン。
173センチ74キロ。リーチ177センチ。
黒髪で短髪。端正な顔立ちでも人気を博している。
17歳でプロボクシング界へ参戦した、アマチュアで100戦以上戦い抜いた猛者。
新人王トーナメント、A級ボクサートーナメントを圧倒的な実力で駆け上がり、タイトルマッチで減量ミスにより苦戦するも勝利。
その後、三度の防衛をした後に世界7位と勝負しKO。その実力を気に入ったチャンピオンに指名され、世界タイトル戦を行う決意を固める。
世界5位、世界3位、世界1位と立て続けに強敵と戦い勝利を重ね、22歳で世界チャンプに挑戦。
11ラウンドにも及ぶ死闘の果てに、今世紀最強と謳われたメキシカンのチャンピオンを下しベルトを獲得する。
その後二年で何度も防衛戦を行い、全て5ラウンドまでに勝利する無敗のチャンピオンとして君臨し、日本での英雄と呼ばれている。
出演するCMはあまり無く、TVに出るのは実は苦手。
練習が終わると家でゲームをするのを好む。そこまで時間は取れないが、小さい頃からゲームが好きなのだ。
その日、東京の新宿は激震した。
刃物で武装した三人の強盗が、とある雑貨店に人質五名を取り立て篭もったのだ。
強盗は爆破物も仕掛けたようで、迂闊に踏み込むことも出来ない。
ビルの二階にある雑貨屋。警察は建物の外から犯人との交渉の準備をしていた。
この物語は、そんなありきたりな場面から始まる。
「いいか、黙って大人しくしていろ・・・」
強盗は全部で三名。全員が覆面で顔を隠している。所持しているのは拳銃が二丁と鋭利な刃物が一本。その刃物は、現在強盗が抑えている一人の女性に向けられていた。
彼女はただの雑貨屋店員。自分に向けられている凶器に怯え、口を開くも声が出せない。
残る強盗二人のうち一人は、人質である四名の客に銃を突きつけている。
最後の一人は、店のレジを物色している。
この強盗犯の目的は、金銭だけだった。
現在レジを漁っているのがリーダー。身長が一番低く170センチほど。痩せ型。
彼がこの作戦を立案し、残り二人を口車に乗せて参加させたのだ。目的はこの作戦を成功させ、よりでかい次の作戦への繋ぐため。最終目的は銀行から全ての金を奪い去ることだ。
女性店員に刃物を突きつけている、一番大柄な男はリーダーの友人だ。女好きな彼は、虐待趣味というとんでもない狂気を持っている。暴力事件を起こし、少年院に入っていた経歴もある。
銃を突きつけているのは、大柄な男の弟。痩せているが身長は一番高い。180センチほど。
金がなによりも好きで、この世の全ては金で買えると信じている。
普通ならば、この犯人達の犯行は計画通りに進んでいた。だが、ここには一人のイレギュラーが存在していたのだ。
(ちっ、ついてないな。・・・さて、先ずは彼女をどうするかだな)
大人しくする振りをして、顔を伏せているの男こそ、この物語の主人公にして国民的英雄の新屋樹だ。
WBA──世界ボクシング協会のスーパーミドル級(72.575 - 76.204kg)の世界チャンピオンにて、無敗の超人。彼の試合の視聴率は40%を超えたこともある。
容姿も良いので目に付きやすい彼は、眼鏡などで軽い変装をしている。勿論伊達メガネだ。
犯人達に脅され、人質として囚われている中、抵抗できるのは彼だけだ。
他の人質は一様に怯え、この事件が去ることを心の底から願うだけの非力な一般市民なのだから。
中には、小学低学年の少年も居る。小刻みに震えて、そうとう怖いに違いない。
その姿を見て、樹は犯人達への対抗策を練る。ただ飛び出すだけじゃ駄目だ。女性店員を助けても、銃を撃たれればそこで終わる。
たとえ自分が当たらなくても、人質の誰かが撃たれればそこでおしまいだからだ。
(どうすればいい・・・・・・)
そんな時、動きがあった。
「くくく、なあちょっとくらい良いよなァ・・・」
「い、いやぁ・・・」
女性店員を押さえつけている男が、彼女の服を肌蹴させようとしたのだ。
首に刃物を突きつけたまま、空いたほうの手でブラウスを引きちぎる。
一気に何枚か破られ、下着が露わになってしまったが、女性店員は恐怖の余り抵抗も出来ていなかった。
「おい、やめとけって」
「あア?なんだよタク。じゃまするってか?」
「兄貴、レンさんは余計なことをするなって言っただろ」
拳銃をこちらに突きつけていた男が、刃物の男の行動を嗜め始めたのだ。
どうやら人質は怯えているから抵抗しないで居るだろうという、楽天的な思考が働いているようだ。
(しめた。あとは、あの男だけだが・・・)
リーダー格の男も、チラリとこちらを一瞥したが何も行動を起こさずレジを漁る。
金銭を見つけて、袋へ流し込んでいる最中だ。幸いこの店のレジは何箇所かあり、少し離れなければいけなくなっている為、リーダー格の男は30mほど離れている。
(行動するなら、今がチャンス!)
そう判断した樹は速かった。
即座にメガネを取り、地面へ置く。ジャケットを脱ぎ捨て、音も無く飛び出した。
そして、一直線に拳銃の男へ迫り、横合いから勢いと全身の体重を込めた右ストレートを打ち込む。
ぐしゃり。嫌な感触が右拳を包む。それは骨が砕けた感触だった。
「───!??」
声もなく、突然の衝撃に耐え切れなかった男は白目を剥き、殴られた勢いのまま棚へ倒れこむ。
刃物の男が気が付き、立ち上がりながら樹へ刃物を突き出す───。
「お、おらァ!!」
下から斜め上に突き出されたそれは、アッパーの軌道に似ていた。
(左斜め下から、軌道は直線、顔面狙い。対処は──)
右拳をすぐさま戻していた樹は、刃物の軌道を見てもあわてなかった。視界の端で、リーダー格の男がこちらへ気が付き戻ろうとしているのも見えた。
だからこそ、この一撃で眠らせる。その算段で、樹は刃物の内側に入り込むような左ストレートの打ち下ろしを決める。
「ぐべっ!?」
カウンター。立ち上がる勢いを利用しながらの突きを、体重を込めた打ち下ろしでカウンターを取られた刃物の男は一瞬で意識を刈り取られた。ついでに、鼻面をモロに食らったので、鼻の骨と顔面が骨折している。
人質は何が起きているのか分からなかった。突然自分達の後ろから飛び出した男が、瞬く間に二人の強盗犯を殴り倒したのだから。ただ一人、少年だけは目を見開いてその光景を逃さず見ていた。
「くそがっ!」
リーダー格の男が、走り寄ってくる。20メートル。銃で撃てば一発だろうが、彼にはその腕が無かった。しょせん脅しの道具、本物だが撃ったことは二三度しかない。
完璧に当たるのはせいぜい10メートル。だが、その距離はリーダー格の男と樹の実力さからすれば、近すぎた。
無言。銃を構えた男を見て、無言のまま樹はボクシングで言うタッキングしながら飛びこむダッシュで、弾丸が放たれる前に距離をゼロにしてしまった。
「ひ、ひぃっ!」
経験したことが無かった。強盗犯の男には、世界の頂点に立つボクサーの速さは計算外だったのだ。だから、口から悲鳴が漏れ手が震え、照準が狂う。
ダァンッ!
撃たれた弾丸は、樹の頬に赤い線を描くだけに終わった。
代わりと言わんばかりに、唸りを上げて繰り出されるゼロ距離での拳。
重心移動、腰の回転、肘の角度、速度。どれを取っても一級品のお手本になるような右フックが、完璧に犯人の男の頬骨に当たる。
べきぃ!
乾いた嫌な炸裂音が響く。同時に、右拳を振りぬいた先で犯人の男が血を吐きながら気絶した。
「・・・ふぅ、上手くいったなぁ」
僅か十数秒の間の出来事。たったそれだけの時間で、樹は三人の武装した男を気絶させ、人質を無傷で(女性店員は心の傷が残ってしまったが・・・)救うことが出来たのだ。
「た、助かったのか・・・?」
「うそ、私達生きてる!?」
「やった、やったぞおおおおお!!」
「ありがとうお兄さん!!」
四人の人質だった人たちが盛り上がる。その直ぐ後に、警察の機動隊が突入してきた。なんでも銃声が響いたから突撃したそうだ。
「いやぁ、貴方が犯人を昏倒させたようで。人質にされていた彼等から話は聞きましたよ、本当にありがとう御座います・・・って、貴方は新屋樹さん!!?」
一人の年配の警官が、樹にお礼を言いにきた。だが、彼が樹の正体を大声で叫んでしまったことで、周りが騒然とした。
いきなり、人質だったものや犯人を捕らえた者以外の機動隊員が詰め寄る。
握手してくれ。サインをくれ。助けてくれてありがとう。生で会えるなんて・・・。
強盗犯より珍しい、そして今までの恐怖を忘れさせるほどの人物。それが彼、新屋樹なのだ。
SAO オンラインゲームの中で拳闘士は生き残れるのか?
第一話 日本の英雄
「ふむ、これは実に興味深いな・・・」
真夜中。明かりが付いた室内で、研究服の男がパソコンのディスプレイを見ながら感嘆の声を上げた。
表示されているのは、昼間起きた事件の事だ。
“チャンピオンお手柄!銃と刃物で武装した犯人を素手で撃退!!”
そんな見出しで書かれている記事の内容は、日本のボクシング界の英雄である新屋樹の褒めちぎったモノが九割を占める。
研究服の男は、特に刃物を持った男との樹が対峙した場面を良く見ていた。
「突き出される刃物を、カウンターで撃退・・・。なるほど、これは“体術”に応用できそうだ」
面白いものを見つけた。そんな表情を浮かべる男は、三台並べているウチの右のディスプレイに目をやる。そこに表示されているのは、とあるゲームのモーション設定だ。
そのゲームの名はソードアート・オンライン。先日クローズドβテストが終わったばかりの、VRMMORPG作品。
ナーブギアと呼ばれる専用マシンを用いて、使用者の意識をダイレクトにネット世界へ飛ばすことでVRを実現したゲームの中でも類を見ないほどの自由度を誇るもの。
プレイヤーは剣一本で、全100層ある浮遊城・アインクラッドを攻略するという内容のゲームだ。
「彼にモーション作成のデータ収集協力を依頼しようか・・・」
それを眺めるこの男こそが、ゲームとゲームハードの開発者である天才・芽場晶彦だ。
面白そうに樹のデータを眺める芽場の目には、純粋な好奇心のみが映っていた・・・。
後書き
導入部です。主人公の強さを見せ付けつつ、伏線はりはり~。
さてさて、芽場さんに目を付けられた樹。どうなるでしょうか?
ページ上へ戻る