恋姫†袁紹♂伝
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第34話
前書き
~前回までのあらすじ~
趙雲「メンマくれたら、奮戦してあげるよ?」
袁紹「君何を言って、私は主だよ?(即落ち)」
☆
華雄「馬鹿野郎お前私は勝つぞお前!」
袁紹「忠臣の鑑がこの女郎……」
☆
関羽「いいよこいよ!」
華雄「しょうがねぇな(一人とは言ってない)」
大体あってる
汜水関の防衛を任された華雄は苦心していた。本来彼女は攻めに特化した将だ。
そんな自分が如何に連合から汜水関を守れば良いだろうか、散々考えた挙句碌な答えが出てこなかった。
だから唯一つ、相手の嫌がることをしよう。
攻めに来る者達を自分に見立て。どのように動かれたら厄介か、どのように戦われることを嫌うか。
関羽を確認し下に降りる。一騎打ちを申し込むだけに腕が立つのだろう、狙いは間違いなく自分の頸。
圧倒的劣勢である董卓軍及び華雄軍の精神的支柱である自分を討てれば、汜水関を比較的容易に落とす事が出来る。
――だが、問題だらけだ
まず一騎打ちを成立させなくてはならない。あれだけの規模を誇る連合のことだ、恐らく自分の事を調べつくしているはず。
――関羽は私を挑発とようとしていた。大方、私の武にけちをつける算段だったのだろう。
しかしそれだけではまだ弱い。華雄を確実に一騎打ちに持ち込むには……。
――兵だ! 後方に下げる事で堂々とした雰囲気を漂わせ、一騎打ちの空気を作り上げた!!
これでは華雄としても引くわけにはいかない。武に誇りを持つものとして、そして汜水関の支柱として、これに乗らねば大陸の笑い者になるだけでなく兵の士気にも大きく影響がでるだろう。
相手はたかだか義勇軍の将。自軍から孤立したその者の一騎打ちを断ったとして挑発し続けられ、兵たちの士気を下げまいと応じさせる。
――だがそんなものは所詮、奴等の都合だ。
一騎打ちに応じるものと考えている関羽が嫌がる行動。兵は遥か後方、本隊もさらに後ろに位置するこの状況で相手がもっとも嫌がるのは――
「突撃だ!」
『オオオォォッッッッ!』
「ッ……くッ」
華雄とその兵を確認した関羽は馬を翻し自軍へと走らせた。事前に違和感を感じていたことも有り、咄嗟の出来事にもかかわらず反応できたのだ。
他の者であれば予想外の出来事に動きが遅れ、兵の波に飲み込まれていただろう。
――危なかった。
馬を疾走させながら後方に目を向ける。案の定、華雄を先頭にその兵たちが彼女に続いていた。
それを確認して関羽は思わず舌打ちする。
いくら腕に覚えがあるとはいえ、華雄のみならず万に及ぶ軍勢を相手にできるわけが無い。
――斯くなる上は自軍の合流し、迎撃するほかない!
任を全うできなかったにも関わらず、関羽に負い目の類は見られない。
それどころか彼女の瞳は猛った光を放ち続けていた。
義勇軍の集まりである自軍に、精鋭と名高い華雄軍の相手は分が悪いだろう。
だがそこには頼りになる義妹が、そして軍師達が居る。何より趙雲隊も居るのだ。
彼女達の力を持ってすれば勝機は十分。迎撃の態勢を整えた後は張飛、趙雲達と共に突貫。
華雄の目の前まで行きこの手で討ち取る!
自身が取るべき行動、その方針を簡潔に纏めあげさらに馬を加速させる。
大胆にして冷静。将となって日は浅いが、彼女は既に軍神としての片鱗を見せ始めていた。
「どうした関羽、私と戦いたいのではないのか!!」
「……」
退きざるを得ない状況を作って置いて何を言っているのだろうか、誰もが思う所だろう。
当然とばかりに関羽は無視を決め込み。そんな彼女の背中を見て華雄は口角を上げる。
「一騎打ちをするのではないのか?! 私は出てきたぞ!!」
「っ~~どの口で!」
――掛かった
華雄は関羽の心境を手に取るように把握していた。それもそのはず、激情家であるのは華雄も同じなのだ。
もしも自分が同じような状況に陥っていたら、間違いなく腸が煮えくり返っているだろう。
それこそ、反転して一太刀浴びせたい程に。
「……くッ」
だがそれは死を意味する。たとえ運良く華雄を討ち果たせたとしても、残る軍勢に囲まれ殺られるだけだ。
主の道はまだ始まったばかり、このような所で犬死など――
「フン、所詮売女の将か」
「……」
「大事な初戦を義勇軍如きに任せるはずが無い。大方、総大将である袁紹に股でも開いたのであろう? お前の主――劉備がな!」
関羽の中で何かが切れる音がした。
「これは……まずいですね」
兵達と共に出撃した華雄を確認し、諸葛亮は表情を曇らせる。
「ど、どうしよう朱里ちゃん!」
「大丈夫です桃香様」
予定は狂ったものの、次の一手は決まっている。
幸いなことに関羽は兵に飲まれていない。彼女と合流し趙雲隊と共に迎撃、戦術で敵軍の隙を突く。
何とか一対一の状況に持ち込めれば、劉備軍最強の矛が華雄を討ち取るだろう。
「どなたか、今すぐ趙雲様に――」
「ああ……愛紗ちゃん!!」
「……え?」
主の悲痛な叫びに目線を戦場に戻した諸葛亮は信じられないものを見た。
何と関羽が馬を反転させ、華雄に向かって突撃したのだ。
そして華雄に向かって武器を振るう姿を最後に、彼女は兵の波に飲まれていく。
「……ッ」
今回ばかりは諸葛亮から余裕が消える。一騎打ちが成らなかったのも原因の一つだが、何より関羽が敵軍に孤立した事が大きい。
彼女の存在は劉備軍に必要不可欠、何とかして救出しなければならない。
しかし、それを任せるには義勇軍の集まりである自分達には荷が重い。最も有効なのは趙雲隊にそれをお願いする事なのだが――
思い出すのは袁紹の言葉、そして策を聞いた趙雲の目。
たかが将一人のために隊を動かしてくれるだろうか、それも自分から死地に飛び込んだ者の為に。
「朱里ちゃん!!」
「ッ……鈴々ちゃんを呼んで下さい。彼女と兵達で――」
「急報! 趙雲隊が動きました!!」
「!?」
趙雲の動きは早かった。連合の誰もが関羽に意識を向ける中、彼女は常に華雄の様子を伺い一挙一動に注目していた。
だからこそ動けたのだ。姿を消した華雄に何かを感じ、兵たちにすぐ動けるよう言葉を掛けると、華雄の背後に居た兵を確認した途端突撃、目的は下がる関羽の援護及び華雄の頸。
途中関羽が兵の海に飛び込んだことで、援護から救出に変わりはしたが似たようなものだ。
「狙うは敵将華雄! 者共私に続け!!」
『オオオオオオォォォォォッッッッッ!』
関羽救出はそのついで、あくまでついでだ。
「華……雄ぅぅッッッ!!」
馬を反転させた関羽は瞬く間に華雄の目の前まで移動、渾身の力をもって青龍偃月刀を振り下ろした。
「なん……だと」
激しい金属音と共に関羽の呟きが洩れる。渾身の一撃だった。それこそ両の手で、体重まで上乗せした全身全霊の振り下ろし。華雄はそれを――
「片手で弾いただと!?」
「中々の一撃だが……どうやら私の力の方が上のようだな」
「ッ……」
「どうした? まさかもう終わりではあるまい」
「貴様ぁぁッッッ!」
さらに激高した関羽を見て華雄は笑みを浮かべる。
――お前には生餌になってもらうぞ、関羽!
華雄と関羽が矛を交える場所には、兵達による円形の空地が出来ていた。
誰も手を出さないそれは一騎打ちと遜色ない。しかしそれもあくまで華雄軍から見た場合であり、連合からは孤立した
関羽が窮地に陥っているように見えるだろう。
華雄の狙いはそこにあった。
――あの義勇軍の中にあってこれほどの大役を任されたのだ、関羽の存在は特別なもののはず。
分が悪いとわかっていながら救出に動かざるをえないだろう――そこを叩く!
たかだか義勇軍の集まりである劉備達を蹴散らしたところで、連合には大した痛手ではない。
だが、出鼻を挫かれたら士気に影響がでるだろう。
華雄の考えは当たっている。大規模な攻勢を仕掛ける連合にとって、この戦いは勝ち戦だ。
その戦で苦戦はおろか、初戦を任せた隊が全滅したとあっては天下の笑い者である。
なまじ外面を気に掛ける諸侯が集まっているだけに、この策は連合に苦汁を飲ませる唯一無二のものだった。
――この戦力差では取れる行動が少ない、ならば少しでも勝ちの目を作る。
まずは奴等の士気を下げてやる!
「華雄様! 側面から我が方に向かってくる軍が!!」
「劉備軍――いや早すぎる、どこの軍勢だ!」
「旗の文字は『趙』。袁紹軍の趙雲です!」
「チッ……側面に兵を集中させろ、ここに入れるな」
「ハッ」
関羽の斬撃を捌きながら部下に指示を飛ばす。その余裕に関羽は焦りを見せ始めた。
――何故だ、何故我が刃が届かぬ?!
怒りは単調な攻撃を、そして焦りは技を鈍らせる。
華雄はその猛攻を淡々と受け、捌き、避わす。
頭に血が上った関羽は敵ではない、その気になれば返す刃で討ち取れる。
時折それが仕草に出る為、華雄は半ば強引にそれを止める。
その行動が関羽の怒りを更に激しくし、動きを鈍らせていった。
「そこまでだ!」
「!?」
「……ほう」
そこに介入したのは趙雲。彼女の襲撃を予期した華雄によって兵の壁を作られたものの、それを物ともせず突破してみせた。
「な、側面の兵は何をしているのだ!」
「これではまるで素通りだ、何と言う突破力」
「ええぃ、ここで討ち取るぞ! 華雄様の邪魔をさせ――」
そこから先の言葉は続かなかった。華雄に近づく趙雲を阻止すべく、彼女に接近した兵士達の目線は気が付れば地面にあった。
そして意識が遠のくと同時に理解する。己が頸が胴と別れたことを――
「ば、馬鹿な!?」
遠巻きに様子を見ていた華雄軍の兵士が驚くのも無理は無い。
まさに神速。
打たれた事にも気付かせない程速度をもった突き。趙雲を討つべく接近した者達は、次々に唖然とした表情でこの世に別れを告げた。
「一旦下がるのだ関羽! 自軍に合流し体勢を立て直して――「邪魔をするな!」!?」
「私の獲物だ、私の戦いだ。邪魔立てするのであれば例えお前でも……」
「……」
関羽の怒りは頂点に達していた。一騎打ち不成立、華雄の挑発、主に対する侮辱、そして手加減。
様々な要因が収束し、彼女の意識は殺意という形で華雄にのみ注がれていた。
――く、ここまで頭に血が上っているとは想定外だ。
星を制止させ、関羽は再び猛攻を仕掛ける。
攻めは単調、息も上がっている。誰が見ても勝ち目の無い一騎打ちに固執した関羽。
星が割ってはいるのは簡単だ、しかし関羽は正気を失っている。
手出しすれば間違いなくその怒りが向けられるだろう。
もはや捨て置くほか無いのか。関羽救出を諦めかけたその時だ。
「愛紗ぁぁッッ!」
彼女の真名を呼ぶ声が一つ、張飛だ。
趙雲隊に少し遅れ義勇軍と共にやって来た彼女は義姉救出の為、単身で華雄軍を突破した。
「鈴……々?」
「なにをやってるのだ愛紗! はやく逃げるのだ!!」
関羽の目に理性が戻ったのを確認し、華雄は小さく舌打ちをする。
「華雄様! 形勢は我々の有利、このまま押し切りましょう!!」
「そうだぜ姉御ォ! 予定通り劉備軍は釣れたんだ、奴等に目にもの見せてやろうぜぇッ!」
「な!? それが狙いか!」
正気に戻った関羽は状況を理解する。近くに趙雲隊が居るとはいえ敵中に孤立、自軍は手練れである義妹を救出に向かわせた代償に、精鋭である華雄軍の攻撃をまともに受けている。
――ならばせめて華雄だけでも!
敵将も討てなければ自軍に残るのは半壊以上の損害のみ。どうにか討たねばと得物を握り直す関羽だが――
「退くぞ」
『!?』
撤退を口にしたのは華雄だ。その言葉に連合軍、董卓軍関係なく目を見開く。
それもそのはず、いくら趙雲隊が居るにしても数が少ない、参戦した劉備軍は寡兵。
このまま続ければ華雄軍の勝利は確実、彼女の兵たちはそう認識している。
「なんでだ姉御!? このまま続ければ――」
「二度も言わせるな」
「ッ……野郎共、撤退だ!」
『オオオォォッッッッ!』
「逃がすか!」
撤退を開始した華雄達を確認し、後を追おうとした関羽がすぐさま馬をとめる。
兵達が引いていく中、華雄だけがその場に残ったのだ。
「やりのこしたことがある――関羽!」
「ッ……」
一騎打ちを再開しようとでも言うのだろうか、警戒する関羽の目に信じられないものが映った。
華雄が頭を下げたのだ。未だ矢が行き交い、目の前に敵が居るこの状況で。
「お前ほどの武将が忠を置く主だ、劉備は素晴らしい御仁なのだろう。
私の発言を撤回すると同時に謝罪する、この通りだ」
「……ッ今更!」
謝罪を受けようとしない関羽だが、彼女の心情を読み取った華雄は満足そうに頭を上げる。
関羽がその気になれば先程華雄を討てた。いくら猛将とはいえ、関羽ほどの武を目視無くして捌く事は出来ないのだから。恐らく主を侮辱されたことで、簡単に謝罪を受け入れられないのだろう。
「フッ……またな関羽! 次は決着をつけようぞ!!」
それだけ言うと華雄も撤退を開始した。
「くっ……趙雲! 奴等の追撃を!!」
「無駄だ。した所でこの兵力では返り討ちに遭うだけよ、私達に出来るのは華雄の慧眼を褒めることだけだ」
「華雄の……慧眼?」
「詰みかけていた?」
「ああ」
撤退する中、華雄はその理由を部下に説明していた。
「正気の関羽は簡単に討てない、それに状況を理解した奴は趙雲達の助力を断らないだろう。
そうなれば私でも難しい」
「しかし戦況は我々の方が――」
「不利にあった」
『!?』
「原因は趙雲隊と――公孫賛の軍だ」
劉備達にとって幸運だったのは、親友を心配した白蓮が近くに布陣していた事だろう。
そして彼女は諸葛亮からの要請を受け、劉備軍と共に動いたのだ。
白蓮は義勇軍である劉備達を援護するだけでなく、趙雲の策を見抜き支援しようと動いた。
星は隊を二つに分け、ある指示を施した。
それは――華雄軍の後方に回り、退路を断つというもの。
しかし趙雲隊だけでは効果が薄く、星の考えた策は成らない。
そこに現れたのが白蓮こと公孫賛軍だ。
「趙雲隊だけなら我等の突破力の前に、大した足止めにはならなかっただろう。
だが公孫賛軍……奴等も後方に回り込ませたら、私たちの撤退は苦しいものになる」
「で、でもよぉ姉御。それでも俺らの有利には――」
「まだわからんか、後ろを見ろ馬鹿者」
「!? あ、あの砂塵は!」
「気が付いたようだな、連合軍本隊のものだ」
『……』
勇猛果敢で知られる華雄の兵たちも流石に血の気が引いていく、目の前の敵に夢中で気がつけなかった。
もしもあそこに留まり続けていたら、今頃は連合本隊と衝突し形勢は逆転していただろう。
「あと少しでも撤退が遅れていたら、我々は趙雲と公孫賛の足止めで……」
「その事態は既に脱した。案ずるな」
「あ、姉御……」「華雄様……」
危機一髪の状況を回避した華雄は笑う。関羽を討ち取ることは叶わなかったが劉備軍、及び趙雲隊に打撃を与えた。
初戦で連合の出鼻を挫いたのは小さくない、何らかの影響を与えられるだろう。
『……』
先程まで危機的状況に恐怖していた華雄軍。彼等は先頭を走る将の姿を見て、胸の中に熱いものを宿らせる。
確かに連合軍は強大だ。力押しで攻められるだけでも絶望的だが、彼等は策、戦術、そして力押しの全てを駆使した。
並みの将、並みの兵であれば白旗を挙げるだろう。しかし、華雄軍の中にそれを考える者は一人も居ない。
皆が彼らの主、華雄の力を信じて。
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