D&Dから異世界に迷い込んだようですよ?
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4話
ウースが箱庭に来てから、三日ほど立っている。屋敷の応接室で、ジンと黒ウサギが二人で集まっていた。
ウースは、黒ウサギ達のコミュニティ……ノーネーム(その他大勢)にすっかり溶け込んでいた。
真水を飲料水したり、荒れた耕作地をある程度だが使えるようにしたりと、コミュニティに貢献している。
だが、黒ウサギとジンにはある不安があった。実のところ、ウースはコミュニティに入っているわけではない。あくまで客人として、彼等に力を貸していた。
そして、三日目の今日はウースが、コミュニティに入るかどうかの答えを出す日。
名と旗の事もまだ話していなかった。
黒ウサギ達も何度かは話そうとした。しかし・・・・・・。
「失礼する」
彼女達の思考を遮るように、ウースが部屋に入ってくる。
彼は何時ものように、背中にバックを背負っていた。
ただ服装だけは違った。黒ウサギ達が渡していた服ではない。緑色のケープにきらきらと光るクローク。かつて彼がいた世界で、マントル・オヴ・ザ・ドラゴンフレンドと呼ばれたアイテムだ。他にも真珠のついた指輪リング・オブ・ザ・シルバー・コンコードと薄緑の和が挟み込まれた銀色の指輪リング・オブ・ライをつけている。
ウースが入ってきた瞬間、部屋の緊張感が高まる。彼が今出している雰囲気(魅力)が、黒ウサギとジンの姿勢を正した。
机を挟んで二人の前に、ウースが立つ。
「やあ」
軽い挨拶の後、彼は二人に軽い話題を投げ談笑を図る。
黒ウサギ達が安心しようとする瞬間、
「そろそろここを発とうと思うんだ」
ウースは重大な話題を切り出した。
黒ウサギとジンは、瞬間硬直。すぐに立ち直った黒ウサギが、机をよけて迫る。
「あ、ま。待ってください! それは、黒ウサギたちのコミュニティに」
「悪いが」
彼女の話を割り込むように、ウースが 言いあらわす。
「私は、流されて入る気はないよ。まして」
話している瞬間、確実に彼の目が語っていた。隠し事をしている所には特に、と。
黒ウサギは分かった。名と旗の事を言っている事を。
何故、などと聞く気はなかった。隠し事を、ましてこの世界の常識の事を調べる方法が、ウースに あっただけの事。この世界(箱庭)風に言うならば、隠しきれなかった黒ウサギとジンが悪かった。
罪悪感と後悔のあまり、彼女達は沈痛な面持ちで沈黙する。
そんな二人を見て、ウースが仕方なさそうにため息を吐いた。
「反省していることだし、幾つか条件を呑んでくれれば、コミュニティ入ってあげないでもない」
彼の話を聞いた黒ウサギとジンは、希望に顔を輝かせて面を上げた。
そんな二人に対し、指を二つ上げた。
「一つ目は私に頼り切らないこと。大抵の事はできるし、ある程度戦闘もできる。だけど、私と同等の敵が来た場合。勝つことは難しくなる」
これは、黒ウサギ達も当たり前のように頷いた。箱庭は強者一人いればどうにかなる甘い世界ではない。
ウースは万能であって、最強ではないのだ。黒ウサギ自身、真正面から戦えばウースに勝てる自信があった。
「もう一つは、私のギフトゲームを黒ウサギが参加すること」
「や。やります!」
黒ウサギの了承の言葉。二人の間に、羊皮紙……ギアスロールが現れる。
『ギフトゲーム〝魔法使いのかくれんぼ〟
プレイヤー 黒ウサギ
クリア条件 特定の範囲内かつ次元にいるウース=イースを見つけ出すこと
ウース=イースが魔法を4回使った場合
敗北条件 ウース=イースを2時間以内に見つけ出さなかった場合
始まりから5分待たずにウース=イースを探した場合
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗を持って〝ノーネーム〟はギフトゲームに参加します。
〝ウース=イース〟』
「大体こんな感じでいいか?」
ギアスロールをウースは黒ウサギに渡す。内容を読んだ黒ウサギも頷く。
「このゲームをすれば、ウース様は黒ウサギたちのコミュニティに参加していただけるのですね」
「勿論。それで賭けるものだが」
ウースが負けた場合。彼の財産もノーネーム共有とする。無論、アイテムも込み。
黒ウサギが負けた場合。ウースは、コミュニティ。つまり、ノーネームに参加するが彼自身の財産やアイテムは彼が管理する。そして、
「鎧ですか?」
ウースが持っている鎧を黒ウサギが着ることだ。
「ああ。魔法……この世界ではギフトか。知り合いが作ったギフト付きの鎧を持っているんだが、この世界で正常に働くか疑問がある」
つまり簡単な実験台になれと言っていた。
はっきり言って、かなり破格の条件である。黒ウサギの勝敗に関係なく、ウースはノーネームに参加するのだから。
彼女自身勝算がかなりあった。
(黒ウサギの耳の事をウース様は知りませんから)
黒ウサギの耳は、ギフトゲームの状況を大まかに把握することができた。感知できない隔絶空間でもない限り。
「場所はどうします?」
「外門の外の森。範囲は外門を中心とした直径2000フィート程の半円でどうだろう?」
ウースの提案に、黒ウサギは首を縦に振る。
「じゃあ、行こうか」
「はいな」
部屋から出ていくために背を向けて歩くウースに、黒ウサギが続いていく。
「黒ウサギ」
その背中をジンが声をかけた。
黒ウサギが振り返ると、ジンが熱く見つめていた。
彼自身わかっているのだ。手助けすることはできない。森の中には強力な幻獣が住んでいる。ジンにはそれに抗うすべがなかった。
黒ウサギに頼り切りな自身を責める。そしてジンが唯一出来ることを行う。
「頑張って」
ジンの応援に、黒ウサギは笑顔でうなずく。そして、急いでウースを追う。
屋敷の応接室に、ジンただ一人が残されるのだった。
外門前に移動した黒ウサギとウース。
「それでは始めようか」
ウースの宣言と共に、ギアスロールが光る。ギフトゲームが始まった。
ウースは、森の中をある程度走った後杖を構えた。
「マインド・ブランク。テレポート」
瞬間彼の姿が消えて、ある場所に現れる。ゲーム範囲内のある大きな岩がそそり立っていた。その大きさはウースよりも大きい。
周りを観察して何もいないことを確認する。
そして岩に彼は、手を触れた。
続けてウースは呪文を詠唱する。
「メルド・イントゥ・ストーン」
呪文の後、ウースの体が岩に潜り込んでいく。数秒をしない内に、ウースの体が完全に岩に潜り込んでいる。
同じころ、黒ウサギは焦っていた。
「う、ウース様の場所が感知できません!」
最初の時点でウースが唱えた呪文の効果だった。マインド・ブランクは、唱えた術者を感知させなくさせる呪文だ。これはかなり強力な呪文で、神仏の介入した力で情報を得ようとしても妨害する。
黒ウサギにとって、これはかなり誤算だった。だが、気を取り直して行動を開始する。待ち時間は過ぎていた。
他の動物や幻獣。それこそ、鳥やネズミ、森に棲む魑魅魍魎まで話を聞いた。だが、一切の情報を得ることが出来ずにいた。感知できなくなった場所を、念入りに……それこそある程度土を掘るほど念入りに探したが見つからない。
そうこうしている内に、約束の2時間まで数分となっていた。黒ウサギは意気消沈しながら歩いている。そしてある大きい岩に背中を預ける。
「もう、どこに行ってしまったのですか」
そしてゲームの時間が過ぎる。
黒ウサギの敗北が決まった。
彼女は嘆息しながら頭を下に向けた。黒ウサギとて、負ければ悔しいのだろう。
「やっほ」
「きゃあ!」
黒ウサギは突然岩から顔を出した、ウースに驚愕の叫びをあげる。
奇しくも彼女が背中を預けた岩は、ウースが隠れた物だった。
「え? 岩の中に隠れて息ができるのですか?」
「ああ」
思わず黒ウサギの珍妙な問いにも、彼はしっかり答える。
「言ったろう。大抵のことはできると」
「大抵が広すぎますよう」
悲しそうに黒ウサギが言葉を発した。
「さてと、黒ウサギ。罰ゲームの時間だ」
「は、はい」
ウースの発言に、彼女も神妙に立つ。
無論黒ウサギとて、彼のことをある程度信頼していた。
命にかかわったり、ひどい傷を受けることはない、と確信する程。
しかし、ウースは彼女の信頼をある意味で裏切った。
彼が袋から取り出したのは、胸と女性の大事な部分しか隠さない鎧。ビキニ。とどのつまりビキニ鎧。
「…………」
その鎧? を見た瞬間黒ウサギは呆然と立ち尽くす。あまりの驚きに何の反応もできずにいた。
すぐに我に返った彼女は、どこから取り出したハリセンを装備し、
「ど、どこが鎧ですか! お馬鹿様」
ウースの頭を叩いた。
だが、彼も然る者でめげずに口上を述べていく。
「ビキニ鎧は立派な鎧に分類される! 古くはケルトの乙女戦士、グレース・マクルーハンが悪辣な領主を倒すために魔女から受け取った魔法の鎧こそがビキニ鎧だったとされる。そのビキニ鎧をもって、グレースは数々の騎士を無傷で倒したと歴史は述べている。亡き彼女の雄姿を継ぐように女性たちが着るものこそがビキニ鎧なのだ! さらに言えば、幾つかの集団がビキニ鎧を用いた戦闘手段を確立している。有名なネレイド・ディーヴァやボゥロジィウツ・ストリップティーズなどは誰もが聞いたことがある高名な戦闘手段だ。このように、ビキニ鎧は立派な鎧かつ戦闘衣服といっても過言ではない! いいね!」
ウースが持ち込んだ希少なアイテムブースト足す素の能力によって、黒ウサギは説得された。
「アッハイ」
どこかうつろな目をした黒ウサギは、首を縦に動かす。
その様子を見たウースが満足げに頷くと、捻じれた杖を構える。
「セキュアー・シェルター」
彼が唱えた力ある言葉によって、石や木、土で出来たコテージが現れた。
「じゃあ、この中で着替えてくれ。透明な従者が手伝ってくれる」
黒ウサギはウースの指示のまま、コテージの中へと入っていく。
数十分ほど待つと、ドアの奥から極めて恥ずかしそうかつか細い声が、
「い、良いですよ」
ささやく。
その言葉を聞いて彼は素直にドアを開けた。
そこに居るのは、ある種の芸術だ。
豊満な胸部分をビキニ鎧だけでは隠しきれず、黒ウサギの細い腕で隠している。その大きさに半比例するようにウエスト部分はきれいにくびれていた。普段は黒のガーターソックスで隠されている足も、齧り付きたくなる太ももから折れそうなほど細い足首までを晒している。
「うう、これどこに魔法の効果があるのですか?」
差恥心で赤く彩られた顔と泣きそうな瞳をウースは向けられていた。
彼は、思わず色々したくなる感情を自身の全力をもって抑えている
「ウース様」
「……ああ、済まない。あまりに綺麗でね。見とれていた」
彼の直球な感想に、黒ウサギのウサギ耳が紅潮していく。
その様子を楽しそうに眺めつつ、ウースは鎧の効果を伝える。
「実はそれ合言葉で一日に二回、目もくらむ光を放つことができるんだ」
黒ウサギは、教えられた効果を早速試す。教えられた合言葉を唱えると、鎧の前方に向かって光が迸る。
「す、すごい! 立派なギフト付きの鎧ですね!」
「他にもいろいろ持ってるが。まぁそこはな」
ギフトゲーム時の契約通り。彼のものは彼自身が管理することになっている。
すぐに気づき、黒ウサギはしょんぼりとうなだれた。
「武器や鎧は作れないが、アイテムなら作れるから、幾つか提供して資金にしてもいいよ」
その姿を見て、ウースも譲歩した答えを出す。
彼の言葉に、明るい表情を取り戻した黒ウサギ。そんな彼女に、ウースは手を差し出す。
「これからよろしく、黒ウサギ」
「っぁ」
彼の発した言葉に思わず黒ウサギの胸が喜びの感情で詰まる。今まで一度も彼女自身の名を呼ばれたことがなかった。
呼ばれたことでようやく仲間と認められたのだ。
「YES! よろしくお願いします!」
零れるような笑顔とともにウースの手を握るのだった。
そして物語は始まる。そう、彼ら問題児たちが呼ばれるのだ。
後書き
ぶっちゃけ、黒ウサギのビキニ鎧を書きたかっただけだったり。
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