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真田十勇士

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巻ノ二十九 従か戦かその三

「一つ残っておる」
「上田ですな」
「あの場所ですな」
「真田家が治めている」
「あの地だけが残っています」
「そうじゃ、羽柴家に降る前にじゃ」
 家康は袖の中を腕を組み考える顔になって家臣達に告げた。
「あの地も手中に収めたいが」
「当家についてもらいますか」
 榊原が家康に言って来た。
「そうしますか」
「そう出来たら一番じゃな」
「そしてその際は」
「万石を預けよう」
「大名扱いですな」
「そう考えておる」
「しかし十万石は」
「少し大き過ぎるな」 
 これが家康の見立てだった。
「家臣としてはな」
「それだけの石高で当家に入られると」
「どうも都合が悪い」
「当家の中では」
「だからだ」
 それでというのだ。
「大名として扱うがな」
「十万石そのままは、ですな」
「出来ぬ」
 こう言うのだった。
「そこまではな」
「左様ですか」
「しかし真田家が従うなら」
「それで、ですな」
「よい、戦にならぬならな」
 それでというのだ。
「それに越したことはない」
「ではここは、ですな」
 井伊も家康に言った。
「真田殿に人をやり」
「うむ、万石でな」
「家中に迎えると伝えますか」
「そうする」
「それで納得されなければ」
「その時は仕方ない」
 家康は覚悟を決めた顔で述べた。
「戦じゃ」
「そうなりな」
「やはり」
「ではその時は」
「我等が」
「そうする、しかし四天王はこれまで通りじゃ」
 徳川家の中でも特に強いこの者達はというのだ。
「西の方に向ける」
「羽柴家に」
「そちらに」
「和の話が進んでいても何かあったならばな」
 その時はというのだ。
「敵の数は多くそして優れた将も多い」
「だからですな」
「我等は西ですか」
「羽柴家にあたり」
「何かあればですな」
「頼む、わしも駿府に控えるが」
 それでもというのだ。
「羽柴家の方を先にする」
「では上田は」
「あの地は」
「他の者をやる、それでその時の将は」
「さすれば」
 ここで名乗り出たのは鳥居だった、鳥居は家康に対してしっかりとした声で言った。
「それがしが」
「御主が行くか」
「はい、そしてです」
「上田を手に入れてくれるな」
「そうします、それでなのですが」
「真田家の者達はじゃな」
「戦の後どうされますか」
 その処遇もだ、鳥居は家康に問うた。
「一体」
「首を取るまでもない」
 家康は鳥居の問いにすぐに答えた。
「昌幸殿も二人の子息も相当な人物と聞く」
「だからですな」
「従わせるにしても戦にしてもじゃ」
 そのどちらでもというのだ。 
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