『曹徳の奮闘記』改訂版
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第七十七話
俺と甘寧は劉協を救助すると雪風と一緒に急いで城へ戻った。
「甘寧と雪風は劉協陛下と一緒に風呂入ってやってくれ。身なりを整えてから美羽に会わせる」
「分かった」
「こちらは任して下さい長門さん」
俺の言葉に甘寧と雪風はそう答えた。
「………此れからが大変だな………」
俺は城の廊下を歩きながらそう呟いた。
え? 覗きはしないのかって?
甘寧がいるだろ、即死ぬよ俺。そこまでして死にたくないしな。
―――玉座―――
「ふぅ、さっぱりしたぞ王双」
「そうですか。それは良かったです」
風呂上がりの証拠である水滴が陛下の髪に付着している。
「これは陛下。わざわざこのようなところへ………」
美羽が陛下に臣下の礼をする。
「構うことはないぞ袁術。今の私は皇帝では無い。ただの劉協だ」
陛下は髪を拭きながらそう言った。
「しかし陛下。何故あのような場所に?」
俺は皆が知りたい事を聞いた。
「うむ。実はな、皇帝を退位してから旅に出たのだ。勿論無断でな」
『……………』
陛下の言葉に俺達は思わず唖然とした。
雪蓮も唖然としてるからこれは凄いな。
「途中まで旅をしたのは良かったんだが、盗賊に捕まってな。犯される寸前に自力で脱出をしたんだ」
「………よく脱出出来ましたね」
「なに、盗賊の中に私を慕っていた者がいてな。囮になって私を助けてくれたのだ」
陛下はその事を思い出したのか顔をの表情を暗くする。
「それで必死に山の中を逃げたんだが、とうとう崖のところで盗賊に追い付かれたんで、死ぬ覚悟で飛び降りたよ。下が川で良かった」
ハッハッハと陛下が笑う。
「それで流木に掴まってそのまま川の流れに任せていたんだ。そこへ王双達と会ったのだ」
「話は分かりました。しかし陛下、何故旅を?」
俺は陛下に聞いた。
「私は陛下ではない」
すると陛下がプイッと顔を背けた。
「………これは失礼しました。では劉協殿と」
「………まぁいい。私が旅に出たのは庶民の暮らしを見るためだ。私が皇帝を退位しても宮殿内は息苦しくてな」
「………それで劉協殿は今後どうなさるおつもりですか?」
「言っておくが宮殿には戻らんからな。私は皇帝でも無いし、あそこにいる理由は無いのだからな」
「で、ですが元皇帝です。この戦乱を最後まで見なくて宜しいのですか?」
そこへ美羽が口を挟んだ。
「ふむ………なら袁術軍に厄介になろう」
『………………へ?』
「袁術が戦乱を最後まで見なくていいのかと聞かれたんだ。なら袁術軍に厄介になろうと言っているんだ」
………………この劉協は馬鹿なのかそれとも何か計算しているのか?
「………分かりました。ならば我が袁術軍が引き取りましょう」
美羽はそう言って俺を見た。
………非常に嫌な予感がするんだが………。
「長門。お主は劉協殿を監視兼部下としておいてくれまいか?」
「拒否権は無いのですか?」
「無いに決まってるじゃろ」
「………了解しました」
………やっぱり………。
「ふむ、王双なら私も文句は無い」
いや偉そうに言わないでよ。
「劉協殿。厄介になるのは構いませんが、劉協殿とバレないように名前を変える必要がありますが宜しいですか?」
「構わんぞ。厄介になるのだからそちらの願いを聞くのも当たり前だ」
「………名前、何にする?」
劉協殿から了承を貰うと皆に聞いた。
『………………』
……いや、お前ら何か言ってくれ。
「………そこは初めに言った長門が付けるべきじゃないのか?」
クロエがポツリと呟いた。その言葉に皆が頷いた。
付けたくないんだな。分かるよその気持ち。
「うむ。王双が付けてくれまいか?」
劉協殿が言ってきた。
………逃げ道は無いのか。
「それじゃあ………劉曄で」
問題は無いはず………多分。
「うむ、劉曄か。分かった、これより私は劉曄とする」
劉協殿―――劉曄殿が喜んでいるから大丈夫だろう。
「言っておくが、王双は私を殿とか付けるなよ? 名目上は王双の部下だからな」
「………分かりました………劉曄」
………前途多難だよな。
後書き
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