戦国異伝
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第二百四十三話 信長の読みその七
「我等はその時は引き返してじゃ」
「そして、ですな」
「姫路を攻めている奴等を滅ぼす」
「そうするだけですか」
「しかしわしを追ってきてな」
「一ノ谷に来れば」
「その時も引き返してな」
そして、というのだ。
「倒す、よいな」
「畏まりました」
「ではな」
信長はあらためて言った。
「一旦主力と共に大坂に戻るとしよう」
「敵を誘い出す為に」
「そうするとしよう」
「それはまた大胆な」
「大胆というか」
「はい、敵が思惑通りに動かねば」
「動く」
それは間違いないとだ、信長は断言した。
「間違いなくな」
「あの者達はですか」
「あの者達の動きはわかった」
それは既にというのだ。
「読めてきた、奴等は兵法を知らぬ」
「それが故にですか」
「決まった動きしかせぬ、松永がいれば違ったがな」
「あの者がいればですか」
「面白い動きをしておった」
松永が魔界衆にいれば、というのだ。
「例えばいきなり大坂を攻めるとかな」
「大軍で」
「うむ、そうしていたやも知れぬがじゃ」
「しかしですか」
「そうじゃ、しかし今の魔界衆はじゃ」
その彼等はというと。
「わしの首だけを狙っておる、ではな」
「父上は、ですか」
「あえて囮となって敵を出してな」
「そのうえで」
「敵を迎え撃ってくれるわ」
自信に満ちた笑みでの言葉だった。
「そして打ち破ってくれるわ」
「父上だけを狙って来ることを読んでおられるからこそ」
「そう動くのじゃ」
あえてだ、自分が囮となってというのだ。
「だからじゃ」
「姫路城もですか」
「五万の兵を置いて竹千代も置く」
「それで、ですか」
「充分じゃ」
至って、というのだ。
「万が一姫路を攻めても充分守れる」
「大坂を攻めることはないと」
さっき信長が言ったことをだ、信忠は問い返した。
「それもですか」
「あの城を陥として拠点とすれば確かに大きいがな」
「松永ならそうしていましたか」
「あ奴ならな、しかしな」
「今の魔界衆はとてもそこまで、ですか」
「思い至らぬ、至ってもじゃ」
それでもというのだ。
「わしが目の前にいればな」
「それで、ですか」
「わしの首を取ろうと躍起になるわ」
目の前の獲物、それをというのだ。
「そういうことじゃ」
「左様ですか」
「そうじゃ、だからな」
「あえてですか」
「大坂に戻る用意をしておこうぞ」
そのふりをするというのだ。
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