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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ソードアート・オンライン】編
  129 菊岡からの依頼


SIDE 升田 和人

「さ、二人とも掛けてくれ。ここは僕の奢りだからさ」

時は12月の頭。東京銀座に位置する、〝やんごとない〟──一介の男子高校生からしたら敷居が高めな喫茶店に俺と真人兄ぃは菊岡と云う男に呼ばれていた。

……〝やんごとない〟と先にも述べた様に、この店は〝静かにしやがれ〟と──周りの客から視線やら咳払いやらで言外に注意されるような雰囲気の店で、菊岡の指示に従うのは本当に(しゃく)なのだが、菊岡が座っているテーブルの椅子に腰を掛ける。

「……どうにも込み入った理由があるみたいだな」

真人兄ぃは一瞬だけ菊岡を観察すると、俺の様に嫌な顔を一つもせずに菊岡にそう語りつつ普通に座る。……この真人兄ぃの語り振りを見ていて、最近になって気付いてしまった事がある。

真人兄ぃ──〝升田 真人〟と云う人間と、目の前で呑気にコーヒーを啜っている男──〝菊岡 誠二郎〟と云う人間は、どうにも形容し難いが〝気質〟が似ていることに最近になって気付いた。

……もちろん、俺は菊岡と違って真人兄ぃを苦手に思うとかはないが──しかし、二人の根底(ねっこ)はおそらくだが一緒だと思っている。……〝人の使い方が巧いところ〟とかが特にそうなのだ。

(あー、何か萎えてきた…)

真人兄ぃが〝官僚(くにのおえらいさん)〟として菊岡と一緒に辣腕(らつわん)を奮っているところを想像してみたら、この二人政敵が──〝居たとしたら〟なのだが、やたらと可哀想に思えた。……考えたくはないが、もしそんな事になったら──俺は一も二も無く明日奈とユイを連れて外国へ高飛びするだろう。……何しろ、恐すぎるからだ。

……〝過ぎたるは及ばざるが如し〟とはよく云えていて、俺──もとい、周囲の胃が痛くなるのが簡単に想像出来る。……一見〝頼みの綱〟に見える乃愛も、実のところ──アインクラッド時代からの経験則から察するに、ああ見えて真人兄ぃ対しては寧ろアクセルを掛けるタイプなので論外。

閑話休題(はなしがそれた)

「やっぱり真人君には判っちゃう?」

意識を戻してみたが、俺の精神が回復するのを待っててくれたのか──それとも、俺の現実逃避が割りと早く終わったからかは定かではないが、話は進んでいなかった模様。……真人兄ぃの〝菊岡が〝厄介事〟を背負ってやってきた〟──とな予想は正鵠(せいこく)を射ていた様である。

「まぁ、な」

「……詳しい話はコーヒーを飲みながらにでもしよう」

「……それもそうだな。……決まったよ。和人は?」

真人兄ぃから渡されたメニューに目を通し、新種のケーキが出ていないか確認していく。この店は割りと有名なのか──母さんが好きななので、この店のケーキは粗方頭に入っていたりするのどうでもいい話である。

……その後は、二人してめちゃくちゃ注文した。

………。

……。

…。

「さて、本題に移ろうか」

真人兄ぃが注文したレギュラーコーヒーとモンブラン、ショートケーキ、チーズケーキ──そして、俺が注文したストレートティとミルフィーユ、シュークリーム、ショートケーキがテーブルの上に揃った頃、菊岡がそんな風に切り出してきた。

……ちなみに、真人兄ぃと俺とでショートケーキが被っているのは〝ここに来る=ショートケーキを注文する〟と云うのが我が家の教えだからである。……それ程、この店のショートケーキは美味なのだ。

閑話休題。

「……君達はアミュスフィアで人を殺せると思うかい?」

〝ショートケーキに乗っている苺は真っ先に食べる派〟な俺と真人兄ぃは、二人して──ほぼ同時に、ショートケーキの上に乗っている苺にフォークを刺そうとした時──俺と真人兄ぃのシンクロしていた動作を見たらしい菊岡は、苦笑を浮かべつつそんな事を()いてきた。

「……それはアミュスフィアで殴打して──みたいな話じゃないんだよな?」

「それはもちろん」

菊岡の語り振りからしたら──そんな判りきった事を訊いてまたが、やはりと云うべきか違っていた。そして、そんな菊岡の語り振りから、更に〝何か〟を感じたらしい真人兄ぃが口を開く。

「……それはつまり、〝〝ナーヴギアの件のような人死に〟がアミュスフィアで起きて、その事件(?)を(おかみ)が気にしている〟──てところか」

「大体そんなところだけど更に語ろう。……【ガンゲイル・オンライン】と云うゲームの中で──VR世界で弾丸を撃ちこまれたプレイヤーが現実世界でも死んだみたいなんだ。……まるで──」

「〝【SAO】事件〟みたいに──か?」

真人兄ぃの推察は大筋では当たっていたらしく、菊岡は註釈を入れながら訂正する。

……だがしかし、菊岡の口から〝あの事件〟関連の事を聞くと、どうにも具合が悪くなりそうだったので、菊岡の言葉尻を奪うように〝あの事件〟──〝【SAO】事件〟の事を口にして菊岡の口から聞くよりかは幾分か忌避感を緩和させる。

「……まぁ、心停止を起こしただけみたいなんだけど──話が逸れたね。……二人は【ガンゲイル・オンライン】と云うゲームは知ってるかい?」

「〝さわり〟だけ──と乃愛からならな。……確か〝現実(リアル)で稼げるVRMMO〟──そんな感じの触れこみだったか? あとの詳しいことは知らん。……それにしても心停止か…」

菊岡は俺の言葉に1つ頷き、今度はそう訊いてくる。【ガンゲイル・オンライン】。……俺はそのゲームについては知らないが、真人兄ぃの知識の中には少しだけだが、有ったらしい。……菊岡の話の前後を繋げるに、菊岡の話したい案件はそこに起因しているのだろう、と云う事は安易に想像出来る。

……そして、そこから更に推理を飛躍させるのなら、〝俺達に【ガンゲイル・オンライン】にコンバートして(なにがし)かをやってこい〟と云う〝命令(いらい)〟を菊岡は出しているのかもしれない。

「大体真人君の言う通りで合ってるよ。……って〝稼げる〟とは云っても、還元レートは100分の1が良いところで接続料もそれなりに掛かるし──おっと、また話が大分逸れちゃったね」

菊岡は漸く真人兄ぃから(いさ)める様な視線を受けている事に気付いたらしく、〝閑話休題〟と云わんばかりに話を戻し、持参していた鞄からタブレット端末を取り出した。

「……二人を呼んだのは、二人にこれを見て欲しかったからなんだ」

………。

……。

…。

菊岡からタブレットで見せられたのは、話の筋からして──【ガンゲイル・オンライン】で、菊岡曰くの≪死銃(デス・ガン)≫とやらに撃たれたプレイヤーの映像だった。……そして、撃たれたプレイヤー──ゼクシードと云うプレイヤーは〝現実(リアル)でも〟死んでしまったとのこと。

ゼクシードは、現実(リアル)では茂村(しげむら) (たもつ)と云って、撃たれた日から数日して自宅で死体として発見されており、死後経過時間から逆算して──〝撃たれたその日に死んでいた〟と云う事が発覚している事を菊岡から聞かされた。

……ちなみに、ゼクシードだけではなくうす塩たらこなるプレイヤーも≪死銃(デス・ガン)≫に撃たれ、ゼクシードと同様に死んでいるらしい。

閑話休題。

「……で、あんたは俺達に何をさせたいんだ?」

「死んでくれないかな?」

軽く急かしてみれば菊岡の口からはとんでもない言葉がとんできた。

SIDE END

SIDE 升田 真人

「……で、あんたは俺達に何をさせたいんだ?」

「死んでくれないかな?」

和人が急かすと、菊岡さんの口からはどこぞの〝下っ端中級堕天使〟みたいな言い回しで──和人から先導性(イニシアチブ)を取るためなのか、そんな言葉がとんでくる。

……ともあれ、これ以上和人にアホ面晒させるのあれだったので、呆然としている和人にちょっとばかりフォローを入れてやる事にした。

「菊岡さん、和人が固まってる。全文正しく言った方がいい」

「そうだね。……〝ちょっくら【ガンゲイル・オンライン】の中で≪死銃(デス・ガン)≫に撃たれて死んできてくれないか?〟」

「……話にならないな」

漸く意識を正常レベルにまで回復させた和人は、菊岡さんの提案を噛み砕いた後に吐き捨てる。……〝【SAO】事件〟経験している和人のその拒否は、〝人外(ひとでなし)〟な俺は云うに及ばず──〝常人(ひと)〟としては正しいものだった。

……だって俺は、この事件について〝和人が動くなら俺も動こうかな〟や、〝人間は割とどこでも死んでるしな〟──くらいにしか、今のところは思ってないのだから。

……しかし菊岡さんは諦めてないようで…

「ここの支払いは──」

「和人の持ち合わせがないなら俺が出そう」

〝ここの支払い〟を楯にしてきた菊岡さんだったが、俺が助け舟を出す。……こんな詐欺紛いの交渉は認めてやらない。菊岡さんには〝通すべきスジ〟があるはずなのだから。

「真人君──いや、そういう事か。……頼む、この通りだ」

「ちょっ…?」

和人に助け舟を出した俺を、光の加減か──眼鏡を光らせながら見た菊岡さんだったが、漸く俺の意図を悟ったのか和人に向かって頭を下げて頼みこむ。……しかし和人は〝年上〟から頭を下げられる状況に馴れてないのか、驚いている。

……ちなみに〝もう1つの現実〟でもあったアインクラッドは〝現実世界(こちら)〟とは違って(しがらみ)の無い状況だったのでノーカウント。「〝升田 和人〟と《Kirito》は別人だよ」──とは和人の言である。

閑話休題。

「……とりあえず、頭を上げてくれ。訊きたい事もある」

「なんだい? 僕に答えられるものならなんでも訊いてくれ」

そう菊岡さんに頭を上げさせる和人。それの流れ自体が菊岡さんの思い通りにコントロールされている証左なのだが、そこは敢えて語るべきでも無いのでスルー。

「……俺が断ったらこの話は誰に行く」

「どうして僕が〝君達二人を呼んだのか〟──それが答えだよ。……真人君なら〝報酬〟を用意すれば動いてくれるからね」

「……判ったよ。その依頼受けよう。……ただし【ガンゲイル・オンライン】とやらのソフトはそっちで用意してくれ」

和人は、〝その場合〟になったら、俺が受ける事を見越したのか菊岡さんからの〝おねがい〟に頷いた。……【SAO】クリアした当時、菊岡さんに〝借り〟を作ってしまったのか、和人は菊岡さんに頭が上がらないらしい。

結局その日は、ケーキを摘まみつつ、3人で幾つかの話──主に、〝今回の事件の現実的な起こし方〟等を検証しているうちに和人がタイムオーバーになったので、〝3人での話し合い〟はお開きとなった。

SIDE END 
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