魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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StrikerS編
109話:『星々(れきし)』(前編)
前書き
皆さま、お待たせしました。
「―――なん、だ…それは…!」
驚きの声が漏れる。当然だ、現状あり得ないことが起きているのだから。
声は出なかったがもう一人も、その光景に驚いている。何せ切られると思っていたのが、痛みもなく何処も切られていないのだから。
状況を簡単に言えば、男の右腕が剣を受け止めている。
しかし当然ながら、普通の腕ならば切り飛ばされる筈、なのにそうならなかった。
何故なら、その右腕は普通ではなかったからだ。
男の顔の右横で剣を受け止めた腕は赤い鎧を纏い、手首には金色のリング状の装飾。手甲部には「炎」を意味する古代文字が刻み込まれている。そして時折放電しているかのような音が鳴る。
「お前、何故…ッ!」
「ッ…!」
あり得ない―――あり得ていい筈がない状況に、男は戦く。その隙を、見逃す筈がなかった。
左手で押しながら右腕で剣を弾き、左足を踏み込む。急な行動に、剣を振るった男は防御に移れない。
そして膝立ちの状態から立ち上がった男は、普通でない右手で拳を作り……
―――相手の腹部へと打ち込んだ。
「ガッ…!?」
苦悶の表情を仮面の下で浮かべ、地面に足を滑らせながら後退する。
殴られた腹部を抑えつつ、顔を上げ男を見やる。対し赤き腕を眺める男は、殴った右手を開き見つめる。
「何故…何故だぁッ!」
腹部を抑える男は叫ぶ。手を見つめていた男は、再び拳を作り直し顔を上げた。
そして男に向かって走り出す。向かってくる脅威に、男は剣を振るって迎え撃つ様子を見せる。
タンッと走ってきた勢いを利用した小ジャンプから、右拳を繰り出す。男は一歩退くことでこれを避け、更に繰り出された右拳の勢いを利用した左回し蹴りをしゃがんで避ける。
男は更に回し蹴りの勢いを使って右足を振り上げ、頭部を狙う。だがこれは両腕を組んだ防御でうまく防がれる。
―――が、右足の攻撃が防がれた瞬間、
太腿から下の足が、右腕と同じように〝変身〟した。
全体的に黒く、足首には手首にあるものと同じ金色のリングがあり、更にその上部には金色の足甲が装着されている。
変化した瞬間、受け止めた男は驚くが、すぐさま右足を退け剣を振るった。
男はこれを潜るように避け、今度は左足を突き出すように蹴りを放つ。対する男はすぐに左腕で防ぎ、数歩退いた。
しっかり停止し、顔を上げる男が見たのは…先程と同じように〝変身〟する左足だった。先程とは足甲がないという違いはあったが。
そして突き出した左足で踏み込み、右手の裏拳を放つ男。これを腰を折り頭を下ろすことで回避するが、上げた瞬間には左拳が迫っており、避ける間もなく顔に命中した。
ととと、とたたらを踏むように後退する男。繰り出された左手は、右手と同じように〝変身〟していた。
「おおぁああああああッ!」
「ッ、ゴァッ!?」
そして再び左足を踏み込み、右拳を突き出した。
咄嗟に両腕を交差させ、繰り出される拳を防ぐ男。だがその威力に男の両足が地面から離れ、吹き飛ばされる。
右拳を突き出した状態で、息を荒げる男。しかしその姿は既に、人のものではなくなっていた。
複眼は赤く、頭部には輝く二本角。赤い鎧の所々は金色に縁どられている。
それはかつて、伝説を引き継ぎ、そして伝説を超え、塗り替えた戦士の姿……
―――戦士クウガの姿だった。
「何故だ…何故お前が〝あの人〟の姿になれるッ!?」
見放された、その筈だ。
怒りにも似た感情を乗せ、そう叫ぶ男。対しクウガとなった男は、両手を開いて眺めた。
……そうか、わかった。
見放されたんじゃなかったんだ。そして〝アイツ〟の事も、今わかった。
自分を犠牲にするんじゃない、〝アイツ〟を切り捨てる訳でもない。まだ選択肢(みち)はあったんだ。
ならば、今自分がすべき事は…ッ!
「―――おおおぉぉぉぉぉぉ!!」
両手を握り前を見据えた男は、雄叫びを上げ走り出した。
前へ進む足が水面に当たり、バシャリと音を立てる。
駆ける、駆ける。
ただ暗い空間を行先もなく駆ける。空間(そこ)にあるのは、一群の星々のみ。
『キミは大切なものを失っても、戦う覚悟がありますか?』
「………」
突然声を掛けられた、それは背後から聞こえる。
気配も感じられる、多分その人だろう。どこかで聞いたことのあるような声だ。
だが、振り返ることはしない。ただ空間(ここ)を駆けるのみ。
『これから先、キミには多くの悲しみが降りかかる、それを乗り越えることが必要になる』
「あぁ、分かってます」
おそらくこの先、救えない命もあるだろう。助けてという声が聞けても、助けられない時だって来るだろう。
それでも、戦い続けなくちゃいけない。それを超えていかなければ、救えないものもある筈だ。越えなければ、失うものが更に増えてしまう。
「だから戦い続けるんだ、大切なものを守る為に…俺が為すべきことをする為に…ッ!」
そう言い切った時、後ろからヴァイオリンの美しい旋律(メロディー)が聞こえてきた。多分彼が弾いているのだろう、走っていながらも心が穏やかになる気がした。
『力を貸します、僕の―――〝僕達〟の力を』
だから信じて進んでください、目に見えない繋がりを信じて。
その言葉を聞いて、思わず笑みを浮かべる。
「信じてますよ、今までも―――そして、これからも」
フッと微笑する声が聞こえた。そしてヴァイオリンの音が消えると同時に、目の前に光が移動して来た。
その光は前まで来るとUターンして、まっすぐに向かってくる。バックルの宝石に吸い込まれるように消えると、新たな〝炎〟が灯った。
暗い空間には、新しい星が輝いた。周りには二つの大きな星と、無数の小さな星。
全て星々が、確かな繋がりを主張するように輝く〝愛〟の星。その輝きは星団のよう。
新たな覚悟を胸に―――ただ、駆ける。
「おおおぉぉぉぉぉぉ!!」
雄叫びと共に、男は両手を広げた。
するとどうだろう、彼の身体中に銀に輝く鎖が、幾重にも巻き付いたではないか。
ジャリ、と一度強く拘束するように止まると、次の瞬間にはその鎖は全て弾け飛んだ。
そこにいたのは、先程までの赤い戦士ではなかった。
丸みを帯びた赤い複眼は、ジャック・オ・ランタンを思わせる黄色いものに。赤い胸部に両肩と右足に、カテナと呼ばれる拘束具が取り付けられている。
それは本来〝ファンガイアの王〟の象徴とされる鎧……
―――『黄金のキバ』と呼ばれる〝キバの鎧〟である。
走る度に鎖が音を立て、両手を広げる様はまさにヴァンパイアの如し。
「このぉぉぉぉ!!」
その姿を見た男は、剣を銃へと組み換え銃口を向ける。
引き金が弾かれ銃弾が放たれる。数発地面に命中するが、キバの鎧を纏った男に命中することはなかった。
男は弾丸が到達する前に跳躍することで回避し、空中で体を捻り見事銃を放った男の背後に、背中を取る形で着地した。
「ぬぅッ!」
「ッ!」
対し男はすぐさま銃を剣へ戻し、振り返りながら左下から斜めに振り上げる。
それを立ち上がりつつ避け、更に振り下ろされる一撃を避け、右足を振り上げることで剣を弾いた。
弾かれた勢いをそのまま利用し、回転しながら後退。構える男に対し横一閃の剣撃を放つが、再び跳躍することでそれを避ける。
先程と同じように体を捻ることで背中を取る形で着地する。すぐに振り返り攻撃しようとするが、その前に肘鉄が男の腹部を直撃する。
苦悶の表情を浮かべ数歩後退、更にそこへ左右の連打が腹部へ追い討ちをかける。
「だぁあッ!」
「ぐぁ!?」
そして最後に、右拳を顔に打ち込んだ。
男は吹き飛ばされ、地面を転がる。殴り飛ばした男は、まるで照準を合わせるように左の掌を向け、右拳を引く。
「はぁぁぁ…!」
静かに、だが力を溜めるように。
右手に力が籠められる。それが臨界点に達した瞬間……
―――龍の咆哮が、響き渡った。
『命を懸けてでも、叶えたい「願い」ってある?』
龍が吠える中、男の声が聞こえてきた。
横から聞こえる、視線を向けると、何処か柔らかい雰囲気を纏う男がいた。
その男を、自分は見たことがある。自分の信じる『願い』の為に、戦い続けた人だ。
あぁ、そうそう。質問に応えなければ。
「ある。―――だけど、『命を懸けてでも』っていうと…ちょっと違うかな」
質問の返答に、男は驚いた様子を見せる。
だって自分の部下に、生きて帰って来いなんて言ってしまったんだ。自分だけ命を投げ出して戦ったら、示しがつかないでしょ?
確かに叶えたい『願い』はある。それは誰にも真似できない、自分が抱いた夢であり、希望あり―――現実にしたい願いだ。
だけどそれは、〝あいつら〟と一緒に叶えたいものだ。だからこそ、自分は生き残る必要がある。
「都合が良すぎるかもしれないけど…」
『それでも、君の周りには君を慕う人達がたくさんいる筈だ』
それは君自身に―――君の心に、しっかりとした芯があるからだ。
そうじゃなきゃ、君の言うことなんて誰も信じない。誰も付いて行こうなんて考えない筈だ。
『君なら―――君達なら、きっと叶えられるよ』
男は少し悲しげに言うと、笑みを浮かべ気合を入れるように顔の前でグッと拳を握る。
すると男は光へと変わり前へ、バックルの宝石へと吸い込まれる。
―――また一つ、〝炎〟が灯った。
「…あなたも、紛れもない〝英雄(ヒーロー)〟でしたよ」
笑みを浮かべて、前を見据える。
宇宙のような黒い空には、また一つ星が光った。周りには12の星と、更に小さい星々が並ぶ。その様はまるで龍のようで、無限の字を描く〝命〟の星々だ。
―――輝く星々から、いのちの音がなった。
「だああぁぁぁぁッ!」
引き絞られた右拳が、突き出される。
その瞬間、やっと立ち上がった男に巨大な火球が襲い掛かった。
男の姿が火炎に包まれる。それが消えるとそこには、片膝をついて息を上げている男の姿があった。
対し火炎を放った張本人。突き出した右拳には、口を開いた赤き龍の頭部が。
拘束していた鎖は炎で溶け、体は赤く染まる。黄色かった複眼は、鉄仮面のようなスリットの入ったシルバーのバイザーで隠れ、頭部には龍の紋章が描かれている。
厳しいバトルロワイヤルの中でも、自分の信じる願いを追い求め戦い続けた戦士の姿……
―――赤き龍騎士の姿だった。
突き出していた右手、そこに装着していた龍の頭部が消えると同時に、背後にいた赤い龍が水面に吸い込まれるように消えていった。
「何故…何故お前が…!」
片膝をついていた男がゆっくり立ち上がると、そう言った。それは疑問をぶつけるのではなく、まるで何かにすがりつくような……
対し問われた男は、右手を下ろし両肩を上下させながら、
「…見放されたんじゃ、なかったんだ」
「何…?」
「〝あの人達〟は、見放したんじゃないんだよ」
「…そんな戯言、しゃべる間もなく葬ってやる…ッ!」
男はそう言うと、新たな次元へと突入する。
全てが停止に近い状態になる、それはまるで異世界への進入のよう。足元の波紋は波を作ったまま止まり、しかし行動と思考は止まることなくそれについて来る。
全てが止まったような新たな世界で、男は歩き出す。急がないのは、この世界に干渉する者がいないという余裕からだろう。
そう、鉄仮面を付けた男には、この世界に干渉する術がない。だからこそゆっくりと近づくことができるのだ。
何もできない男は今、何を思っているのだろう。
仮面の奥にある筈の表情は、今どのような感情を露わにしているだろう。
「悔しいな、何もできないというのは」
今のお前には何もできない、何も守れない。だから破壊するしかないんだ。
そう言って男は剣をなぞる。念には念を、ということだろうか。わざわざ相手の背後へと回り、剣の柄を握りしめる。
人は首を跳ねれば死ぬ、今しようとしていることはそれだ。
この男の感じる世界では、何が起きたのかわからないまま死んでいくことだろう。
「―――死ね」
ただ一言、そう言うと男は剣を振るう。
狙うは男の首元、切れればそれで終わり。
―――だが、その瞬間。
男は青い双眸に映された、剣を振るう自らの姿を見た。
『おばあちゃんが言っていた…』
振り向いた先に、その人は立っていた。青めの着流しのようなものを来た男だ。
その男は、星の少ない空を指し、空いているもう片方の手には―――銀色のボール、そして豆腐があった。
『世界は自分を中心に回ってる、そう思った方が楽しいってな』
お前はどうだ? 天高く上げていた指を、今度はこちらに向けて言う。
確かにそう思えたら、楽しいだろう。だけどそれは、心が強くないといけない。
後ろにいる人ほどの強さがなければ、世界で一番偉いと思える程の人でなければ。
それほどの強さは、自分にはない。
『……ある男が言っていた』
「……?」
『「俺は俺にしかなれない。でも、これが俺なんだ」と』
俺は唯一無二の存在だ、お前が俺と同じ強さを持っている筈がない。
だがそれで普通なことなんだ。お前は俺にはなれないし、俺もお前にはなれない。
ならばお前は、お前にできないことをやればいい。そうすればきっと…
『まぁそれでも、俺を超えることはできないだろうがな』
「…そうでしょうね、何せあなたは〝最強〟の人なんですから」
当然だ、と鼻を鳴らした。男は歩いて前へと移動し、再び天を指差し言った。
『俺は〝天の道を行き、総てを司る男〟―――なのだからな』
俺の進化は光よりも速い、お前はついて来れるか?
「―――勿論、必死にすがりつきますよ」
その言葉に、男は再び笑うと「面白い男だ」と言って、光へと変わる。
光は宝石へと吸い込まれ、新しい〝炎〟がバックルに灯る。
空には新たな星が、周りに七つの星を携え光り輝く。その輝きは、周りの小さな星々が霞む程の〝正義〟の輝き。
星を眺めてから振り向く。そして一歩踏み出すと……
―――そこはまさに、高速の次元(ヴィジョン)。
「―――グォ!?」
一撃、腹部に衝撃が走る。
今何が起きた、と男は視線を上げる。
そこには振るった剣を右手で受け止め、左手を掌底の構えで突き出した男の姿が。
いや、ただの男ではない。頭部には赤い角、青い複眼に胸部のプロテクターは銀から赤へ。
高速の次元を行き来し、我が道を行きながらも、大切なものの為にその正義を振るった男の姿……
―――マスクドライダー・カブト。
時がゆっくりと進む次元を、カブトとなった男は一歩ずつ歩み出した。
「この…ッ!」
後退した男は迫ってくる男に対し、剣を振るった。
だが剣を一振りする度一撃、腹部や顔へ拳が決まっていく。
結局男の攻撃は一撃も当たらずに、逆に反撃はすべて決まる形に。
右拳の一撃を最後に、男は高速の次元から弾き出された。対して、やはり悠然と歩く男も同じ次元へと帰還する。
「ば、バカな…何故…! 見放されたんじゃないのか、何故〝力〟が使える!?」
「………」
悲痛な叫びを受け、男はしばらく黙っていた。が歩みを止めると、静かに語りだした。見放したんじゃなかった、のだと。
後書き
今回のようなやつが三話ぐらい続きます(笑)
ただ間にフォワードやなのは達の戦闘シーン、オリキャラの先出など入るとは思いますが。
誤字脱字のご指摘、ご感想お待ちしております。
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