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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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不安-エンザイエティ-part2/解ける誤解

ロンディニウムの宮殿の執務室…。
「…残念ですが、虚無の担い手は炎の空賊どもの手により逃亡に成功しました」
「ちぃ…」
クロムウェルからその報告を聞いてシェフィールドはイラついていた。アルビオンから脱出する虚無の担い手を結局逃がしてしまった。
利用できるものは利用する。そのためにシェフィールドはあらゆる手段を講じた。
一度目の、ムカデンダーやあのインテリジェントナイフを使った作戦の失敗。インテリジェントナイフに、ウルトラマンに変身するあの虚無の担い手を妬む子供を利用させ、場合によっては殺害か確保し、虚無の担い手も捕まえる。しかしウルトラマンからいらぬ怒りを買ったこともあり失敗した。
二度目も、あんなイカれた思考を持つあの黒い悪魔に頼ったばかりに失敗した。奴は虚無の担い手の確保よりも、その使い魔である銀色の巨人との戦闘の方を楽しみ過ぎていた。
おかげでアルビオンの虚無には逃げられてしまった。いずれ我が主に献上するために早いうちに捕まえようと考えていたのに…!
「役立たずが…」
ここにはいないメンヌヴィルに対して悪態をつく。どうしようもないとはいえ、言いたくなる。主はあまり深く気にしないタイプだとしてもだ。
現在、もう一つの手段として、彼女はいつしかこの星に侵入してきた、自分の傘下に入っていない異星人とのコンタクトを取り始めていた。しかしこの星は宇宙進出を果たしておらず、それを成し遂げるまではいったいどれほどの時間がかかるかもわからない程度の文明レベルにしか達していない。当然星人たちからは舐められた。『文明の遥かに遅れた野蛮な星』だと。ルイズがもし聞いていたらどれほど爆発させてくるかわからないほどの侮蔑だ。しかしそれでも彼女は、虚無の担い手であるルイズとティファニアの捕獲のために、星人たちに彼女の捕獲を申し出ることがあった。星人たちから見てその頼みは奇妙なものだった。なぜたかが小娘二人を捕まえたがっているのか。星人たちの中には、頼みを聞く気もないものがいたり、逆にその娘二人には何か秘密があることを確信したものとさまざまだった。後者の方は、ルイズたちがこの女を出し抜くカードになると読んだ。
当然そのことはシェフィールドも読んでいた。だから今…自分の傘下にある星人の協力を得て、『自慢の戦力』を蓄えている最中だった。先にルイズたちを捕まえた星人たちをその『自慢の戦力』を突きつけることで跪かせる、または自分たちが先に捕まえ、星人のルイズたちの虚無への欲求を利用して味方につける…裏切られるとしても瞬時に切り捨ててしまえばいい。それが成せるだけの力を自分は隠している。
全て自分の主である『あのお方』を喜ばせるための算段だった。
「いかがしますか?落下地点はおおよその予測がついていますが?」
「そうね…」
しかしだからといっていつまでも逃がし続けて入ればいつまでも手に入らない。斥侯を差し向けるのがいいだろうと考えると、クロムウェルが何かをも思い出したのか、話を続けてきた。
「そういえば…今回取り逃がした虚無は、確か我が軍の兵を一名脱出の際に確保していたはず…」
「うちの兵士を一人?」
本来自分たちの敵であるはずの自軍の兵を、獲物である彼女たちが確保しているということが気になったが、すぐに彼女は切り崩すように言った。
「たかが兵士一人どうでもいいわ。でも今回、メンヌヴィルのおかげで虚無を守護する邪魔者を一人消しただけ良しとしましょう。
それに、あのウルトラマンが行方をくらました今なら…逆に『あの作戦』を使うことができるわ」
「了解、では『奴』に出動許可を出します」
「それと、そろそろ彼女の人形が回復し活動再開するはずよ。ウルトラマンゼロのデータを収集するためにスパイロボの準備をなさい」



邪魔者を消し去ったケムール人は、ハルナをルイズとシエスタの方へ突き飛ばす。
「きゃ…!」
三人がまとめて一か所に集まったところで、奴は再び標的を三人に切り替えた。不気味な笑い声にも似た声を発しながら、彼女たちに迫ってくる。

嫌だ…死にたくない。死にたくない!

サイトが目の前で陰も形も無く消滅したショックと、サイトを消し去ったケムール人への恐怖のあまり、身を寄せ合うことしかできない。もはやこれまで、と思った時だった。
突然ケムール人の頭からアツアツのスープがぶっかけられた。
「bu!!?」
蒸気が吹き上がるほどのあまりの熱さに怪人もかなり怯まされ、床の上にすっ転んだ。
「無事?」「はぁい♪」
「タバサ!?それにキュルケまで!」
扉の方からまた新たに表れた人物たち、それはタバサとキュルケの二人だった。レビテーションの魔法でシエスタのスープの鍋をひっくり返したのだ。
「ハルナのことをどう解決するかちょっと様子を見に行こうと思ってたら、さっきミスタ・コルベールが慌てて避難を呼びかけてきたのよ。もしかしたらって思って」
どうやらコルベールの呼びかけが学院中に広まったことで危機を察し、ここまで来てくれたようだ。
「ほら、今のうち!逃げるわよ!」
ケムール人が床の上を転がっている今しかない。もはや仮病がどうこう言っている場合じゃない。とにかく逃げて、誰かに助けを求めなければ。彼女たちはすぐに寄宿舎を飛び出し、走り出した。彼女たちはとにかくあの怪人が怯んでいる間に、助けを呼ぶなり隠れるなりしなければならない。三人はとりあえず貴族用の女子トイレに身を隠した。窓からは中庭の様子が見える。
ちょうどそのとき、ケムール人は寄宿舎の窓ガラスを突き破り、中庭に降り立った。あのギョロギョロとした目で周囲を見渡す仕草に、キュルケは鳥肌を立ちそうになる。
「気持ちの悪い亜人ね…一体何者なの?」
「…おそらく、ハルケギニアの種族じゃない」
「もしかして、あのペガとかいう奴の仲間?」
「わからない。でも…似たようなものだと思う」
ケムール人の姿を見て、タバサが静かに呟く。この時の彼女とキュルケは、ペガ星人という宇宙人とすでに対峙したことがあるためか、もしかしたらそいつらと同じような存在ではと勘ぐっていた。
すると、ケムール人の出現に応じ、ついに学院内の教師や武装した平民の兵士が集まってきた。
「動くな!貴様は完全に包囲されている!」
「な、なんだこの化け物は…!?こんな奴見たことないぞ」
警戒態勢を敷く教師陣と兵たちが、決して逃がすまいとケムール人を取り囲む。兵たちは矢を放ち、そして教師は魔法を使ってケムール人を攻撃する。その中には呼びかけを行ったコルベールも交じっていた。
矢がぶすぶすっ!とケムール人の体に突き刺さり、魔法がハリネズミのようになった奴の体を襲いくる。
「食らえ、エア・カッター!」
「ファイヤーボール!!」
切り裂く風、燃え盛る火球がケムール人に、一斉に襲いかかった。
中庭での戦闘をそこまで見たところで、彼女はサイトがいないことに気付く。
「ねぇ、ダーリンはどうしたの?姿が見えないんだけど…」
彼の名前を口にされ、三人の表情が一気に暗くなった。わかりやすいリアクションの返し方に、キュルケは何かが…それもかなり悪いことが起きたことを察した。
「サイト…」
「平賀君…」
召喚されたあの日から、何度も自分を助けてくれた。
仮病であるハルナのために、彼女の仮病を疑うことなく世話をしてくれていた。
ギーシュに下らない言いがかりをつけられた自分をかばってくれた。

どんな危機に陥ることがあっても、必ず帰ってきて、当たり前のように笑っていたはずのサイト。

だが、自分たちの目の前で、あっさりと消されてしまった。

「いや…嘘よ…こんなの…」
いまだ現実を受け入れられない様子だった。

まさか、こんな形で…彼を…『喪う』ことになるだなんて…誰が想像したことか。

しかし、彼女たちに追い打ちをかけるようにさらなる絶望が迫りくる。

「ルイズ!!」

キュルケが叫ぶ。その時、中庭にてさらなる危機が訪れていた。
「う、うわあああああああああ!!!」
中庭の方で、悲鳴が轟いた。ルイズもキュルケに促され窓の外を見る。
絶望的なものをその目に見た。ケムール人を取り囲んでいたはずの教師陣や見張りの兵士たちが一斉に散り散りとなっていた。ケムール人の立っていた場所には、さらに巨大な影が天を射抜くように立ち上っていた。
「怪人が…巨大化した…」
タバサはいつもの静かな口調ではあったが、その声の中には驚きと焦りが混ざりこんでいた。
魔法学院の大人たちの一斉攻撃によって、ケムール人は倒されたかに思われていたが、その逆だった。一斉攻撃によって一度はその体が溶かされたケムール人。しかしその直後、崩れ落ちた体が肥大化し、再び元の形をかたどりながら巨大化したのだ。それもこれまでハルケギニアに現れた怪獣たちと同じくらいの巨大なサイズへ。
「こ、こんなの無理じゃない!」
「………」
もはや絶望的な状況だと思われたが…その時だった。

遥か彼方の空から、銀色に光るブーメランが二本、ケムール人に向かって飛んできた。

奴の周りを飛び回りながら、その体を切りつけていく。ケムール人は体のあちこちに切り傷を刻まれ、一時膝を着いた。
そしてさらなる追撃が、ケムール人を襲う。
「デエエエエヤアアアアア!!!」
ほとばしる雄叫びとともに、炎の蹴りがケムール人に突き刺さった。蹴飛ばされたケムール人は学院の校舎を囲む塀の外の原っぱへ吹っ飛ばされる。草の上をもがくケムール人の前に、ズシン!と音を立てながら一人の巨人が舞い降りた。


我らがヒーロー、ウルトラマンゼロだ!


「ウルトラマン…!」
その姿を見て、ルイズたちは彼の名を呟いた。

「ジュア!!」
ケムール人に向けて身構えるゼロ。立ち上がったケムール人はゼロに向けて敵意を向ける。
今度はこっちから行ってやる!ゼロはケムール人に向けて奪取しながら正拳を放つ。しかし、すかっと避けられた。
(速い!)
ケムール人は確かに、サイトの記憶の中では人間よりはるかに優れた身体能力を持つとされている。パトカーの速度からの逃れるほどの脚力を持っていた。どこを見ているのだといわんばかりに、ケムール人の背後からの蹴りが飛んでくる。
「グゥ!」
蹴りを入れられ、背後を振り返るゼロ。しかしすでにケムール人の姿はない。再び背中からひじ打ちを喰らってしまう。ケムール人はゼロの周りを回っている。嘲笑うようなその動きは、なんとなく頭に来てしまうものがあった。
「ち、いい気になんじゃねえぞ!?」
少し頭に来てゼロは頭に着けていたゼロスラッガーを一本引き抜いて投げつけ、自分の周囲で円を描くように旋回させた。ゼロスラッガーはちょうど彼の周りを回っていたケムール人の足に当たり、切り傷を負わせる。これで自慢の速さは失われたはずだ。
「ウウウウウウ…」
しかし、ケムール人は戦意を失わない。忌々しげにゼロの姿を見上げる。対するゼロはカラータイマーが青く輝いたままで、全然余裕の様子だった。だったらさっきの人間の男と同じように、消し去ってくれる!奴は頭の突起から再びあの黒い液体をかけてきた。
「あ…!」
まずい!魔法学院の校舎から見ていたルイズたち三人は、黒い液体を見て危機感を抱いた。あれを浴びせられたらゼロだってひとたまりもない!
「避けて!!」
叫ぶハルナ。だが、黒い液体がかかるわずか一瞬だった。ゼロの体を黒い液体がすり抜けた。
「!?」
いや、すり抜けたのではない。早すぎてそこに立っていたゼロの姿が残像として残ったのだ。だからすり抜けたように見えたのだ。
辺りを見渡してゼロの姿を探し回るが、見つからない。その直後、ケムール人の体に猛烈な一撃が叩き込まれ、ケムール人は前のめりながら倒れた。ケムール人の背後には、既にゼロが現れ、奴に猛烈な鉄拳をお見舞いしたのだ。
「へっ。同じ手が通じるか!そもそもそんなもん、テレポートできる俺たちウルトラ戦士に効果はないんだよ!」
そう、ケムール人が放つあの黒い液体には、実をいうと殺傷力はない。ただその場所から異なる場所へ強制的に転送されてしまうだけなのだ。そして万が一消されても、ウルトラ戦士はテレポートを使って元の場所に戻ることが可能なので、たとえこの液体を浴びせられることになっても大した問題ではなかったのだ。
「さっきのお返しだ、くらっとけ!!」
ゼロは手裏剣を投げつけるように、シュ!と右手を前に突き出す。すると、彼の右手の指先から一発の小さな光弾が放たれ、ちょうど着弾地点に足を踏み入れたケムール人の足元で爆発する。
「ブオォ!!?」
今の爆発に驚き、ケムール人はそこで立ち止まる。その隙は見逃さない。さらにもう一発
放ち、そして立て続けにゼロは手から光を連射し続けた。
その技は〈手裏剣光線〉。父ウルトラセブンも使ったことがある光線技の一つだった。
「シュ!シュ!!ハッ!!ダァ!!」
足元で連続して爆発し続ける地面。ケムール人は普通に立つこともままならず、慌てて避け続けていくが、いつまでもそれを続けられるほどの体力は持ち合わせておらず、ついに数発ほどの手裏剣光線が奴の体に被弾し、ダウンした。
止めだ!
ゼロは額のビームランプを光らせ、止めの光線を放った。
〈エメリウムスラッシュ!〉
「デュア!!」
ゼロの光線で胸を貫かれ、被弾箇所に火花を起こしたケムール人。手を伸ばして仰向けに倒れこんだ。そして最後まで何かを求めるように、天に手を伸ばし続けていると、その体がドロドロと黒く溶けだしていき、跡形もなく消え去った。ケムール人が倒れた場所には、黒く広大な水たまりが出来上がっていた。
ケムール人を倒したのを確認すると、ゼロは空を見上げ、彼方の空へ飛び去って行った。


「今日も、ウルトラマンに助けられたわね」
キュルケがホッと安心しながら一息ついた。しかし、ルイズたちの表情は晴れない。目の前でサイトが、ケムール人によって消されてしまったのだ。つまり、もう…サイトは…。
ハルナは後悔した。今回の結果は自分がサイトに構ってもらいたいがために、いらない意地を張り続けた結果ではないだろうか、と。意地を立った結果、人質にされてしまい、サイトを…!
それを見て、キュルケはやるせない表情を浮かべる。なんと言葉をかけるべきか悩む。すると、タバサがキュルケの制服を軽く引っ張って気を引いてきた。
「何?」
尋ねてきたキュルケに、タバサはその杖の先を学院の入口の門へ向ける。
「おーーい!!」
「ダーリン!」
「え…?」
沈んだ顔を浮かべていたルイズ、シエスタ、ハルナの三人が顔を上げた。
「サイト!?」
どうしてサイトが!?確かに彼は目の前で消されたはず。動揺している間に、サイトは彼女たちの前に駆け寄ってきていた。
「無事だったの、平賀君!?」
「ああ。実はさ、ケムール人のあの水には殺傷力は何もないんだ。ただ、まったく別の場所に転移させるだけ。転送された時、ゼロが俺を助けてくれたから戻ってこれたんだ。心配かけてごめんな、みんな」
頭の後ろを掻きながら、サイトはいらない心配をかけてしまったことを詫びた。
ケムール人に黒い液体をかけられ、別の場所へ無理やり飛ばされたサイトだが、その直後にウルトラゼロアイを装着してゼロに変身、すぐにテレポートして戻ってきたのだ。
「バカ!てっきり死んじゃったかと思ったじゃない!」
ルイズがサイトの胸に飛び込んできて、泣きそうな声を上げる。そんな主を彼は兄のような優しい手つきで、その頭を優しく撫で下ろした。
「それよりハルナ。大丈夫か?人質に取られたし、それ以前に病気だろ?」
「あ…」
そう、まだサイトはハルナが仮病であったことに気付いていない。そのことを失念していたハルナは、息を詰まらせた。でも、言わなければ。
「…ごめんなさい平賀君。実は私…仮病だったの」
ハルナは勇気を出して、自分が仮病だったことを明かした。
「仮病…って…ええ!?ハルナって仮病だったのか!?」
まったく気づいていなかったようで、サイトは思わず大声を上げた。それを聞いてルイズも思い出して声を上げた。
「そ、そうよ!そういえばあなた、仮病使ってたわね!」
「え、ルイズも知ってたのか!?」
「…気づいてなかったのはあなただけ」
ルイズがハルナの仮病にすでに気づいていたことに驚くと、タバサが横からサイトに一言突っ込む。
『…あの、もしかしてゼロ、お前も?』
自分しか気づいていなかった、ということについてもしかしたらと思い、一体化しているゼロにも尋ねてみる。
『ああ。けど、あの子がやたらお前を求めている気がして、水を差すのもあれかなって思って黙ってたんだ』
ハルナに対して、これはサイトにも言えたことだが、ゼロは自分の意思と関係なく故郷から追いやられた者同士として共感している部分があった。だから彼女の仮病をあえて黙っていたのだ。自分が故郷から追い出された時と同じ孤独感を、自分と違って何も悪いことをしていないハルナには味あわせないために。
『けど、俺も甘かったな。突然違う世界に押し込められた気持ちは、追放処分を下された俺にもわかっていた。けど、だからって近しい人にすがるだけじゃ、迷惑しか掛かってこない。早めに言うべきだったな』
『そうだったのか…』
もしハルナの仮病を早いうちに判明させておけば、今回のケムール人への対応ももっとまともな形にできたし、ハルナが人質にされることもなかったかもしれない。ゼロは実力以前に精神面にまだ鍛えるべき点があることを痛感した。
「平賀君が優しくしてくれたから、つい甘えちゃって…本当にごめんなさい!ずるいことばっかりして…それに、平賀君たちが私のせいで危ない目にあって……本当に……」
必死の申し訳ない気持ちで、彼女は頭を下げて精一杯の謝罪をした。少し目じりに涙さえも浮かんでいる。
「な、何よ。泣いて謝ったって信じられないわよ」
「そ、そんないい方しなくてもいいだろ!」
信用しようとしないルイズの冷たい言い草にサイトは反発するが、ルイズも怯まない。
「あのね。サイトは簡単に騙され過ぎなのよ。ハルナの仮病をあっさり信じ込んで。ハルナはね、あんたを独り占めするために私たちを騙そうとしてたのよ!その結果、この子はあんたの足を引っ張った。危うくあのへんてこな怪人に消されて死ぬところだったのよ!」
ご主人様である自分よりも彼女を優先しすぎた。そのことについてルイズは最も不満だった。サイトとハルナに対する不満を思い切り口にした。
「ハルナの嘘を信じて、その子のために尽くそうとするそんなダーリンがあたしは大好きだけど、あまり優しすぎるとかえって毒になっちゃうわ」
「そうですね…それがサイトさんのいいところだとは思いますが、サイトさんは優しすぎます」
キュルケとシエスタも同意見だった。人間として、男としてこのサイトという男ほど魅力的な男はいないし、故に好感も好意も抱くことができた。同時に、あまりにも自分以外の女にやさしく手を差し伸べられると、やはり不満なのだ。
「ごめんみんな。でも…なんかさ、俺って女の子が困ってたり泣いてたりしてるの見ると、庇いたくなっちゃってさ」
だが、それでもやはりというべきか、サイトは自分の誰かを助けたいという気持ちに嘘をつけなかった。
「もぅ、それが騙されるっていうのよ。女の子の涙にいちいち反応してたら身が持たないでしょ?」
「わかってる。でも、俺もハルナの気持ちはわかる。これはルイズも…もうわかってくれてると思うんだけど、違うか?」
「……」
サイトに言われ、ルイズは何も答えない。なぜなら、図星だったから。一度ハルナからルイズは恨み言を言われた。地球から無理やりサイトを召喚し、離れ離れになってしまったこと。たとえあの時、ルイズが好きにサイトを召喚したわけではなかったにせよ、ルイズは地球側から見れば立派な誘拐犯に見られてもおかしくない。こうしてサイトが彼女を恨まず、信頼し力を貸していることはある意味奇跡なのだろう。
いまだ、ハルナがサイトとの関係についてとやかくは言わずとも、心のどこかで、自分こそサイトを独占する権利がある!ルイズみたいな誘拐犯なんかに資格はない!と、やや傲慢な考えを抱くことがあっても不思議ではない。
「そりゃ、ハルナが嘘をついたことはよくないことだよ。でも、それをハルナは認めて、ちゃんと謝ってくれた。だから…許してやってくれ」
「……わかったわよ」
原因をたどり続けるときりがないが、サイトを自らの手で召喚したこと。それが最大の原因ともとれるのだ。ルイズはハルナのことを許すことにした。それに、冷静に考えてみれば今回のシエスタの案から始まった『北風と太陽作戦』も、下手をすれば自分たちやハルナの体を壊しかねないものだ。実際、ハルナはサイトへの想いをバネに作戦中も根を上げようとはしなかった。
「私も、ハルナさんのことは水に流しますね」
シエスタもハルナのことを許すことにした。
「みんな…ありがとう…」
皆の優しさを感じ、ハルナは涙を拭きながら感謝の言葉を皆に向けた。
「そういやさ、ハルナと最初に会った時も、さっきのケムール人の時みたいな感じだったよな」
「私と、初めて会った日…?」
「ハルナさんとサイトさんの出会いですか?」
突然、話に補足を入れるように気になることを口にしたサイトの言葉を聞いて、顔を上げてきたハルナ。ルイズたちも、恋敵でもある彼女とサイトの出会いの話と聞き、気になって耳を傾けてきた。
「いや、ちょっと思い出したんだ。確かハルナの顔を初めて見たとき、ハルナは不良みたいな他校の生徒に絡まれてたんだ」
「へぇ、じゃあその不良から助けたのがダーリンだったわけ?」
恋に関することには特に察しが強いキュルケが言う。さすがは自分が惚れた男、と熱っぽい目で彼を見たが、サイトは苦笑いを浮かべながら頷いた。
「まぁ、結果的にはね。でも今思えば、正直かっこ悪い助かり方だったな。『指一本触れさせねぇぞ』って大口叩いてたけど、俺足震えてたんだよ、めちゃくちゃ怖くて」
『へぇ…やるじゃねえか、サイト。足の震えなんか気にしなくていいじゃねえか。自分が怖いって思うよりも、目の前の女の子を助けたいっていう思いの方が強かったんだ。もっと誇れよ』
『そ、そんなことないって…ただ、放っておくことができなかっただけなんだ』
下手をすれば返り討ちに合う。殴られて病院送りにされる。そんな恐怖に臆しながらも、それ以上にハルナを助けたいという勇敢な行動。話を聞いていたゼロも関心を寄せていた。
「………」
しかし一方で、ハルナの反応は意外なものだった。表情が晴れていない。言葉にしていなかったが、その顔は明らかに「そんなことあったかな?」と言っているようにしか見えない。
「あれ?もしかして、忘れちゃった?」
「え、…ううん、そんなことない!」
サイトの心配そうな視線を見て、ハルナは慌てて首を横に振った。
「おーーい!君たち無事かね!」
すると、コルベールの声が聞こえてきて、本人がサイトたちのもとに駆け寄ってきた。すでに、再び得体のしれない存在に襲われたこの魔法学院の被害状況の確認のため、学院に勤務している教師たちが動き出していた。
「こっちは大丈夫です!コルベール先生!」
自分たちの無事を宣言したサイトがコルベールに向かって手を振った。


突然のケムール人襲撃による騒動は、ウルトラマンゼロの手によって終止符が打たれた。


しかし、ケムール人の学院襲撃は、次から始まる事件の序章に過ぎなかったことを、この時のサイトたちはまだ知らなかった。


「ケムール人がやられたか」
外から一寸の光を通さない真っ暗な闇の中、何者かの声が響いた。
「あのシェフィールドとかいう女から頼まれていた…『虚無』の小娘とやらを、あの女や我々の目を出し抜いて盗み取り、その力を独り占めするつもりだったのだろうが…」
一人だけじゃない。ほかにもまだいる。
「バカなやつだ。地球人ごときに敗れ去るような弱小種族の分際で、ウルトラマンゼロの潜伏先に手を出したのだ」
それに伴い、人魂のように闇の中で光がぽっ!と灯りだす。
「だが奴のおかげで、私たちは手を汚さずこの国のメイジ共を何体も手に入れることができた。感謝くらいはしてやらねばな…ふふふ」
せせら笑いを浮かべ、『そいつ』は耳を澄ませる。すると、どこからともなく聞こえてきた。
『出してくれ!ここから出してくれよぉ!』
『なんで私がこんな目に合うのよ!』
『貴様ら、僕を誰だと思ってるんだ!』
『貴族にこんなことをして、始祖がお許しになるとでも思ってるのか!?』
「…ふぅ、モルモット共がうるさいな。少し黙らせて来よう」
耳や頭に響くその命乞いや、立場を理解していない者の罵声が轟く。彼らにはあまりに耳障りに聞こえたらしく、この場にいた奴の一人が腰を上げる。
「一匹くらいはいいが…殺しすぎるなよ。我々は元々、この星の人間をモルモット、あるいは必要としている星人共への商品として売るのだからな」
去っていくそいつに向け、別に誰かがそう言った。

 
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