戦国異伝

「街は焼くべきであったか」
「しかしそれはです」
　生駒が信長に言って来た。
「それをすれば」
「戦の為に焼き払うに他ならぬからな」
「魔界衆に教えることになっていました」
「我等が気付いておることにな」
「はい、相手の動きに」
「だからじゃな」
「それは出来ませんでした」
　福原の街を焼き払う、そのことはというのだ。
「残念ですが」
「そうじゃな、ではな」
「はい、敵は福原の街を守りに使うやも知れませぬが」
「それでもじゃな」
「それは仕方ありませぬ、むしろです」
「その時にじゃな」
「攻めるのです」
　相手をというのだ。
「街ごと」
「そうするしかないな」
「その時に焼き払いましょう」
　福原の街、他ならないそれをというのだ。
「是非」
「ではな」
「はい、それでは」
「鉄砲隊、そして大砲の用意は出来ておるな」
　信長はこのことをだ、周りに問うた。
「既に」
「はい、後はです」
「敵が来ればです」
「撃つ手筈になっています」
「既に」
「ならばよい、そしてその二つに加えてじゃ」
　さらに言う信長だった。
「弓矢もな」
「それもですな」
「そして槍も」
「その二つも使い」
「そして、ですな」
「敵を防いでじゃ」
　そして、というのだ。
「敵が怯めばじゃ」
「攻める」
「そうしますな」
「うむ、そして猿夜叉よ」
　信長は本陣にいる長政にも声をかけた。
「御主はな」
「はい、朝になればですな」
「騎馬隊を率いてじゃ」
「そのうえで」
「頼んだぞ」
「果たして参ります」
　これが長政の返事だった。
「必ずや」
「義経公の様にな」
　長政に言うのだった、信長は自ら馬に乗り前に出てそうしてだった。夜の闇に慣れたその目で敵の動きを見ていた。
　彼等はまだ気付いていなかった、それを診て言うのだった。
「ふむ、まだじゃな」
「はい、我等がです」
「既に戦の用意をしていることはです」
「気付いていませぬ」
「それも全く」
　前田と佐々、前野に川尻が応えてきた。
「気付かないまま前を進んでいると」
「そのままだとです」
「思い込んでいます」
「そして今は夜なので寝ていると」
「そう思っています」
「そこが狙い目じゃ」
　まさにと言う信長だった。