真田十勇士
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巻ノ三十 昌幸の智略その十五
「命はわからぬ」
「殿もですか」
「戦場に出られるからこそ」
「それ故に」
「出来ればまた揃って会いたいが」
戦の後にというのだ。
「それも適わぬやも知れぬ」
「戦は人が死ぬもの」
「それは至極当然のこと」
「だからですな」
「その通りだ、それでじゃが」
幸村は十人にこうも言った。
「これより盃を交わそうぞ」
「水盃ですか」
「別れとなる」
「それをしますか」
「そうじゃ、若し皆生きておれば」
その時はというと。
「酒で盃じゃ」
「ですか、その時は」
「我等が全て生きていたならば」
「酒で盃ですか」
「つまり宴を開くのですな」
「うむ」
その通りという返事だった・。
「そう考えておるが」
「それはあくまで、ですな」
「我等全員が生きていたなら」
「その時はですな」
「皆で宴ですな」
「酒と些細なものしかないがな」
幸村は十人に宴を開いた時に出すものも話した。
「上田は上方や駿府と違って貧しいからな」
「いやいや、そこはお気遣いなく」
「我等確かに美味いものは好きですが」
「贅沢は申しませぬ」
「殿と共に宴を楽しめるならです」
「それで充分です」
「そうか、そう言ってくれるのならな」
それならとだ、幸村は家臣達の言葉に微笑みになり励まされる様にして言った。
「量をふんだんに出すからな」
「そしてですな」
「我等全員で楽しみましょう」
「生きてそのうえで」
「無論死ねとは言わぬ」
それは決してという返事だった。
「必死に戦いそしてじゃ」
「生きよと」
「それが殿のお言葉ですな」
「死んで花実は咲かぬ」
それ故にというのだ。
「皆必死に戦い生きよ」
「さすれば」
「我等これより修羅となりです」
「戦いそして」
「生きまする」
「その様にな」
幸村も応える、そしてだった。
主従は皆城に入り徳川の軍勢を待ち受けた、彼等と徳川家の最初の本格的な戦が幕を開けようとしていた。
巻ノ三十 完
2015・11・1
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