男は今日も迷宮へと潜る
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第九話
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「・・・・・・~♪」
響き渡る発砲音。
飛び散る血飛沫、空薬莢。
二日酔いのイシュタムはさて置き、今日も今日とて狩である。
昨日の散財は地味に懐に効いた。
最も、日々の生活に困るわけではない。
だがしかし、人間の欲というう物は非常に抗い難い物だ。
少し満ち足りればもっと良い生活を、と考えてしまうのは必然である。
故に自分は今日も迷宮へと潜るのだ。
今日の獲物はRPK軽機関銃。
殺傷力、継戦能力共に良好な一品である。
少々取り回しに難が有るが、現段階ではこれで十分だ。
鼻歌交じりに引き金を絞るだけで魔石が量産されていく。
現在四階層目。特にこれといった苦労も無い。
ただし──
『ゲゲェッ!』
「♪~♪~──うおっ!?」
奇襲を受けてヒヤリとする場面を除いて、だが。
「こんにゃろっ!!」
『グゲッ!?』
降ってきたヤモリの化け物に素早く照準、からの発砲。
音速のほぼ倍で飛ぶ7.62mmの礫の嵐に、化け物はなすすべも無い。
こうして稼ぎはまた増える。
「・・・・・・ふぅ。」
魔石を入れている袋はすでにずっしりと重い。
モンスターの牙やらも落ちたので今日の稼ぎは上々だろう。
昼頃から潜り始め、もうそろそろ夕方だろうか。
迷宮内は常にそこそこ明るいため、時間間隔が狂いやすい。暗視装置が要らないのは便利だが。
「──。帰るか・・・・・・」
「♪~・・・・・・」
調子外れの鼻歌が薄ら明るい迷宮に響き渡る。
────
「あの・・・・・・無茶したりしてないですか?」
「へ?」
目の前の妙齢美人、ハーフエルフの受付嬢。
エイナ・チュールが問いかけてくる。
「どうしたんだい?エイナの姐さん。藪から棒に」
「いえ、来たばかりなのに中々稼いでる物ですから」
「ああ、なるほどねぇ」
この受付嬢はかなりのお人好しだ。
周囲の評判を聞く限りそういう結論に至った。
実際、自分もギルドに登録したときから何かと気に掛けてもらっている。
「んー、そうだねぇ。今のところは大丈夫かな」
「なら良いんですけど・・・・・・」
「あー、でも牛の化け物に追いかけられた時はびびったなぁ。二足歩行のでかい奴」
「はぁっ!?」
エイナの目の色が変わる。
しまった、地雷だったか。
「それってミノタウロスですよね!?一体どこまで潜ったんですか!?」
「お、おいおい、落ち着いてくれよ。俺はまだ五階層までしか──」
「五階層っ!?もうそんなとこまで!?」
「な、ま、不味かった?」
「不味いも何も──!」
勢いは途中で止まり、これ見よがしに溜息。
「はぁ・・・・・・マサさんといい、ベル君とといい。
どうして私の周りには無茶する人ばっかりなのかしら・・・・・・」
「は、はぁ」
「とにかく!無茶はしないで下さいよ!死んだらそこで終わりなんですからね!?」
「へ、へい」
「返事ははい!」
「は、はいっ!」
おっかない。
軍にぶち込まれたときの先任軍曹のようだ。
「と、ところで、そのベルってのはどんな奴なんだい?」
「え?えーっと。銀髪の少年で、明るくて、元気な子で・・・・・・」
「ほー・・・・・・なるほどねぇ」
先日迷宮と酒場で見かけたあの少年のことだろう。
中学生ぐらいの見た目で、その年で冒険者なのは中々珍しいと思っていた。
この受付嬢が君付けで呼ぶのだから実際そのくらいなのだろう。
名前はベルと言うのか。覚えておこう。
「姐さん、気になってるだろその少年」
「・・・・・・うぇっ!?」
「そ、そ、そ、そんなこと、な、な、ないですよ!?」
「へへへ、顔に出てるぞ。顔に」
「そいじゃ、おっちゃんはここで失礼!」
「あ、ちょっと!」
脱兎のごとく脱走。
鬼教官に対する切り札が出来た。この収穫はでかそうだ。
そういえば近々、怪物祭なる祭りが催されるらしい。
祭りは好きだし、イシュタムと一緒に回るのも良いかも知れない。
と、なれば、なおさら稼ぐ必要がありそうだ。
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