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水の国の王は転生者

作者:Dellas
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第十一話 ワルド夫人と虚無の復活

ラ・ヴァリエール公爵の屋敷に滞在して三日目。

ワルド子爵のパーティーに招待されたマクシミリアンは、ラ・ヴァリエール公爵と供に馬車でワルド子爵の屋敷へ向かっていた。
馬車にはマクシミリアンとラ・ヴァリエール公爵、そしてエレオノールの三人乗っていた。
ちなみにカトレアとルイズは当然不参加、カリーヌ夫人も不参加する事になった。

馬車での道中、ラ・ヴァリエール公爵にワルド夫人の治療について聞いてみる事にした。

「ヴァリエール公爵、以前、カトレアの治療を行ったワルド夫人について教えてもらいたい事があるのですが」

「ワルド夫人……で、ございますか?」

公爵が一瞬顔をしかめた。
やはり、カトレアの事で、過去に何かあったらしい。

「その様子だと、ワルド夫人に対し余り良い感情をお持ちでない様ですが」

「……お父様」

エレオノールは心配そうにラ・ヴァリエール公爵を見ている。

「いえ、殿下、私はワルド夫人に特別、悪い感情は持っていません」

ラ・ヴァリエール公爵は慌てて訂正した。

「と、言うと、どういう事ですか?」

「ワルド夫人は一部の貴族たちの中では、聖地狂い……と、余り良くない噂が立っていまして」

「聖地狂い? 聖地と、言いますと始祖ブリミルの聖地の事ですよね? どうして、そんな噂が……」

「ワルド夫人はある日を境に聖地奪還に傾倒していきまして。ですが、才女と名高いワルド夫人ならば……と、カトレアの治療を頼んでみたのですが……」

「それで……ワルド夫人の治療は行われたのでしょうか? カルテには結果が書かれていなかったものですから、気になっていまして。実の所、ワルド子爵のパーティーに参加したのは、このワルド夫人の治療内容を聞きたかったためですから」

「治療の件に関してですが……実の所、治療の途中で立ち会っていたワルド子爵が止めさせて欲しいと頭を下げてきまして。我々としても、カトレアに魔法を使わせるような事は避けたかった為、治療を途中で止めさせたのです」

「中止したのですか。……カトレアの事を思えば仕方の無い事でしょうね」

仕方が無い……と、言ったもののカトレアの病気に関しての情報が得るためにパーティーに参加したのだ。

(無駄足だったかも知れない)

マクシミリアンは何処か力が抜ける様な感覚を覚えた。

(とは言えせっかく来たんだし、会うだけ会って見よう)

馬車はマクミリアンたちを乗せ、快調に走り続けた。






                      ☆        ☆        ☆ 






その後、ワルド子爵の屋敷に到着したマクシミリアンはラ・ヴァリエール公爵らとは別の部屋を宛がわれた。

早く着きすぎたと言う事で、暇つぶしのため宛がわれた部屋で一人でチビチビと紅茶を飲んでいると、ノックと供にワルド子爵と中学生くらいの少年が入ってきた。

「マクシミリアン殿下、急なお誘いにも拘らず、御出で下さいましてありがとうございます。パーティーはもう間もなくですので、もうしばらくご辛抱して下さい」

「ありがとう、ワルド子爵。所で後ろに控えているのは子爵のご子息でしょうか? 是非、紹介してもらえないでしょうか?」

「かしこました。さ、殿下にご挨拶をしなさい」

ワルド子爵が後ろに控えていた少年に促した。

「ご尊顔を拝し恐悦至極に存じ奉り上げます。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドと申します……」

「初めまして、ミスタ・ジャン。僕の1・2歳ほど年上見たいな感じですが何歳でしょうか?」

「はい、今年で12歳になります」

「なるほど。僕は同年代の男の子とは付き合いが少ないから、色々と話し相手になってくれると助かります」

「ははっ、身に余る光栄!」

・・・・・・などと、世間話をしていると、時間が過ぎていった。

ジャン少年は退室して、今は子爵がマクシミリアンの相手をしている。
マクシミリアンはワルド夫人の事について切り出す事にした。

「ワルド子爵、実はお願いしたい事がありまして……」

「ははっ。何なりと申し付け下さい」

「ワルド夫人……奥方に会わせて欲しいのです。夫人がカトレアの治療を行った際のデータを見れば何かヒントになるような事が書かれてあるかもしれない。ワルド子爵。どうかお願いします」

マクシミリアンは頭を下げた。
……王子が一貴族に頭を下げる。
封建社会では決して許されない行為だった。

「お、御止め下さい殿下!」

思わずうろたえるワルド子爵。
もし、この事が誰かに漏れでもしたら、ただでは済まない。
かと言って、聖地狂いの妻をマクシミリアンに会わせる訳にも行かない。

(もし、殿下に何かあったらワルド子爵家は破滅だ……)

ワルド子爵にとって、事あるごとに『聖地へ行かねば』と喚き散らす妻の姿は、他の者には見せたくない恥部と言えるものだった。
だからこそ、外の者と接触しないように屋敷の最深部の部屋に軟禁していたのだが。
どっちに転んでもワルド子爵に角が立つ。
しかたなくワルド子爵自身も同席する事を条件に了承する事にした。








                      ☆        ☆        ☆ 








ワルド子爵に連れられ屋敷の奥へと進む。
途中、パーティーで振舞われる料理を調理しているのか、良い匂いがマクシミリアンの鼻をくすぐった。

「……」

「……」

二人とも無言のまま、屋敷を奥へ奥へと進んだ。
さらに奥へ進むと、滅多に人が来ないのだろう。ひんやりとした空気が廊下に漂っていた。

冷たい空気の中を進むと、重厚な木製の扉が二人の行く手を塞いだ。

「お待たせいたしました」

ワルド子爵がマクシミリアンに一礼して、アンロックの魔法を扉にかけた。

「……?」

「どうかしたのかい?」

「は、すでにアンロックをかけた後のようでして……」

「誰かが、もう入ったって事?」

「……おそらくは」

ワルド子爵は首をひねりながらも扉を開けると。奥から誰かが言い争う声が漏れ聞こえた。

『……! ……!!』

『……!」

誰かが言い争う声に、マクシミリアンとワルド子爵は顔を見合わせる。

「これは……!?」

「ともかく参りましょう!」

駆け出すワルド子爵の後に続いてマクシミリアンも走り出した。
人を呼ぶべきなのだろうが、二人ともそこまで思考が及ばなかった。

「ジャン・ジャック退いて! マクシミリアン殿下がお見えになられているのなら、伝えないと行けないのよ!」

「母上、いい加減にしてくれ!」

言い争う声をたどって行くと、ちょうど階段の上でジャン少年と母上……と、言っていた事から、おそらくワルド夫人がもみ合っていた。

「あれは!?」

「二人とも何をしている! マクシミリアン殿下の御前であるぞ!」

ワルド子爵が一喝すると二人はピタリと止まって、声の有った方向を見た。

「父上! マクシミリアン殿下!」

ジャン少年は何処か『助かった』と、言った表情で二人の名を呼んだ。

「ジャン・ジャック、これはどういう事か」

「はい、母上が部屋から抜け出してしまいまして……」

ジャン少年がワルド子爵に説明をしている隙を突いて、ワルド夫人がマクシミリアンに駆け寄った。

「マクシミリアン殿下、お会いしとうございました!」

「あ、ああ、こちらこそ、初めましてワルド夫人」

駆け寄って、手を握るワルド夫人にマクシミリアンも苦笑いをするしかなかった。

「実は殿下にお知らせしたき事がございます。世界は今まさに崩壊の危機に瀕しています。どうか、どうか、殿下のお力をお借し下さい」

「へっ? え、えぇ~っと、崩壊の危機……ですか?」

ぶっ飛んだ、ワルド夫人の発言に思わず、引いてしまった。
若干、引き気味のマクシミリアンを差し置いて、ワルド夫人はベラベラと持論を展開した。

年々増大する精霊に比例して地下に眠る精霊石が膨張し、最後には全世界がアルビオン大陸の様に空に浮かぶ……と、ワルド夫人は言う。
そして、それを阻止するには伝説の虚無の復活を待ち、その虚無の使い手を連れて聖地へ行かねばならない。

マクシミリアンは余りの荒唐無稽さに口を歪ませた。
それに、マクシミリアンが欲しかったのはカトレアの治療法であって、嘘か真か分からない世界の危機の情報のなど欲しくなかった。
……少なくとも、今現在の優先順位は低かった。
ふと、視線を外し、ワルド父子の方を見ると、心配そうにしながら、いつでも介入できるように構えていた。
マクシミリアンは『大丈夫』と、手で制した。

「世界の危機の事は良く分かりました。心に留めて置きましょう。……話は変わりますが……」

適当に相槌を打って話題を変える。

「ワルド夫人はヴァリエール公爵家のカトレアを治療を請け負った事があると聞いたのですが。その時の資料を是非見せていただきたいのです」

「ヴァリエール公爵のミス・カトレア……ですか。……うん」

話を変えられ、ちょっと不機嫌になったが、それは、ほんの一瞬だけ。

「ワルド夫人、何か情報があるんですか?」

「はい、ミス・カトレアの病気の思う事がありまして。……ともかく、詳しい事は私の部屋で」

そう言って、サッと踵を返すワルド夫人。
マクシミリアンら三人も、ワルド夫人の後に続いた。









                      ☆        ☆        ☆







ワルド夫人の自室では大量の本棚や妙な機材が置いてあって、何処かマクシミリアンの部屋と似ていた。

「少しだけお待ち下さい」

そう言うと、ワルド夫人は本棚の中から、折り畳んだ一枚の白の布生地を取り出した。

「ワルド夫人、それは?」

「これは、ミス・カトレアの治療を行った際に撮った物でして……」

ワルド夫人は畳んだ布生地を広げると、子供ぐらいのシルエットの魚拓ならぬ人拓……が、黄色と赤のまだら模様で描かれていた。サーモグラフィと、思えば分かりやすいと思う。

「ミス・カトレアの体内でどの様な魔力の流れになっているか測った物です」

「……カトレアの治療は中止になったと聞いてましたが」

後ろで控えていたワルド子爵に聞いてみた。

「ミス・カトレアに魔法を使わせるのは、私が止めさせましたが……」

「中止する前に、魔法を使ってない状態のミス・カトレアを撮っておいたのです」

と、ワルド夫人が続く。

「……なるほど、分かりました。それで、カトレアの病気はどの様な物なのでしょうか?」

本題のカトレアの病気について聞いてみる。

「こちらをご覧ください」

ワルド夫人はシルエットの胸の部分を指差すと、ポッカリと穴が開いたように黒くなっていた。

「この穴のような物は?」

「それはですね……」

ワルド夫人が解説を始めた。
この布は特殊なマジックアイテムでカトレアの魔力を測ったもので、布に写っている赤や黄色といった色は『魔力の強さ』という意味で、サーモグラフィと同じように赤色に近づくほど数値は高くなる……と、いう仕組みになっている。
カトレアの場合、かなり強力な魔力を持って生まれた為、普通ではありえない数値を観測し、シルエットの色が赤と黄色のみで写ってしまった。
ワルド夫人が言うには、この数値は百年に一度の大メイジだ。と、やや興奮気味に語った。

「そして、この胸の部分の穴のようなもの……部分的には心臓部ですが」

話はカトレアの病気の原因に移る

「胸の部分だけがどういう訳か魔力が測れなくなっていまして、あのマジックアイテムは普通なら、身体全体の魔力が測れるように設計されています」

「それならば、なぜあのような穴みたいなものが?」

「それは、ミス・カトレアの心臓に原因があるかと……」

「先日、カトレアを調べた際、全身をくまなく調べました。もちろん、心臓もです。その時は健康で問題なし……と、判断したんですが」

「ミス・カトレアの心臓は、強力な魔力を持って生まれた割には魔力に対しては脆弱でして……」

「強力な魔力に心臓がついていけない……そういう訳ですか?」

「それも原因一つですが、それと、これは仮説ですが……」

と、前置きしながらワルド夫人が続ける。

「先ほど言いました、精霊の増大の話。年々増え続ける精霊にミス・カトレアの心臓も何らかの反応を起こしていると、私は考えています」

「何らかの反応? 拒否反応……と、言う事ですか?」

「拒否反応かどうかまでは……中止してしまった為、分かっていません」

「……うーん」

思わず考え込むマクシミリアン。後ろのワルド父子は話について行けなくなっていた。

(脆弱な心臓が持って生まれた強力な魔力に耐えられず。そして、日に日に高まる精霊の力にも耐えられなくなっている。病巣は心臓……と、いうことか?)

マクシミリアンは考えを、まとめながらも、解決策を模索し始めた。

「……う~ん」

「殿下、何か名案を?」

と、ワルド子爵が尋ねた。

「ああ、ワルド子爵。そうだね……う~ん、ちょっと整理中……かな」

「……そうですか」

邪魔にならない様に、後ろへ下がった

「ワルド夫人、質問したい事があるんだけど」

「はい、殿下。なんなりと」

「カトレアの病気の原因は魔法に脆弱な心臓。心臓が悪さをする……と、言う事で良い訳ですよね?」

「そういう……事になります……はい」

「それなら、別の心臓に取り替える……心臓移植なら、あるいは」

ワルド親子三人はギョッと驚いた顔をしてマクシミリアンを見た。

「心臓を……取り替えるのでございますか?」

「なるほど、それならば……」

ワルド子爵は驚きながら。そして、夫人の方は『その発想は無かった』と、何やら思案をめぐらせている。

「その、殿下、代わりの心臓は何処から?」

ジャン少年はある意味核心部分を聞いてくる。

「それは、これから考えます。場合によってはクローン心臓、心臓の複製も視野に入れています」

「そのような事が可能なのですか?」

「僕は可能を考えています」

とは言え、ドナーを一から探していたら時間なんてあっという間に過ぎてしまうだろう。

(時間的にギリギリだが『複製』の魔法の研究をすぐに始めよう」

魔法を持ってすれば……難しいが不可能ではない。
そんな状況にマクシミリアンは少しだけ気が楽になった。

「それと、ワルド夫人。増大する精霊と世界の危機について、ちゃんとした報告書でまとめて提出して下さい。それと、これからは僕のほうに報告をお願いします。そして、件の事は他には絶対に漏らさないように。下手をすればパニックになりますからね」

と、ワルド夫人に釘を刺した。

「分かりました」

ワルド夫人は頭を下げ了承した。
一方、ワルド子爵が恐る恐る聞いてきた。

「殿下はその……妻の話をお信じになられるのでございますか?」

「夫人の話を聞いていましたが、彼女は十分、理性的でしたし。今まで誰にも相談出来ずに切羽詰っていたんでしょう、そのせいで狂ったと勘違いされたんだと思います。それに一応、対策はとっておかないと、後で泣きを見るのは嫌ですから」

「殿下、ありがとうございます。それともう一つ……」

ワルド夫人が話しに入る。

「トリステイン西に、かつて存在した『ブリージュ』の街跡をお調べになられたらいかがでしょうか?」

「ブリージュ……ですか」

マクシミリアンは黙考して、脳内からブリージュの情報を引き出す。
ブリージュはかつて存在したトリステイン第三の都市で何百年か前の地殻変動で崩壊。数多くの犠牲者を出した。
その後、廃都となって、元住人たちは北のアントワッペンの街に移り住んだ。
そして現在、アントワッペンはトリステイン第二の都市にまで成長している。

「ブリージュの地殻変動は精霊石の仕業。と、そう仰るので?」

「私はそう考えています」

「……分かりました。今すぐ……とまでは行きませんが、考慮しておきます」

そう言って、退室しようと振り返る。

「ああ、忘れるところだった。ワルド夫人は僕の家臣団に入れますから、軟禁を解いてあげてくださいね? ワルド子爵」

その言葉と聞いた、ワルド子爵は頭を下げ了承した。










                      ☆        ☆        ☆








ワルド子爵主催のパーティーはマクシミリアン王子の飛び入り参加で、一子爵のパーティーにしては、かなりの盛況ぶりだった。

途中、ワルド夫人も現れ、一瞬、妙な雰囲気になったものの、狂人どころか知性に溢れる立ち振る舞いで『所詮、噂だった』と、参加した貴族たちは口々に言ったため、ワルド父子は胸を撫で下ろす事が出来た。

参加した貴族たちが引っ切り無しに挨拶をして来る為、中々、食事に有り付けなくなっている所に、知らないうちにワインを渡され、何杯か飲んでしまっていた。
10歳の身体と空きっ腹にワインを飲んでしまったため、マクシミリアンはすっかり出来上がってしまった。

「やぁ、ミス・エレオノール。ご機嫌いかが?」

「こんばんは、マクシミリアン殿下、楽しんでおりますわ」

べろんべろん……とは行かないまでも顔を真っ赤にしてエレオノールに挨拶する。

「ミス・エレオノールにお知らせしたい事がありましてね」

「まあ、何でしょうか?」

「カトレアの病気を治す目処が立ちましてね、ふふふ」

「ええっ!? それは、本当でございますか!?」

「本当ですとも、期待していて下さい」

にこやかに語らう二人。
だが、エレオノールの心に何かモヤモヤした物が出来た。
エレオノールが突如、沸いた感情を持て余していると、パーティー会場の音楽が変わる。
何人かの貴族たちが会場の中央に集まってダンスを始めた。

「ミス・エレオノールも一曲いかがですか?」

「えっ!? でも……よろしいのですか?」

エレオノールは一瞬、躊躇った。
妹のカトレアと話していたとき、カトレアが『ダンスを踊る約束をした』と、マクシミリアンとの約束を楽しそうに語ったのだが。

(妹を……カトレアを差し置いて私がダンスの相手をして良いのかしら……)

と、エレオノールは悩んだ。、
今までエレオノールはマクシミリアンの事を『畏れ多いが弟のような存在』と、思っていた。
だが、先日の一件でマクシミリアンの事を『弟のような』存在に見る事が出来なくなってしまった。
三歳も年下なのに、何処か年上に諭されるような感覚にエレオノールは混乱したからだ。

今まで、エレオノールが婚約者の貴族を始め出会った同世代の男の子たちは、ラ・ヴァリエール公爵の威信に顔色を伺う者たちばかりでウンザリしていたし、エレオノール自身も、ラ・ヴァリエール公爵家の長女として母のカリーヌ夫人から、威厳に満ちた立ち振る舞いを要求されストレスが溜まっていた。
いつの間にかエレオノールは、グイグイとリードしてくれる男性を欲する様になったのは、仕方の無い事なのかもしれない。

(殿下がこういったパーティーでダンスを踊られた、と、そういった話は聞いたことないし。カトレアとの予行演習の相手を勤めると、そう思えばいいのよ)

「どうでしょう? ミス・エレオノール」

「カトレアとの予行演習……と、言う形でよろしければ、喜んでお相手させていただきます」

と、自分自身に言い聞かせる様に、ダンスの相手を勤める事を了承した。
ゆったりとした音楽に合わせ、二人も貴族たちに混じって踊る。
エレオノールはダンスを踊りながらも、いつしか心の中のモヤモヤが恋に変わる事に気がつかなかった。

 
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