ドラゴンクエストⅤ~紡がれし三つの刻~正式メンバー版
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一の刻・少年期編
第八話「来ない春とイタズラ妖精」
リュカがビアンカと共にレヌール城のオバケ退治をした翌日、リュカとパパスはサンタローズへと帰って来た。
「ピッ?ピッピピィ~~ッ!!」
「リ、リュカ……、それは……どうしたの?」
「アルカパで友達になったリンクスだよ。リンクス、この二人は僕の友達のピエールとスラリン、仲良くしてね」
「ガゥン」
サンタローズの家に帰ってさっそく、ピエールとスラリンにリンクスを紹介するが二人共リンクスを見て怯えている。
まあ、当然であろう。魔物の中では最弱に位置するスライムの前に居るのは……
「リュカ!そ、そいつは魔物だよ!地獄の殺し屋って呼ばれているキラーパンサーの子供だよ!」
「ピイピイピィ~~~」
「ふ~~ん。でもスラリン達だって魔物だろ、なら仲間じゃないか」
「ピイ?」
「リュカ……、ぷっ!あはは、そうだよね。僕等は皆リュカの友達なんだった、よろしくねリンクス、僕はスラリン」
「ピイピィ……ピエール」
「あれ?ピエール、喋れる様になったの?」
「うん、僕と一緒に言葉の練習をしてるんだ。もっとも、まだ自分の名前だけしか話せないけどね」
「僕が皆の言葉が解ればいいんだけどな」
「 !! ガ、ガウガウ!クウーーンッ!」
「わっ!ど、どうしたのリンクス?」
「あはは、リンクスもリュカとおしゃべりしたいんだって。リンクスも僕達と一緒に練習しよう」
「ガウーーンッ♪」
そんなリュカ達の会話を聞きながらパパスとバークは複雑な気持ちでいた。
魔物達と心を通わすリュカ、その姿に嘗てのマーサがどうしても重なるのだから……。
―◇◆◇―
春は既に訪れている筈で、夏も間近だと言うのにサンタローズ…いや、どの国も未だ冬の寒さの中にあった。
そんなある日、村のあちこちで妙な事件が頻発した。
事件と言うよりどちらかと言うと子供のイタズラっぽいのだ、もちろんリュカはそんな事はしないと村の皆は解っているので疑われる事は無かったが、だからこそ犯人は解らないままであった。
「坊っちゃん、少しお使いを頼まれてくれませんか?」
「うん、いいよ」
パパスは朝から調べ物があると部屋に籠りっきりなのでリュカはそんな父の邪魔をしない様に部屋から降りて来るとサンチョからお使いを頼まれた。
「すみませんね、実はまな板が見当たらないもので捜している最中なんですよ。酒場に頼んでおいたグランバニアの地酒が届いていますので受け取って来ていただけますか」
「了解!いってきます」
リュカが元気よく飛び出して行くとリンクス達もその後を付いて行く。
暖炉で暖かかった家の中から外に出ると途端に寒くなる。
焚き火で暖を取っている人、震えながらも畑仕事をしてる人、皆この寒さに震えていた。
「いつになったら春が来るのかな?早く来てほしいな」
「ほんとに変だよね」
「ピィ~~」
「ガゥ~~、ク~ン」
「ん、どうしたのリンクス。寒いの?」
「キュ~~ン」
リュカは寒そうに擦り寄ってくるリンクスを抱き抱えてやる。
「あはは、甘えん坊だねリンクスは」
「キュゥ~~ン♪」
そんな彼等が酒場のある宿屋に向かっていると其処に見慣れない一人の青年が居た。
紫色のマントを身に付け、長い黒髪は根元で纏め、頭にはターバンを巻いていた。
青年はリュカを見つけると優しく微笑みながら近づくとしゃがみ込んで目の高さを同じにする。
「今日は、坊や」
「こ、今日は…」
「そのベビーパンサーやスライム達は坊やの友達かい」
「そうだよ!皆僕の友達なんだ、悪い魔物じゃないよ!」
「ははは、心配しなくても苛めたりしないさ。こんなに綺麗な眼をしてるんだ。悪い子達じゃない事は一目で解るよ」
青年はそう笑いながらリュカの腕に抱かれているリンクスの頭を撫でてやり、リンクスも別に抵抗せずに大人しく撫でられている。
「ガウ?」
「ピイ?」
(この人の目、リュカとそっくり……。いや、全く同じだ。何で?)
スラリン達も目の前の青年の違和感に…否、"違和感の無さ"に驚いていた。
そしてリュカを見るその目の寂しさ、そして哀しさにも。
青年はリュカの腰にある道具袋を見つめ、其処から淡い光が零れているのを確認すると笑いながら語りかける。
「坊や、何か綺麗な宝玉を持ってるね」
「え、これはダメだよ!……お兄ちゃんひょっとしてドロボウ?」
「はははは、違うよ。僕も同じ様な宝玉を持ってるからちょっと気になっただけさ、ほら」
リュカは袋を隠すようにしながらゆっくりと後ずさっていくが青年は自分の袋から黄金色に輝く宝玉を取りだした。
「わ、ホント。僕のとそっくりでキレイ」
そう言いながらリュカは袋から自分の宝玉を取り出す。
並べて見比べようとすると青年の宝玉が日の光を受けて光り、リュカ達は目を眩ませ一瞬目を閉じると躓いたのかよろけて倒れそうになり、それを青年が支える。
「大丈夫かい、坊や?」
「う、うん、へいき」
青年は立ち上がりながら宝玉を自分の袋にしまい込み、リュカも自分の袋に入れた。
青年はそんなリュカの頭に手を乗せ、優しく撫で付ける。
「何?お兄ちゃん」
「坊や、お父さんの事は好きかい?」
「当たり前だよ、僕の父さんは世界一なんだ」
「そうか……、だったらその父さんに誇れる男になれ!負けるな!挫けるな!何があっても前に進め!……いいな」
「う、うん!分かったよ、お兄ちゃん!」
リュカはそう叫び、青年が差し出していた拳に自分の拳をぶつける。
青年はそんなリュカを見て優しそうに、そしてやはり哀しそうに微笑んだ。
「さ、お使いの途中だろ、早く行きな」
「そうだった!ありがとね、お兄ちゃん!」
青年に背を向け駆け出すリュカ、その後をスラリン達が付いて行く。
ふと、スラリンが青年を振り向いてみると…
「まだまだ子供のリュカを頼むな、『スラリン、ピエール、リンクス』」
そう小さな声で呟いていた。
「あれ?何で僕達の名前を知ってたんだろ」
「ピイ?ピイピイ」
「ガウン」
「村の人達に聞いてたんじゃないかって?(でも何であんなに何もかもがリュカと同じだったのかな?)」
歩き続けていると宿屋の近くの民家の前で女性が何かを捜している感じでウロウロしていた。
「おばちゃん、どうしたの?」
「ああ、リュカくんかい。いえね、仕舞ってあったお菓子が無くなっていて代わりにゴールドが置いてあったんだよ。おじいさんが何時もみたいに摘み食いしたのかと思ったけど」
女性がそんな風に溜息を吐いていると家の奥から「ワシャ、摘み食いなどしておらぬと言うておるのに」とおじいさんの呟きが聞こえて来た。
「じゃあ、僕おつかいの途中だからもう行くね」
「じゃあね、リュカくん」
酒場は宿屋の地下にあり、リュカは挨拶をしながら入って来る。
魔物のスラリン達はこの村ではすっかり顔馴染みの為、今更怖がる面々は居らず他所の旅人が居ない店の中に入って来ても文句は出なかった。
「おや、リュカくんどうしたんだい?」
「お使いに来たんだ、酒場に下りるね」
「立派だな、リュカくんは。それに比べて、ブツブツ……」
「どうかしたの、おじさん?」
「ああ、誰か宿帳に落書きしている奴が居てね、昨日も誰も泊まっていない筈なのに宿帳の名簿に「ベラ」と書かれてるんだ。妙な事にゴールドまで置かれていてね。何だか気味が悪いよ」
「そうなの、何か変だね」
受付の親父に手を振り、リュカは酒場のある地下へと降りて行く。
まだ昼間の為、さすがに客は居らず酒場のマスターは準備に追われているのかあくせくと動き回っていた。
「マスター、お使いに来たよ。父さんのお酒をちょうだい」
「おお、いらっしゃいリュカくん。…それがね、どう言う訳かパパスさんに頼まれたお酒が見当たらないんだよ」
「え?父さんのお酒、無いの?」
「どうもこの所変な事ばかりあるんだ。グラスの位置が変っていたり、今みたいに何かが隠されていたり」
マスターは話しながら酒を探し続ける。
ふと、リュカが辺りを見回すとカウンターの上にちょこんと座っている女の子が居た。
ただ、その女の子は少し変っていた、耳が少し長く、そしてレヌール城の王様達みたいに半透明なのだ。
「ねえ、君は誰?」
《えっ?…あなた、私が見えるの?》
「うん、でも何だか透き通ってるみたい」
《やっと、やっと見つけたわ。ねえ、あなたの名前は?》
「僕?僕の名前はリュカだよ、この子達はスラリンにピエール、そしてリンクス。僕の大切な友達だよ」
《魔物と友達になれるの?凄いわ、あなたなら間違い無さそう》
「何が?」
《此処じゃゆっくりお話しが出来そうにないわね。たしかこの村には地下室がある家があった筈》
「それ、僕の家だよ」
《ならちょうどいいわ、そこで待っていてちょうだい。詳しい話は其処でするから》
「分かった。マスター、僕帰るね」
「ああ、ごめんなリュカくん。お酒は見つかったら家に届けるからそう伝えておいておくれ」
「うん、じゃあまたねーー」
リュカが家に帰ろうと教会の前を通りかかるとシスターが何やら赤い顔をして話しかけて来る。
「リュカくん、先ほどこの前で男の人と話をされてましたが一体あの方はどなたですか?」
「さあ?僕も見た事ないお兄ちゃんだったから誰かは分からないよ」
「それは残念ですね。お話がしたかったんですが何処に行かれたのでしょう?」
シスターと別れて家に着くとサンチョにお酒が見つからないでいると伝えた。
「そうですか、本当に最近は妙な事が続きますね。でも幸いに先ほど旦那様にお客様が来て、滅多に手に入らないルラフェンの地酒を持って来て下さったので旦那様も大層喜んでいましたよ。マスターには後で然程急がないと私が伝えておきましょう」
「そのお客さんってまだいるの?」
「いえ、坊っちゃまが帰って来る少し前にお帰りになりました。でもどうかしたのでしょうかね、凄く寂しそうで哀しそうな顔をしてらっしゃいました」
そんなサンチョの言葉を聞きながらスラリンはさっき出会った青年の事を思い返していた。
(もしかしてさっきのあの人なのかな?あの人の目も凄く寂しそうで哀しそうだった。誰なんだろう?)
「サンチョ、僕ちょっと地下室にいるね」
「地下室ですか?寒いですから風邪を引かない様に気を付けて下さいね」
「大丈夫、リンクスを抱いていれば暖かいから」
リュカはリンクスを抱き抱えるとスリスリと頬擦りをする。
リンクスは行き成りの事に少し驚いたが、それでも嬉しそうに自分もリュカに頬擦りをし返す。
地下室に降りると何時の間に先回りしたのか既にベラがリュカ達を待っていた。
「あれ?随分早いんだね」
「えっへん、これ位の事朝飯前よ。じゃあリュカ、これから妖精界に来てちょうだい。詳しい話は其処でするから」
「でも、かってに何処かに行くと父さんに怒られちゃうよ」
「その心配なら要らないわよ。~@*#$+~」
ベラが妖精の言葉なのか、聞き慣れない呪文を唱えると何処からともなく光の階段が降りて来た。
「この“妖精の道”を通れば人間界と妖精界の時間の差は無くなるの。つまり妖精界でどれだけ時間を過ごしても今と同じ時間に人間界に帰って来れるという訳よ」
「そっか、なら安心だね。じゃあ、皆で行こう」
「ガウン」
「ピッピィーー!」
「うん、今度は僕も着いて行くよ」
そうしてリュカ達はベラの後を追って、光の階段を昇って行った。
其処でリュカはまた新たな闘いに身を投じる事となる。
妖精の国に、そして世界に春を呼び戻す為に。
=冒険の書に記録します=
《次回予告》
ベラに連れられてやって来た妖精の国。
でも、この国も雪に埋もれてとても寒そう。
何でも宝物の春風のフルートを盗まれて春が呼べないんだって。
そんな悪い事をする奴は僕等がやっつけてやる!
次回・第九話「取り戻せ!春風のフルート」
さあ、行っくぞぉーー!
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