| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

【仮面ライダー×SAO】浮遊城の怪盗

作者:蓮夜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

妖精境の宝物

 最初に行動に移したのは海東――ディエンドの方だった。ディエンドライバーの銃口をキリトに向け、引き金を引く度に光弾がキリトへと襲いかかった。

「はあっ!」

 ただし、その弾丸がかつての銃の世界以下の速度であるならば、それはキリトへ通じるわけがなく。《聖剣エクスキャリバー》の輝きが煌めく度に、その光弾は切り払われていき、キリトは翼を展開しながらディエンドへ接近する。

「やるね。でも僕にもやり方ってものがある」

『KAMEN RIDE SASWORD』

 キリトを光弾で牽制しながら、ディエンドは素早く一枚のカードをドライバーに挿入すると、音声とともに紫色の騎士がキリトの前に出現する。サソリのような姿をした騎士――サソードの剣を受け止めながら、キリトは先程のアスナを襲っていた謎の存在に合点がいく。

 海東の能力はこの騎士たちの召喚。兵隊や鞭使い、このサソリの剣士のような、この世界にありえない存在を生み出す能力だと。

「っ!」

 身軽なフットワークを駆使するサソードは、キリトといえども簡単に倒せる相手ではなく。一合、二合、と剣で鍔迫り合いを演じていると、キリトはいつの間にかディエンドの姿が消えていることに気づいた。

「こっちだよ」

「――――!?」

 ワープか高速移動か――突如として背後に現れていたディエンドのラリアットをしゃがんで避けつつ、唐竹割りをかまそうとしていたサソードの足を切り裂きながら、空中を飛ぶ能力がないディエンドから逃げるように飛翔する。スプリガン特有の黒い翼は太陽の力を借り、いつも以上にキリトの意志通りに動いていた。

「ヒュー。ならコイツかな」

『KAMEN RIDE SAIGA』

 足を負傷したサソードは用済みということか姿を消し、ディエンドは新たなカードをドライバーに挿入する。空中を飛翔するキリトはそれを見過ごしておらず、どこから新たな騎士が召喚されるか気を張り巡らせていると、その気配は――上空。

『It's show time!』

 浮遊城のさらなる上空に流暢な英語を発する、純白の鎧にコバルトブルーの線が入った騎士――サイガが、その背面に背負った飛行用ユニットによりキリトの上を行っており、上空から弾幕を眼下に臨む光景に撒き散らす。

「嫌な奴を思い出させる上にキリがない……!」

 先のサソードや今のサイガ。何か誓約があるのかも知れないが、何にせよ大元のディエンドを叩かなくてはきりがない。キリトはサイガが発した、かの殺人ギルドの合い言葉を思わせる言葉も含め、そうして毒づきながら――このまま空中を飛んでいても、ただジリ貧になるだけだと、ディエンドが待つ地上へと急降下する。

 ただしそれをサイガが許すことはなく、飛行用ユニットの機動力を活かしてキリトの上空に追尾し、キリトが降下しようとした隙にエネルギー弾を撃ち込んでいく。降下しようとすれば直撃するように。

 だが、このままサイガを倒そうとこれ以上飛翔すれば、海東は恐らくその隙にユイを攫って逃げる。海東からすればキリトを倒すのが目的ではなく、キリトもそれを妨害出来るギリギリの距離を飛んでいる。上空から続くサイガの攻撃を避けながら考察するキリトに、地上にいるディエンドから声をかけられる。

「どうしたんだい。見せてみろよ、君の力を」

『ATTACK RIDE BLAST』

 新たなカードにキリトは警戒を強めたものの、それは鎧の騎士を召喚するためのカードではなく。ディエンド自身を強化するものであり、そのカードの場合はディエンドが放つ光弾の強化。引き金が引かれて放たれた光弾は、先程のものとは同じものではなく、数え切れないほどの光弾が全てキリトへと誘導されていく。

 そこにタイミングを合わせ上空のサイガも弾幕を張り、キリトは上下から囲まれるように、その身を襲う光弾が迫っていく。どこかに避けようにも、誘導されていくディエンドの光弾からは逃げられず、キリトは交差するエネルギー弾によって生じた煙に消えていく。

「なんだ呆気ない」

 キリトから興味をなくしたように海東が呟くと、煙の中から飛翔する力を失った人間サイズのものが地上に落下する。

 ――腹部に剣が刺さったサイガが。

「流石はリズの剣だ。助かったよ」

 続いて煙の中から傷一つ無いキリトが着地し、サイガに刺さった剣を抜き放つ。ダメージを負ったサイガは消滅していき、キリトは二刀を構えてディエンドに対面する。

 光弾に襲われる直前にキリトが起こした行動は、アイテムストレージからもう一本の愛刀を取りだすこと。エクスキャリバー入手からは、ある感傷から二刀流を使っていなかったが、今はそんなことを言っている場合ではない。剣を回転させることで盾とするソードスキルを二刀で行うことにより、上下の光弾を全て防ぎきった後、新たに取り出した剣をサイガへと投擲した。ピッタリとキリトの上を取った位置取りが仇となり、サイガはそれに直撃し、今の状況へと至る。

「……そこそこやるようだね。見直したよ」

「そりゃどう……もっ!」

 心底そう思っていないような海東と、それに返答するキリトの会話で戦いは再開される。二刀をもって斬りかかるキリトに対して、ディエンドは持ち前の高速移動能力で対抗する。キリトの倍近い移動速度は伊達ではなく、動くだけでキリトを翻弄していたものの、あいにくとその距離はキリトの距離だった。いくら速かろうが、二刀を持ったキリトに反応出来ないものはない。

「そこだ!」

「ぐ!?」

 ナナメ後ろからキリトの首もとに、チョップを繰り出そうとしたディエンドに過敏に反応し、キリトの右の剣がディエンドの胸部を捉えた。そのまま左の剣によるソードスキル《スラント》に移行するが、その時にはもうディエンドは後退する。

「相手の土俵で戦うもんじゃないね、僕としたことが……」

『ATTACK RIDE ILLUSION』

 キリトから離れて新たなカードをドライバーに挿入すると、次の瞬間にはディエンドが六人に分身していた。もちろん携行武器であるディエンドライバーもあり、どれが本物なのか区別がつかないほど精巧だ。

「さて……」

「させるか!」

 揃って銃を構えるディエンドに、物怖じせずにキリトは自分から飛び込んでいく。単純に六倍となった光弾は右の剣で防ぎつつ飛翔し、光弾を避けながらすぐに急降下して着地し、一番近くにいたディエンドを切り裂いた。するとそのディエンドは消えていき、イリュージョンの名前の通り偽物だったと理解した瞬間、残りのディエンドが着地した態勢のキリトを取り囲んでいた。

『ATTACK RIDE BLAST』

 それぞれのディエンドが先程の光弾強化のカードを用いると、同士討ちも構わず中央のキリトへと狙いをつける。着地して一体に攻撃していた態勢のキリトに、これから散弾銃のように放たれるそれらを避けることは出来そうになかったが、ディエンドたちからその光弾が放たれることはなかった。

「…………」

 キリトが立ち上がって血を払うように剣を振るうとともに、キリトを囲んでいたディエンドは全て消えていく。先程の着地時の攻撃とともに消えていった、一体目のディエンドのように――要するに、既にキリトは全てのディエンドに致命傷を与えていたのだ。

 ただし、その全てがイリュージョンの名の通りに消えていったということは、本物のディエンドはそこにはいないということと同義であり。それを後押しするかのように、キリトの肩を光弾が撃ち抜いた。いや、全てのディエンドが消えたことに違和感を覚えたキリトが、超人的な反応速度でその程度のダメージで済ませた、というべきか。

「おいおい化け物か」

 いつの間にかキリトの視界から抜け出していた本物のディエンドが、キリトに銃口を向けながらそうしてうそぶいた。キリトは肩の負傷を確かめ、まだまだ戦うことは可能だと、HPバーも含めて確認する。

 そして海東に気づかれないように、倒れたままのユイのことをチラリと見る。依然として眠ったように動かないままだったが、その位置は海東から離れていっている。この位置取りならば、海東はキリトを無視してユイを盗み去ることは難しい――高速移動をされなければの話だが。

「こいつらはレア物だ。光栄に思いたまえ」

『KAMEN RIDE BLADE GARREN』

『FORM RIDE JACK』

 腰のケースからカードを取り出した段階で、キリトはそれを妨害しようと駆け出すものの――距離が遠い。結局はディエンドライバーへのカードの挿入を邪魔出来ず、ディエンドの前に二体の騎士が召喚されたかと思えば、どちらもみるみるうちに翼が生えていく。

 さらに青いスペードの騎士、《ブレイド》には雷の力が。赤いダイヤの銃士、《ギャレン》には炎の力がそれぞれ付与される。どちらもふわりと飛翔すると、ブレイドはキリトへと斬りかかってきた。

『ウェェイ!』

「……っ!」

 左の剣で受けとめて右の剣で反撃――としようとしたキリトだったが、ブレイドの剣が纏った雷を警戒し、右にぐるりと側転することでやり過ごす――と、そこをカバーするようにギャレンが立ちはだかっていた。

「ぐっ!」

 ギャレンの炎を纏わせた銃撃を切り払っていると、その隙に近づいてきていたギャレンの蹴撃がキリトの横腹を捉え、溜まらずキリトは吹き飛ばされる。翼を使いながら何とか態勢を立て直すと、持っていた左の剣がどこかへ吹き飛んでいった。剣を支えていた左手にピンポイントに銃撃が加えられ、その支えを失ってしまった結果だ。

「ビンゴだ」

 その正体は放たれていたディエンドの援護射撃。どこかへ飛んでいった剣を探して拾う暇もなく、すぐさまブレイドの剣から放たれた雷撃が迫り来る。雷光とはよく言ったもので、その光の如き速度で迫る雷に、キリトは正面からエクスキャリバーで立ち向かう。

 しかし先程までの銃撃とは違い、剣で切れるものではなく。雷光とぶつかったエクスキャリバーはビリビリと放電していき、好機と見たギャレンが上空から炎の銃弾の雨を降らせていく。

「ハァァァァッ!」

 しかしてその銃撃は、裂帛の気合いとともにキリトに薙払われる。その速度は雷撃の影響を全く感じさせず――いや、むしろ雷光のような速さで、目の前でディエンドを守るように立ちはだかっていたブレイドに、片手剣最上位突進系ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》を直撃させる。

 ALOに改めて導入されたソードスキルは《属性》の概念を取り入れており、キリトがブレイドの雷撃に対抗したのも、雷を伴ったソードスキル。その特性は敵の雷属性の攻撃を吸収、こちらの攻撃に加えるというものであり、ブレイドの力強い雷撃を受けてその効力は最大限発揮された。そしてその影響からキリトは、今この瞬間だけ、雷の如き力と速度を得ていた。

「チッ!」

 何故かブレイドの背中に向けて銃口を構えていたディエンドが、キリトの勢いに舌打ちとともに離脱する。《ヴォーパル・ストライク》を直撃させたブレイドに、そのまま体術スキルとの合わせ技《メテオブレイク》で隙を無くしつつ、追撃の強打を与えブレイドを消滅させる。

 ソードスキル後の硬直を無くす《メテオブレイク》により移動が可能になり、キリトはそのまま空中へ飛翔する。そうして背後から足元を狙っていたギャレンの銃撃を避け、空中で宙返りをしながらギャレンと軸を合わせると、ギャレンの銃とキリトの剣が同時に交差する。

「せやっ!」

 ――しかしギャレンが引き金を引くより、今のキリトの剣速は速い。片手剣四連撃ソードスキル《バーチカル・スクェア》が全て炸裂し、ギャレンは他の例に漏れずに消滅していき、キリトはスタリと地面に着地する。

「なら――」

「――させるか!」

 そんな様子のキリトをらしくもなく警戒しながら、ディエンドはさらなるカードを足のケースから取り出すが、そのカードはキリトが投げたナイフに風穴を空けられる。これ以上小細工はさせない、と言わんばかりの威圧感を見せるキリトと、カードというお宝に風穴を空けられた海東が対峙する。

「光栄に思いたまえ。僕が少しばかり追い込まれたのは、随分と久しぶりだから」

「……随分と弱い奴がいる場所ばかり旅してきたんだな」

 ディエンドに変身した海東の目は見えないが、キリトは二人の視線が合ったように感じられた。その数秒間の対峙を終え、キリトが翼を伴ったダッシュで、ディエンドに向かっていくことで再開する。

 キリトとディエンドの距離はそこまで離れておらず、キリトの飛翔速度ならば五秒とかからないだろう。だがそんな数秒の間にも、当人たちにとっては激闘が繰り広げられる。

 圧倒的な速度で接近するキリトに対し、やはりディエンドはケースから数枚のカードを取り出した。もちろんそれを読んでいたキリトは、飛翔しながらも用意していた投げナイフを投げ、先のように風穴を空けようとするが――それは高速移動によって避けられる。ならば、とディエンドがドライバーに挿入するより速く、効果が発生するよりも速く、キリトはディエンドに斬り込むしかない。

『ATTACK RIDE――』

「ってぁ!」

『――BARRIER』

 だが、海東とてキリトの速度を甘く見てはいなかった。選んだカードは新たなライダーの召喚ではなく、その特性上最速で発生するバリアのカード。ディエンドライバーの銃口から展開されたバリアは、キリトの上段からの勢いが籠もった一撃ですら防いでみせた。

 ただキリトは一度防がれた程度で諦める人間ではなく、弾かれた剣と身体を無理やり引き戻し、バリアを破る第二打を加えようとしたところ――バリアが何もしないうちから消えていく。

 それは銃口がキリトの前に晒されるという意味だけ――たとえこの距離で放たれた銃撃も、今のギアが入ったキリトなら避けてみせただろう――ではなく、新たなカードがドライバーに挿入されるということ。今更新たな騎士を召喚したところで遅いのは、海東自身も百も承知であり。ならば、この局面で選ばれる必殺技は。

『FINAL ATTACK RIDE DIDIDIEND!』

「お痛が過ぎたようだね。さよならだ」

「――――」

 ディエンドが放つ最大出力のビーム砲。それが零距離でキリトに放たれた。その音声と雰囲気から、直前で切り札だと察したキリトも、バリアにぶつける為だった攻撃を、突如そのビームへの防御に回す。

「う……おおおおっ!」

 キリトの気合いの雄叫びとともに、ソードスキルはディエンドの切り札とぶつかり合うが、あまりにもその火力は違っていた。キリトは吹き飛ばされないことと、致命傷を避けるのが精一杯であり、防御はしているものの削りダメージだけでHPバーはレッドゾーンへと落ち込んでいく。

 ディエンドの切り札の照射が終わったその時には、防御のしすぎで力を失ったキリトの右手からエクスキャリバーが落ち、キリト自身も力なく地面に倒れていた。それでも折れていない聖剣と、生きているキリトに海東は脱帽しながら、勝負はついたと嘆息する。

「まだ、だ……」

 しかし海東は、大出力のビームの直撃を受けたにもかかわらず、近くに転がっていた《聖剣エクスキャリバー》を手で探し、反撃を試みているキリトを見る。興味のない聖剣を適当に蹴りつけて吹き飛ばし、倒れたキリトにディエンドライバーの銃口を向けるが――この世界は電脳世界だったことを思いだす。別に銃で頭を吹き飛ばそうが、世界を旅してきた海東自身と違って、本物の《キリト》には何のダメージもない。

 ――何とも羨ましい話だね、と海東は鼻で笑いながらキリトから目を離し、この世界のお宝である《Yui-MHCP001》を回収しようとすると――近くに横たわっていた筈の少女の姿が、ディエンドが捉える視界のどこにもいない。

 どうも今の戦いに熱くなっているうちに、目が覚めて逃げられたらしい。お宝のことを忘れるなんて、と海東は自嘲しながらも、どうせ逃げられない場所に今はいる。ゆっくり探せばいいと考えた海東の胸部に、突如として斬撃のダメージが加えられた。

「なに……?」

 海東がダメージを負った原因は二つ。所詮は電脳空間における仮想世界だと侮ったことと、お宝を《Yui-MHCP001という名前のプログラム》としか見なかったことだ。仮想世界だろうとそこに生きているんだ、とSAOで学んだキリトと、ユイという『人間』は、この状況だろうと決して逃げたりはしない。

 ――結果として。弾き飛ばされていたリズの剣を回収していたユイと、それを受け取っていたキリトの一撃をもろに受け、ディエンドは火花をあげながら後退した。

「っ…………」

 とはいえ最後のあがき同然であり、キリトにはもうディエンドと戦って勝てる見込みはない。とはいえ――ただでやられる気もないが。

「……認めてあげよう、君たちの力を」

『ATTACK RIDE INVISIBLE』

 ……だが、海東は脱出用のカードを使って消えていく。海東の『目的』の為にも――ここでこれ以上のダメージを負う訳にはいかなかったからだ。そして海東が消えて数秒後、キリトは緊張の糸が途切れたように倒れ込んだ。

「パパ!」

 ALOにおける本来の姿、ナビゲーション・ピクシーの姿となっていたユイが、倒れ込んだキリトを心配して駆けつける。キリトは随分とやられたHPをポーションで回復しながら、何とか半身を起こしてユイを撫でる。

「あ、ああ……ユイも、大丈夫か?」

「大丈夫です。調べてみましたが、特に何かされた形跡はありません」

 最初に気絶したような状態にされた以外は、だが。ようやく疲れ果てていた身体も力を取り戻し、改めてキリトは先程まで戦っていた人物――海東大樹という男について考える。

「何だったんだ、あいつは……」

 異世界を旅するトレジャーハンター。見たこともない何かを操るその姿。あれほどまでに執着していた、ユイというお宝を目の前にして、去る時は異常にあっさりと諦めていった――まるで分からないあの偉そうな男に、キリトは考えるのを止める。きっとこれは、考えても仕方のないことなのだろう。

「じゃあ帰ろうか、ユイ。アスナも心配してるだろうし」

「はい! ……でも、どうやって帰ればいいんでしょう……?」

 ユイのその言葉にキリトもハッと気づく。海東に連れてこられたこの浮遊城上空、降りようにも見えない床があって降りられず、以前来た時は現実にログアウトしていた。……いや、あの時はまた特異な状況だったが。

 ――とりあえず脱出口はないか探してみるか、と立ち上がりつつ、海東に蹴りつけられた《聖剣エクスキャリバー》を回収する。二対の剣を鞘にしまいながら、とにかく歩こうとした瞬間、灰色のオーロラがキリトとユイを包み込んだ。来た時と全く同じ感覚に、帰れるのか安心したキリトが見たものは。

 ――まるで地獄のような光景だった。

「お、おいおい……どこだよ、ここ……」

 空は血のように真紅に染まっており、周りの木々はありえない灰色をしている。世界自体にヒビが入ったように割れており、他のプレイヤーどころか人間の気配も感じない。それでも、それでもどこかキリトには、その光景に既視感があり――しかし理性が認めたくなく、震える顔で肩に乗った妖精姿のユイを見た。

 冗談だろう、と。自分が感じた最悪の想像を笑ってくれ、と。

「パパ……ここは……」

 ユイの震える声とともに、キリトの視界にある建物が映った。丹誠込められて作られたログハウス――だったものか。もはや家としての役割を果たせないほどに壊れており、材木は一部が腐り果てていた。そのログハウスから感じるのは、既視感などという生易しいものではない。

 ――俺たちの、家だ。

「……新生アインクラッド第二十二層。私たちの家がある層です……」
 
 

 
後書き
「パパ……ママだけじゃなく、プレイヤーの反応がどこにもありません……」

「……まさか、この世界全てとソレを天秤にかける訳じゃないだろう?」

「やってやるさ。俺が世界の破壊者だ」

 次回 『世界の破壊者』

 全てを狙い、全てを掴め――
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧