イエ
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第五章
「この服はイエといいます」
「イエっていうんだ」
「はい、そうです」
「色々な柄と色だけれど」
観光客は少女の言葉を聞いて彼女達を見つつ述べた。
「スカートにしても」
「それぞれの地域によって違いまして」
「ルーマニアの」
「はい、イエはこのブラウスのことです」
胸、自分のブラウスに右手を当ててだ。少女は微笑んで答えた。
「この白地の」
「そうなんだね」
「白糸が基本で」
少女は観光客にさらに話した。
「西では赤糸、南では黒糸、場所によってはその両方を使って」
「そうしてなんだ」
「刺繍を入れています」
「その刺繍は」
少女の着ているそのイエの刺繍を見るとだ。
縦に黒と赤の色が交差する様にして螺旋と幾何学の模様が胸全体と袖にある、袖のところは紐で縛ってもいる。
その刺繍を見てだ、観光客は言った。
「それでそのイエは」
「はい、そうした地域のイエです」
「そうなんだね、あと」
観光客はさらに問うた。
「スカートは色々だね」
「はい、このスカートは広いですね」
「フレアーみたいにね」
「こうしたものもあって」
少女はスカートについても説明した。
「北は細くて長いタイトなものでして」
「ああ、あるね」
「バカウ地方では巻いていて短めの暗い色で」
見ればそうしたスカートの娘もいる。
「そして西ではギャザーなんです」
「本当にそれぞれなんだね」
「はい、我が国の服は」
「イエが基本でも」
「そうなんです」
「いや、帯も奇麗で」
刺繍だけでなくそこも見てだ、観光客は言った。
「これはいいね」
「お気に召されましたか」
「とてもね、スカーフもいいしね」
少女達が頭に被る様にして巻いているそれもだ。
「これもまたルーマニアなんだね、音楽もいいし」
「そしてです」
少女は今度は観光客にある場所を指し示した、そこは。
立ち並ぶ出店だった、その通りを見せて言うのだった。
「お食事もどうぞ」
「ルーマニアのだね」
「お酒は無料です」
「サービスに書いてあったね」
「はい、遠慮なくどうぞ」
これは実際に観光客を寄せるサービスである。
「お料理も安いですから」
「そうだね、宣伝通り」
「そちらもお楽しみ下さい」
「それじゃあね」
少女達からワインを出してだ、観光客達にどんどん飲ませて出店にも案内して食べさせた。ルーマニアの音楽は絶えず演奏され。
客達はルーマニア文化のフェスタを堪能した、このフェスタは欧州を中心に世界で評判を呼ぶまでに好評だった。
イエも音楽も料理も好評だったが特にワインが有名になった、そのワインの中でもモルダヴィアワインが知られた。
「美味かったな、あのワイン」
「白で甘くて」
「いや、よかった」
「本当に飲んだ」
無料支給のこともあってだ。
「吸血鬼だから赤ワインと思っていたら」
「白ワインもよかったんだな」
「これは取り寄せたいな」
「通販で買おう」
「ルーマニアに行っても飲もう」
「ルーマニアワインもいいぞ」
こちらも話題になった、そして。
ゲオルゲの店でもだった、観光客達はこれまで以上にワインを注文した。そして浴びる様に飲んでいた。
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