なみだ
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ヨン
時を数時間前ーーー
杏とロビンが話を終えて別れた頃に戻すことにしよう。
2人は本や身辺のことについて他愛もない会話を交わし、1時間ほど話して別れた。
また明日くるわ、なんてロビンが笑って手を振り、そのまま港の方へと去っていったのだった。
杏は久々に本について語り合えたのが相当嬉しかったようで、カウンターに頬をくっつけて突っ伏していた。
そうして暫く入り口付近をぼうっと見つめていると、店を出てすぐの通りの向こうから騒がしい声が聞こえてきた。
「待てーーーーーっ!
おぉーーい、そいつら食い逃げだ!!
誰でもいいから、捕まえてくれーーー!!!」
そう叫びながら、赤いベストに麦わら帽子となんともおかしなセンスをした少年と長っ鼻の少年、そしてその後ろから通りの先にあるレストランの店主が、血相を変えて通りの向こうから走ってきていたのである。
レストランの店主と杏は知り合いだ。
よってその店主が「食い逃げだ」と追いかけているあの見慣れない少年2人が、騒ぎの原因であり食い逃げ犯であることは一目瞭然だった。
本屋の斜め前に店を構えている武器屋の息子が懸命にかかっていったが、2人の勢いに勝てず、つき飛ばされてしまった。
杏は、はぁっと短くため息をついて、その場から立ち上がった。
「あひゃひゃ!ウソップ、うまかったなーあの店のデラックスハンバーグ!」
「ああ、確かにうまかった………って、そうじゃねぇよ!
金持ってないなら先に言えよ!!
お前が持ってると思って俺まで食っちまったじゃねえか、ルフィ!!」
「あー?知るかんな事!とにかく今は走れ〜、っおっと!」
2人はなんとも呑気に口喧嘩をしながら走っていたが、瞬間、ルフィは突然身体をのけ反らせた。
「なんだぁ?まったく、誰だ急に撃ってきたの!
効かねえけど、思わずよけちまった。」
ルフィがそう言ってその場で立ち止まった次の瞬間、その横顔めがけて思いきり何かが飛んできた。
パシッと音がしたかと思い、先を走っていたウソップも立ち止まって振り返ると、杏の蹴りを顔の横で手で受け止めているルフィの姿があった。
「あら、思ったより反射神経がいいみたいですね。」
「お前か?さっき撃ってきたの。
あぶねえじゃねえか、やめろよ!」
「先に食い逃げしたの、そちらでしょう?」
「うぉ!」
そう言って素早く蹴りに出していた左足を引っ込めると、杏はそのままその足で踏ん張って攻撃を開始した。
猛攻撃は目にも留まらぬ速さで続き、ウソップは唖然とそれを見つめていた。
ちなみに追いかけてきたレストランの店主や周りの住民たちもウソップと同じような顔をしている。
「おい!おまえ!強いな!でも、おれ、戦う気、ないんだけどなぁ!」
「なら大人しくお金を払いなさい!」
「だって、持って、ねーもん、よー!」
「持ってないなら!店に入るな!」
攻撃の合間、合間に会話を交わすルフィと杏。
ルフィは心なしか少し楽しそうに、その攻撃をかわしているようだった。
杏はそんなルフィにひるむことなく、くるくると身体を動かしながら攻撃を続けていた。
「うひゃひゃひゃ!久しぶりに強いヤツと喧嘩すんなー!」
「くそ、私ばかり体力消耗させられて…!(ヘラヘラかわしやがって、この…!)」
「ん?うわっ、いってぇ!なんだなんだぁ?」
ヘラヘラと笑いながら全ての攻撃をかわされ、杏は完全に頭に血が上っていた。
死ぬほど鍛えてきた体術がまったく効かないのだから、無理もない。
思考も行き届かないほど血が上った杏は、ルフィの顔面正面にむかって蹴りを繰り出しながら、両手のひらをパン!と勢いよく合わせた。
そして石でできた地面に手をつけたかと思うと、バチバチバチっと青白い稲妻が辺りに弾け飛び、地面にはボコボコと大量の大きなトゲのようなでっぱりが浮き出てきた。
それらのトゲの先端はいくつかルフィを傷付けたようだったが、すぐに飛び退いて避けられてしまう。
「うひょーーー!手品か?!」
「…余裕ぶっていられるのも今のうちよ、食い逃げ麦わら野郎!」
キレて口の悪くなった杏がそう言ってもう一度手を合わせようとした時、いつの間にやらルフィがぐいっと杏の右腕を掴んだ。
「!貴様、いつのまにっ」
「よし、行くぞ!」
「はっ…?っ待ちなさい…!」
そう言って全速力で走り出したルフィは、もう誰にもとめられなかった。
「ルフィ〜!まままま待て、それはやばいだろー!!」
悲しきかな、ウソップの悲痛な叫びが夕暮れの大通りに響き渡っただけだった。
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