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アルデンヌ1945

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第一章

                 アルデンヌ1945
 最初にその話を聞いた時にだ、ワルター=ノボトニー中尉は驚いて言った。
「機械化部隊でか」
「はい、アルデンヌの森を越えてです」
 ハンス=バルトシュタット少尉が彼に伝える。
「そのうえでマジノ線を迂回して」
「フランスを攻めるのか」
「マンシュタイン閣下の作戦です」
「あの方のか」
「あの方が総統閣下に作戦を提案されてです」
 そしてというのだ。
「その作戦が閣下に了承されました」
「そうか、しかしな」
「驚くべき作戦ですね」
「森は戦車や装甲車では突破出来ない」
 ノボトニーは既存の考えから言った。
「それがこれまでの常識だが」
「その常識をです」
「マンシュタイン閣下はあえてか」
「そうです、突破されるおつもりなのです」
「出来るのか」
「閣下のお考えでは」
「信じられないな」
 その青い目をいぶかしむものにさせてだ、ノボトニーは言った。長身で細面に短く刈った金髪である。ドイツ陸軍の軍服がよく似合っている。対するバルトシュタットも長身であるが彼は緑の目で髪の毛は灰色だ。そして顔立ちは彫刻の様に整っている。
「それは」
「そうですね、しかし」
「総統閣下のご決断だな」
「ですから」
「アルデンヌを突破するか」
「そうしてです」
「フランスを攻めるか」 
 腕を組んでだ、ノボトニーは言った。
「出来るかどうかわからないが」
「その様に動きます、我が軍は」
「わかった、ではな」
「我々もアルデンヌに向かうとのことです」
 二人共機械化部隊、その戦車や装甲車を使う部隊に所属している。それでだった。
「では」
「行くか」
「作戦発動の時は」
 こうしてだった、彼等は不可能と言われている機械化部隊による森の突破にかかった。確かに森の道は狭いものだったが。
 一両縦隊で通ることが出来た、ノボトニーは自身が乗る三号戦車のハッチから上体を出して後ろの三号戦車からやはり上体を出しているバルトシュタットに言った。
「本当にな」
「はい、戦車や装甲車でもですね」
「森を突破出来るな」
「こうしてですね」
「ああ、道が狭くて通りにくいが」
 それでもだった。
「確かに機械化部隊でもな」
「森を突破出来ますね」
「ああ、これでな」
「フランスを攻めてですね」
「マジノ線さえ越えられれば」 
 フランスの守りの象徴であり要であるそれをだ。
「いける」
「はい、必ず」
 バルトシュタットも頷く、そしてだった。 
 ドイツ軍は見事アルデンヌを突破しマジノ線を迂回したうえでフランス国内に雪崩れ込み一気に勝負を決した。フランスは降伏してドイツ軍はパリに入城した。
 そのパリにおいてだ、上等のワインを飲みつつノボトニーは共に飲むバルトシュタットに対して笑顔で言った。
「まさかな」
「はい、こんなに上手くいくなんて」
「俺達の勝ちだ」
「しかも圧勝です」
 誰がどう見てもだ。
「あのフランスが為す術もなくでした」
「負けたからな」
「我々に」
「それではです」
 まさにというのだ。 
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