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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico?お巡りさんを舐めんなよ~Hunting~

†††Sideルシリオン†††

第39管理世界エルジア。新たに管理世界入りを果たしたその世界に設立された地上本部へ赴いている俺たち内務調査部。俺は監察課と監査課の研修で、2週間の長丁場になる。学校も休まなければならないし、研修中はこの世界からは出られないから、はやて達と直接顔を合わせられない。

(しかもモニターでの通信も出来ないから、声だけのやり取りになるんだよな)

研修生はもちろん正式な監査官・監察官は任務中、本部や同課員以外への通信は基本的に禁止で、する際には面倒な手続きが要るし、重要機密が万一にも映り込まないようにモニター越し通信も不可。いくら信頼・信用されていたとしても管理局組織の重要な情報を持っている以上は好き勝手に通信が出来ない。それが内務調査部の厳守すべし絶対のルールだ。

「くぁ~・・・、疲れたぁ~」

そんな肩の凝る研修2日目。地上本部での本日の研修を終え、1階ロビーに降りるためにエレベーターに乗っている。宿舎は地上本部からそう遠くないホテルで、1フロアを内務調査部のメンバーで貸し切ってる。そのホテルに帰るために、ロビーを目指す。
左目に付けているモノクル型の神器・“森羅万象の眼(プロヴィデンス)”を外して、右目と合わせて目頭を揉む。左目が全く使いものにならないため、右目ばかりに疲労が蓄積される。書類の文字は小さいし、モニター眺めっ放しでチカチカするし。しばらくモニターは見たくないな。

(やっぱり眼鏡にしておいた方が良かったかなぁ~。このままじゃ右目の視力が落ちるだろうし)

俺はあえて眼鏡じゃなくモノクルを選んだ。レンズの縁やフレームが視界を僅かでも遮るのが嫌なんだよな。右目は何ともないんだからレンズは伊達になるだろう。正直、伊達のレンズに意味が見いだせない。ファッションとか言うが、それが理解できない。わざわざ視界内にフレームなどの障害を入れるなんて、連中の頭を疑う。特に俺は戦闘者だ。戦闘中のそんな小さな障害が、時に致命的となる。だから左目だけにモノクルを付けることにした。

(でもやっぱり疲労だけはどうしようもないよな~)

あくまで怪我などを治すだけのラファエルを気休め程度に右目に掛けて、両目を閉じて、壁にもたれて一息つく。

――うそつき!――

「っ!」

途端に閉じた両目のまぶたの裏に、あの日から焼きついて離れないスバルの泣き顔が浮かぶ。今度こそ救えると思った。だが、救えなかった。護りきれなかった。何が約束だ。

――ルシルさんが死ねが良かったんだ!――

あぁ、そう言われても仕方ないよな。だが、死ぬわけにはいかないんだ俺は。恨まれようが、憎まれようが、呪われようが、どんな犠牲が出ようが、俺は生き延びなければならない。俺にとって最古の約束、“堕天使エグリゴリ”を救う。最愛の女性、シェフィリスと交わした絶対に果たさなければならない約束があるから。

「あぁ、もっと、もっとだ、もっと、もっと、もっと! もっと俺を恨んでくれ、憎んでくれ、呪ってくれ。でないと俺は・・・狂ってしまう」

俺を正常に留まらせるのは怨嗟の声だ。その声が途切れて、俺を許す声だけになったらきっと・・・壊れてしまう。問題はナカジマ家だけじゃない。メガーヌさんの娘であるルーテシアとリヴィア。2人の所在が掴めない。先の次元世界と同じだ。ロストロギア・レリックを使っての人造魔導師開発。プライソン・スカリエッティが、最高評議会の伝手を使って拉致したに違いない。

(ご丁寧に2人はメガーヌさんの親せき筋に預けられた、プライバシーの問題で住所も通信することも許されない、という話だ)

ステガノグラフィアを使ってもルーテシアとリヴィアの所在は掴めなかった。どこまで罪も無い家族を傷つけ、苦しめばいいんだアイツらは。自分自身も許せないが、事を実際に起こしたプライソンと最高評議会もまた許せない。その償いは必ずさせてやる。
ポォン♪と音が鳴り、エレベーターのドアが開いた。ラファエルを解除してモノクルを掛け直し、エレベーターを降りてロビーを歩く。と、「おーい。ルシリオン君!」ロビーにいくつも設けられている休憩スペースの一角にてお茶を飲んでる監察課と監査課の先輩2人に声を掛けられた。

「お疲れ様です、ブラウン監査官、マーチン監察官」

共に俺の教育係で、揃って50代の恰幅の良い、気の良い紳士だ。そんな2人に手招きされたからそちらに元へ向かう。

「どうかしましたか?」

「あぁ、この事件なんだけどな」

脚の長い丸テーブル上に展開されている1枚のモニター。2人に促されたことで俺もモニターに映し出されているニュースに意識を向ける。

『――引き続きお伝えします。管理世界標準時、10月28日午後、第1世界ミッドチルダ、北西部アンクレス地方にて犯罪組織同士の抗争が起きました。制圧を担当した陸士399部隊や民間人からも多くの死傷者が出ております』

犯罪組織による抗争。どこの世界でも起きている悲劇だ。犯罪の無い世界を。それは夢物語だ。人が人である以上、犯罪は消えない。だから起きる前に、起きたとしても被害が大きくなる前に潰すのが俺たちの役目だ。

『この抗争の制圧に、本局・機動一課から応援として参加した、八神シグナム二等空士、八神ヴィータ二等空士、セレス・カローラ空曹の3名が重傷。高町なのは一等空士が意識不明の重体となっております』

「なのは!? シグナム、ヴィータ、セレス!?」

「あぁ、やっぱりか。どこかで聞いた名前だと思ったんだよ」

目と耳を疑った。抗争の現場と思われる場所は焼け野原となっており、熾烈な戦闘が起こったのが判る。いやそんなことより、だ。制服のジャケットのポケットから携帯端末を取出し電源を入れ、着信履歴を確認する。履歴は130件弱。どれもチーム海鳴のみんなからだ。今すぐ電話を掛け直そうとするが・・・

「っ!(ダメだ、研修中じゃないか今は・・・)」

踏み止まる。しかし「ルシリオン・セインテスト研修生」ブラウン監査官が俺の名を呼び、俺の携帯端末を見た。

「内務調査部・監査課、アストン・ブラウン」

「内務調査部・監察課、デヴィット・マーチン。略式ではあるが・・・」

「「両名の承認により、ルシリオン・セインテスト研修生の通信を許可する」」

そして、俺がはやて達に通信が出来るように許可を出してくれた。俺は「ありがとうございます!」敬礼をし、すぐにはやてに電話を掛ける。たった2回のコール音が鳴った後、『ルシル君!』声量をコントロール出来てないはやての大声が耳を貫いた。キィーンと耳鳴りする左耳から右耳に受話口を当て直し、「はやて。事情はニュースで観た。アイリとリインの名前が出なかったが、2人は大丈夫か?」と訊ねる。2人は融合騎ではあるが、階級をしっかりと持つ局員だ。何かあれば先程みたいに伝えられると思うんだが・・・。

『あ、うん。2人とも無事やよ。ちょこっと怪我しただけや。シグナムもヴィータも、セレスちゃんも意識はある。そやけどなのはちゃんが・・・!』

なのはの容体を聴けば、重度の火傷、右肩から左脇腹への創傷、刃が地面を砕いたことで発生した石礫による裂傷、爆風によって吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた際の骨折、打撲、擦過傷。挙げればキリが無い。しかし、名のある医務官たちの手による12時間という長丁場の懸命な手術のおかげで、一命は取り留めたようだ。

『そやけど・・・そやけど、なのはちゃん・・・、ひょっとしたらもう・・・歩くことも出来ひんかもって・・・!』

それは先の次元世界の時と同じだな。一時は復帰不能とまで言われていたのに、なのはは半年で復帰を果たした。しかも治癒魔法を一切使用することなく。おそらく今回も、命を繋ぎ止めたのならきっと立ち上がるはずだ。

「大丈夫、大丈夫だ、はやて。なのはは強い子だ。誰もが認める芯の通った心の強い子だ。命があるのなら、彼女はきっと戻ってくる。信じるんだ」

本心を言えば今すぐにでもなのはの元へ向かい、そして治癒術式エイルを使って治してやりたい。しかしそれには医務局の許可が下りなければならないし、そこまでの大怪我を治癒魔法で治すのはかえって対象の体に負担を掛ける。俺やシグナム達のように純粋な人間じゃなかったり、成熟した肉体の持ち主なら負担は軽くなるが、なのはの幼い体には・・・。

(それに、なのはのことだ。自分のミスによる怪我の責任は負うって、先の次元世界と同じことを言われそうだな)

しかしそれにしても「なのは達が墜とされるなんて余程のことだぞ。相手は高ランクの魔導師、もしくは騎士か?」モニターに映る抗争勃発直後の映像を観ながら、はやてに何があったか訊いていると・・・

『はやて! もしかしてルシルからなの!?』

『ア、アリサちゃん!?』

受話口からアリサの声がして、『ルシル! あんた、何やってんのよ! 早く帰って来なさいよ!』すごい勢いで怒られてしまった。俺だっけ帰ってやりたいんだよ、アリサ。でもな・・・。

「悪いが今はまだ帰れない。帰れたとしても今の俺には何も出来ないからな。俺に出来るのは治癒魔法だけだ。が、医務局から使用許可が下りなければ役立たずも良いところだ」

『っ! 薄情者! それでも声くらいは掛けられるでしょうが!』

「俺よりアリサ達の声の方が良いに決まってる」

『そんなことないわよ馬鹿! あんたもチーム海鳴のメンバーでしょうが!』

『アリサ。代わって』

アリサの罵倒の次に聞こえてきたのはフェイトの・・・泣き続けたのか少し枯れた声だった。その声に含まれた感情は静かに燃え滾っている怒りだと判った。フェイトは『私は犯人を許さない。絶対に捕まえる』そう断言した後、ピロリン♪と携帯端末に画像メールが送られてきた。

『なのはやシグナム達を撃墜したのは神器だよ、ルシル』

「っ!!」

『確認できたのは2つ。剣型と銃型で、銃の方は回収できたけど、なのは達を傷つけた剣の方は持ち主が持ったまま消息不明なんだ。いま画像を送ったから、その詳細を知ってたら教えて』

もしかして、という思いもあった。場所がこんなところでなければ大声で叫んでしまいたい、神器と自分への怒りを物に当たってしまいたい。外へ出せない怒りを心の内に留め、大きく溜息を吐いて落ち着かせる。

「判った。確認するから少し待ってくれ」

シグナムとヴィータとなのは、それに加えセレスが居る中で負けてしまうような神器なんて想像がつかない。とにかく、フェイトから送られてきた神器の画像を確認する。1つは、アールヴヘイム製の銃型概念兵装・“聖銃アクケルテ”。そしてもう1つが問題だった。

「スフィー・ダンテ・・・!」

『スフィー・ダンテ・・・? それがこの剣の名前なの?』

「ああ。なのは達が負けてしまった理由が解ったよ」

俺は魔造兵装番外位・“挑戦者スフィー・ダンテ”の能力、そして攻略法を伝えた。そして最後に「こんな時に君たちの側に居られなくてごめん」謝った。俺がその場に居れば、たとえ居なくてもすぐに連絡が取り合える状況だったなら、なのは達が墜とされることはなかった。攻略法が判っていれば、ヴィータかシグナムと、なのはだけで勝てる相手だからだ。

『・・・ううん。ルシルも大事な仕事なんだから、責められないよ。えっと、じゃあ最後にはやてに代わるね。ありがとう、ルシル』

『ルシル君』

電話の相手がはやてに代わる。俺は「ごめんな」はやてにも同じように謝る。彼女は『大丈夫、うん、大丈夫や』そう自分を奮い立たせるように言った。だがすぐに『・・・ルシル君・・・、逢いたい』ボソッと呟いたのが聞こえたから、「俺も逢いたいよ、はやて。・・・それじゃ、また・・・」そう返してから通話を、そして電源を切った。

「通信の許可を頂きありがとうございました、ブラウン監査官、マーチン監察官」

「お前さんを帰してやりたいんだが、今回の監査と監察は我々にとってもお前さんにとっても大事なものだ。だからキッチリ2週間、エルジアに缶詰めだ」

「君も今回の研修でグッと監察官と監査官、両方の役職の資格を得るに十分な時間となるだろうから、ここは堪えてくれ」

「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。チーム海鳴は、同じ相手には負けませんから」

“スフィー・ダンテ”の能力が判ってさえいれば、チーム海鳴の少人数だけでも勝てる。必要なのは、長距離攻撃が出来、”スフィー・ダンテ”にのみ当てることが出来る者、“スフィー・ダンテ”を封印できるだけの神秘を有する者の2人だ。俺が研修を終えて合流するまでに決着しないなら、俺が二役をこなすのに。いや、それにしても・・・

(くそっ。先の次元世界ではなのは撃墜事件が、首都防衛隊全滅事件の先だったのに・・・)

先に防衛隊全滅事件が起きてしまったことで、ひょっとしたらなのは撃墜事件は起きないかもしれないって希望を抱いていたのに。やっぱり起きる時期がズレるだけなのか。

(フェイトとアリシア。執務官試験と執務官補佐試験まで1週間を切ったというのに・・・)

また落ちてしまうのだろうか。揃いも揃って嫌な展開だ。ただ、無茶だけはしてくれるなよフェイト、と願うだけだ。

†††Sideルシリオン⇒イリス†††

本局・医務局の病棟区奥にある集中治療室。重篤患者の容体を24時間体制で管理して、より効果的な治療を施すことを目的とする施設。なのははその一室に居る。シュヴァリエルに殺されかけたルシルも入った部屋で、全身を覆う包帯や心電図に繋がるコード、点滴のチューブがなのはからの体から伸びて、その姿が痛々しくて苦しくなる。

「フェイト、アリシア。2人とも今日はこれから試験でしょ。なのはのことが心配なのは解るけど、体調を整えておかなきゃダメだよ? アルフも流されてないで止めてあげないと」

時間があればなのはの様子を見に来ているわたしは、なのはが入ってる治療室前の廊下に居たフェイトとアリシア、それにアルフの3人に声を掛けた。フェイト達もよくなのはの見舞いに来てる。というより、チーム海鳴の中で一番多いかも。次点で本局勤めのユーノ、すずかかな。

「なのは、今日は目を覚ましてくれるかな・・・?」

「あれだけの怪我と手術だったし、5日で目を覚ます方がちょっと無理かなって思う」

ただの撃墜じゃなくて神器による撃墜だった。ルシルの話じゃ神器による影響は、“ドラウプニル”のおかげで最小限に抑えられてるはずだってことだけど、それでも追ったダメージは大きかった。そうすぐには目を覚まさないと思う。

「そう・・・だよね・・・」

「フェイト。シャルの言う通りそろそろ会場に行って、復習とかもしておこう?」

「ああ、その方が良いよ。ただでさえ難しい試験だって言うしね」

アリシアはフェイトのジャケットを掴んで、アルフが肩を抱いたことで「うん」フェイトは頷いた。そして3人は、執務官試験と執務官補佐試験の会場に向かった。後ろ姿を見送った後、廊下と室内を隔てる大きなガラス窓にコツンと額を当てる。

「ねえ、なのは。毎日ね、士郎さんや桃子さん、それに恭也さんと美由希さんが来てくれてるんだよ。早く起きて、安心させてあげないとね」

今回の一件で、リンディ提督だけじゃなくて、機動一課の部隊長やフィレスら分隊長、なのはの所属する武装隊の隊長と言った関係者たちも、士郎さん達に謝った。もちろんわたし達チーム海鳴も、すぐに助けに行けなかったことを謝った。
なのはのご家族は、わたし達に何1つとして恨み言を言わなかった。これが娘の選んだ道で、自分たちも応援した。だから誰も恨まないって。でもやっぱり悲しそうで、辛そうで、悔しそうで・・・。

「ごめんね、なのは。応援に行けなくて。・・・ごめんね。・・・何度でも謝るよ。だからお願い。・・・また笑顔を見せて・・・」

涙が溢れてくる。早くなのはの笑顔を見たい、声を聴きたい。声が漏れないように唇を噛み締めながら泣いてると、PiPiPi♪ってコール音が鳴った。涙を袖で拭い去って、「また来るね、なのは」ベッドに横たわるなのはに手を振って、「はい。イリスです」早足で出口に向かいながら通信に出る。

『イリス! 神器持ちの消息を掴んだわ! ミッド東部の山岳地帯・第A3区画! 今すぐに出られるのはあなたと、アリサとすずかと、それにはやてとリインとアイリの6名!』

連絡をくれたのはフィレスだった。その内容は待ち望んでたなのは達の仇、ソイツを捕捉したってことだった。わたしは「転送先は決まってる!?」早足から駆け足で、スカラボへ向かう。

『現場に一番近いトランスポートはアグネス医療院で、あちらとはすでに話が付いてるから、転送後は速やかに現場へ飛んで!』

「了解!」

通信が切れ、わたしは技術部区画に降りるためにエレベーターホールへ全力で走ってると、「シャル!」声を掛けられた。そこに居たのは「フェイト、アリシア、アルフ?」の3人が休憩スペースで試験勉強をしてた。

「そんなに急いで何かあったの?」

アリシアからの問いに「え? あ・・・」わたしは言い淀んだ。今から試験って時に犯人の居所が判ったなんて言ったら、自分たちも出撃するなんて言いかねない。ううん、そう言わなくても試験中ずっと気になって身が入らないかもしれない。

「いや~、その~」

「シャルさん! のんびり休憩してる暇なんて無いですよ! 早く行かないと神器持ちが逃げちゃうですよ!」

どう誤魔化そうとしていた時、リインの声が背後から聞こえた。あぁ、もう誤魔化しが効きそうにない。だってフェイト達の表情がガラリと変わったから。

「もう、シャルさ――・・・あ」

リインはようやくフェイト達の存在に気が付いたようだ。わたしは振り向きつつ「やってくれたね」リインを少し叱責。はやてとアイリも「あ・・・」今一番聞かれちゃいけない相手に聞かれたって判って、オロオロし始めた。

「神器持ちの行方が判った。今、そう言った・・・?」

「あ、あのなフェイトちゃん! た、確かにそうなんやけど、ここはわたしらに任せてほしい!」

「そ、そうです! フェイトさんやアリシアさん、アルフさんの分までリイン達が頑張るですから!」

「う、うん! アイリ達がボッコボコにしてくるから、フェイト達は試験に集中してね!」

はやて達が宥めようとするけど、「でも! やっと見つけたのに、犯人・・・!」フェイトは一向に椅子に座ろうとしない。これはまずい展開だよ。このままじゃフェイト、試験そっちのけにしそうな勢いだよ。

「フェイト! 悔しいのは解るけど、今は試験に集中だよ!」

「アルフ・・・!」

「ねえ、フェイト。今日の試験のためにシャルも、クロノも、エイミィも、なのは達だって、協力してくれたんだよ。その協力を無下にするの?」

「アリシア・・・?」

両拳をギュッと強く握ったアリシアがフェイトの前に立ちはだかった。

「わたしだってなのは達を傷つけたソイツを許せないし、この手で捕まえたい。でもねフェイト。もしこの事でわたし達がその、ダメだったら・・・なのはが悲しんじゃうと思うんだ。だからフェイト。わたし達が今やらないといけないのは、全力で試験に臨んで、そして合格することなんだよ」

「・・・アリシア・・・」

フェイトがよろよろと椅子に座り直した。そして「シャル、はやて、リイン、アイリ。お願い。犯人を捕まえて。私たちの代わりに」小さく頭を下げた。

「もちろんや!」

「はいです!」

「ヤー!」

「任せておいて」

そうしてわたしとはやて達はフェイト達に見送られながらエレベーターホールを使って技術部区画の奥、スカラボへ。そこで「やっと来たわね」アリサと、「急ごう!」すずかと合流。そして現場近くのアグネス医療院へと緊急転送。医療関係の建物には、患者を別の病院に緊急搬送するためのトランスポーターを設けることが義務付けられてる。今回はそれに助けられた。

「時空管理局、機動一課です! ご協力感謝します!」

医療院の関係者の方々に敬礼しつつ外へ出、「行くよ!」空へ上がる。“スフィー・ダンテ”って呼ばれる神器を持つソイツは、山岳地帯に立て籠ってるとのこと。現場に向かってる途中、『こちらフィレス。ナビは任せてね』本局の一課オフィスからのモニター通信が入る。

『現着までの間に、ルシル君から教えてもらったスフィー・ダンテに対してのおさらいをしましょう。神器スフィー・ダンテ。敵陣に独り突っ込んで、1対多数の近接戦に真価を発揮する神器。炎熱発現能力はカモフラージュでその真の能力は、持ち主以上の強敵と対峙した際に、相手の実力を上回るように剣が成長して性能を高めるというもの。一定範囲内に強敵が複数いるとその分、神器やさらに持ち主の戦闘能力まで強化・成長させる、と。恐ろしい物が在ったのね~、過去には』

それがなのは達が負けた最大の原因だった。なのはとユニゾンシグナムとユニゾンヴィータ、さらにはセレス。そんな4人の実力を基に急激に成長した“スフィー・ダンテ”とソイツの前に、なのは達は敗れた。

「そやけど、デメリットもあるんやね」

「近接戦特化の神器だってことね」

「ルシル君が知ってて良かったね、スフィー・ダンテのこと」

「スフィー・ダンテは遠距離攻撃に弱い。それを念頭に置いて作戦を立てたからね」

相手と神器の強化・成長適応圏外からの遠距離攻撃、そしてその攻撃を迎撃できる余裕が無ければ“スフィー・ダンテ”を弾き飛ばすことが出来る。そこを通常の魔法で叩きのめして持ち主の意識を狩り取ってやれば、強化された“スフィー・ダンテ”のオート迎撃も作動しないって話だ。

「そんじゃ、作戦通りわたしが単独で神器持ちをかく乱して、ユニゾンはやてが遠距離攻撃で追撃ね」

「ん! 頑張ろうな、リイン!」

『はいです! キッチリカッチリ償わせてあげるですよ!』

わたしが最初に神器持ちと1対1でやり合って神器を弾き飛ばして、そこをリインとユニゾンしたはやての遠距離攻撃で追撃をする。

「そんで万が一にシャルとはやてとリインがミスった場合、あたしとすずかとアイリの第二陣が相手をするわ」

「だから安心してね」

「ま、シャルとはやてとリインが先発なら勝負はもう決まったと思うけどね」

二段構えで神器持ちを攻略する。そして『1時の方向、距離500! 作戦開始!』フィレスの合図でわたし達は散開して、「よっしゃ!」わたし1人でそのまま突撃する。“キルシュブリューテ”の神秘カートリッジをロード。右手首に付けた“ドラウプニル”を一撫でして、「わたしを守ってね、ルシル」チュッとキスする。

「モニター越しでしっかり見てるよ、あなたのこと・・・!」

フィレスから送られてくる向こうの様子が映し出されたモニターを確認。切り立った崖の中腹にある30平方mほどの平地にはテントが張られていて、焚火をするための石の囲いもしっかりと確認。なのは達を撃墜してから今日までこんなところでサバイバルってか。

「(マジふざけんな!)おらおらおらぁぁぁぁ! よくもわたしの大事な友達を墜としてくれたな、ゴラぁぁぁぁぁ!!」

――風牙烈風刃――

“キルシュブリューテ”を振り上げて、風圧の壁を放つ。烈風刃でテントを大きく吹き飛ばすと、「な、なんだ!?」寝袋に入ってた神器持ちが大慌てで寝袋から飛び出した。ジャージからチンピラが好むような真っ白なスーツに黒のワイシャツ・赤ネクタイといった防護服に変身して、片手持ちのロングソード・“スフィー・ダンテ”を手に取った。

「ハイ♪ お兄さん。私がここに来た理由、解ります?」

早速“スフィー・ダンテ”が片手持ちから両手持ちへと変形してくのが見て取れた。アイツは「管理局員か・・・!」事情を察したよう。さらにわたしは「ちょっと前に、女の子を墜としたでしょ?」そう言ってやる。

「そうか、お前もチーム・ウミナリの騎士・・・! 確か、聖王教会の騎士でもあるっていう・・・!」

「そ♪ ・・・あなたさ、わたしの親友を半殺しにしたんだよ。その度し難き大罪を犯したあなたのこと、なのは達と同じようにボロ雑巾にしないとスッキリしないわけ」

「っ! 子供や公務員や騎士が言うようなセリフじゃないよな」

「それだけわたし達の逆鱗に触れたんだよ、・・・あなた!」

――閃駆――

「うお・・・!?」

刃を返した“キルシュブリューテ”を左手で逆手持ちして、一足飛びでアイツの懐へ最接近する。横一線に振り被られた“スフィー・ダンテ”をスライディングで躱して、「貰い!」左手に持つ“キルシュブリューテ”を振るって、「い゛っ!?」“スフィー・ダンテ”を持つアイツの右腕を峰打ち。ボキボキって手首の骨が折れる音がしっかり聞こえた。

「そらぁぁぁぁっ!」

立ち上がり途中に右足での踵回し蹴りをアイツの右脇腹に目掛けて打ち込もうとするけど、「チッ!」ソイツはバックステップで躱して、すぐに岩肌に転がってる“スフィー・ダンテ”を拾おうとした。

――フリジットダガー――

リインの魔法である凍結効果がある短剣型高速射撃が20本近くと降り注いで来て、“スフィー・ダンテ”を拾おうとしていたアイツを後退させた。大人しく投降してくれれば良いんだけどなぁって思えば、胸ポケットからクリスタル状の待機モードのデバイスを取り出した。

「(起動させる前に・・・ぶん殴る!)おらぁぁぁぁぁーーーーッ!」

――風牙烈風刃――

右手に持ち替えた“キルシュブリューテ”を振るって放つ風圧の壁を「の゛っ!?」アイツに叩き付ける。アイツは後方の岩肌に打ち付けられたけど、まだ動こうとしたから具現した鞘に“キルシュブリューテ”を収めたうえで閃駆で突撃。

「これで・・・チェックメイト!!」

「ぶほぉぉぉっ!?」

鞘の方を両手で持って、突進力を乗せた“キルシュブリューテ”の柄頭をソイツの鳩尾に打ち込んでやった。ソイツは盛大にゲロって倒れ伏した。

「・・・あっちゃあ~。わたし1人で片付けちゃった」

『こちらはやて。さすがやな、シャルちゃん。魔法の準備してたんやけど、わたしとリインの出番まで無かった』

『すごいです、シャルさん!』

『どんどん強くなるのね、イリス。リヒャルト司祭も喜ぶわ』

「それほどでも~・・・あるよ♪」

『調子乗ってるといつか墜ちるわよ、あんた』

『でもこれで、なのはちゃん達に良い報告が出来るね』

ほのぼのしてると、「くっそぉぉぉーーーーっ!」ソイツは這うように駆けて“スフィー・ダンテ”を拾いに向かった。けど焦ることはないよ。すでにわたしのパートナーが魔法をスタンバイしてるんだから。

――ナイトメアハウル――

あと1mちょっとってところで多方向から砲撃が降って来て、ソイツははやての多弾砲撃の直撃を受けた。濛々と立ち上る白煙と、パラパラと降ってくる岩の破片。そして“スフィー・ダンテ”も宙を舞って、ガキィンとわたしのすぐ側に突き立った。

「・・・スフィー・ダンテを回収っと♪」

引き抜いた“スフィー・ダンテ”を振り払って白煙を消し飛ばす。砲撃によって大きく穿たれた岩肌の中心にソイツは倒れてた。わたしは「ふん。お巡りさんを舐めなんなよ!」ヴィータの口真似でそう言い放ってやった。なのはかシグナムかセレスかで迷ったけど、ヴィータが一番しっくりくる台詞を言いそうなんだよね。

『おーい、シャルちゃーん。油断大敵やよ~』

『です、です♪』

「あはは、ごめん、ごめん。ま、とにかく完全に伸びてるし、チーム海鳴の完全勝利だよ!」

なのは、シグナム、ヴィータ、セレス。それにフェイト、アリシア、アルフ。わたし達、勝ったよ。良い報告が出来るからもう少し待っててね。
 
 

 
後書き
フーテ・モールヘン。フーテ・ミッタ-フ。フーテ・ナーフオント。
神器回収編パート2が終わりました。次話については、たとえ後回しにすることがなかったとしても、おそらく日常編は書かなかったかと思います。なのはが大変な時期ですからね。シャルの誕生日やクリスマスなどなども元から書く気は無かったです。ので、次話はドーンと日にちが飛んで、新たな神器回収編に入りたいと思います。
 
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