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まずいジュース

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1部分:第一章


第一章

                      まずいジュース
 濱田凛はこの時友人の前島皆美と一緒にある県を旅していた。
 女二人の気楽な旅だ。身なりもそれぞれジーンズにジャケットにリュックと身軽なものである。髪も適当に束ねてそのうえで道を歩いている。
 そうしながらだ。凛は皆美に声をかけた。凛は一六五を越えていてすらりとしている。気の強そうな目に白い肌、黒く長い髪をしている。そのうえで茶色がかった髪を肩まで揃えて伸ばしカマボコの形の目をしていて左目の付け根に泣き黒子がある皆美に声をかけたのであった。
「何かね」
「どうしたのよ」
「喉渇かない?」
 こう皆美に言ってきたのであった。
「結構ね」
「実は私もさっきから」
「喉渇いてたのね」
「ええ、とてもね」
 その通りだと凛に返す皆美だった。二人は彼女達の他には誰もいない道を歩いている。車も通らず左右には田畑が広がっている。その緑がアスフアルトの黒と実に対称的だ。
 その中を歩きながらだ。凛は言うのだった。
「何か飲み物ない?」
「あったら喉渇いてないわよ」
 すぐにこう言ってきた皆美だった。
「そうでしょ」
「言われてみれば確かに」
「そうでしょ、それは」
「じゃああれ?このままずっと歩いて」
「自動販売機まで我慢ね」
「それしかないわね」
 凛は自分で言った。
「とりあえずこの長い道を歩いてね」
「何か適当な旅はいいけれど」
「それでも。こうした時はね」
「困るのよね」
「全く。女二匹の気楽な旅」 
 凛は笑いながら言った。
「適当な旅館に泊まりながら行きたい場所に行く」
「飲み物と食べ物も適当」
「じゃあ適当に見つけて」
「そうしよう」
 こんな話をしてだった。二人はただひたすら道を進む。その中でだ。
 また凛が皆美に言ってきた。そうしてであった。
「とりあえず面白いことがあったらね」
「あんたのブログに書くのね」
「うん、そのつもり」
 懐から携帯を取り出しながら皆美に話す。
「いつも通りね」
「そうするのね」
「何か今日はそういうのないけれど」
「適当に旅続けてますって書いたら?」
「それはもうしたから」
 既にだというのである。携帯で自分のブログを観ている。そこには今二人が歩いている道の写真がある。緑の田園もだ。
 日差しが心地よい。夏の暑いものではなく春のだ。その日差しの中で言うのだった。
「だから。今はね」
「面白い記事求むってことね」
「ジュース飲んで生き返ったじゃ駄目かしら」
「それじゃあインパクト弱くない?」
 皆美は携帯を観る凛を横目で見ながら述べた。
「何か強烈なね」
「強烈な話ね」
「例えば前から猪が出て来たとかね」
 皆美はここでこんなことを言い出した。
「それでその猪が私達に向かって突撃してくるとか」
「そうなったら私達死ぬじゃない」
「そこから必死で逃げて助かったとか」
「逃げられなかったら?」
「上手くいって入院ってことで」
「全然駄目じゃない」
 凛は憮然とした顔になってそれは駄目とした。
「死んだらブログ書けないじゃない」
「それもそうね」
「そうよ。だからもっと普通の話でね」
「それだと面白くないじゃない。普通だと」
「だから。普通の面白さよ」
 凛が言うのはそのことだった。
「旅にある。そういうものよ」
「じゃあ鬼が出て来たとか山姥とか」
「ゲゲゲの鬼太郎でしょ、それは」
「やっぱり普通じゃないのね」
「妖怪の何処が普通なのよ」
 少しむっとした顔になって突っ込みを入れる凛だった。二人は話をしながら歩き続けている。二車線の道は相変わらず二人だけしかいない。左右には田畑が広がり続けている。その二人を日差しが照らしている。車も来ない。
 
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