スクマーン
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第二章
「面しているんだ」
「そうなんだな」
「ブルガリアにも海があったのね」
「内陸かって思っていたら」
「それはハンガリーとかでね」
他にはチェコ、スロバキア等だ。オーストリアも今はそうである。
「ブルガリアにも海はあるよ」
「その黒海」
「そうなんだね」
「そのこと覚えてくれたら嬉しいよ」
ニコラエは温和な笑顔で日本の友人達に言う、しかし。
休暇でブルガリア、彼の住んでいるその黒海沿岸の街バルナに帰った時にだ、家族に苦笑いで漏らした。
「僕は日本のこと知ってるけれど」
「日本人の方はか」
「ブルガリアのことを知らないのね」
「そうなんだ」
父のマクシムと母のソフィに言うのだった。
「これがね」
「ヨーグルト位か?」
「それと薔薇と」
「あと力士だよ」
この三つ位だというのだ。
「ブルガリアっていうとね」
「力士はな」
マクシムは自分の若い頃そっくりの息子を見つつ言った、今は三人で家のテーブルに座ってコーヒーを飲みつつ話をしている。
「日本だろ」
「相撲のね」
「ここはレスリングだ」
欧州だけあってだ。
「また違うがな」
「ブルガリア出身の力士が人気があったから」
「琴欧洲だったわね」
母のソフィが言って来た、奇麗な波うつ金髪を長く伸ばし青く奇麗な目をしている。顔に少し皺が目立つが顔立ちはまだまだ整っている。
「確か」
「そう、その人がね」
「人気があってなの」
「それで有名だけれど」
「それでもか」
「まずヨーグルトがきてね」
苦笑いで言うのだった、このことを。
「次に薔薇で」
「最後に力士か」
「その三つだけなのね」
「あと歴史だよ」
ブルガリアの、というのだ。
「トルコから独立とか共産圏とかね」
「そうした話ばかりか」
「他にはないのね」
「何かね」
どうもという口調で言った言葉だ。
「日本人ブルガリアのことは知らないね」
「アジアにあるからな」
「それも大陸の外にね」
「だからだな」
「あまり知られていないのね」
「僕も日本のことはまだまだ詳しくないけれど」
留学していてもというのだ、まだ不勉強だと実感しているのだ。
「けれどね」
「日本の人達はもっとか」
「ブルガリアについて知らないのね」
「そのことが残念だね」
どうにもと言うのだった。
「このことが」
「やれやれだな」
「日本の人達にはもっと知って欲しいわね」
「何しろね」
ニコラエは両親にさらに言った。
「ブルガリアが海に面していることすら知らないからな」
「そこまでは」
「知られていないのね」
「この街なんかね」
その海を見た、家の窓の外に見える黒海を。
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