ロザリオとバンパイア〜Another story〜
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第49話 人間と妖怪
カイトはその後、合流する事が出来た。あの後は 特にトラブルに巻き込まれた様子もなかった様だ。合流した後は、月音とモカの3人で再び校舎内を探検した。
並び的には、モカ、月音、カイトの順番である。因みに、カイトが意図してこの配置にしたりした。
「(なんだか……、この2人は、初々しい感じがするから、横で見ているほうが楽しいんだよなぁ)」
カイトは、そう感じていたのだ。
2人の事は、多分この学園で誰よりも知っているつもりだ。だからこそ、色々と感慨深いモノがあるのだろう。
「2人とも! ほら、あっちにいってみようよ!!」
モカは、月音の手を握った。
「え、えと、う…うん!」
まだ全然なれてない月音はと言うと、『また、手を握っちゃった……』と、動揺しながら 生返事をしていた。
「(……おい。もうちょっとナチュラルに返事してやれよ月音。不自然だぞ? 横から見てたら)」
カイトは、生返事だと言うのが一発で判ったから、小声で月音に耳打ちをした。
「(む…無理だよ! そ、それに、なんか幸せすぎて…目まいがする……)」
これでは、まだ時間がかなりかかるだろう。普通に話が出来るまでに、とカイトは考えていた時。
「ほーら! カイトもっ!」
モカは、月音だけじゃなく、空いた方の手で、カイトの手を握った。
意図して、月音とモカを隣同士にさせた、と言うのに、月音・モカ・カイトの順番になった。結果としては、同じ事だけど。
「はははは……、判った判った」
モカの手は暖かくて、やわらかくて、……とても小さな手だった。月音が手を握っただけで、幸せな気分になる、と言うのも強ち大袈裟ではないだろう。
だけど、やはり違和感があった。
「(……なんだろう? やっぱり、モカの 初めての感触じゃ無いみたいだ…… 気のせい、か? ううーむ……)」
そう感じながらも、モカに手を引かれ、学園探検を再開した。
「見て! 月音! カイト! ここがこれから生活する学生寮だって!」
「ん??」
「寮…?」
モカが指差す方を見てみると、確かにそこには《陽海学園 学生寮》と看板に書かれている。
「ふ、ん……。なかなか味のある寮だな? この雰囲気、ピッタリといった感じかな?」
外見は、『如何にも』と言った感じだ。蝙が所々で飛んでいたりしているのも、演出? と思ってしまう。
因みに、横で月音はプルプル震えていた。非常に判りやすい反応だった。
「(えええ!! か、変わってない?? カイトっ! こんな不気味なとこなんだよ!!)
「(?? そうか? この学園にはピッタリって言う印象はあるけどなかなか良いと思うぞ?)」
「(うそー!! あ……、た、確かにピッタリだとは思うけどっ こ、こんなあからさまなっ!)」
「(って、ほらほら! オレ達だけで、こそこそ話してないで、モカがした話だろ? 無視しちゃ可哀想だ。返事返事)
カイトに促され、月音は慌ててモカの方を向いた。
「ね…ねえモカさん? こ…こんなとこで3年間も生活を……するのかなぁ……??」
月音は、流石にカイトの様には言えず、表情を引きつらせながら、モカの方を見ていたら……、再び驚愕。いや 先程よりも驚愕する羽目になる。
「すてき…♪ 威厳と風格のある建物……」
モカはと言うと、この寮を見て、うっとりと見惚れていたからだ。
「ん。同感だ……」
カイトも、モカに同意して、話をあわせた。
全く共感出来ていないのは、月音だけだ。
「えええ! モカさんもなのっ!? うそ! しゅ、趣味変わってない!?」
モカは、流石に無いだろう……と、月音も期待していたんだ。女の子だから。だけど、まさかの発言だったから、慌てていた。
「あれ? つくねってば、こういうの苦手なの? 妖怪のくせに? ……あ、そういえば つくねとカイトは何の妖怪なの?」
そう、妖怪であれば当然の感覚だったりする。人間の数の方が圧倒的に上回っている世界に置いて、人間が近づかない場所に、妖怪は基本的に住んでいる。中には人間界に溶け込んでいる者もいるが、一般的? にはそうだ。
だからだろう、自然とそうなったのは。でも、月音は人間だから仕方がない。
「(あ…… 一気に血の気が引いたみたいに顔白くなってる。……モカ、それきっと 会心の一言だよ)」
カイトは、完全に蒼白になっている月音の顔を見て、苦笑いをしていた。
「え……、いやそれは……、げ、ゲフンゲフンっ!!」
ワザとらしい咳をしながら、誤魔化そうとしていた。何故なら、この場所にはいる筈の無い種族だから。
「(に…人間なんですけど…)」
「あ… 正体バラスのって校則違反だっけ? ごめんね 今の質問ナシ!」
あはは、っと笑いながらモカは訂正をしていた。
つくねも、合わせる様に、あははは…っと笑いながら話していた。明らかに不自然な笑い方だったけど、モカは気にした様子は無さそうだ。
「まぁ、今は授業中じゃないし……、それに この時間に寮には誰もいないみたいだ。オレ達だけみたいだ……。 ん。オレは、別に良いよ言っても。それに、モカさんは教えてくれたしね。月音は、根がすごく真面目そうだから、言えないってのも分からなくは無いけどさ」
つくねは、カイトが正体をバラしてもいいと言った言葉で動揺して、次の軽いフォローには安心していた。顔芸をしているのか? と内心思ってしまって笑ってしまうカイト。ちょっと意地悪をし過ぎたかな、と少しだけ後悔をしていた。
「ホント? ありがと~!! じゃ、つくねには又いつかおしえて貰うとしよっかな?」
モカは笑顔で話した後、カイトの方を見た。やはり、この学園での初めての友達だから、友達の事は知りたい、と思うんだろう。
「ん。オレはね……」
カイトは 軽く息を飲んだ。
正直、あの時女神サマが現れた事に少なからず感謝をしていた。
一応、自分の種族。妖怪については教えてもらった。その種特有の能力を出せなければ、説得力が半減してしまうだろう。だからこの学園の屋上で、全てかどうか判らないが、説明をしてくれた事に感謝をしていた。
「オレは、魔術師。精霊魔導師だよ」
本日、校則違反2人目のカミング・アウトです。
ただ、気になるのは自分の種族についてだ。女神サマにもらった力、存在だから、この世界に存在しているかどうかが若干不安だったのだ。
だが、その不安も杞憂だった。
「………えれめんと……って、えええっ! それって何かの本で見たことあったよ!? けど、確か、存在だけは確認されているけど、詳しい実態は、正体は、分からないって言う種族……だよね? 確か、一説には魔術師の粗って言われているとか……。この世の理を統べるから、根源の妖 って呼ばれてる……だったかな??」
モカは手を口に当てながら興奮したように話をしていた。
「そ…そんなにすごいの??」
バスで話したり、校舎で話したりした感じは普通の感じがしていた為、月音は、驚いたように言っていた。
「そうだよー 月音っ! だって、空想上の伝説の存在って言われてたからさっ!」
モカは、両手を広げてそう言っていた。興奮をしている姿も可愛い。一生懸命手を広げて 驚きの大きさを表現している所もそうだ。
「あはははは……、 確かに、そんな感じだよな。 実際に凄く少ない種族だしさ。……でも、出来れば普通に話してくれたら嬉しいかな。正体とか抜きにしてさ』
興奮しっぱなしのモカを落ち着かせるように、カイトは話した。
「あっ、そうだよね! 友達になったんだし…… えへへ、 そういうのは何かおかしいよね! ゴメン」
モカは、とりあえず落ち着いた為いつもの感じに戻っていた。カイトもニコリと笑みを見せた。
「(2人とも… スッゴい存在なんだ・・・モカさんもこんなにかわいくてやさしいし・・・カイトは初対面の俺に対してやさしい学園唯一の男子だし… 本当に人間じゃないのか…)」
月音は、完全に世界が違う会話を訊いて、放心しかけていたのだが、純粋に疑問に思っていたのだ。つまり、本当に人間ではないのか? と言う所。モカに関しては、血を吸われたから、間違いないだろうけれど。
「ははは。ありがとう。ん、月音も、俺のこと普通の友として扱ってくれるか?」
カイトは、そんな月音を見て、そう言った。
「え… あ、うん! そんなに凄いって、知らなくてさ……、 ちょっと驚いたけどもちろんだよ」
月音がそう返したら、カイトは笑顔を見せてくれた。
その表情を見たら、どう見ても人間にしか見えなかった。
「……でも、そういえば 2人ともどっから見たって人間にしか見えないよ? 本当に…その…」
月音は、言葉に詰まりながら、疑問だった事を訊いていた。
「うん。もちろん。」
「ん…。基本的に姿形は人間と大差ないからな……。ん…、ちょっと見せ様かな」
カイトは、女神から貰った石の力。
もう、身体の中に取り込み、己の力に昇華させた力の内の1つ。あまり害の無い力を選んで、拳に力を込めた。
「いくぞ? よ、っと……」
拳をゆっくりと開くと、その掌の上に、拳大ほどの大きさの炎が生まれた。
「タネも仕掛けもありません……よ、っと」
今度は、全く逆の力。炎を一瞬で凍らせ、握り締めて砕いた。砕けた氷が宙に舞う。
「……まあ 手品みたいだからあんまり驚かないかな?」
苦笑いをしながら、カイトは2人のほうを見てみると、そうでも無かった様だ。
「そんなことないよ! 凄かったよ!!」
「う…うん! 凄い!!(あんなの見せられたら信じる以外無いよ…… だって、仕込みって感じしないし…… 自分で手品みたいなもの、って言っちゃったら……)」
どうやら、2人とも信じてくれた様だった。
そして、モカだが 少しだけ表情を落とした。
「わたしはね…、カイトみたいに見せられないんだ…。それに、人間っぽいって言うのも、仕様がないの」
モカはそう言うと、胸元の十字架を見せた。
「私はね、この胸のロザリオを外すと、凶悪でコワ~い 本物のバンパイアになるんだよ。私はもともと争いとか嫌いだからさ 自分からロザリオを付けて力を封印してるんだ」
「………ロザリオ、か」
「(凶悪なバンパイアになるっていうのは信じられないな……)」
今のモカの姿を見て《凶悪》はどうしても想像が出来ないのだろう。特に月音は。カイトは、知っているから、分からなくもない。……だが、そのモカについても知っているから、肯けないのだ。
「なるほど……、正体がバンパイアなのに十字架を付けてるからおかしいと思ったけどそういう理由だったんだな」
モカの説明を聞きカイトはそう呟く。
理由については 知っている。だが、根幹については知らない部分は圧倒的に多かった。もう、記憶が薄れてきているから、と言う理由もあるだろう。
だが、はっきりと覚えている事もある。……もう1人のモカについてだ。
「でも、モカさん、本物のバンパイアって言うのはあまりいい発言じゃないと思うよオレは」
「え? なんで??」
カイトの言葉を聞いて少し驚いて話した。
「……だって、そういう言い方すればさ、今のモカさんが 《偽者》って言う風に聞えたんだ。でも、そんな事無いだろ? モカさんはモカさん、そして『力』を持ったバンパイアもモカさん……だ。 つくねもそう思うよな?』
「うん! そうだね・・・! 俺もそう思うよ。」
月音は、いろいろ有り驚きっぱなしだったが、カイトの言葉には嘘偽り無く同意した。
「……2人とも、どうもありがと……」
少し涙目になりそうにモカが話した。封印した事について、そう言ってくれるとは思わなかったから。
「あ、でもね。封印しても『血』は欲しくなっちゃうんだ!」
だが、モカは直ぐに表情を変えた。どう、言えばいいだろうか……、敢えて言うのであれば……捕食動物?
何が起こるか、直ぐに察したカイトはと言うと、スルスルっと 素早く後退して、月音を前に行かせた
「ちょっ……えっ? か、カイト! あっえっ……、わ モカさ……っ」
何をされるのか、判らなかった月音は、ただただ至近距離までモカが来ていたので顔を紅潮させただけだった。
その次の瞬間。
「すきありっ♪」
かぷっ! ちゅー ちゅー ちゅー……………。
因みに、モカが月音の首筋に噛み付き、血を吸っている音、である。
「いってえええええェェェ」
突然の事だったから、月音は咄嗟に動けず、ただただ モカが目と鼻の先、どころではなく、首筋にキス……ではなく、噛み付かれているのだ。……物凄く痛くなかったら、どれだけ嬉しい事だろう?
「はははは……」
カイトは、その2人の姿。
何度も見ている筈の姿を、目の当たりにして、本当に微笑ましくも見えたため、暫く2人を眺めていたのだった。
楽しい時間、と言うのもは本当にあっという間に過ぎる。それは、どんな時も変わらない。
何よりも嬉しいと思うのは、また その時間が続く事にある。今日も、明日も……。
だけど、当然だが 睡魔には叶わず、いつの間にか眠りについていた。
そして、軈て太陽が顔を出し、光に包まれる。
「ううーん……、眠い……ああ、 もうこんな時間か……」
カイトは、光の暖かい温もりを浴び、目を覚ました。
「昨日はいろいろあった、な。これは、疲れじゃない。昨日は、いい夢も見れた。随分久しぶり、に。 ……さてと、学校に向かいますか」
カイトは、飛び起きると、一通り身だしなみを整え制服に着替えて学園方面へ向かっていった。
学園と学生寮は 少し離れているから、勿論歩いていく必要がある。それも良い。懐かしい気分に浸れるから。
ただ、登校中だが、誰もいないのは残念だった。学園の門の前についたのにも関わらず、誰もいない。
「……まだ全然生徒がいないな」
勿論、いないのには理由がある。時刻は学園の時計で6時だったから。
「あらら…… あの部屋の時計、メチャずれてるじゃん。……ん、仕方ない早起きは三文……と言うし、暫くうろうろするか……、教室でじっとしてるのもつまらないし」
カイトはそのまま教室には行かず、歩き出した。
そして、その数十分後の事。
月音も丁度登校をしていた。
「(夜が明けてしまった……、 万が一に備えて退学届けなんて書いちゃったけどオレ本当にこの学校に残るか辞めるかどっちにしよう…… モカさんやカイトと別れるのも……)」
あまり寝れなかったのか、つくねはげっそりとした表情で登校していた。
そんな時だった。月音にとって 最悪の状況が訪れる事になった。
「まてよ……、 色男」
突如、男がいきなり月音に掴みかかってきたのだ。
「(さ、砕蔵ッ!?)」
そう、昨日も殆ど同じ様に絡んできた砕蔵だった。
「テメェ 昨日は赤夜萌香と遊びほうけたらしいなッ 許せねぇッ 何だてめェは!!」
色んな意味で、清々しい程の嫉妬だった。
だが、醜い嫉妬であろうと、相手は月音にとっては本物。正真正銘の化物だ。その力は当然人外のもの。砕蔵は、つくねを掴むと学園を囲んでいる壁に叩き付けた。
「がっt!?」
背中に走るあまりの衝撃で月音は声を上げた。
「テメェの正体は何なんだ? ああッ!? 正体はッ!!」
砕蔵は、腕に力を入れながら、詰め寄った。
「(やっ やばいっ・・・ 人間ってバレたら殺されるッ)正体?? オ…オレは そのっ…… バ……、バン パイア……とか」
月音は、妖の種類をよく知らなかった為とっさに思いついたバンパイアを名乗った。これは偶然だ。カイトの方でも良かったのだが、名前も長くあまり聞きなれないモノだったから、出てこなかった。
だが、それは月音にとっては、誤った選択だった。
その言葉にイラついたのか砕蔵は、わざとつくねを外すように壁に拳をいれたのだ。強烈な一撃は、一発で壁を揺らせ、砕いた。
「うわーーーーー」
月音の目の前で、コンクリートの壁は粉々になったのだ。登校時間であった事もあり、当然ながら、騒ぎになるかと思いきや、そこは流石の陽海学園だ。
「おおーーーー」
「パンチで壁がコナゴナに!!」
「ほーーーー」
別の意味で騒ぎになった。……拍手喝采だ。
「はぁ!! バンパイアだと!! バンパイアは不死で凶悪な西洋の大妖怪だぞ! 「力」にかけては妖怪一とも言われる!! テメェがそのバンパイア!? ふざけんなッ!」
手のみ擬態を解きつくねの頭部を軽く鷲掴みに出来るほどの巨大な手でつくねを威嚇した。
「ひーーーー! て、手がっ……」
完全に腰が抜け立てなくなったつくねを見て、吐き捨てた。
「とにかくテメェ 二度とモカに近づくんじゃねぇ 次にあいつと話しただけでも殺すぞ!もう1人のやつにも言っとけッ!」
そう言い残して、砕蔵は消えたのだった。
「………」
月音は、正直何も言葉が見つからなかった。
紛れもなく、死を感じてしまったから。人間、死を目の前にすると何も考えられなくなると言う事が判った。……分かりたく無い事だったが。
「(シャ……、シャレにならない……ッ)」
そこからの行動は兎に角早かった。
月音は、登校せずに、急いで寮へと戻る。
そして、荷物をまとめ、持ってきてバス停近くの墓場まで来た。
「(ヤバイ! ヤバすぎるッ! 素手でコンクリ ブッ壊すし…… 妖怪怖すぎるッ! 殺されるーーーーーッ)」
墓場でバス停の方へ行ったり来たりしていた。
「……ふああああ、ムニャムニャ…… っと、いかんいかん。……二度寝、してしまってたか……」
カイトは暫くはうろうろしてたが、やっぱし眠たかった為、木の上で暫く眠っていたのだ。確かに月音の言うとおり、雰囲気は人間にとっては最悪なものだろう。だけど、時折吹き抜ける風は、心地よかった。それが、眠気を誘ったのだ。
「ん……?? あれ? 月音とモカ……? って、もう そろそろ時間的にやばい……。まず、降りるか」
カイトは現時刻を確認して、木の上から、下へと降りていった。
2人の雰囲気は、とても穏やかだと言えるモノじゃなかった。
「ダメ! 人間の学校なんて行っちゃ! 私人間なんて嫌いだもん!」
その一言で、月音は表情を曇らせ固まったのだ。
そう、月音は モカに打ち明けたのだ。ここを去ろうとしている事を。……人間の世界へと帰ろうとしている事を。
「私ね…、……実は、中学まで人間の学校に通ってたんだ。 孤独だった……。 ずっと、ずうっと辛かったの……」
月音は、複雑な表情でモカの話を聞いていた。
「でも! 月音やカイトが、わたしを、バンパイアでもいいって言ってくれたから 私初めて一人ぼっちじゃないって思えたんだよ……」
モカの笑顔は、どこと無く寂しい表情と笑顔が混ざった。そんな表情だった。
「だから、行っちゃダメ! この学校で一緒にがんばろ……?」
「もし!!」
モカは、突然 月音が、話し出した為、たじろいでしまっていた。
いつもの顔じゃなかったから。
「もし、オレがその……、君の嫌いな人間だって言ったら…… それでも引き止める?」
「え……?」
予想外の言葉に表情が固まってしまう。
何を言っているのかが、判らなかった。
「人間……なんだ 人間なんだオレ! 何かの間違いでこの学校に入っちゃったけどモカさん達とは違うんだ!」
「………! うそ……! 人間がこの学校に入れるわけ――…… うう………」
1歩、いや 恐らく半歩ほどだろう。モカは後ろに下がっていた。
それを見てしまった月音は、はっきりとした。……ここに居るべきではない、と。
「モカさん……、オレが人間って分かったとたんそんな顔をするんだ。 そうだよ……な、カイトもきっと……やっぱここは俺のいる場所じゃない!」
モカに背を向けた。
「ま……待って! 本当なのつくね!? 私……」
モカは、つくねの肩を掴んだ。
つくねは、もう止まれなかった。
「放してよ! 人間なんて嫌いなんだろ! オレも妖怪の友達なんてゴメンだ!!」
モカの手を振り払い走って離れた。
「つくねーーーっ!!」
モカは叫んだがつくねが振り返る事は無かった。
「……おい、月音っ!?」
木から下りたときはもう遅かった。
月音は、走って去っていっていたのだ。
降りる最中だった。険悪な雰囲気だったのに気づいたのは。
「……モカ。ちょっとここで待っててくれ。大丈夫だ。月音なら……大丈夫」
そういってモカを残し、バス停の方へと走って向かった。
「………つくね、わ、わたしは……っ」
モカは、聞えてなかったのか 頭に入らなかったのか、モカはカイトの言葉は耳に入ってなかった。
バス停のジャックオーランタンの時刻表の前、つくねは立っていた。
「(家に帰れればまた……ありふれた日常へ戻れる…… ……でも……これで良いのか? ……オレは…)」
月音は、退学届けを見ながら考えていた。
モカと別れた後もずっと。いや、モカだけじゃない。カイトにだって何も伝えていない事もそうだった。
考えていた時に、運命のバスが到着した。この学園へ誘ったバス。人間界へと還れる唯一のバス。全てが始まった乗り物だ。
「ヒヒ……、やっぱり逃げ出すかい。 なぜか、あんたはそうなるような気がしていたよ。いいんだな? 少年… 思い残す事が無けりゃ乗りな……」
運転手が そう月音に告げた。
「(オレは…)」
まだ、どうすれば良いのかが判らない。
何が正しいのか、何が最善なのかが判らなかったのだ。
「……それで、ほんとに良いのか? 月音」
「っ!!」
深く考えていたから、気付かなかったのだろう。
すぐ後ろに、カイトがきていたのだ。
「……あの時、月音も訊いた筈だ。モカの事を」
「だって……、オレは人間なんだよ!? モカさんはバンパイアだし…君はだって、……オレとは何もかも、違いすぎる……。だから」
つくねは俯きながら答えた。
「違うな。 お前が、本気で、此処から逃げようと思ったのなら、この学園の正体を知ったその日の内に逃げる筈だろ? 人間に限らず、どんなものであっても欲と言うものはある。基本的に欲求の頂点に存在するのが、《生存欲》だ。モカの容姿だけで、お前が引きとどまったとは思えない。……留まった理由は、モカの事を訊いたから。『初めて出来た友達』、と言って笑ってたモカの顔を見たから。――……そして、逃げようと決心したのはモカがお前を人間と知って見せたあの表情のせいだろ?」
「……っ!!」
つくねは一瞬、身体を震わせた。それは、間違いないと言う事を身体で示していた様だ。
「許してやれ、とは言わないよ。だけど、オレは、たった数日しか付き合ってないが、モカがあんな寂しそうな顔をするなんてオレも思わなかった…… よほど苦しい思いをしたんだろうな…人間の世界で」
「でも……」
つくねはまだ俯いたままだ。
「まず、間違いないのはこのままだと、モカの心に酷い傷をつけることになる。初めての友達との突然の拒絶と別れでな。……それでいいのか?」
そこまで訊いた所で、つくねは俯いた顔を上げた。
「……1つだけ、聞かせてくれないか?」
「なんだ?」
「カイト… カイトはどうなんだ…? オレは人間だ。オレの正体は、人間。その……妖怪にとっては……そう言う、存在だ。 ……カイトはどうなんだ?」
真剣な表情で聞いてみた。
「………笑われるかもしれない、な。学園の皆には。 オレは 人間であろうと妖怪であろうと同じ命だ。流れる血の種類は違ってもな。……大切なのは中身だ。と思うよ。人間にしろ妖怪にしろ。 オレの正体を知った時に、友達か?っと訊いた時、……お前は嘘偽り無く、答えてくれただろう? 『勿論』だって。 ……オレにとっては、その気持ちで十分だ。『人間だろうが妖怪だろうが関係ない』 それがオレの答えだ」
カイトの答えを聞いたつくねは…
「オレ… モカさんともう1回話してくる」
決心した表情は、さっきまでの暗い表情じゃなかった。
「ああ。モカもきっと待ってる。……行ってこいよ」
「うん」
そう言うと、月音は 来た道を走っていった。
月音を見送るカイト。……そして、これまでやり取りを黙って訊いていたバスの運転手がゆっくりと口を開いた。
「ヒヒヒ……、 少年… 君もよっぽどのお人よしなんだな… もしくはおせっかいかい? 君も妖だと言うのに、人間にねぇ……」
「……そう簡単に逃げ出されても、正直つまらない。オレにとっても初めての友達だったから、な。……いや、つまらない、じゃない。今は寂しいって思ってるよ」
「ヒヒ… あの男も君のような感じだったよ。人間も妖怪も同じ、か。 ……君は奴の生まれ変わりなのかも知れんな……」
運転手はそうつぶやいた。
「ん……? 何か言ったか?」
「なんでもないさぁ… 君も彼らのとこへ行ったほうがいい…。……戻ったのは良い、が。今はちとタイミングが悪い様だ。危険が迫ってるからねェ……」
そう言い残すと、バスのドアが閉まる。 そのまま、バスは去っていった。
「……危険……ッ!?」
何かを察したカイトは、月音が走っていった方向へと駆け出していった。
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