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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第五十話

 バッチリ手当ても済ませて、敵が待機しているという街道の一角に差し掛かった。

 さて、ここは私が……と思ってたところで小十郎が駆け出していく。

 「俺が道を切り開く! おめぇらは政宗様を守れ!」

 ……あの馬鹿。

 身動きの取れない重傷者の次に酷い傷を負っている小十郎は、医者なら絶対安静と言い渡すほどに傷が深い。
特に腹の傷が深くて、いつどうなってもおかしくないほどに状態は良くない。
ま、風魔の診立てなんだけどね。風魔ったら忍のくせして医術にも明るいから尊敬しちゃったよ。
凄いって言ったらこれくらい出来て当然って返されたし。結構可愛くなかった。
いや、可愛くても嫌だけど。

 ってなわけで、あの馬鹿一人がどうにか出来るような状態じゃないわけだ。身体的な問題で。
普段なら行って来いって、放り投げても良かったんだけどね。

 「……風魔、悪いけどこいつら守ってくれる? 最優先は政宗様で。私、あの馬鹿どうにかしてくるから」

 風魔の返答を聞く前に、私も刀を抜いて駆け出した。



 手傷を負っても竜の右目は竜の右目、街道には死体がゴロゴロ転がっている。
爆発したような音や、駒が回ってるような音も遠くから聞こえてたりすんだけど、
それも私が到着する頃には綺麗に片付いていて、生きてる人間が一人もいない。

 ……とりあえず、小十郎が取っていかなかったおにぎりと神水回収しておくか。

 小十郎の後を追って走っていく途中で、ガス欠とばかりに膝を突いて休んでいる小十郎の姿があった。
それを隙ありとばかりに突っ込んでくる爆弾兵やら人間独楽の皆さんを纏めて浮かべてやり、しばらく身動きが取れないように固定しておく。
ややあって上空で大爆発して、バラバラと人だったものが落ちてくる。

 「へっ、汚ぇ花火だ」

 何処かの名台詞を引っ張って一言言ってやれば、それに敵が一瞬怯んで動きを止める。
そいつらをやっぱり纏めて浮かせてやって、先程同様に爆弾兵ごと宙で静止させてみれば、
また上空で爆発して人の破片が落ちてきた。

 「……姉上、えげつないです。やり方が」

 ドン引きって顔をした小十郎が咎めてきたけど、そんなことを気にするつもりは毛頭ありませんよ。
だって、今は非常事態だもん。やり方なんか選んでられないっての。

 「これくらいのヨゴレが出来なくて竜の右目が名乗れるかっての。まぁ、あんまり自分から名乗ったこと無いけど」

 またやって来た兵達を浮かせて軽く爆弾兵を探してみる。
が、どうも爆弾兵には数に限りがあるのかそれらしきは何処にもいない。
いや、この手の内を見られて意図的に爆弾兵を引かせたのかしら。それは有り得るかも。
だって、自前の爆弾兵を使って自前の兵を殺されちゃあ、無駄な損失だもんね。

 「小十郎、二択。アレを私が重力でべしゃっと潰すか、小十郎が鳴神アンド霹靂で倒すか」

 その言葉に小十郎が眉をひそめて立ち上がり、鳴神を上空に向けて放った。

 おっと、べしゃっと潰す方は回避したのね。うん、懸命な判断だ。
アレ、やると結構来るんだよねぇ~……潰した後の奴見ちゃうと丸一日は食事取れないというか。
一週間は肉食えないし。ハンバーグとか最悪。ま、そんなもん無いけれど。

 「小十郎動ける?」

 「はっ、この程度どうということは」

 まー、強がり言っちゃって。腹殴ってみようかしら。
まぁ、強がりを言うのは男の特権か。それを呆れた目で見て甲斐甲斐しく世話をするのが女の役目だけど。

 「ほいじゃまぁ、行きますかね」

 まともに相手するのも小十郎の体力を無駄に削るだけなので、
私がふわふわ浮かせて小十郎が鳴神で仕留めるというのを繰り返しながら進んでいく。
爆弾兵が出てくると兵を纏めてそこに束ねて爆発させてやるから、辺りは大変なことになっている。

 しばらく進んでいけば、妙なペアルック……いや、トリオルック? の三人組が立ちはだかってきた。
何か言ってたけど煩いから纏めて上空にふわふわ浮かせて、小十郎の鳴神でちまちま削って撃退してみる。
生まれ変わったら何とか、って言ってたけど、そういやこいつら三好三人衆じゃなかったっけ?

 「英雄外伝じゃしつこいくらいに出てきたってのに、こうあっさりと撃退出来ると……何か呆気ないというか何と言うか」

 「御存知なのですか?」

 関係ないと思いつつも主役級に登り詰めた小十郎が嬉しくって、ついつい英雄外伝のストーリーモードまでクリアしちゃったよ。
だから三好三人衆は良く知ってる。だってうざったいくらいに登場してきたし。

 けど、こっちの世界じゃ私は知らないことになってるし……適当な言い訳をしておかないと訝しがられるか。

 「まぁ、噂くらいはね。伊達に各地を回ってないから。
……そんなことより、陣を崩して先に進もう。……あ、小十郎コレ」

 小十郎が全く取らずにいたおにぎりを手渡してやる。大きい奴だから体力回復には持って来いだろう。

 「姉上、今は握り飯など食べている場合では」

 生意気にもこの私に逆らおうとしているので、眉間に皺を寄せてしっかりと差し出してやった。

 「いいから食え。つべこべ言ってると、無理矢理ねじ込むぞ」

 「……はい」

 渋々といった顔でおにぎりを食べさせて、体力回復を促しておく。
とりあえず入口付近にあった葛篭も壊しておにぎりと神水を軽くゲット。
小十郎が必要なければモブ達の体力回復に使ってやる。

 「少しは身体が軽くなった?」

 「……はい、軽くなりました」

 本当かどうか知らないけど、軽くなったんなら良かったよ。
腹が減っては戦が出来ぬ! って、言うじゃん。ま、回復アイテムだからいくらあっても困ることはないしね。
あ、でも日持ちはしないか~……保存料とか入ってるわけじゃないし。
神水も婆娑羅ゲージを溜めるには丁度いい……あれ、そう言えば私って婆娑羅技ってあったっけ?
今更ながら急に不安になってきたぞ?

 ゲームなら丸ボタン押せば出てきたけど、流石に今はそういうわけでも……
っていうか、ここまで来て技らしい技がないじゃん。
よく考えてみたら重力でふわふわ浮かせてるくらいで、特に技がないんだけど……。

 「……私って、ひょっとしたら何気に弱い?」

 「姉上?」

 もしかして、力はくれてやるから後は自分で勝手に作れって奴だったりとか?
もしそうだったら、この三十年間私何もして来なかったってことになっちゃう?

 と、とりあえず、奥州戻って考えよう。そうしよう。今は悩んでる暇なんかないない。
うん、ないない。……ないことにしておこう。

 「何でもない、陣崩してこよう」

 今は考えないことにしてサクッと陣を落としてみる。
ここは陣が二箇所あって、二手に分かれて陣を崩しに行ったんだけど、
もう一方で小十郎が苦戦しているようだったから、そっちに回って陣を落とした。

 やっぱり動きが鈍いな。下手すると倒れるのも時間の問題かも。

 「小十郎、やっぱり休んでた方が」

 「いえ、お気遣いなく」

 ……うーん、最悪の場合は強制退場ってことで考えておこうかな。

 そんな小十郎を気遣いながら、奥へと走っていった。
多分この先にこのステージのボスが待ち構えていることを予想しながら。 
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