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夢のような物語に全俺が泣いた

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もう一人の転生者

武術を始めたのは6歳の頃だった。
特に目標もなく、じいさんに言われるがままにやらされていた。

「ふっ」

だが、今はどうだろうか?
生き抜くために己を鍛えると言う目標を持ち、日々の鍛練を行う。

「はっ」

作業をこなしている感覚は否めないが、この世界にはステイタスと言う身体ブーストが存在するため、地球にいた頃よりも強くなることは容易だろう。
ただ―――

「やあっ!」

”ズドォン…”

俺の横で大岩を殴り砕く少女を見ると、自分が強くなっているのかわからなくなってくるのは仕方がないことではないだろうか?







「リリは…うん、強くなったよね」

とある日のダンジョンにて、最近でも日常となったメンバーで探索を行っていると、徐にベルが切り出した。

「そう言われると…頑張った甲斐があると言うものです……ええ、ホントに……ふふっ」

言われた少女は遠くを見る目をして自傷気味に笑う。

戦争遊戯から数日。リリはユウジさんにしごかれまくり、明らかにおかしい程の成長を遂げた。
あの頃のリリは何処か儚げな雰囲気を持っていたと言うのに、ユウジさんの手に掛かればグラップラーも逃げ出すほどに変わり果てる。
実際に何をしたのか聞いてみても「常識ってなんでしたっけ?……ふふふ」と、会話が終わる。

「取り合えず今日は9階層まで行こうか?」

「はい。それでいいと思いますよ」

「問題ない」

弱冠、地雷を踏んだ空気が流れた一行だったが、先に進むことにしてうやむやにしたのだった。






―8階層―

「今日も結構稼げたんじゃないかな?」

「はいっ!これなら5万ヴァリスはありますよ!」

魔石を広いながら、リリはベルの言葉に同意する。
9階層に向かいつつも倒していった魔石数は30を越えており、大きさも小さいものから拳大の物までと数が多かった。

「ベルもだいぶ強くなったじゃないか。
体捌きが見違えるようだった」

「そ、そうかな?えへへ…」

そういえばそうだった。
ここ一週間、ベルはアイズ・ヴァレンシュタインに稽古をしてもらっていたんだったな。
確か今日で終わりだった筈だから、ロキ・ファミリアは今日から遠征か。

「――?」

不意に、誰かに見られているような視線を感じた。

「ケイ様…」

どうやらリリも気づいたようで、俺のそばに寄ってくるなり小声で知らせる。

「ねぇ二人とも、何か視線を感じない?」

ベルもか。と言うかもう少し声のトーンを落としてもらえませんかね?
聞かれてたら動きづらいんだけども。

「…………先に進むか」

「そうだね。行こっか」

「はい」

近くに気配はないことから、危険性はないと判断して先に進む。
そこへ―――

「そこの双剣士、止まれ」

後ろから声を掛けられた。

振り替えると赤い服装の男が立っており、俺に対して敵意を向けていた。
見たところ武器を持っていないようで、危険性を感じないために対応することにした。

「………誰だお前」

「お知り合いですか、ケイ様?」

「いいや」

ここまでの敵意を向けてくるとしたらソーマファミリア位しか思い当たらないが、この男の立ちずまいからしてそこそこに出来ると見える。

「そこの二人は関係無い。
9層へ行くなり好きにすればいい」

「え…でも…」

「…………ケイ様、どうしますか?」

何処か皮肉目いた言い方にベルとリリが焦りを持つ。

「…パーティーリーダーはベルだ。
リリはベルの補助をしてやってくれ。俺も用がすんだら追い付くから」

「…わかりました」

「ケ、ケイ…殺し合ったりは、しないんだよね?大丈夫だよね?」

「そんな簡単に殺し合いに発展してたまるか。
ほれ、取り合えず話から始めるから先に行け」

「…わかった」

ベルはリリと共に9層へ続く階段を下りていった。
それを見送った俺は男の方へ向き直り、改めて素性を問いた。

「で、お前は誰で、何のようだ」

「何、少しばかり勝手が過ぎるんじゃないかと思ってね…お節介だよ」

「お節介…?なんの話だ?」

「君が転生者だと言うことはわかっている。
彼らとオトモダチの間柄であると言うことも理解しているよ。
しかしだ、些か原作に干渉しすぎではないかね?
これでは先の未来は解らなくなってもおかしくはない」

成る程、こいつもまた俺と同じ転生者で、俺がその原作をおかしくさせている、と言うことか。
原作なんて知らないけど。

「それで?何が言いたいんだ?」

「警告だよ。これ以上原作に関与し、原作をねじ曲げるのなら排除しなくてはならないのでね」

「警告、ねぇ。
さっきから原作原作と喧しいが、お前はこの世界をアニメの世界とでも思っているのか?」

「この世界は現実。理解しているさ。
だが原作の流れがあるのもまた道理。ソーマ・ファミリアの件にしても、君は少々やり過ぎている」

「わからねぇな。
もしもそれが原作とやらに関係してるとして、原作を守らなきゃ行けない道理もないだろう。
そもそも知らない事に悩んでる事自体おかしな話だろうが」

「君が先程からつるんでいたのは紛れもない原作キャラだ」

「……で?」

「わからないかね?金輪際彼らと付き合うのは止めろと言っているのだよ。
君が彼らといることで、彼らにとってこれ以上ないイレギュラーなのさ」

「お前やっぱり勘違いしてるだろ。
寧ろ現実の理解が追い付いてない。この世界は現実だ。怪我をすれば死にもする。
原作キャラなんて者もなく、ただそこにあるのはひとつの命だ。
原作がどうのとかキャラの悪影響だとか、この世界の管理者にでもなったつもりかよ?」

「残念だ…」

「っ!?」

”ガキィンッ!”

いきなり消えたと思ったら、男は俺の後ろに回り、ショートブレードを振りかぶっていた。
間一髪で防御し、その場から飛び退く。

「テメェ…」

「ふむ、止められるとは思わなかったが…」

「ソレ何処から出した」

「………そこかね?」

見ただけでわかる。コイツは紛れもなく強者だ。
立ちずまいから先程の太刀筋。努力してきた経歴も長く感じ取れる。

「その剣…フランヴェルジュか。
神の特典はテイルズ系統と言ったところか」

「っ!?」

コイツ、この剣のことを知っている?

「何を驚いているのかね?私のこの姿を見て、これから私が何をするかなぞ想像に容易いだろう」

「お前なんか知るか!つーか、そのしゃべり方一々ウザいぞ!」

「私は君と話していると頭痛がしてくるよ。トレース・オン」

そう言うが早いか、男の手には俺の持つフランヴェルジュと全く同じものが握られていた。

「何…だと…!」

「本当に知らなかったか。
私は対象となるものが剣の類いであるのなら、確実に複製し、貯蔵することができる。
君の持つ剣もまた、その対象だったにすぎない」

「マジかよ…何つー鍛冶師泣かせなスキルだよ…」

「残念ながらこれはスキルでなく特典だよ。
とはいえ、その剣は何らかのエンチャントが付加されている…流石にそこまでは到達できないか」

確かにアイツのフランヴェルジュには俺の様に炎がまとわりついていない。
そして、今わかった。
コイツはまだ、この世界に来たばかりだ。
恐らく恩恵も刻んでいない…けど、恩恵なしであの動きが出来るのであれば、脅威以外何者でもない。

「では、始めようk「うわぁぁぁぁあぁあ!」何だ!?」

「ベル!?」

突如下の階層からベルの悲鳴が聞こえ、なりふり構わず走り出す。
どうやら男も同様で、俺の前を走っていた。
そしてその先で見たものは―――


「ベル様!」


ミノタウロスの角に腹部を貫かれたベルの姿だった。
 
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