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『夢の中の現実』

作者:零那
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『尾行』



今日は仕事が休みだった。
父さんはトイレにこもりっきりだった。
亀井サンはテレビ観ながら笑ってた。

零那は、父さんに一言声を掛けてから買物に出た。
帰って来たら、父さんの靴が無くて亀井サンに聞いた。

『今さっき、コンビニ行くって出たとこやで』

そう答えた亀井サンは、思い付いたように急に慌てて必死で何かを探し出した。
嫌な予感...

『...何?...何してんの?』

『きっ...金庫っ!...何処やっ!』

『え、父さんに渡してるで』

『何でやねんっ!あかんやろっ!あん中ファイル入ってんねんでっ!!零那チャンのっ!!』

『...マジか...』

もしかしてトイレで読んでたん?
あかんやん...
あかん...頭廻らん...

亀井サンは頭抱えて何かブツブツ言ってる。

てか何でファイル入れてんねん!!
そもそも何で金庫解除できんねん!!
...って、今はどぉでもええわ!!
どないしよ...

冷静になれ!!
必死で言い聞かす。
闇雲に探しても意味が無い。
頭使わなあかん。

あのファイル読んだんなら確実に殺しに行く筈や。
でも、通帳見てるなら殺意より現金かな。
どっちやろ―――...
どっちみち交通費要るしATMは行くやろな。

一応、買ってきたものを片付けながら台所の確認。
刺身包丁が無い!!
此処に掛けてたタオルも無い。

亀井サンに背を向け、バレずに流しで包丁をタオルにくるむくらい簡単。
服も着替えた形跡が在った。
隠し持って出たのは事実。

取り乱して動いたワケじゃ無さそうやし、冷静に動く筈や。
此処で零那が冷静に動かんかったら更なる事態悪化を招きかねん。
...って、亀井サンが慌てふためき過ぎて、逆に零那が冷静になれたってだけやけど。
本来なら、零那も冷静になれてない筈やから...
ついさっき迄パニックやったし。

まず、父さんにバレずに父さんを探さなあかん...。

亀井サンを落ち着かせて、此処からどう向かうか、ルートと時間を調べて貰う。

とにかく出よう。
毎日渡してたお金で手持ちのお金はマダ在るだろうけど...
なんとなく、確認なり何なりATMは確実に行くと思った。

ファイルを読んで殺意は沸いたかも知れんけど、現金見たら解らんよね...
正直、そこまで愛されてる自信は無かった。

借用書の分、全部支払って、尚且つ貯金もした。
父さんは、やっと身軽に成れるのに今このタイミングで殺人とか、捕まって刑務所で人生棒に振るやん。
そんなアホな事せんやろ?
普通なら...。

殺人罪で捕まるくらいなら現金に目が眩んでくれた方が断然マシ。
心底そう思った。
だから、ATMじゃなくて受付で全額出してた父さんの姿を発見した時、正直ホッとした。

ATM使い方解らんかったんかな?
それとも引き出し限度額とかあったっけ?
零那は1回で15万以上引き出す事が無かったから、引き出し限度額とか知らんかった。

父さん、全額出してどぉするつもりなんやろ...
お願いやから、ギャンブルとか一瞬で消えるような使い方はせんといて欲しい。
虚しくなる...

父さんが出て来たから尾行する。
亀井サンと一緒やと目立つから別行動での尾行。

刺身包丁は何処に隠してんねやろ。
見た感じでは衣服の違和感とか無いし。
でも、殺人免れたとしても銃刀法やし、何も起こさず帰宅する事を願う。

零那の携帯のバイブが鳴った。
父さんから...

『零那、父さん急に用事が出来たんや。今迄ほんまありがとな!!亀井と留守番シッカリ頼むで!!』

嫌やっ!!
こんなメール!!
絶対行ってしまうやん...

亀井サンに本文転送した。
亀井サンから返信。

『敢えて普段通り返してみ。今の現状一切解ってない感じ、とぼけた感じで』

とぼけた感じ...
父さんに返信した。

『どしたん?急に!御飯は?帰って来るんいつ頃なんの?』

『いつ頃かな。解らんから帰る時メールするわ!
零那、ほんまありがとな!!ほんまに、ほんまに、ありがとな!!』

『なんなん!!サヨナラするみたいな言い方ヤメてや!!今、何処なん?』

『父さん、せなあかんこと出来たんや。ほんまはなんとなく解ってた事なんや...
目を逸らして、見てないフリしてしもた。怖がってしもた父さんが悪かってん。
父さんがせなあかんことやねん』

『父さん、何をせなあかんのん?』

返事は来ん様になった。

フェリー乗り場に来た。
懐かしい。
大阪を出る時、此処でフェリーに乗った。
記憶が鮮明に蘇る。

そんな過去を思い出しつつ、一瞬気を抜いてしまってたら、父さんが案外近くに居てビックリした。
でも、たぶん平気。
父さんと暮らしだしてからの服装は、今迄の人生で着たこと無いデザインの服。
袖が在ってフワフワしてる服。
それにロングスカート。
そんなんが主になったから。
趣味じゃないしどぉでも良いから店員任せに買ったやつ。
間違っても零那のいつもの格好、キャミワンピやキャミ+ミニスカの網タイツ+ピンヒールってのじゃ父さんと生活できんかった。
でも今は尾行中。
だから逆に零那は元々の格好で居る。
バレにくい筈...

父さんを見てる感じ、殺気立ってる気配も無い。
妙に落ち着いてるし、心配無いんかな?


 
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