なみだ
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ナナ
ザーザーと、水道の蛇口から水が出る音が船内に響いていた。
カチャリ、コトリ、とサンジが皿を丁寧に洗って置く音も、これでもかというほど響く。
メインの後のデザートまでしっかり用意されていて、つい数分前までは騒がしかった食堂だったが、食事の終わった今静まり返ってしまった。
長い沈黙を破ったのは、他でもない杏だった。
「私はこの島に住む、杏という者です。
美味しい、いや、美味しすぎる食事をどうもありがとうございました。
一晩だけですが、お世話になります。」
「一晩だけってなんだ!仲間だっつったろ!」
「その件に関しては私は承諾していないので」
「ハイハイ、そのくだり長くなるから一旦置いといて。」
ルフィと杏が押し問答を始める前に、ナミがストップをかけた。
不服そうにブーと口を尖らせたルフィだったが、ナミが拳を握って笑顔で首をかしげると、ブンブンと首を勢いよく横に振っていた。
「仲間になるならないはとりあえず置いておいて、あんた、えーとシンだっけ?
なんでロビンと知り合いだったわけ?」
ルフィを制したナミは、ロビンとの事が気になっていたようで杏に尋ねる。
「あ、ロビンさんは昼に私が店番をしていた本屋に、お客として来て下さったんです。」
「ええ、そこで私が話しかけて仲良くなったのよ。
本に詳しそうだったから、つい興味本位で。
ごめんなさいね。」
「いえ、とても楽しい時間でした。」
杏がそう返すと、ロビンはありがとうと微笑んだ。
そんな2人を見て、「インテリな2人も素敵だ!」なんて目をハートにしているサンジに、もはや誰もツッコむことはなかった。
ナミは、へえと納得したような顔で顎に手を当てる。
一方ルフィはつまらなそうに机に突っ伏していた。
「おまえ本屋なのか?!
じゃあ明日、オレも本屋に連れてってくれよ!」
「あら?貴方も本が好きな方?」
「おう!チョッパーって言うんだ、よろしくな!
オレ、医学書がほしいんだけど…」
「医学書ならウチの本屋じゃなく、オススメのところがあるからそこまでご一緒しますよ、チョッパーさん。」
「ほんとか!いいヤツだ!」
「本屋さんは、とても記憶力がいいのよ。
船医さんの気に入る医学書をきっと見つけてくれるわ。」
「チョッパーさんは船医なんですか?
人外の医者には初めて出会いました…感動です。」
「オレはトナカイだけど、医者なんだ!」
「ハイハイ、話はそこまで。
ったく、シンがいると話がどんどん逸れるわね…」
チョッパーとロビンと杏の3人で本について話が盛り上がりかけたとき、またしてもナミの制止が入る。
また後で話しましょう、とロビンが話を強制的に終わらせ、杏はナミへと視線を戻した。
しかし発言したのはナミではなく、部屋の隅でじっと全体を観察するように眺めていたゾロだった。
「お前さっき、ルフィと戦ったみてぇなこと言ってなかったか。」
「はい、一応。真面目に相手はしていただけませんでしたが」
「そんな事ねぇ!結構本気で避けてたぞ、おれ!」
「ああ、こいつら2人の戦いっぷりは俺様もこの目でしっかり見てたが、ありゃあすごいなんてもんじゃないぜ!
目で追うのがやっとくらいのスピードだった!」
ルフィやウソップが興奮気味にそう語ると、ほう、とゾロは杏を眺めた。
確かにお世辞にも華奢とは言えない身体つきをしているし、肩や腕、足にも戦闘に必要な筋肉は十分なほどついている。
腰に提げているホルダーには拳銃が左右一丁ずつしまってあり、服も軽装で戦い慣れているのは一目瞭然だった。
その視線を受け、何かを感じ取ってしまった杏はゾロよりも先に口を開いた。
「…手合わせなんてしませんよ。
刀3本も提げてピアスいくつもつけてる、ガラの悪そうな人なんかと。」
「俺ぁお前に興味が湧いたぜ?」
「結構です。遠慮します。忘れて頂いて構いません。」
ビシ、と腕を伸ばしてNOのポーズをとる杏と、刀に手をかけてニヤリと笑うゾロ。
今にも表出ろ、と言いだしそうなゾロを見て、ルフィは、にししっと笑っている始末。
ナミは騒いでいる彼らを見て、はぁと大きめのため息をつくのだった。
(結局みんなシンに興味津々だから、話が進まなくなるんじゃない!)
後書き
「アイツは、人を惹きつける何かを持ってる…」
って、色んなマンガやアニメで主人公が言われている、アレです。
杏も持ってるんです。何かを。
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