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エレンゲレクキ

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第四章

「昔のものは残っていませんよ」
「現代化、ですか」
「ナナイ族の人達も」
「そうです、実際に今の暖房も」
 部屋は暖かい、その暖めているものはというと。
「石油ストーブですから」
「そう言われると」
「そうですね」
 二人もそのストーブを部屋の中に見た、いささか古いタイプのものである。
「このストーブにしても」
「石油のものですね」
「ではストーブに石油を入れる」
「そうしたこともされていますか」
「文明の中に生きています」 
 実際にという言葉だった。
「幸せに」
「そうですなんですね」
「では昔の生活はもう」
「誰も、ですか」
「少なくともこの村では」
「わかりました、では学会にはです」
「そうして論文を書きます」
 二人の学者は村長に約束した、彼等は良心的な学者でありたいとそれぞれ思っているのでそうしたのだ。
 それでだ、村長にもこう言ったのである。
「現在のこの村から見たナナイ族の皆さんのことを」
「ありのままに書きます」
「それでお願いします」
「しかし本当にですね」
「昔のナナイ族の風俗習慣はなくなっていますね」
「そう思われていいです、ですが」
 ここでだ、村長は二人に笑って話した。
「もう出していませんが残ってはいます」
「記録として」
「そうしたものは」
「はい、祖先がそうした生活をしていたとです」
 まさにというのだ。
「記録は残っていて家によっては」
「昔の服等が、ですね」
「残っていますか」
「うちにもありますよ」
 二人に笑ったまま話した。
「そうしたものは」
「ナナイ族の服が」
「それが、ですね」
「今出せますが」
 こうも言ったのだった、グローニスキーとグルシチョフに。
「御覧になられますか」
「はい、お願いします」
「是非」
 二人は村長の問いに即座に答えた。
「そうしたものもやはり」
「観たいので」
「お願いします」
「こちらに持って来て下さい」
「では」
 こうしてだ、村長は。
 一旦部屋から出てだった、すぐに戻って来て二人に言った。
「もうすぐですから」
「お家の人がですか」
「持って来てくれるのですね」
「そうなのですね」
「そうです、少しお待ち下さい」
 二人に穏やかなペースで言う、二人もそのペースに応えてだった。
 村長と楽しくこの村のことを話しつつ生魚とロシア料理を楽しんだ、勿論ウォッカを飲むことも忘れていない。
 そうしてだ、その彼等のところに。
 黒髪のまだ十代半ば位の小柄で黒髪のあどけない顔立ちの少女が着た、顔立ちと肌の色はアジア系即ちナナイ族のものだった。
 服は皮のものだった、白地でワンピースタイプのもので手首、足首までの長さだ。袖やスカートの端は青や赤で彩られている。
 服にはモンゴルのそれを何処か思わせる文字めいた模様が描かれており襟のところは極めて短い。右の衣を前にして左の衣に被せている着方だ。白い靴は動きやすそうであると共に底の厚さが頑丈さをイメージさせている。 
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