リリなのinボクらの太陽サーガ
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アウターヘブン
前書き
準備の準備をする回。
次元航行艦エルザ、ブリッジにて。
「事情は大体把握しました。それにしてもシャロンが世紀末世界にいたとは……盲点でした」
『でも言われてみれば納得は出来るね。ラタトスクの異次元空間に飲み込まれて行方不明になってた訳だから、流れに流れて世紀末世界にたどり着くってのはあり得る話だもん』
『とにかくシャロンの生存がわかっただけでも喜ばしい事だ。ところでマキナは当分ジャンゴと行動を共にするという話であったな。ではアンデッドの出現情報は優先してそちらに送ろうか?』
「そうだね。ただ、情報はもらっておくけど彼らの出撃は準備が整うまで控えさせておくよ。アバラの治療や次元世界の事を教える時間が必要なのもあるけど、何よりジャンゴさんには高町のリハビリが終わるまで彼女の傍にいるべきだ。かつての私やシャロンのように、今の高町にとって精神的な支えになっているのがジャンゴさんだからあんまり引き離すのは避けておきたいし、サバタ様の例があるから太陽の戦士だからって頼りすぎるのもどうかと思う」
『何だかんだ言って、マキナも二人の事を思いやってあげてるんですね~』
「別に……ジャンゴさんはサバタ様の弟だし、勝手に倒れられたら世紀末世界に行く手掛かりが無くなるし、高町が友達に会いたいのに会いに行けないもどかしさも共感できるだけで……二人の事を思いやってる訳じゃないんだからね」
「ツンデレ乙」
「デレてない。私が身も心も捧げられる相手はサバタ様とシャロン、マテリアルズの皆だけだよ」
『さ、サラッととんでもない事を申すな!』
『矛先がこっちに飛んできたよ! でも嬉しいけどね!』
『私もマキナや皆が大好きですよ~』
「やれやれ、そう返されては私も照れてしまうじゃないですか」
「まあアレだ。彼らが回復するまでアンデッドはこれまで通り私達で対処しよう。あの二人にはまず、今の状況に慣れてもらう所から始めてもらう。それから今後の事をしっかり決めればいい。だからそれまでは荒事とは関係ない生活をさせておくよ」
『承知した。ところで義手の開発だが……やはりあの変態科学者に頼むつもりか?』
「私達の知る限り、彼以上に高性能の義手を作れる人がいないからね。それに高町も女なんだから機械的でゴツゴツした腕を付けるのは嫌だろうし、そう考えると生体工学と機械工学を有機的に融合させて戦闘機人を作れる程の技術力を持つあの男に作ってもらうべきだ」
『要するにナンバーズと同じような腕を作ってもらうんですね。できたら私も改造していいですか~?』
「ロケットパンチまでなら許容範囲」
『おお! ロマン溢れる機能だね!』
『たわけ! 本人の許可無しに変な相談をするな! …………腕から光線もありかもしれぬが……』
「それどこのポジトロンビーム? そんな発想が出てくる辺り、王様も他人の事言えないね。やったね同類!」
『ぐ、ぐぬぅ……もう切るぞ!』
最後に痛恨のダメージが入った所で、地上本部のレヴィ、マザーベースのディアーチェ、ユーリとの通信を切る。そしてマキナはエルザ艦長のシュテルに頼み、変態科学者ことスカリエッティに通信を送った。
『やあやあ、これは珍しいお客さんだ。君の嫌いな属性満載なこの私に連絡を取るなんて正直驚いたよ、マキナ・ソレノイド』
「私だって必要に応じて我慢ぐらいするさ。でも一応協力関係にあるとはいえ、あんたの顔はあまり見ていたくない。だからさっさと要件を話すよ」
それからマキナはマテリアルズにも伝えた高町なのはの現状をもう一度語り、彼女の左腕の事を伝える。
『なるほど、それはまた随分とややこしい状況に追い込まれているようだね。かのエターナルエースは』
「もう彼女はその称号を捨てているよ。それより彼女が今後どう生きるにせよ、喪失した左腕の代わりに自由自在に動かせる義手を作って欲しい。もちろん、報酬はちゃんと払う。どう?」
『ふむ……事情は理解した。しかし義手の製造技術ならアウターヘブン社にもあるだろう? わざわざ私に製作を頼まずとも、そっちを使えばいいのではないかい?』
「確かにアウターヘブン社は人工筋繊維の義手が作れる。でもそれは実用性を重視していて見た目を意識して作られてはいない。一応人間の腕と同様に動かせるけど、筋肉が表出したような見た目だから男はともかく女は流石に気にする。その辺は理解できるでしょ?」
『少なからずね。以前、娘にガトリングガンの腕を勧めてみたんだけど、見事に断られてしまったよ』
「コブラ!? いやいや娘に何勧めてんのさ、そこはロケットパンチでしょうが!」
『おっと、この私とした事が大変なミスを! そんなロマン溢れる大事な機能をうっかり忘れていたとは!! よぉ~し! そうと決まれば早速製作に取り掛か――――』
ガインッ! とフライパンに叩かれてモニターから消えるスカリエッティ。そんな事をしでかしたのはスカリエッティの助手らしき女性だった。ナイス、ツッコミ! とエルザクルーは内心で彼女に喝采を送った。
『戯れが過ぎます、ドクター』
『おぅふ。だが漢にはやらねばならん時があるのだよ、ウーノ! ロケットパンチは最強なんだぞ! 撃ったら絶対外れないんだぞ!』
『言いたい事は分かりますが、ガトリングガンの件をお忘れですか? 女の子は自分の腕が変な兵器になるのは嫌がるに決まってます』
そりゃそうだ! とエルザクルーは内心同感した。
『ロケットパンチは変な兵器じゃない! ロマン兵器だ!!』
『違います、ドクター。そんな事が言いたいのではありません。……真のロマン兵器とは一撃必殺のパイルバンカーなんですよ!!』
アンタも同類か! とエルザクルーは突っ伏した。
しかし魔導師の高町なのはの戦術において、一撃必殺の部分は間違ってないんじゃないかな~と、マキナとシュテルは思った。一撃必殺の部分を全力全開と置き換えれば……色んな意味でピッタリであった。
『ありとあらゆる不利を覆す逆転力、どんな装甲も砕く突貫力、そこにパイルバンカーのロマンがあるというものでしょう!』
『い~や、ロケットパンチにはどんな困難も強敵もたった一発の拳で打ち砕くという所に、言い様のない溢れんばかりの魅力があってだな!』
「パイルバンカーですか……近接が得意でない砲撃型魔導師にそんな手札があれば相手も警戒して心理的に近づきにくくなるでしょうし、よく考えたら合理的ですかね?」
「でもロケットパンチには絶対逃げられない運命力というものが働くから、命中率で言えばこっちがはるかに上だよ?」
『命中率があっても相手を圧倒出来なければ意味が無いでしょう!』
『かと言って当たらなければせっかくの高威力も意味が無いだろう!』
いい加減誰かツッコんでくれ……というか実は仲良いだろお前ら、とエルザクルーは嘆いた。
なのはの預かり知らないところでアレな議論が交わされる中、火消しを求めるエルザクルーの願いが届いたのか、ブリッジにマキナを尋ねに来たジャンゴが入ってきた。周囲を見渡して大体の空気を読んだ彼は、困惑しながらもとりあえず思い付いた事を言う。
「えっと……ドリルなんてどうかな?」
『それだぁあああああああ!!!!!』
――――火種を投下するなぁあああああ!!!
エルザクルーはそう叫ばなかった自分達を、涙を流しながら密かに称えた。それからモニターの向こうで議論は後でするという事に決まり、同時に今のやり取りで久しぶりにインスピレーションを与えてくれたからそれが報酬という事で、なのはの義手を製作する話も受けてくれた。なお、搭載されるかもしれない機能に不安が残るのは気のせいである。
「で、ジャンゴさんは急にどうしたんですか? アバラもまだ治療中で安静にしていなければならないはずでしょう?」
「実はなのはから『今思い出したけど、魔導師はデバイスが無いと魔法が上手く使えなくなる』と言われて」
「つまりレイジングハートが無い以上、襲撃された時に身を守れないのはマズイと……それでジャンゴさんは早めに伝えておこうと思って来たんですね」
「そういや高町がデバイス持ってないの、うっかり忘れてたなぁ……」
『なるほど、ではいっそ義手にデバイスの機能を搭載してはどうかね?』
「義手に、ですか?」
『そうだ。そうすればデバイスを喪失するような事も無くなるし、ある意味身体と一体化している訳だから魔法の操作性も向上するし、両手が空いてる事で他の獲物も使えたりCQCも使えたりで行動の自由力も上がる。元のデバイスを取り戻したらそっちと併用して使っても良い。自分で言うのも何だが、結構合理的だろう?』
「ま、高町はCQCどころか格闘技全般が使えないけどね」
「でも確かに良い考えだとは思います。流石は次元世界最高峰の科学者と言われるだけはありますね」
『フッハッハッハッ! そうだろうそうだろう!? では高町なのはの義手には、ストレージデバイスとしての機能も搭載しておこう!』
「ん~なんだかよくわからないけど、解決したんならいいか」
要件が済んだ事でホッとするジャンゴの隣でエルザクルーはスカリエッティとの通信を切った。なお、変に盛り上がったせいか、スカリエッティはやけに乗り気であった。果たしてこれが吉と出るか凶と出るか、それは義手が届いた時にわかるだろう。
「さて、高町のデバイスはこれで何とかなるとして……と。シュテル、さっきの治療ついでに行った検査の結果だけど、ジャンゴさんってリンカーコア持ってた?」
「ええ、ありましたよ。保有魔力量はBランク相当で次元世界の魔導師の平均よりわずかに上程度です。私達やナノハ達が多過ぎるというのもありますが、次元世界の魔法を使うなら十分でしょう。代わりにエナジー保有量は私達よりはるかに豊富なので、アンデッドと戦うのに最も適した体質という事になりますかね」
「なるほど……何にせよ魔力があるのは好都合かな。ジャンゴさんが次元世界で活動するなら、非殺傷設定はあった方が良いもの。太陽銃は非殺傷武器だからそのままで大丈夫だけど、剣の方は質量兵器云々でちょっと難癖付けられそうだし。そういう意味では剣をデバイスに改造するなりして非殺傷設定を使えるようにしておけば、管理局からは何も言えなくなるはず」
「教主も暗黒剣の件で睨まれてましたからね。その辺りはあまりあちらを挑発しない様にした方が、今後も活動しやすいでしょう。しかしわざわざデバイスを作らなくとも、アギトに頼めば手っ取り早いのではありませんか?」
「それが残念、ジャンゴさんはアギトとのユニゾン適正が23パーセントとかなり低くて、無理にやろうとすれば融合事故を起こしかねないから危険だと判断した」
「おや、それは残念ですね」
ちなみにマキナは87パーセントと十分高いので問題ないが、シュテルは元から炎熱変換持ちのためか99パーセントとほぼ完璧に同調出来たりする。ただアギトはマキナをロードとして認めているので、今の所彼女に鞍替えする気は無かった。
「途中から少しわかりにくかったんだけど、要するに僕はこちら側の魔法が使えるの?」
「そうですよ。どんな魔法に適正があるかは調べる必要がありますが、こちら側の魔法は応用性に富んでいますので、今後の活動や戦闘でかなり有効に使えるはずです」
「応用性……」
「難しく考えなくても、適当に使えそうな奴だけ覚えてれば良いよ。いくら選択肢が多いって言っても、戦闘スタイルを無理に変えるぐらいなら初めから魔法を使わないままで十分問題ないし」
「そっか。じゃあ気楽に考えてればいいんだね」
「そゆこと。非殺傷設定さえ組み込めれば、他の魔法はぶっちゃけどうでもいいのさ」
「アンデッドにエナジー無しの魔法攻撃はあまり効果がありませんしね。ジャンゴさんが魔法を使うなら対人戦、もしくは身体強化や索敵などのサポート系に集中させた方がよろしいでしょう」
「なるほど……ありがとう、よくわかったよ。それならこの剣は今の内に預けておいた方が良いかな」
そう言ってジャンゴはブレードオブソルをシュテルに渡した。自分達を信用してくれていると理解したシュテルは「では、お預かりします」と、ソル属性を宿す剣を恭しく受け取る。
「……」
「おや、私の顔に何かついていますか?」
「ううん、そうじゃない。さっき会った時もだけど、なのはにそっくりだなぁと思ってただけ」
「あ~そういう事ですか。私は元々ナノハの容姿を基に肉体を構成しましたから、そっくりなのも当然でしょう」
「そういえば君達マテリアルズもプログラム体なんだっけ。こっちの世界は随分変わった出自の人が多い気がするよ」
「私達としては、ジャンゴさんやサン・ミゲルの方たちも十分大概だと思いますけどね」
自分達が普通とは違う事を改めて皮肉ったシュテルは苦笑してエルザの針路をマザーベースに取り、艦長としての責務に戻った。
エルザ艦内にある客室に戻ってきたマキナとジャンゴ。そこではアギトにシャワールームで体を洗ってもらい、シュテルのパジャマ(黒猫っぽい尻尾とネコミミフード付き)を借りたなのはがおてんこに見守られながら、義手で皿に入ってる豆を掴んで別の皿に移すリハビリをしていた。簡単に言えば、やってる事は箸の練習と同じようなものだが、なのははまだ義手を動かすのに不慣れで、ポロポロと豆を取りこぼしていた。
「ぅ~……うまくいかないよ……」
「そこは頑張って慣れてもらうしかねぇよ。義手の感覚をモノにしないと、どんなハイエンドモデルの義手を付けても上手く使えないからな」
「うん、わかってる」
「幸いにもこの義手は練習には最適だ。なに、一度モノにしちまえば後は楽勝だぞ」
「そうだよね。じゃあ今の内にもっと頑張――――」
「はい、スト~ップ」
と、マキナが皿を取り上げる。いきなりの事になのはが目を白黒させながら、彼女に尋ねた。
「え、マキナちゃん? 私、今練習してたんだけど……」
「ンなの見りゃわかるよ。そうじゃなくてさ、今日は病院脱出して雨に濡れて既に疲労困憊。この上いきなりリハビリまでしたら、本当に風邪ひくか、また倒れる結果になるのは目に見えてるっての」
「そういえば今の時刻は深夜2時過ぎだったな。本来ならば寝てる間に成長ホルモンが分泌される時間帯だ」
「確かに姉御の言う通りリハビリはこれくらいにして、子供はもう寝た方が良いな」
「なのはは過労で一度撃墜したんだろう? だったら身体を休める事も大事だって、今はわかってるよね?」
「ジャンゴさんまで……。わかった、今日はもう休むよ」
「賢明な判断だ。……で、高町は誰と寝たい?」
「へ? 誰と寝たいって、私そんな子供じゃないよ。一人でもちゃんと寝れるもん」
「ん、言ってもわからない? じゃあ確認するけど、高町はまだ自力で動けないんでしょ?」
「う、うん。立とうとしても膝に力が入らなくてすぐに倒れちゃうの……」
「じゃあさ、トイレ行きたい時はどうする?」
「そんなの普通に…………あ!」
マキナの言いたい事になのはは、赤面しながらも理解した。どこぞの元車椅子少女のように経験があるならともかく、なのははこの状況で一人でやる方法を知らない。病院ではナースの手で尿瓶にやらしてもらってたが、ここにそんなものは無い。そして自分の乙女力がこのままでは垂れ流しになってしまうと自覚した途端に、下腹部に違和感を覚えて身を悶えさせた。
「ッ!? う、うぅ……!」
「さ~て寝る場所の話だけど、確かにしつけの出来ていない子供じゃないんだから、高町は一人でも寝れるよね? ついさっき水分たっぷりのおかゆをたっくさん食べて、あったかいものどうもってされたどこかの魔法少女さんは、立てるようになるまで我慢できるのか知らないけど」
「ちょ、ちょっとま……!? ひぅッ!!!!」
「ジャンゴさん、高町は一人で寝るそうだから私達も別室に行こうか」
「え? あ、うん……?」
「あ! 待って! い、今本当にあぶな……!? ん、んぁ~~!!!!????」
「なぁ姉御……もういいんじゃないか? あんまりからかい過ぎると、その……さ?」
「ん~アギトがそう言うならいいけど、高町が正直に言ってくれないと、私としては遠慮の気持ちが湧いて出ちゃうんだよね」
「言う! 正直に言うからぁ! だから早く……うぁ!!? も、もう限界だから早くトイレに連れて行ってぇ~!!」
モジモジと内股を抑えて涙目になりながら扇情的に身悶えるなのはを目の当たりにして、マキナは思う。可愛すぎてやべぇ、と。その後マキナは要望通りになのはをトイレに連れて行った。ちなみにこれらのやり取りの間、ジャンゴとおてんこは気まずい気持ちでおり、アギトはやれやれと呆れていた。
なお、結局なのはと共に寝たのはアギトである。理由は彼女が一番常識人だから、だそうな。
うぉ~は~♪
ピッピッピッピッピピピピピピピピ……ピピピピッピッピッピ。
第34無人世界改め企業世界マウクラン、マザーベース。
エルザで到着したジャンゴ達は、そこで怪我の治療とリハビリでしばらく療養する事になる。マザーベースの仲間はやはりと言うか、なのはが生きていた事に驚き、彼女の境遇を知った者の中には管理局のやり方に憤慨する人間も現れた。しかしディアーチェが喝を入れて彼らの動揺を鎮め、「今後の事は彼女自身が決めるから今は見守ってやれ。決めた後はおまえ達も支えてやってほしい」という言葉に彼らは深く賛同した。
「そういう訳だ、何かあったら遠慮なく助けを求めるが良い」
「皆さん良い人ばっかりですから、邪魔しちゃ悪いとか思わなくても大丈夫ですよ~」
「とりあえず立ち入り禁止区画を除いて、マザーベースの施設内は動き回っても構いません。日向ぼっこをするも良し、海で釣りをするも良し、森林でサバイバルするも良し、戦闘訓練をするも良し、何か開発するも良し、ご自由に生活してください」
それからレヴィを除いたマテリアル達にマザーベースの簡単な案内をしてもらい、なのははジャンゴが押してくれる車椅子に座って興味津々な様子で聞いた。道中、これまであまり縁が無かったアウターヘブン社のマザーベースを見渡して、施設が充実している事に驚きながらも楽しそうにしていた。
そして一通り案内し終わった後、ふと何かを思い出したマキナがジャンゴに尋ねる。
「あ、そうそう、忘れる所だった。ジャンゴさん、まだ太陽の果実残ってるよね? ちょっとそれを渡してくれないかな?」
「? マキナなら別にいいけど、何に使うの?」
「今後の活動のために陸の方にある農場プラントで太陽の果実を生産できるようにしたいんだ。太陽樹は無いけど、同じ果実ならせめて量産はできるかもしれないしさ」
「なるほど……確かにイモータルと戦う以上、ライフとエナジーの回復は必要だからありがたい」
「そういう事ならいいよ。はい、大地の実2個と太陽の実1個。他にもあれば良かったんだけど、今の手持ちはこれしかなくてごめんね」
「いやいやこれだけでも十分だよ。じゃあ早速だけど王様……」
「うむ、では果樹園班を作って太陽の果実を栽培しよう。それで生産できれば糧食班と連携して、太陽の果実を加工した製品の開発をやってみるのも面白いだろう。うまくいけば生より保存の効く缶詰や飲みやすいジュース、甘いデザートなども作れるかもしれん」
「デザートですかぁ! デザートなら私、シャロンが前に作ってくれたクレープをまた食べたいです~♪」
「では世紀末世界からシャロンが帰ってきたら、皆で頼んでみましょう。私もあの味が忘れられませんから」
皆がそうやって女子らしくデザートに思いを馳せる中、なのはは内心で、喫茶店の娘なのに料理もデザートも出来なくてごめんなさい、と謝罪していた。同時に、諸々が終わって落ち着いたらお母さんから料理を教えてもらおう、とも思っていた。
「後はそうだなぁ……あ、ジャンゴさんのバイクにも次元移動システムを搭載させておこう。色んな世界に行く以上、絶対必要だもの」
「じゃあそっちは私に任せてください。ついでに何か改造もしちゃいましょうか?」
「ほ、ほどほどにね……」
朗らかな笑顔のユーリと冷や汗をかくジャンゴを交互に見て、このマザーベースに秘蔵されているメタルギアRAY試作改修型のような魔改造をされる可能性を考えたマキナは苦笑する。帰ってきた時に超馬力のモンスターマシンになってたら自分の腕で扱い切れるか、ジャンゴは不安であった。
「ところで……マキナちゃん、案内の時からずっと気になってたんだけど」
「ん? 何かわからない事があったら、何でも聞いていいよ?」
「じゃあ早速訊くけど……あれって何なの?」
困惑しながらなのはが指差したのは、洋上プラントの甲板で綺麗に置いてある茶色いダンボール箱だった。別にダンボール箱自体どこにでもあるものなので一つや二つ、適当な所に置いてあっても不思議ではない。しかし……、
「よお、交代だ」
「もうそんな時間か。じゃあ任せたぞ」
仲間の社員に声を掛けられると、ニョキっとダンボール箱が少し立ち上がる。別にダンボール箱が成長したり、生きている訳ではない。中に人が入っていて、その者がダンボール箱を被ったまま立ち上がっただけだ。そしてそのダンボール箱は足音を全く立てないまま、ステステとその場を去って行った。
「あの我が子を抱く母親のような慈愛を感じる丁寧かつ優しい運び方、しかも持ち上げる際のわずかな擦れすらも起こさず、更に寝た子を起こさないように足音を一切立てない気配り。なんて清らかで素晴らしい真心だ……俺もあいつのダンボール愛に負けていられねぇな!」
声をかけた社員がそんな風に彼を絶賛し、徐にしゃがむと無駄なしわや折れ目が一切無く大切に抱えていたダンボール箱を取り出して静かに被る。そして全く微動だにせず、風景に溶け込んでいた。そんな彼らと同じように、ダンボール箱を被っている人間はマザーベースのあちらこちらで見かけていた。
「あの人達って……」
「あぁ、彼らはマザーベースの警備員だよ」
「えぇ!? あの人達、警備員なの!? 普段の仕事でダンボール箱被ってるなんて、明らかにおかしいよね!?」
「「「「「え?」」」」」
「揃って意外そうな顔しないで!? というかマキナちゃん達はともかく、おてんこさまも何で驚いてるの!? ダンボール箱に隠れても普通意味ないでしょ!?」
「何て馬鹿な事を言うんだ高町なのは! ダンボール箱は敵の目を欺くのに最高の偽装と言える。潜入任務の必需品だ! ダンボール箱に命を救われたという工作員は古来より数知れないんだぞ!」
「あれ!? なんか私の方が怒られてる!?」
「おてんこさま、もしかして皆これを使ってきたの?」
「当たり前だ、ジャンゴ! ダンボール箱をいかに使いこなすかが任務の成否を決定すると言っても過言ではないだろう。ただし、いかにダンボール箱といえど素材は紙だ。手荒い扱いをすると、すぐに駄目になるぞ。とにかくダンボール箱は大事に使え。丁寧に扱えばダンボール箱もきっと応えてくれる。彼らのように真心を込めて使うんだ。必要なのはダンボール箱に対する愛情。粗略な扱いは絶対に許さんぞ、いいな!?」
「そう……じゃあどうして世紀末世界で教えてくれなかったの? そこまで大事なら、イストラカンで初めて出会った頃に教えてくれても良かったのに」
「どうしてかだと!? それは……」
「それは?」
ジャンゴの純粋な疑問におてんこは血涙を流しかねない程の苦渋に満ちた表情を浮かべ、まるで旧来の友を目の前で何も出来ずに失ったかのような無念の気持ちがこもった口調で答える。
「世紀末世界に、もうダンボール箱が無いんだ……! まことに……まっことに残念な事にッ!! 製造技術も、残存している物も、世紀末世界には何一つ残っていないんだ!! あの最高で究極、至高の品物を人間社会から失わせたのは、これまでイモータルが成し遂げた事の中でも最大の成果だろうな!!」
「世界中の吸血変異や絶対存在の覚醒よりも上なんだ……」
「当然だ! ダンボール箱の喪失は世紀末世界の幻肢痛と言っても過言ではない!! ……ああ、考えるだけで何だか無性に腹が立ってきた! ジャンゴ、何としてもイモータルの思い通りにしてはならん! 絶対に世界(のダンボール箱)を守り抜くんだ!!」
「間に何か入ってる気がするけど……それはわかったよ。ところで次元世界に来た以上、せっかくなら……いや、もう正直に言うよ。このダンボール箱を見てたら僕も無性に被りたくなった。いや、被らなければならないという使命感を感じたという方が正しいかもしれない」
「ジャンゴさんまでそっち側に行っちゃダメぇ~!!!??」
「もう諦めとけ、なのは。姉御達の常識や行動にいちいちツッコんでたら身がもたねぇぞ。アタシも通った道だからなのはの気持ちも分からなくはないが、半月も一緒に居れば今までの常識が崩れてそのうち慣れるからよ」
「いやいや常識崩しちゃだめだよね!? もっと常識大事にしてよ!」
「でもここでリハビリや訓練するんなら、自然とダンボール箱の扱い方を学ぶ訓練もする事になるぞ。ちなみにここの連中にとって一番人気な訓練だけど、内容は結構厳しめ」
「つまり私もダンボール愛に染められちゃうの!?」
ツッコみまくるなのはは自分も同じようにダンボール箱を被る事になるのかと思って頭を抱えていた。そんな彼女の前でマキナが徐にピンク色の大きなダンボール箱を取り出し、ジャンゴに手渡したのをなのはは信じられないものを目の当たりにしたような目で見つめる。そしてとうとう……ジャンゴもダンボール箱を被った。
「おお……! これは……なんか妙に落ち着くなぁ。うまく言い表せないけど、いるべきところにいる安心感というか、人間はこうあるべきだという確信に満ちた、安らぎのようなものを感じるよ」
「welcome、ダンボール愛に目覚めた新たな同志よ。共にヘブンへ行こう!」
「ジャンゴならわかってくれると私は信じていたぞ。だが、なのははわからないか?」
「わからないよ……」
「ならお前も被ってみろ、そうすればわかる」
「わかりたくないよ! もう、どうしてここには変人しかいないのぉ~!?」
なのはの悲痛な叫びは、変人だらけのマザーベースに響き渡るのだった……。
後書き
ポジトロンビーム:ゼノギアス トロネの技。ポリクロロトルエン子牛脳トーサイさいぼぉぐじゃないよ、ポジトロン光子脳搭載サイボーグだよ。
ロケットパンチ:MGSVTPP バイオニックアームの一つ。普段無口なヴェノムが、これを撃つ時はノリノリになっている気がします。
うぉ~は~♪:MGSVTPP ファントムシガーのアレ。今後、適当に時間を飛ばしたい時に多用するかもしれません。
ダンボール箱:スネーク愛用の品。なのはがダンボール愛に染まるかは、彼女次第。ちなみにハテナはダンボール箱が世紀末世界に残っていない事をおてんこ同様に嘆いています。
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