魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第2章:埋もれし過去の産物
第27話「新たな厄介事?」
前書き
はい、第2章の始まりです!
主な流れはリリなのGODにしますが、ゲームソフトどころかPSPすら持っていないので、セリフはほぼ独自展開です。(設定的にゲーム通りにする事の方が難しいけど)
おまけにBOAを経ていないので、時系列もずれています。
※注意:この章はオリジナル展開ばかりになります。1章は空白期でしたので仕方ありませんでしたが、今回は原作と完全にかけ離れている(と言うか原作キャラの影が薄い)ので、予めご了承ください。
―――....なぁ。
―――なんでしょうか?主。
―――ベルカの騎士で最強って、誰になるん?
―――ベルカの騎士で...ですか?
―――やっぱり、シグナムとか?
―――...いえ、強さで言えばかつての“導王”や“狂王”の方が強いです。
―――“導王”?“狂王”?
―――私も実際にあった事はありませんが、知識だけは知っています。
―――どんな人なん?
―――...曰く、導王は導きの王そのものであり、統率力は当時のベルカ一でした。
―――導きの王かぁ...なんや、凄い名やなぁ...。
―――狂王は...導王の知り合いでありながら、狂気の赴くままに導王を殺しました。
―――....なんや、それ...。
―――だからこそ、“狂王”と呼ばれるようになったのです。
―――じゃあ、最強の騎士はその狂王なん?
―――.....いえ、そうではありません。
―――えっ?違うん?
―――はい。狂王はかの有名な“聖王”と“覇王”に打ち倒されました。
―――じゃあ、その“聖王”か“覇王”が?
―――いえ、それも違います。
―――えぇ~?じゃあ、誰なん?
―――....ベルカには、こんな話がありました。
―――話?
―――かつて、全ての騎士を一人で打ち倒した災厄に、打ち勝った騎士がいると。
―――...どういうことや?それ。
―――先程の導王などがいた時代よりも遥か昔の話らしいです。
―――“らしいです”って...詳しくは知らんの?
―――お恥ずかしながら...。
―――全ての騎士を倒した相手に勝った騎士って...矛盾しとるんやないの?
―――しかし、話ではそう伝えられています。
―――むぅ...詳しく分からんのはモヤモヤするなぁ...。
―――ただ、その災厄の脅威というのは、闇の書を凌駕すると思います。
―――....ほら、全ての騎士を倒したからなぁ...。
―――ですので、それを打ち倒した騎士が最強ではないかと。
―――むぅ~...あー、こんなん考えても無駄なだけやな!
―――全ては昔の事ですから...過ぎた事ですからね。
―――せや!だから、この話はもうやめにしよう!
―――そうですね。
=優輝side=
「...はぁっ!」
「ふっ!」
カン!カン!と、木刀がぶつかり合う音が断続的に響き渡る。
「そこっ!」
「甘い!」
「っ!」
一瞬の隙を見つけ、突きを繰り出すも、紙一重で回避されて反撃を喰らいかける。
「ま、だ...!」
「っ、く....!」
斜めから振り下ろされる木刀の腹に拳を添わせるように当て、木刀を逸らす。
そのまま、突きから戻してきた木刀をそのまま払うように振るう。
「――――――。」
しかし、その木刀は空を切り、姿も見失う。
すぐに僕は思考を加速させ、視界をモノクロの世界に切り替える。
「―――はぁっ!」
「―――ぜぁっ!」
後ろから迫ってきていた四つの斬撃に、僕は同じ数の斬撃で受け流そうと対抗する。
―――バキィイッ!!
「っ...!」
「くっ....!」
しかし、その際の負荷に耐え切れず、木刀が折れてしまう。
「....木刀も折れたし、キリもいいだろう。ここまでだな。」
「...そうですね。恭也さん。」
本当は素手でもできるが、飽くまで鍛錬なのでここで終わりだ。
「直しておきますね。」
「助かる。...しかし、結構便利だな。その魔法。」
「木材とかポピュラーな素材の物なら大抵直せますしね。」
魔力変換資質・創造。それはFateの士郎の投影魔術に似通っている部分が多いため、こうして武器の修復には重宝している。
「今日はこれで。ありがとうございました。」
「ああ。また明日な。」
「はい!」
一礼して、僕は高町家を後にする。
“カタストロフ”の一件から、僕はずっと恭也さんと鍛錬に励んでいる。
さすがに既に導王流があるため御神流は習えないが、恭也さんは剣士として強いので、模擬戦をするだけでも僕の糧になる。
...さて、それはそうと帰って夕飯の支度だな。
「ただいまー。」
「お帰りなさーい。」
家の玄関を開けると、緋雪が出迎えてくれる。
リビングに行けば椿と葵もいた。
「あっ、お帰りなさい。」
「ただいま、椿。」
僕が返事を返すと照れ臭そうに顔を逸らす。...今のに照れる要素あったか?
「優ちゃん、今日はどんな感じだった?」
「いやぁ、また木刀壊れて終了だよ。恭也さんも僕との模擬戦でさらに強くなってるから、まだまだ容易に勝てないよ。」
葵は葵で僕に今日の鍛錬の結果を聞いてくる。
ちなみに葵は人の名前の一部を取ってちゃん付けで呼ぶ癖があるらしく(かやちゃんとか)、僕の事は“優ちゃん”、緋雪は“雪ちゃん”と呼んでいる。椿は以前のままだが。
「明日は土曜日だし、少し緋雪と模擬戦でもするか。」
「えっ?やるやるー!」
「“少し”だからな?全力じゃないぞ?」
「分かってるよー。」
“強くなる”と決心してからしばらく経っているが、最近は至って平和だ。
だからと言って決心したのは変わらないので、こうやって偶に模擬戦もしたりしている。
「じゃあ、昼になる少し前に始めるぞー。」
「うん。りょーかーい。」
翌日、朝食の準備をしつつ、模擬戦のする時間を決めておく。
そして、昼前になって....。
「よし、じゃあそろそろ...。」
―――ピンポーン
始めようと外に出ようとした時にインターホンが鳴る。
誰だ...?
「...って、あれ?司さん?」
「おはよう....というより、もうこんにちはかな?」
「どうしたのこんな時間に?」
玄関を開けるとそこには司さんがいた。
はて、司さんが僕の家に来るような理由に覚えはないけど...。
「そういえば、優輝君と模擬戦した事なかったなぁって思って...。」
「あー...今から緋雪と模擬戦するつもりだったんだけど...。」
「あ、そうなの?...じゃあ、見学だけさせてもらっていい?」
「ん、それならいいよ。」
そう言えば確かに司さんと戦った事ないなぁ....。
また機会があれば戦ってみるか。
「緋雪ー!始めるぞー!」
「待ってー!....っとと、って、あれ?司さん?」
すぐに支度を済ませて玄関まで緋雪はやってくる。そして、司さんに気付く。
「私も模擬戦、見ていいかな?」
「え?別にいいけど...。」
「...せっかくだし、椿と葵も誘ってみるかな。」
そういう訳で、二人も誘ってから近くの山の空き地に行く。
「じゃあ、始めるぞー。」
結界を張り、準備は万端になった。
椿と葵も快く見学する事を承ってくれたので、今回は三人も観客がいる事になる。
「....っ!」
「ふっ!」
早速緋雪はレーヴァテインを作りだし、斬りかかってくる。
それを、僕は真正面から受け...ようとして、後ろに受け流す。
「シャル!」
「っと、防がれるか。」
受け流すと同時に隙だらけな胴体に魔力弾を放ったが、防御魔法で防がれる。
「はぁっ!」
「くっ....!」
防御魔法の上から突き飛ばすように剣形態のリヒトを振う。
その反動で僕は間合いを測り....。
「貫け...!“ドルヒボーレンシーセン”!!」
多数の魔力弾を、一斉に放つ。
もちろん、それも貫通力を高めたため、生半可な防御だとあっさり貫く。
「っ...!薙ぎ払え!!」
それを、緋雪はレーヴァテインの魔力を放射状に放ち、相殺する。
「“模倣:カゴメカゴメ”!」
「嘘ぉっ!?」
緋雪が以前に使っていた魔法を模倣し、繰り出す。
コピーされた事に緋雪も驚いたみたいだ。
「っ....“きゅっとして....ドカーン”!!」
咄嗟に緋雪は能力を使い、弾幕の半分以上を一遍に破壊する。
けど....。
「はっ!」
「しまっ..!?あぅっ!?」
その間に僕は懐に接近し、一閃する。
レーヴァテインに防がれたけど、吹き飛ばしてダメージは与えられた。
「(もう一度...!)」
「させ...ないっ!」
「っ!」
もう一度斬りこもうとしたら、緋雪は魔力を開放し、僕を吹き飛ばす。
すぐさま僕は体勢を立て直し、攻撃に備えr.....!?
「“フォーオブアカインド”!!」
「やば...!」
僕は魔力が少ない。だから、四人に増えられると対処が...!
「....やる、か。」
今までは“違う戦い方”と言う感じで戦ってたけど...やっぱり、こっちのが性に合うらしい。
「.........。」
魔力を魔法と身体強化で3:7に振り分ける。
リヒトを左手でしっかりと持ち、半身を逸らした状態で構える。
「はぁっ!」
「っ!」
―――ギィイイン!
増えた緋雪の一人(ちなみに分身)が斬りかかってくる。
もちろん、牽制で真正面からだったので、リヒトで受け流す。
「(....よし、行ける!)」
そこからは四人の緋雪による連携攻撃が始まる。
右からの斬撃をリヒトで左に受け流し、背後からのは右の裏拳で逸らす。
隙だらけとなった胴体に薙ぎ払いが迫るが、ムーンサルトの要領で蹴り上げ、逸らす。
「はっ!」
大して多くない霊力を衝撃波として放ち、さらに来るであろう追撃を阻害する。
それによりできた隙を見逃さず、一人の緋雪(勿論分身)に迫り、リヒトを振りかぶる。
「くっ...!」
「はっ!」
レーヴァテインを横に逸らして行き、その隙に剣を創りだし、射出する。
「盾!!」
しかし、それは防御魔法に防がれる。...が、それで力がほんの少し弱まる。
「はぁっ!」
レーヴァテインを大きく逸らし、無防備な体に一撃を入れようとする。
「しまっ....!?...なんてね♪」
「っ!?」
驚いた顔を一変させ、してやったりな顔になる緋雪。
そう。後ろには既に三人の緋雪が迫ってきていたのだ。
....だけどまぁ....。
「甘い、ね。」
「えっ!?ガッ...!?」
超短距離転移で横に避け、そのまま魔力弾を放って後ろから斬りかかってきていた一人の緋雪のレーヴァテインに当て、囮だった緋雪に当たらない軌道なのを、当たるようにする。
「まず一人。ほら、ついでだ!」
「「「きゃぁあっ!?」」」
剣をさらに三つ創りだし、残り三人の緋雪に向けて射出する。
辛うじて防御魔法に防がれたけど...まぁ、いい。
「はぁあああっ!」
防御魔法で弾かれた剣を再度操り、またもや分身の緋雪に斬りかかる。
今度のは創造した剣でも攻撃を繰り返しているので、分身は捌ききれずに消滅する。
「もう一人!」
「させ...っ、くっ...!」
最後の分身に斬りかかろうとすると、本体の緋雪が妨害しようとする。
それを三つの内一つの剣を使って妨害する。視界に入れておけばマルチタスクで操作できるからな。少しばかり遊んでもらおう。
「これで....終わり!」
最後の分身を斬り、これで一対一に戻す。
「さて....っ!?」
すぐさま飛び退くと同時に自身に魔法などの術式が全て破壊されるように霊力を流し込む。
その瞬間、浮いていた剣が全て爆散する。
「....ふぅ、危機一髪。」
「今の...躱されるとは...。」
防護服を再び纏い、一息つく。
ふと視線を向ければ、とっくに剣を破壊していた緋雪がこっちを見ていた。
さっきの爆発はやっぱり“破壊の瞳”か....。
破壊の瞳とは、レアスキルの事で、所謂フランの“きゅっとしてドカーン”だ。
なぜ“破壊の瞳”と言う名前か分かったというと、リヒトから教えてもらった。
「結局は術式によって攻撃してる事には変わりないからな。解除するのは時間がなかったけど、術式を破壊する事はできた。...変わりに無防備になったけど。」
というか、体内にそれを仕掛けてくるとかなかなかに恐ろしい事してくるな。緋雪は。
非殺傷設定だから、魔力ダメージだけなんだろうけど、ショック死するぞ....?
「..でも、短距離とはいえ転移魔法を使わせたから、魔力は少ないよね?なら、このまま...!」
まともに斬り合っても受け流されるのが分かっているのか、魔力切れを狙っているらしい緋雪。...まぁ、有効な戦い方だよね。....でも。
「一つの事ばかり狙ってると、足元掬われるよ?」
「えっ?..っ、きゃあっ!?」
下から剣が飛んできて緋雪は掠めながらもギリギリ躱す。
「えっ?えっ?...いつの間に...!?」
「分身の一人目に防がれた剣。まだ消えてなかったんだよねぇ...。」
「...あっ....。」
剣について言いながら、一気に動揺した緋雪の目の前に迫る。
「動揺が大きすぎる!」
「あうっ!?」
脳天に魔力を込めた拳を当て、ノックアウトさせる。
「はい、終了。...まぁ、僕が相手だから動揺が大きいのだと思うけど、ありとあらゆることを想定しておかないと咄嗟に動けないぞ?」
「うぅ...はーい...。」
模擬戦の最後はあっけなく終わり、僕らは地上に降り、結界を解除する。
「50点ね。」
「うぐっ!?」
「優輝も言っていた通り、動揺が大きすぎるわ。」
「スペックは高いんだから、それを生かさないと。」
すると、椿と葵から辛口評価を受け、緋雪は崩れ落ちる。
「結構辛口だよな...僕でも60点は固いと思ってたが...。」
「はぅっ!?」
あ、余計にダメージ受けたみたい。
「これでも妥協してる方よ。今の緋雪は、種族としての強さに物を言わせて、他を補ってるだけ。それじゃあ、優輝みたいに技術が高かったり、格上の相手には勝てないわ。」
「あたし達は格上の相手なんてよくあったからねー。あたしもかやちゃんと同意見だよ。」
「なるほどな...。」
技術力の問題か....。こればっかりは、修練を積まないとどうにもならないか。
「...ところで、司さんは何を悩んでるんだ?」
「えっ?...あー、えっと...。」
なぜか戦いが終わって見てみたら戸惑っているし、今も歯切れ悪そうにしている。
「...どこか、既視感があったの。」
「既視感?」
「うん。...優輝君と、緋雪ちゃんが戦っている事にね。...今まで、見た事ないはずなのに。」
既視感か...しかも、悩む程って事は....。
....嫌な予感がするな...。
「...ごめんね。変な事言っちゃって。...でも、嫌な予感....ううん、嫌な事が頭に思い浮かんだから....優輝君か緋雪ちゃんのどちらかがいなくなってしまうなんて...。」
「司さん....?」
....なんだろう。司さんが嫌な事を思いだすような表情をしてる...。
「な、なんでもないよ!...うん、なんでもない....。」
「.......。」
怪しい...。けど、司さん自身もよく分からないようだ。
「...優輝君、緋雪ちゃん、椿ちゃん、葵ちゃん。」
「どうしたの?」
「「.......。」」
おもむろに僕ら全員の名前を神妙な面持ちで呼ぶ司さん。
緋雪も、椿や葵も、その雰囲気に真剣に次の言葉を待つ。
「...私にはこの嫌な予感がよくわからない。....だけど、気を付けて。」
「司さん....。」
「...私に言えるのは、これだけ。....ごめんね、ちょっと帰るよ。」
「.....うん。明らかに気分悪そうにしてるよ。帰った方が、いいよ。」
司さんは“ありがとう”と言ってそのまま帰ってしまった。
「“気を付けて”....か。」
「お兄ちゃん...。」
「あの司さんがあそこまで尋常じゃない面持ちで言ったんだ。何事にも対応できるように備えておいた方がいいかもな。」
「同意見よ。私も嫌な予感がしたもの。」
僕は椿、葵、緋雪の順で顔を見る。
....皆、嫌な予感はしたようだ。
「...とにかく、家に帰ろう。今この場で巻き込まれたらちょっときつい。」
僕らは急いで家に帰った。
「.....予備カートリッジ、オーケー。リヒト、調子と装填済みのカートリッジは?」
〈カートリッジ含め、オールグリーンです。〉
...よし、これで一応戦闘に巻き込まれてもなんとかできるな。
カートリッジは“カタストロフ”の一件以来、自作もしている。
今では僕と緋雪でそれぞれ三ダースぐらい持っている。
「皆も備えは大丈夫か?」
「ええ。元々、私は貴方からの霊力があれば大丈夫だし。弓も大丈夫よ。」
椿の弓は僕があの後さらに強化し、見た目は和弓だが、強度が合金に近くなっている。
霊力の媒体となる矢もいくつか増やしている。
「あたしも魔力は十分だよ。後、霊力も蓄えれるだけ蓄えたし。」
葵はユニゾンデバイスになって、元々舶来の...魔力を使う式姫だったため、主な力は魔力だ。
しかし、今は椿に合わせたデバイスなので魔力を霊力に変換し、蓄積する事もできるようだ。
「私も大丈夫だけど...お兄ちゃん、今ここでここまでしなくても...。」
緋雪も調子は良好だ。偶に僕の血を料理とかに混ぜているため、吸血鬼としても調子が悪くなっていない、むしろ優れているようだ。
「...なんでかな。虫の知らせは使えなくなったのに、嫌な予感しかしないんだ。」
「お兄ちゃん...?」
司さんの言葉を真に受けすぎって言われればそれまでだけど。
「...とりあえず、いつ何が起きても対処できるように備えは万全に」
〈マスター!謎のエネルギーを確認!これは....!?〉
「なっ!?」
僕らは今、部屋の一か所に集まっており、そのすぐ頭上で空間が歪み...光り始めた。
「これは...時空に干渉してるのか!?」
なぜ分かったのか分からないが、僕にはそう感じ取れた。
〈エネルギー拡大!ダメです!巻き込まれます...!〉
「っ....!」
「お兄ちゃん!」
「きゃぁあああっ!?」
「かやちゃんっ!」
僕と椿が空間の歪みに巻き込まれ、緋雪と葵が追いかけるように僕らにしがみつく。
「(解析....!....転移魔法の術式と同じような座標設定...転移でもするのか!?)」
何とか解析魔法は通じるようで、歪みを解析すると、座標が設定されていた痕跡があった。
...尤も、歪んでしまってよくわからなかったが。
「皆!絶対、離れ離れにはなるなよ...!」
「い、言われなくても~!!」
「こんな所で誰も離れたくないわよ~!!」
「かやちゃーん!!」
皆が皆、固まるようにしがみつき合う。
....葵、どさくさに紛れて椿に抱き着いてない?
〈マスター!どうやら、空間の歪みから抜け出すようです!〉
「っ.....!」
リヒトの言うとおり、空間の歪みが薄れて行った。
そして、目を開けると....。
「...って、なんで夜空ぁあああああ!!?」
〈マスター!飛行魔法を!〉
なぜか夜に、しかも空の上に放り出され、僕らは落下する。
急いで魔法で浮遊して、全員の体勢を立て直す。
「かやちゃん!」
「ええ!分かったわ!」
「set up!」
椿は、薔薇姫とユニゾンしないと飛行魔法を使えないため、ユニゾンする。
「....なんとか、助かったわね...。」
ユニゾンし、浮かび上がった椿がそう言う。
ちなみに、椿の今の姿は、最初に出会った頃の着物姿の上に、葵のマントと胸元のリボン、そしてレイピアを付けた状態になっている。
一見アンバランスだけど、この状態の椿なら飛行魔法を扱え、接近戦にも相当強くなっている。遠近両方で戦えるのは凄いよな。
「...ちょ、寒い!?防護服防護服...!」
〈どうやら、冬の気候ですね。〉
それ、半袖半ズボンの僕にはきつ過ぎるじゃないですかー。やだー。
「....というか、確か梅雨の時期に入る直前だったよね?確か。」
〈はい。しかし、これはどう見ても...。〉
「....冬、だね。」
さっき感じた寒さは上空にいるだけではないほど寒かった。というか、凍るかと思った。
防護服越しから感じる冷たさも冬にある気候そのものだし...。
「...ちょっとリヒト、ネットワークとかに干渉して今の日付確認できる?」
〈できますけど...。...分かりました。〉
おお。できるのか。ハッキングみたいで短時間で終わらせたいけど。
「お兄ちゃん...どうしたの?」
「嫌な予感が...的中しそうでね。」
「......?」
緋雪が首を傾げている間に、リヒトが日付を確認したようだ。
〈マスター、信じられないと思いますが、今の日付は2月5日...過去です。〉
「っ.....!やっぱり....!」
予想通りの結果だったため、僕は顔を顰める。
「...お兄ちゃん、何か知ってるの?」
「...うろ覚えだけどね。...所謂、“原作”にもあった話。」
今まで気にしてなかったけど、どの時期に巻き込まれてもおかしくない事件があったのを完全に忘れていた...!...いや、気にした所で参考にしかならないけどさ。
「展開もほとんど覚えてない。...ただ、事件の中心となるのは、“砕け得ぬ闇”。」
〈“砕け得ぬ闇”...ですか?〉
僕が呟いた単語に、なぜかリヒトが反応する。
「知ってるのか?」
〈一応は。以前の主の時代、当時は存在していた文献でその単語を見た事があります。〉
「そうなのか。記録に残ってるか?」
文献にも残る程....。結構、やばいものだろうな...。
〈...ありました。これです。〉
「....いや、僕ら古代ベルカ語読めないし...。」
〈そうでしたね。〉
空中にその文献の画像を映し出してくれたが、如何せん僕らには読めん。
〈“沈む事なき黒い太陽、影落とす月、故に、決して砕かれぬ闇。その災厄である砕け得ぬ闇が現れし時、世界は破滅を迎えるであろう。”....と書いてあります。〉
「....やばいな。」
僕のうろ覚えの記憶だけでもやばいってのは分かるけど、リヒトに残っている文献の文で、余計にそれに拍車がかかった。
「こりゃまた...厄介な事に巻き込まれたなぁ....。」
「...優輝、どうするの?」
「....とりあえず、近場の高いビルの屋上に行こう。いつまでも飛んでいられない。」
頭を抱えたくなるのを抑え、近場の屋上へと着地する。
「...一応、この場が過去で、僕らがいた未来は普通にあった所を見るに、ちゃんと解決されたのは保障できる。...でも、未来から来た僕らは別だ。」
「未来から来た以上、この時間で死んでも未来から過去に来るまでの運命に一切影響を与えないから...そうだよね?」
「その通り。」
葵が僕の言いたい事を先に言ってくれた。
「だから、死なないように気を付ける事には変わりない。」
「あの...タイムパラドックスとかはどうなるの?」
「あー、それか...。」
実際、パラドックスについては結構悩んでいる。
平行世界として運命が別たれるかもしれないし、僕らが行動する事によって未来が変わるかもしれない。そこら辺の判断は、僕らには全然分からない。....けど。
「一応の判断として、僕は全ての出来事は一連の“流れ”だと捉えている。」
「“流れ”?」
「僕らが過去へ行き、そして事件は解決し、未来へ戻る。...まぁ、これ自体が確定した事ではないんだけど。それら全てが一つの流れで、別に過去に遡っても未来に影響はない。」
....ちょっとわかりにくい表現だな。
「...まぁ、川の流れに例えてみてくれ。時間や運命が川の流れそのもので、僕らが過去に来たのが、川の上流に行く事ではなく、“過去に行く事”すら川の流れの一部にすぎない。...分かったか?」
「う~ん...なんと、なく....?」
難しい事だよな。こういうのって。
「...まぁ、こういう事で常に悩んでいても、何も変わらない。行動に移すべきだな。」
「まずは情報収集?やっぱり色々知っておかないときついし。」
「過去に来た原因を調べるのにも必要よね。」
葵、椿と僕にそう言ってくる。
「同意見だ。緋雪もそれでいいか?」
「うん。こういう事は、お兄ちゃんや二人に任せた方がいいと思うし。」
よし、当面の方針は情報収集だな。
「一か所に固まって動くのは効率悪いし、かといって全員ばらけるのは危険すぎるな。....よし、二手に分かれて情報を集めるぞ。」
「じゃあ、私と葵が地上から集めるわ。優輝と緋雪は上空をよろしく。」
「分かった。くれぐれも目立たないでくれよ?過去の世界なんだし。」
椿と葵なら大丈夫だろう。経験も豊富だし、以前と違って僕からの霊力供給もあるから、早々死にかけるような目に遭う事もない。
「分かってるわ。」
「元々隠れて生きてきたから、隠密行動は得意だよ。」
二人共頼りになる返事を返してくれる。
「じゃあ早速二手に別れて....以前に会った魔法関係の人から情報を集めてくれ。いざとなれば、接触する事も辞さない。」
「了解。そっちは任せたわよ。」
「ああ。」
僕と緋雪は早速飛び立ち、上空から何かないか探し出す。
椿と葵はビルの屋上に置きっぱなしだけど、認識阻害の術も使えるみたいだし、ビルから降りる事ぐらい、造作もないだろう。
「(....司さんの言っていた“嫌な予感”...もしかしてこれか?)」
ふと、司さんの言っていた言葉を思い出す。
「(....この事件、一筋縄ではいかないな...!)」
僕はさらに気を引き締め、緋雪と共に何か情報がないか探しに行った。
後書き
ちなみに、管理局にある無断で魔法を使用云々の事ですが、あれは魔法を使って場所を移動したりと、日常生活に使うのがダメで、別に魔法の特訓や結界を張って模擬戦程度なら大丈夫だという解釈をしています。
ページ上へ戻る