イン『スペクター』
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一章
イン『スペクター』
堀江由美子は警視庁で特別監察官の役職にある、その彼女についてだ。
警視庁の多くの者がだ、首を傾げさせていた。
「キャリアでもないのにな」
「ああ、まだ三十にもなっていないのに警視だ」
「しかも監察官というが」
「一体何を監察しているのか」
「よく外に出ているが」
「仕事は何だ?」
「何をしているのだ」
それがわからないとだ、誰もが首を傾げさせていた。
それは警視庁に大学を卒業して入ったばかりの奥野修治巡査も同じでだ、勤務の合間に先輩に怪訝な顔で尋ねた。
「堀江警視ですけれど」
「あの人か」
「はい、あの人は何なんですか?」
こう尋ねるのだった。
「一体」
「何なのか、か」
「二十代で警視ですよね」
「キャリアでないがな」
「それ凄くないですか?」
「凄いも何も普通はないな」
これが先輩の返事だった。
「高校を出てな」
「しかも高卒で」
「二十代で警視だ、しかも監察官だ」
「監察官って」
奥野はここでも首を傾げさせた、髪は短く刈り眉は補足て目は大きくしっかりとしている。唇は引き締まり中背だが剣道や柔道をしているのでしっかりした体格である。尚彼も高卒で高校を卒業してすぐに警官になっている。
「凄いですよね」
「ただ、特別でな」
「何を監察するかはですか」
「よくわからないんだよ」
「謎だらけの人なんですね」
「警視庁七不思議の一つとさえ言われているさ」
そこまでというのだ。
「とかくよくわかっていない人だよ」
「そうなんですね」
「まあ俺達には関係ないさ」
「警視庁の下っ端にはですね」
「だから俺達の仕事をしような」
「そういうことですね」
警官として市民の安全を守る、それ警察官の仕事だ。だからその仕事をしようとあらためて決意をするのだった。
そして彼は実際に自分の仕事をしていた、機動隊にいたのでそちらのだ。だがその彼に上司がだった。
急にだ、こんなことを告げたのだった。
「急だが転属になったぞ」
「転属、ですか」
「特別監察官付のな」
「特別監察官ってまさか」
「そうだ、あの堀江由美子警視だ」
その彼女の部下になるというのだ。
「そうなったからな」
「あの、本当に急な転属の話で」
奥野は驚きを隠せない顔で上司に言った。
「驚いていますけれど」
「しかも転属先がな」
「堀江警視ですか」
「そうだ、誰でも驚くな」
「はい、どうなるか」
「どうなるかは神のみぞ知るだ」
これが上司の返事だった。
「まあそう言うと怖いがな」
「怖くはないですけれど不安です」
「そうだな、とにかく謎しかない人だからな」
謎だらけどころかだ。
「そんな人だ、しかしな」
「はい、転属になったからには」
「その転属先で頑張ってくれ」
「わかりました」
奥野は不安を感じながらも応えた、もっと言えば応えるしかなかった。そして転属の用意に入ってだった。
転属の日に警視庁本部通称桜田門の特別観察官室の前に来てだ、まずはその扉をノックした。すると。
すぐにだ、扉の向こうからやや硬質な感じだが澄んだ高い若い女の声が返って来た。
ページ上へ戻る