赤い帽子
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5部分:第五章
第五章
「はい、それでは」
何かが男に迫る。男はその何かに対して拳銃を構える。そして。その引き金を引いたのであった。
引き金が引かれた次の瞬間から時間が止まった。銃弾はそのまま前に進み前から彼に襲い掛かる何かの額に吸い込まれていく。そうしてその額にゆっくりとめり込み中に入る。入ったその穴から血が出るがその瞬間にはもう銃弾は頭を突き抜けていた。そうしてプラットホームの壁に当たりそこに割れ目を周囲に張り巡らせた穴を開ける。それができたその瞬間には額を撃ち抜かれた何かはプラットホームの上に倒れ込んでいた。これで全ては終わりであった。
「これでよし」
撃ち終えた男は静かに語る。拳銃の銃口からは白い煙が出ていた。闇夜の駅の中に白い煙が映えていた。
「終わりました」
「今のでだな」
「はい」
そう署長に述べる。
「犯人は死にました、これで」
「では事件は終わりだな」
署長はまずそれを問うたのだった。
「これでやっと」
「はい、ですが署長」
そのうえで彼は署長に告げるのだった。
「犯人を御覧下さい」
「うむ、そうだったな」
「それだ」
副署長も言う。二人は起き上がりながら言葉を出す。少し伏せていたので制服のあちこちに汚れがついていたがそれは気にはしなかった。
「一体何者なのだ」
「十一人、いやひょっとしたらそれより多くの人間を殺してきたのは」
「彼です」
男は起き上がった署長と副署長に対して述べた。述べながら目の前に倒れ伏している躯を指差すのであった。その躯とは。
「何だ、これは」
「これは一体」
二人はその躯を見て思わず目を顰めさせた。そうせざるを得ないものがその躯にはあったからだ。
特徴的なのは二つあった。その服装もまたやけに古めかしく少なくとも今の服ではなかったがそれよりも特徴的だったのはまず手に持っている斧と頭にある赤い帽子だ。特にその赤い帽子はやけに真っ赤でしかも剣呑で残酷な雰囲気さえ漂わせているものであったのだ。
顔はしわがれた老人のものであったが口からは牙がのぞいている。目は赤く光こそなかったが鋭く邪悪なものを漂わせていた。皺だらけの手の爪は禍々しく伸びている。そうしたことを見ていくとこの躯が人間のものとはとても思えなかった。
「レッドキャップです」
男はここでこう言った。
「これはレッドキャップです」
「レッドキャップだと」
「はい、古くから伝わる妖精の一種でして」
彼はそう署長と副署長に述べてきた。
「昔からいます。何分残忍な奴でして」
「残忍となるとやはり」
「そうです、これまでの事件はこいつの仕業です」
署長に対して述べた。
「この斧で殺していたのです」
「そうだったのか。これでか」
「この斧で」
二人は男の話を聞いて納得してレッドキャップの斧を見た。見れば刃のところが赤く染まっている。その赤が何であるのかはもう言うまでもなかった。
「長い間多くの人を殺してきました」
男はまたレッドキャップについて語る。
「それもかなり」
「千年の間だな」
「そうです。それは妖精だからできたのです」
また署長に対して述べる。
「それだけの長い間人を殺してきたのは。だからなのです」
「そうだったのか。それでか」
「人を殺すのは何も人だけとは限りません」
そしてここまで話したうえでこう述べた。
「他の存在もまたその中に入ります。こうした妖精でさえも」
「わかった。今それがようやくわかった」
署長は忌々しげでかつ恐れる顔で言葉を返した。
「だからか。今まで犯人が碌にわからなかったのは」
「その通りです。人が相手ならば見つけるのは容易です」
実際にはそうとは限らないが少なくとも人ならざるものに比べればましである。彼はそれを踏まえて今署長に対して話をしていた。
「ですがそれでも見つける方法がないわけではなく」
「それで君は独自で捜査を進めていたのか」
「その通りです。上手くいって何よりです」
「それでだ」
署長はここで別の質問を彼にしてきた。
「何でしょうか」
「君が用意していた切り札だが」
「あの拳銃ですか」
「そうだ。あれは一体何だったのだ?」
次に問うたのはそこであった。
「妖精を一撃で倒したが。あの拳銃は一体」
「まず拳銃に聖書の言葉を刻みました」
彼はそれを受けて説明をはじめた。
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