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魔女将軍

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6部分:第六章


第六章

「ではやっぱり今回は」
「今回だけではないぞ」 
 また人々は言い合う。
「何度も魔女狩りをしていたぞ」
「そしてその度に」
 そうなのだった。ホプキンズは今はじめて魔女狩りをしているわけではないのだ。彼は名うての魔女狩り将軍として知られ多くの魔女を摘発していたのだ。
「ということは今までの魔女も」
「そういえば皆」
 人々はさらに気付くのだった。
「自分は魔女ではないと言っていたよな」
「あの時は魔女の戯言と思っていたけれど」
「それだと」
 愕然とするものがあった。つまり彼等が魔女だと思っていたのは。それに気付いた彼等は愕然とすると共にホプキンズに対して激しい怒りを抱きだしていた。
「よくも騙してくれたな」
「俺達を騙していただけでなく」
 それだけではないというのがホプキンズの悪質なところであった。
「あまつさえ罪のない人達を魔女と陥れるなんて」
「何て男だ」
「さて、ホプキンズさん」
 激昂しかけた人々の暴発を抑えるようにして彼等の前に立ちそのうえでホプキンズに対して告げるのだった。なおも彼を見据えつつ。
「罪を認めますかな」
「何の罪をだ」
「貴方が魔女だといって多くの人を陥れた罪です」
 このことをあえて宣告してみせる。
「それを認めますか」
「言った筈だ」
 しかしホプキンズはそれを認めない。この厚顔無恥さは流石と言えた。伊達に罪のない人々を陥れてそれを食い物にしているわけではなかった。
「私を誰だと思っているかと」
「今それを認めればせめてまともに裁判を受けられますが」
「ふん、裁判だと」
 裁判と聞いても一笑に伏す。虚勢であってもだ。
「私は弁護士だ。その弁護士を裁判にかけるなどと」
「できますよ」
 司祭は冷然とした調子でまた彼に告げた。
「例え弁護士であろうとも過ちを犯した者は裁判にかけられる」
「証拠はあるのか」
「既に」
 またしても手にある針を見せてみせる。それが何よりの証拠であった。
「これです。これが何よりの証拠です」
「うう・・・・・・」
「さて、どうされますかな」
 一歩も動かない。しかし動かないまま彼を追い詰める司祭であった。
「認められますか。それとも」
「言った筈だ。事実なぞどうでもいい!」
 何があろうとも罪を認めないホプキンズであった。そして。
 剣を抜いた。そのまま遮二無二剣を振り回し司祭に向かって行く。司祭も人々もそれを見て慌てて飛び退いたのであった。
「どけ!」
「なっ、危ないぞ!」
「よけろ!」
 人々は慌てて道を開ける。司祭はすっと左によけて彼をかわす。ホプキンズはそれを見て一気に駆け抜ける。それから己の馬に飛び乗りその場を後にしたのだった。
「逃げられたか」
「くっ、折角だったのに」
「いえ、構いません」
 人々は悔しがるが司祭は至って冷静であった。ただ一人。人々はその彼を見て怪訝な顔で問うのだった。
「もう何もできませんから」
「確かにそうですが」
 もう彼の正体は明らかにされた。それでどうこうすることはもうできないのは誰の目にも明らかなことだった。だがそれでも人々は怪訝な顔を崩せなかった。
「ですが逃げられましたし」
「捕まえることはもう」
「それもまたいいのです」
 しかし司祭はそれもいいというのだった。
「気にすることはありません」
「そうなのですか」
「はい、全く」 
 この場合においても落ち着き払った声は変らなかった。
「気にすることはありません。全く」
「またどうして」
 誰もがその怪訝な顔で司祭に問うた。
「気にすることはないと」
「逃げられたのに。確かにもうどうこうすることはできないでしょうが」
「既に彼の命運は決しました」
 その静かな声で人々に答えたのであった。
「ですからいいのですよ」
「いいのですね」
「ええ」
 笑みもまた穏やかであった。しかしそれと共に何故か寂しいものもそこにはあった。複雑と言ってもいい不思議な笑みであった。
「それでいいのです」
「そうですか」
「それよりもです」
 あらためて人々に告げるのであった。
「このお婆さんを」
「あっ」
「そうでした」
 司祭に言われてようやく気付くのであった。これまであまりにもホプキンズに注意を向け過ぎてしまっていたことの結果であった。
「早く縄を解いて」
「傷の手当てをしないと」
「よくしてあげて下さい」
 老婆を労わってくれるようにも頼むのだった。
「やはり。ショックを受けておられますから」
「そうですよね」
「魔女と思われればやはり」
「あの審問も」
 ホプキンズの審問は陰湿であった。それだけに心に受ける傷は深いとわかるからだ。人々はこのことを思い様々なことを考えることになった。
「きついなんてものじゃないですね」
「ましてやです」
 自分自身に置いても考えだした。
「自分が受ければどうなるか」
「魔女と思われれば」
「辛いですね」
 司祭はこのことも人々に問い掛けた。
「そうなれば。やはり」
「魔女ではないです」
「私もです」
 人々の言葉はここではかなり必死なものになっていた。どうしてもそれだけは否定したかったのだ。若し魔女だとされればどうなるか。彼等こそがよくわかっていることだからだ。
 
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